第11話 コーヒーのマグカップ
「クリスマス 私上野さんと一緒でした」
給湯室でコーヒーを淹れていると俊介の例の後輩ちゃんが乗り込んできた。
やっぱり気ぃ強いなー
そのままコーヒーを淹れる。後輩ちゃんがイライラした口調で更に言い募る。
「もうあなたに気持ちないと思います、上野さん」
コーヒーを淹れ終わったので後輩ちゃんの方を向いた。そのまま真っ直ぐ相手の目を見る。
「うん わかってる」
後輩ちゃんは一瞬怯んだようにちょっと後ろへ下がったが、またずいっと乗り出して私を睨みつけた。
「わかってるんやったら別れて下さい」
そう、別れなアカン。キチンと。
「うん。でも別れ話は俊介とする。一応3年間付き合ったんやから最後はちゃんとお互い話しして別れたい。これからも同じ会社で働くんやし」
その言葉に後輩ちゃんはちょっとうっとなった。
私と俊介の仲は結構知られている。社内で略奪女と呼ばれるのは新人さんにはキツいだろう。
「私と俊介が別れてから付き合ったってことにしたら? 他人から要らん陰口されんの嫌やん?」
後輩ちゃんはまだ私を睨みつけている。
「大丈夫ちゃんと別れる。何なら今日話しするから」そう言ってコーヒーを口に運んだ。
「……約束ですよ、絶対別れて下さい」
捨て台詞のようにそう言って後輩ちゃんは去って行った。
やれやれ、でも私も悪い。もっと早く俊介と話し合えば良かった。要らん闘争心を掻き立ててしまったみたいだ。別れ話すら面倒くさいなんて、もうとっくに気持ちなんてなかったのだから。
久しぶりにこっそり渡すメモが別れ話の為の呼び出しか… 俊介、ごめんな。
飲み差しのコーヒーは流しに捨てた。
呼び出したカフェで俊介はキョロキョロと落ち着かない様子だった。どこかで後輩ちゃんが見張っているのかも知れない。
「今までありがとう。俊介の勇気と誇りを受け取れる相手になれんでごめん。これからも会社で顔合わすけど、変に意識したり無視したりは周りにも迷惑かけるからやめような」
俊介はそれを聞いて一瞬キョトンとしたが、
「…おう……俺もゴメン。サイテーやって自分でもわかってる。スマン」と頭を下げた。
「あの子にも言うたけど略奪愛やとか言われたらあの子が嫌な思いするし、私も寝取られ女扱いはムカつくからちゃんと別れてから付き合った事にした方がエエと思う。守ったりやあの子のこと、私のことも最後やから守ってな」
俊介は目を合わさずテーブルを見つめたままで言った。
「うん 今まで守ったったことないもんな」
支払いよろしくと言って立ち上がった。
守りたいと思わせたことがないのは私の方かも知れない。ごめん、今度はちゃんと右耳のピアス渡せる女の子やったら良いのにな。
かなり気は強そうやけど……
「コーヒーのマグカップは自分で洗いや。女の子に当たり前に洗わせんのは、俺らの頃だけやで」
最期のお節介を俊介に言い捨てて店を出た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます