第4話 それぞれの想い
「素敵! ぜひ我が家にもお招きしましょうよぉ」
無事に妻の興味が逸れたことに、安堵の息を漏らすロイル。
「そうだね。仲良くなって、お客様を招く時に力添えを頼むのも良いかもしれない」
「もう、お父様、お母様。ジャスミンさんに無理強いはしないでくださいね?」
両親が、悪気はなくとも押しの強さで店主に迷惑をかけるのではと、頬を膨らませるカーラ。
「わかっているわよぉ。でも、次にお店に行く時は私も連れて行ってね♪」
「仕事が休めたら、一緒に行けるんだけどなぁ」
しばらくは無理かなぁ、と残念そうなロナルド。
「わかりました。ロニー兄様、無理はしないでね。忙しかったら、お持ち帰りできる食べ物を王宮に差し入れするわ。ねぇ、テラスだったら一緒にいられるから、レフも行こうね」
レフは返事のかわりに、尻尾を三回振って応える。
その姿を見て、スッと目を細めるシーミオ。
その頬は赤いが、ワイングラスは手放さない。
「レフはおりこうねぇ。ねぇ、カーラちゃん。ママね、レフは人の言葉がわかってるんじゃないかと思うの」
そうだね、と妻の言葉に頷くロイル。
「犬だって、人間の感情を分かってるっていうからね」
「違うの、そうじゃなくて、私たちと同じように、理解、してるっていうか…………」
簡単な単語や、感情の機微だけではない。
日常会話はもちろん学術的な話題まで、理解して聞いているのではと思う時がある。
そう、シーミオは言う。
たとえば物語を聞いている時の、目の輝きであったり、息を呑むような気配や、安堵するような動作が、あまりにも人間の子供のようで。
期待、してしまうのだ。
「ただの狐ちゃんと思えないのよ。レフちゃんだったら、もしかしたら…………」
「お母様」
カーラは、シーミオの言葉をピシッと遮った。
普段なら、人の話を遮るような事はしない娘だ。
「私にとって、レフは大事な家族です」
そっと、目を伏せるカーラ。
シーミオは、己の期待が過ぎたものだと悟る。
お酒のせいで、余計なことまで喋ってしまった。
「たとえ喋れなくても、…………特別な力が無くっても」
そう続けるカーラに、素直に謝るシーミオ。
「もちろんそうね、私ったら…………ごめんなさい」
シーミオはレフに向き直り、琥珀色の背中を優しく撫でた。
「レフちゃんもごめんね。お話できなくたって、あなたも大事な家族よ」
レフはまた、尻尾を三回振って応える。
そして考えた。
声を、意思疎通の手段を、どのように手に入れるのか。
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