第23話 夜襲

 カーラたちが大広間に戻ろうとした時、怒号と悲鳴が聞こえた。


「総員、持ち場につけ!」

 

 近衛に指示を出しながら走る、ロナルド。

 ドレスの裾を持ち上げ、走って追いかけながら、カーラが聞く。


「ロニー兄様、何があったの?」


「ナイトドラゴンだ」


 そう言って、不敵に笑う。


「ドラゴンだろうが、関係ない。わが城に喧嘩を売るとはどういうことか、思い知らせてやろう」


「そういうわけでして。申し訳ありません、コラン殿下。カーラ様。急ぎ来賓の皆様とご一緒に地下へお逃げください」


 近衛のひとりに誘導される。

  

 カーラたちから少し離れて走りながら、レフは静かに怒りのオーラを放っていた。


(え? 何? 可愛い可愛い私のカーラがやっと。やぁぁぁっと、両思いになれたのに? 記念すべきこの日を、この余韻を、潰そうとしてる奴がいるってこと? そんな事、許されるの? いや、許さないわ!)


「人の恋路を邪魔するやつぁあ、馬に蹴られて死んじまえ!」


 思考が、思い切り口に出ていた。


 その怨嗟を聞いたのは、隣にいたプラシノだけだったけれど。


 プラシノがまじめに答える。


「馬の足じゃ無理だぞ、アイツの外殻かってぇからな。かすり傷もつかん」


「そういう話をしてんじゃないのよ、ぼうや」


「あ? そう言ったじゃねぇかよ、お狐様よお」


(だいたい、俺のどこがぼうやだよ、まったく────)


 少しカチンときたが、自分たちが喧嘩している場合ではないと思い直す。

 プラシノは周囲を見渡し、レフに耳打ちする。


「ていうか、馬よりお前がいきゃ良いじゃん」


「え?」


「神獣様の一撃だったら、サクッとトドメさせるだろうよ」


「しん……じゅう?」


 何を、言っているんだ、こいつ。という視線をプラシノに送ったつもりが、同じ視線で返される、レフ。


「え、気づいてなかったの?」


「うん」


「素直かよ」


 調子狂うぜ、と言いながらも説明しだすプラシノ。

 けっこう律儀なのだ、この若い妖精は。


「戦ってたときにさ、お前の後ろに気配があったんだよ。何の神かまではわかんなかったけど。お前、ただの琥珀狐じゃねぇよ。精霊の加護どころじゃねぇよ。ガンガンに神の加護を受けてる、神獣だよ。お前の大規模攻撃魔法、ヤバいだろ。使った事ねぇの?」


「え、早く言ってよ。使った記憶ないわよ」


(そういえば、狩りの獲物はすべて、カーラが仕留めていたもの……)


「知らねぇ事を、知らなかったんだよ。よし、ちょうど良い。練習すっか」


 付き合いは浅いけれど、レフが知るプラシノの顔のなかで、いちばん悪い顔をしていた。


 大河ドラマの悪代官のような顔。といっても、この世界じゃ伝わるのはマミちゃんくらいかなと思う。


「レフの魔力を、最大限に高めてやるよ。感覚を掴んだら、俺がいなくても同じことができるようになるさ」


 あ、そうだ────と、プラシノがロナルドの方に一瞬で飛び、追い越してから向き直る。


「人間ってすぐ死ぬだろ。巻き込むとダメだからさ、人間はぜんぶ屋敷にしまってよ。まるごと俺が結界はるからさ。ね、お嬢のおにーさん」


 レフも全速力で追いつき、ロナルドに吠える。


「そうよ! ここは私たちに任せてちょうだい。可愛いカーラの邪魔をしやがって、あの羽の生えた爬虫類。拾う骨も残さないわ」


「お、おう……」


 自らも猛っていたロナルドだったが、レフとプラシノの圧に、すっかり気が削がれてしまった。


 自分よりもキレている者が目の前にいると、人は急に冷静になるものだ。


「ならず者をこの手でサクッと成敗できるなんて、主人公っぽくっていいじゃなぁい?」


「レ、レフ……?」


 後にロナルドから「あの時のレフはまるで魔王だった」と言われるくらい、悪い顔をしていたらしい。

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