第8話 一人と一匹

 べり!


 ケイトは、顔にくっついてくる獣を、力いっぱい引きはがした。


 犬のように舌を出している様子が、笑っているようにもみえる。


「琥珀狐…………? の、子供?」


 実在はすれど、伝説級の存在だ。


 なぜそんな琥珀狐が、飼い犬のように、ケイトに懐いてくるのだろうか。


 しかもなんだか、怪しい動きを始めた。


 二本足で立って、前足を上に上げたり。

 お尻を見せて、尻尾を振ったり。

 気絶したように、地面に倒れたりしている。


 何か、ケイトに伝えようとしているふうにも、見えるけれど…………。


「ごめん、ぜんっぜん、わかんない」


 ケイトの言葉に、琥珀狐が、崩れ落ちる。


 ガーン! という擬音が、聞こえた気がした。


「ふふ、なぁに、きみ」


 ペロ。


 今度は優しく、頬をひと舐めされて、ケイトは自分が泣いていた事に気づく。


「大丈夫」


 ケイトは琥珀狐を、抱き上げた。

 抵抗することなく、大人しく抱かれている。


「私ね、さっきまで、ひとりぼっちで、心細かったの。でも、きみが来てくれたから、寂しいの、どっかいっちゃった。安心したら、涙が出ちゃったんだ」


 ────ぐぅ。

 

 ケイトの独白に、空腹を伝える音で、返事が返ってくる。


「ふふ、きみも、お腹が空いてるの?」

 

 クゥン。


「ほんとは干し肉もパンも、持ってきたんだけど、野犬から逃げてる時に、落としちゃったんだ」


 分けてあげられる食べ物が、無いの。


 ケイトが申し訳なく思いながらそう言うと、琥珀狐が地面に飛び降り、ゆっくりと歩き出した。


 そして、ちらちらと、ケイトの方を振り返る。


「ついてこいって、言ってる?」

 

 クゥン。


 甘えるように鳴いて、尻尾を三回振る。


 ケイトも立ち上がり、お尻についた砂を、はたき落とした。


 足の痛みは、もうどこかに消えていた。


「よし、一緒にご飯を探そう!」

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