第24話 真価
「避難は終わったわ。ねぇ、ふたりとも、本当に大丈夫……? やっぱり私も……」
「お嬢、心配すんなって! この結界はドラゴンにゃ壊せない。でも、かなりの魔力を食うんだよな。俺の魔力だけじゃ維持ができない。俺はレフのサポートにまわるからさ、その間、お嬢は結界に魔力を補充してくれる?」
「それは、かまわないけど」
「だぁいじょうぶ! ヤバくなったらカーラのとこに飛んでくるからさ! そしたら、助けて」
「レフ……。わかった。無理はしないでね」
────そんな会話を、していた事もありました。
「おー、思ったよりヤベェな……」
「き、き、き、聞いてないんだけど?!」
危なかった。
ドラゴンどころか、見渡す限りの街道や森や農地まで、一面クレーターにするところだった。
プラシノの能力は、魔力エネルギーの最適化。
最小の力で最大の威力を、といったもの。
レフの魔力の使い方は、効率が悪すぎたらしい。
例えるなら、巨人が人間の子供の積み木をやるような。
とんでもない、魔力の無駄遣いをしていたらしい。
やった事は、簡単だ。
レフがプラシノの言う通りに練り上げた魔力を、プラシノがコントロールして、ナイトドラゴンに投げた。
文字通り、投げた。
キャッチボールくらいの、気軽さで。
それを受け止めた────いや、受け止めきれなかったドラゴン共々、辺り一面が強い光に包まれて、残ったのは無残に抉れた地面だけ。
穴の直径は、城が丸々入るくらいだろうか。
プラシノが呼んだ精霊たちが光で照らしてくれたけれど、底は、見えない。
穴の周囲の木々や岩も、倒れたり崩れたりとひどい有様だ。
結界がなかったら、衝撃波だけで街に被害が出たのではないか。
「逆によく今まで無事だったな……この領土」
城の敷地内に戻りながら、プラシノがこぼす。
もしレフの魔力コントロールが壊滅的にショボくなかったら、もしレフが人間に牙を剥く生き物だったら。
どんな惨事が起こっていたか、わからない。
ナイトドラゴンの皮は良い素材になるのにとか、門の近くで崩れ落ちて嘆いていた商人がいたけれど。
命が助かったのだから、皮は諦めてほしい。
「本当だね。何事もなく、よかったよかった」
「他人事かよ……」
いやね、このままじゃやっぱりどうかと思うの、私も。
そこでだよ、とレフは勿体ぶって言う。
「プラシノくん! 君に大事なお話が」
「あ、俺いまから用事があったんだったわ」
嫌な予感でもしたのだろうか。そそくさと飛び立とうとするプラシノの肩を、レフは器用に前足で掴む。
「きみ、ひまだよね?」
「何だと? 俺は次期里長としての修練がだな」
最後まで言わせず、レフは頭を下げた。
土下座する勢いだ。
「私がコントロールできるようになるまで、家庭教師になって!」
「嫌だよ、めんどくせえ」
食い気味に断られたけれど、それくらいでめげるレフではない。
「自主練して、うっかり間違えて、森が吹っ飛んじゃったら……精霊の里も……」
ううう、と、泣きまねをする。
もちろん本気ではないけれど、事故の起こる可能性は0ではないのも事実。
「お前……っ。しゃーない。ほんとに暇な時だけな」
眠れる狐を力に目覚めさせてしまった責任の一端を感じて、プラシノは渋々ながら承諾した。
「ありがとう! 持つべきものは、気のおけない親友だね!」
「絶対思ってねぇだろ。その顔よぉ」
やれやれ、と諦めたように肩を落とす。
「まぁいいわ、報酬はきちんともらうからな」
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