第13話 声

(で、この魔石をどうしたら、おしゃべりできるようになるのかしら?)


「簡単だよ。食うんだ」


(はい?)


「食うんだって」


 そう言うけれど。

 さらっと飲み込める大きさ、では、ない。

 どう見ても、簡単じゃないだろう。


(…………。歯が折れたら、ハリセンボンを千匹飲んでもらうからね…………)


 ええい、ままよ!


 ガリッ!


 精一杯の力を込めて、噛み砕く。


 壊れたのは、牙…………ではなく、魔石の方であった。

 

 ほっと、胸を撫で下ろす。


 歯ごたえはまるで飴のようで、中からはとろりと甘い液体が溢れた。


(何も、起こらないけど…………)


 どうなの、と、緑頭の方を見上げた、その時。

 空と地面がぐるりと入れ替わり、視界が暗くなった。



          ※



「レフ!」


 レフは、名前を呼ぶ声に目を覚ました。


「だましたわね────!!」


 夢だったのか、現実なのか、途切れた記憶のまま感情を爆発させる。


 魔石を食べたら、目が回って、意識を失ったのだ。


 あの緑頭、やっぱり謀ったのか!


「…………って、あれ?」


 そうか、こんなにも体が変わっているのだもの、声だって違うわよね。と納得する。 

 初めて聞いた自分の声は、慣れるまでしばらくかかりそうだ。


 冷静になった途端、まわりの状況が見えてきた。


 レフが気を失っている間に、カーラが追いついていた。


 カーラがやると簡単にみえるが、本来なら熟練の冒険者でさえ、精霊の里にたどり着くかは運次第だ。


 なんでもない事のようにやってしまうあたり、レフの主人は人間としては、規格外の存在なのだ。


 本人に自覚はないのが、人外のレフからみても驚きだけれど。


「レフ! よかった…………」


 ぎゅう! と抱きしめられ、そのあたたかさに胸がじんわり熱を持つ。


「カーラ」


 やっと、あなたの名前が呼べた。


 カーラは、泣きそうに笑う。


「よかった。私のことが分かるのね」


 そして、優しく撫でてくれる。


「すごいねレフ、魔石を手に入れたのね。あなたは強い子だわ」


 次は、眉間にシワ。

 なんと、表情が忙しい。


 そんなところも大好きだ。


「でもね、ひとりで頑張りすぎよ。大切な人を失うかもしれない思いは、もう嫌よ」


 たしかに先走ってしまったかなと、レフは素直に反省する。

 結果オーライになれたのは、運がよかっただけ。


 カーラの様子をみて、レフが思う以上に、自分は大事にされていたのだと実感する。


「ごめんなさい」


 とん、とカーラの胸に頭を埋めた。


「私、カーラと話がしたくて。カーラの家族や、マ……ケイトとも。どうしても、声がほしかったの」

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