第11話 迷い人の正体

(久しぶりに術を使ったから、少し疲れた────)


 ケイトを、転移術で、森の入り口に送った。

 街までは、一本道。

 無事に戻れるだろう。


 少し、休憩しよう。


 またひとりになったレフは、ふう、とため息を落とした。

 

 泉の水を飲み、水面に映る顔を見つめる。


(わからないわよね、この姿じゃあ。まさか、また会えると思わなかった。ぼろぼろだったけれど、元気そうで…………)


 元気、というのも、おかしな話だろうか。


 ここにいるということは、つまりあちらの世界では、命を落としたのかもしれない。


(あれ、でも、前世の記憶と同じ顔だったってことは────)


 体は無事なまま、この世界に渡ったという事なのだろうか。

 どちらにせよ、大変な思いをしただろう。

 元の世界にも、きっと、戻れない。


 でも、それでも。


 思いがけないかたちで、身を案じていた相手の顔を見れて、嬉しいと思ってしまう。


(マミちゃん、迷い人が貴女だとは思わなかったけれど。神様って、いるのかもしれないわね)


 元の世界では、小さなお店を、素敵な笑顔で盛り立ててくれていた、マミちゃん。


(でも、いくつか若返っていた気がしたのだけど。マミちゃんは、22歳だったはず)


 もともと実年齢より若くみえる童顔ではあったけれど、もっと若く、高校生くらいの姿にみえた。


 転移による影響なのか、定かではないけれど。

 メイクや服装のせいだけでは、ないはずだ。


(そうそう、ケイトって、いつもマミちゃんが話していた彼よ。手作りのうちわで何度も見たわ。マミちゃんの推しの名前。間違いないわ)


 彼女が大好きな、男性アイドルグループのメンバー。

 推しがいることで、人生がどんなに豊かになるのか、いつも聞かせてくれた。


(違う世界に来たからって、推しの名前を自分につけちゃうなんて、マミちゃんらしいわ)


 きっと、元の世界の記憶も、あるはずだった。

 推しにはもう会えないからこそ、思い出はいつも自分とともにあると、感じたかったのではないだろうか。


 あぁ。

 ともに再会を喜び、抱き合いたかった。


(ねぇ、この世界でも、人生の楽しみをみつけた? 私もね、大好きな人が出来たのよ────)


 お酒を酌み交わし、話したい。

 あなたに、聞いてほしい。


 伝わらない事が、こんなにも。


(ああ、もどかしい)


 やっぱり、声を、手に入れなくては。


 レフは立ち上がり、精霊の里を目指す。


 カーラと。

 ケイトと。


 大好きな人と、大好きな人の話をするのだ!

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