第14話 希望

「いいわ、特別に許してあげる。でも罰を与えるわ。もう二度と、黙って姿を消さないこと!」


 カーラは、優しくレフの頭を撫でてくれた。


「わかったわ」


 よし、と破顔するカーラ。

 レフを抱き上げて言う。


「お家に帰りましょう、レフ」


 話は終わったといわんばかりのカーラの背中に、おずおずと声をかけるのは緑頭だ。


「えぇ────とぉ、俺もいるんですけどぉ」


「あ、レフに魔石をくれた精霊さんね? どうもありがとう! じゃあ、さようなら!」


「ちょちょちょ、ちょおまてーて!」


 慌ててレフに向き直り、浮遊魔法で例の石像を運んできた。


「お前、レフっていうんだな。これ忘れてるし」


 今度はカーラに向かって、会釈する。


 なんでカーラ相手だと、目線の高さまで降りてくるのだろう。

 本能的に、怒らしてはいけない血筋の娘だと、気づいているのだろうか。


「俺の名前は、プラシノっす。風の妖精やってます。趣味は旅人を迷わす事で……」


「お見合いかしら?」


「うるせぇよ狐」


「私はカーラ。よろしくね」


「やっぱり、噂のお嬢様っすか。俺の仕掛けた迷いトラップが、全然効いてないから。そうかなって。自信作だったんだけどな。まいったな」


「トラップ? あったかしら?」


「ねぇカーラ、ナチュラルに追い討ちかけるの、やめてあげて」

 

 ふぅ、とため息をつくレフ。


「前から言ってるけどね、カーラは規格外なのよ」


「初めて言われたわ」


「そうだった。心の中で、言ってたんだった」


「あらぁ……」


 スマラグドス家の皆とは、いろいろと膝を突き合わせて話した方が良いかもしれない。


「で! これなんすけど!」


 毎度毎度、俺を忘れないでくれと、必死で声を張り上げるプラシノなのであった。


「長老たちから預かってたものっす。ここの人間の、領地っていうんすよね、そこのボスの娘さんがもし森に来たら、渡せって。10年前の忘れ物だって」


 カーラの顔色が変わる。


「10年間…………あの時の…………でも、まさか」


 戸惑い、期待、疑い。

 カーラの気持ちが渦巻いているのが、表情でわかる。


 10年前ということは、レフと、森で出会った頃のことか。


「ねぇ、プラシノくん。長老さまたちは、他に、何かおっしゃっていたの?」


 心を落ち着かせるように、ゆっくりと噛み締めるように。

 カーラは問う。


 プラシノはピシッと背を伸ばして、長老たちの言葉を伝える。


「これは器、だって。魂の器。心と記憶を預かっているんだって」


 あぁ、と嘆息するカーラ。

 その瞳から、涙が溢れていた。


「ここに、あったのね────」

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