第21話 約束

「じゃあ、俺の出番だな!」


 健気にひとり隠れ続けていた、プラシノ。


 やっと出番がまわってきたと、飛び出してきた。


 いつもはローブを無造作にまとったような格好なのに、今日はシャツにスリムパンツという綺麗めな装いだ。

 

 緑の髪は、相変わらずツンツンしていた。


「君は────森の妖精だね」


 プラシノの髪色をみて、コランが気づく。


「はじめまして、王子サマ。安心しな、長老たちからあんたの治し方、しっかり聞いてるからよ」


 プラシノも人ではないので、不敬罪は適用されない。

 そもそも、コランも気にしていない。


 例の石像を、せっせと浮遊魔法で運んできた。


「この器と、お嬢と狐の魔力、そして俺様の華麗な魔力操作があればあさめしまえさ!」


「王子様の前でよく俺様とか言えるわよね」


「うっせぇ黙れ狐」


 2人のやり取りをみて、カーラの緊張がほぐれる。


「まぁまぁ、仲良しね」


「「どこが?!」」


 カーラが、くすくすと笑っている。

 その顔を見て、レフはほっとした。


「うし。じゃ、さっそくいくぞ────」


 段取りを説明する、プラシノ。


「難しいことは何もねぇよ。王子サマは器の前に立ってれば良い。お嬢と狐は器に触れて、手を離すな。あとは俺がこう、ちょちょっと」


 フォン! と音を立てて、プラシノの周囲の空気が煌めき出した。

 言われた通りに触れた場所が、温かい。


(あ、私の魔力とカーラの魔力がまじってるんだ……)


 心地良い毛布に、包まれているような。


 いつまでも、こうしていたいような。


 ────ピシッ!


「あっ」


 石像────器にヒビが入り、そこから光の玉がコランめがけて、飛ぶ。


 コランの体が眩しく光り、やがて暗くなった。


 レフとプラシノだけが、うっすらと発光している。


 器は、ただの冷たい石になっていた。


「殿下、大丈夫ですか」


 膝をついたコランに、カーラが駆け寄る。

 次の瞬間、レフが止めに入るよりも素早く、カーラの体はコランの腕の中にいた。


(あー! うちのカーラちゃんに!)


(過保護な狐だな。さっきはもっと行けって言ってたじゃんか)


 ワナワナと拳を握るレフを、呆れ顔で見下ろすプラシノ。


(うるさいわよ!)


 プラシノには分かるまい。


 押せ押せと言いたい友人のような気持ちと、まだ早いのじゃないのと言いたい保護者のような気持ちと、複雑な心境なのだ。


 そんなレフたちをよそに、コランとカーラはふたりの世界の中にいた。


「君は怒るかもしれないけれど、君と話がしたくて。僕の声で、君に振り向いて欲しくて」


 コランの震える肩に、首に、カーラは黙って腕を伸ばして抱きしめ返す。


「好きな子に格好をつけたくて、一人であの森に入ったんだ。……子供だった。僕は、大切にする事を間違えたね」


 ごめんなさい。と謝る姿が、まるで本当に子供のようで。


「もう。怒るに怒れないじゃないですか」


(カーラ! そこはピシッといかないと!)


 レフの親心もむなしく、カーラはあっさりと許してしまった。


「もう、いいです。そのかわり、ずっとおそばにいる事をお許しください」


 泣き笑いのカーラの額から髪を、コランが撫でる。


 まるで壊れものにするそれのように、優しく。


「ありがとう。大事にする……一生をかけて」

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