第12話 精霊
「お、琥珀狐じゃん。珍しい」
ずいぶんと、森深くまできたらしい。
頭上から、突然、声をかけられた。
いつのまにか、精霊のテリトリーに入っていたのか、と気づく。
(このちっちゃいのが、風の精霊かしら?)
「そうだよ、ちっちゃいのって言うな! 俺たちに用か?」
(あぁ、精霊には、念話が通じるのね)
頭で思い浮かべれば、会話になる。
誰かと話す感覚は、いつぶりだろう。
ありがたい。
思った事がダダ漏れなのは、問題だけれど。
レフは、真っ直ぐに精霊を見据えた。
(魔石を、頂戴。試練なら受けるわ)
ふぅん、と。不躾な視線を向ける、精霊。
負けじと、不躾な視線を返す、レフ。
(フィギュアみたいな、サイズ感ね。緑色の髪がツンツンしていて、ビジュアル系っぽい)
「よくわかんねー言葉で、しゃべんじゃねーよ!」
(しゃべってないわよ。勝手に聞いてるんじゃない)
精霊の、固く握りしめた小さな拳が、震えている。
ぐぬぬ、と聞こえてきそうだ。
威厳、のようなものを、取り繕いたいのだろうか。
緑頭の精霊は、レフを馬鹿にしたように、見下してくる。
「お前みたいな、ちびっ子に、耐えられるのか?」
(あんたに、言われたくないわよ!)
ドォン!!
レフの足元の地面が、抉れた。
人間の大人がやっとまたげるくらいの穴が、空いている。
(ちょ、間髪入れずじゃないの! ここは、引き返すかどうか、聞くところではないの?)
精霊って、こんなに喧嘩っ早かったっけ。と、レフは思う。
(何を言われたところで、引き下がりはしないけれどもね!)
アオォォォ────ォン
レフの高らかな遠吠えが、響く。
全身の毛が、発光している。
「お前、ただの琥珀狐じゃねぇな」
目を細めて、緑頭が言った。
(ハァ?! 特別可愛い琥珀狐だけれど?!)
「そういう意味じゃねーよ」
緑頭の視線は、レフの少し後ろを見ていた。
思わず振り返るが、レフの目には森の景色しか映らない。
────誰もいないじゃない!
────フェイントね?!
(卑怯者!)
「あぁ? 俺様に向かってどの口が…………っぶね」
レフの、数少ない技が発動した。
爪に水の刃をまとわせ、切り付ける。
緑頭は、自らのまわりに旋風を起こして、それを防ぐ。
「いーよいーよ。何かお前、おもしれーし。やるよ、これ。あと」
緑頭が、緑色のビー玉のようなものを、投げてよこした。
これが、魔石か。
拍子抜けする、レフ。
あまりにも簡単に手に入ってしまって、本物なのだろうかと疑ってしまう。
そして、ついでといわんばかりに…………
「これ、お前が引き取れ」
ドン!
空中から現れたのは、地蔵のようなサイズの、石。
キラキラと光り輝くわけでもない、紛うことなき、石。
(え、いらないんだけど…………)
これを、どうしろと。
なんとも、素人が趣味で作った手彫りの仏像のようで、これを持ち歩くのは薄気味が悪い。
そもそも、レフの体で持てるサイズ感ではなかった。
「いいから、お前の主人に見せてみろ。食いつくぞ」
騙されているのではないか。
いいように丸め込んで、不用品を押しつけて、苦労して運ぶレフを、指差して笑おうと思って────
「どんなヤツだよ、俺! そこまで、性格悪くねーよ! 本当に価値のあるもんなんだって!」
たしかに、と頭を掻きながら弁解する。
「たしかに、俺たちには要らないモンだけどさ。お前の主人には大事なもんなんだって、長老たちから聞いたぜ」
(ふぅん? ならもらってあげるわ! 嘘ついたらハリセンボン丸呑みしてもらうからね! 魚の方よ!!)
「お、おぅ…………何言ってっかわかんねーけど。なんでお前、そんな偉そーなの?」
「目には目よ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます