第18話 閑話〜居酒屋ケイト、開店です?!〜

「マミちゃ〜ん! あ、ケイトちゃんだった!」


 見覚えのある背中に、駆け寄る。

 今日は、ぼろぼろじゃない。


 無事に帰れたようで、よかった。


 カーラには、前世の記憶があることを、話した。

 その上で、お願いして、マミ……ケイトを指名して、お店の料理を運んでもらったのだ。


 どうしても、直接、話したくて。


 中庭でテーブルに料理を運んでいたケイトが、満開の笑みで振り返る。


「あの時の!」


「呼びつけるようなまねしてごめんね、どうしてもケイトちゃんと話したくて」


「やっぱり、レフちゃんがヒロミさんなんだよね?! あのね、あの時、森の外に送ってもらった時、ヒロミさんの声が聞こえた気がしてさ」


 目尻に涙を湛えてニカっと笑う。

 相変わらず器用な子だ。


「もしかしてって、思ってたんだ」


 そう言って抱きしめられる力の強さが、苦しくて嬉しい。


「助けてくれて、ありがとう」

 

「ううん、お互い様よう」


 前世ではいつだって、マミちゃんの明るさに助けられてきたのだもの。


 そうだ、と尻尾をふる、ヒロミ────レフ。


「あのとき、説明もせず転移なんて、驚かせてごめんなさいね! まだ言葉が話せなかったから…………。出会った時も、とびついちゃったの、びっくりしたでしょう? 出会えたのが嬉しすぎて、止まれなくって」


「ううん」


 涙をかくすように、レフの背中に顔を埋める。

 

「私ね。ヒロミさん、地震で、大丈夫だったかなって、ずっと心配してたの」


 ふー、と息を吐いて、顔を上げたときには涙は消えていた。強い子だ。


「お互い、あっちの世界では、死んじゃったことになってるんだよね。でも、また会えるなんて、私たち最強すぎない?!」


 ああ、そのポジティブさと笑顔。

 懐かしくて、こっちが泣きそうだ。


「激しく同意!」


 手と前足を取り合って、ぴょこぴょこ跳ねる。

 ひとしきりはしゃいだあと、聞きたかったことを尋ねた。


「マミちゃん、この世界にきてから、どうやって過ごしていたの?」


「こっちに飛ばされてすぐ、森で途方にくれてたところを、ジャスミンさんに助けてもらって」


 私、助けられてばっかだね〜、と笑う。


「あ、ちょっと待って。これ、出しちゃうね」


 濡れぶきんで手を拭いて、お料理をバスケットから出し並べながら、ケイトは言う。


「ジャスミンさんには、元の世界の事も話してるの。この世界のことを教えてもらったり、お店のお仕事もさせてもらって、最近は新メニューの開発も任せてもらったりして、楽しく過ごしてるよ」


 し、か、も! と人差し指を立てて、くるくるまわる。

 

「いまの推しはねぇ、騎士隊の人なんだぁ。かっこいいの〜」


 この世界でも、楽しそうで、何よりだ。


「もちろん、あっちの世界のケイトは殿堂入りだけどねっ!」


「相変わらずねぇ。変わりなく元気で嬉しいわ。ちなみに、私の推しはカーラなのよぉ」


「カーラさん! 私も大好き!」


「楽しそうなところ、お邪魔しても良い?」


「カーラ!」


「もちろんです!」


「ケイトさん、今日は無理言ってごめんなさいね。ありがとう」


「とんでもない! 今度のパーティのお料理候補、これで全部です!」


 そう言って、テーブルの料理を手で示す。


「王族の方も、いらっしゃるんですよね……? 定番だけじゃなく、珍しいものもあったほうがお喜びになるかと思って、いろいろ試作してみました。お口に合うといいのですが」


「ちょっとケイトちゃん、よく見たらたこ焼きまであるじゃない!」


「あ、気づいたレフちゃん〜? にっしっし。蛸が手に入らなかったから、具は豚肉の腸詰なんだけどね〜。ソースは私こだわりの一級品なのよ!」


「じゃあ、それをいただこうかな」


 カーラが、嬉しそうにお皿を差し出す。

 ケイトは慣れた手つきでサーブする。


「はぁい、よろこんで!」


 あれ、一瞬、ケイトちゃんの後ろに赤提灯が見えたような……? 

 あ、たこ焼きのとなりは蛸さんウインナー……。

 あの卵料理、小さい旗が立ってるけど、ミニサイズのオムライスかしら……。

 

「うん、美味しそう! 美味しいって正義よね!」

 

 前世からの先入観さえ、捨ててしまえば。

 この世界の人々にとっては、珍しい美食の数々である。


 レフは深く考えることを放棄して、懐かしい品々に舌鼓をうつことに決めた。

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