第7話 ケイト

 どうして、こんなことになったんだっけ。


 ケイトは思案する。

 

 野犬にあったのが、運の尽きだった。

 

 逃げ回っているうちに、本来なら来るはずもなかった森の奥に、入りこんでしまった。


 足に合った靴を選んで履いてきたのに、あちこち走り回ったせいで、踵の皮が剥けている。


 むやみやたらに、歩くよりも。

 休憩しながら、森の外に出られる方角を探す方が、良いかもしれない。


 時間と共に、背中の行李も、ずしりと重たく感じていく。

  

「せっかく採った山菜だけど、捨てていった方が、良いのかなぁ…………」


 この重さすべてを背負ったまま、森の外まで、帰れるだろうか。


「食べ物、無駄にはしたくないなぁ…………」


 こんなふうに思うようになったのは、この国に来てからだ。


 昔の自分は、物に困ったことが、なかった。


 食べ物なんて、家にもお店にも、たくさんあった。


 同じ国の中にも、日々の食べ物に困る人がいる事は知っていたけど、どこか他人事だった────。


 ガサガサッ


「!」


 草の隙間から、尻尾が見えた。


 撒いたと思った野犬が、帰ってきたのだろうか。

 ケイトは身構えて、背中の行李をおろし、盾のように持ち直した。


 ひとりぼっちで、遠い異国にやってきて。

 優しいオーナーに、拾ってもらって。

 役に立とうと、頑張ってきたけど。

 こんなところで、終わるのだろうか。


 最後に、美味しいケーキが食べたかった。

 この国のケーキはもそもそして、甘さも物足りない。

 

 最後に、大好きな人の顔が見たかった。


 故郷で別れた、大好きな人。


 もう会えない。


 会いたい。


 故郷にいても、届かない思いだったけど。


 もういちど、あなたと視線をかわして、あなたに手を振ってほしかった────。


 ケイトの頭の中に、走馬灯が流れる。


 草むらの向こうから飛び出した、琥珀色のかたまりは、ケイトの顔めがけ、飛びかかってきた。


「ひっ!」


 やられる!


 そう思った、瞬間。


 ケイトの顔に、琥珀色のかたまりが、へばりついた。

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