第9話 ピアスとパンク

思わずエンジンを止めて外へ出た。

「あれ?桜さん?」

ぎっちょんは水川さんと私を交互に見ながらキョロキョロしている。

「龍喜(たつき)君 久しぶりご無沙汰してます」

水川さんが微笑みながらぎっちょんに挨拶する。

「うん…そう ホンマお久しぶりです」

ぎっちょんがなんだか眩しそうに水川さんを見つめた。そして視線を無理に引き剥がすように私を見て尋ねる。

「桜さんはなんで?二人知り合いですか?」

「知り合いって言うか…従姉妹の後輩で…昨日その従姉妹の結婚式やってん」

うちに泊まった経緯などを簡単に説明してから聞いた。

「ぎっちょんこそなんで?」

「ここ俺んちなんで」

えっ!ここ?!ぎっちょんお寺の息子さんやったんや。イメージとちゃう!ピアスとかしてもいいんかな?いやこれは全国のお寺の子供さんに対する偏見か?

「まあくんに逢いに来たんやなー」ぎっちょんが水川さんを見た。

「うん いつもありがとう」

「俺はなんもしてへんけど…喜ぶやろな 早よ行ったって」

水川さんはうなずくと江崎君を促して二人で境内へと向かう。ぎっちょんは歩いて行く水川さんの背中をじっと眺めていた。

「イベント行くんやったら乗っていく?」

声をかけるとハッとしたようにこっちを向いて、急いで走って来た。

「やったー ラッキー」ぎっちょんを助手席に乗せて車を出した。


「檀家さんなん?」

「えっ?!」

なにか考え事をしていたのかぎっちょんが驚いたようにこちらを向いた。

「あ、あゆむちゃん?そう小さい頃はウチの寺の行事とかによう来てたなあ」

「幼なじみみたいな感じなんや…弟さんも?」

ちょっと遠慮がちに聞いてみる。

「まあくんな、うん俺よりニこ下やったから弟みたいな感じ?えらそうにしてましたよ、俺」ぎっちょんは懐かしそうな顔で笑った。

「アニキしかいてへんかったから、いっつも自分が言われてるみたいにまあくんに色々教えたるわ!みたいな感じで」

「そっか」

「寺やから檀家のおばちゃんとかようけ来るんすよ。大人の話ばっかり聞いてるから、えっと…耳ロシア?になって」

耳年増のことかな…

「俺もちっさい頃喘息ぎみやって。まあくんが亡くなったからかも知れんなー オカンが急に心配してスイミング行けとか言い出したん」

「ぎっちょんもショックやったやろ、水川さんの弟さん…まあくんが亡くなって」

「小っさかったからなー あんまりようわからんかった。そん時はもう逢われへんのかなぐらいで…それよりあゆむちゃんがいっつも悲しそうなんが可哀想で……まあくんには悪いけど」

ぎっちょんは口元だけで笑った。


「あゆむさんは何歳ぐらいやったん?弟さん亡くなった時」

「十歳ぐらいかな小学校五年生やったから」

「十歳ぐらいやったらわかる年頃やな、辛いね」

「いっつも泣いとった。俺見てまあくんのこと思い出してたんかも知れん。こいつは元気やのになんでやろって」ぎっちょんがつぶやく。

「子供やからそん時はわからんかったけど段々大きくなってきたらそうなんちゃうかなって思って…」

ぎっちょんは自嘲気味に笑うと続けて話し出した。


たぶん俺の初恋の人なんですよ あゆむちゃん

まあくんにめっちゃ優しかったから俺もあんなお姉ちゃん欲しいなって最初は憧れてただけやと思うけど 小学生になったらなんか意識してあんまりしゃべられへんようになって 中学行く頃には ああ好きなんやなって自覚したってゆうか 

あゆむちゃん高校生やったから俺なんか相手にしてもらわれへんやろってわかってたけど プレゼントとか買うて渡されへんでずっと持ち歩いてたりとかして キモいっすよね でも俺が中二の時静岡に引っ越ししてもうたから それから会ってなかったんすよね 墓に来てる時もわざと避けてたし 

俺パンクにハマって髪の毛ツンツンで顔も体もピアスだらけやったし なんかそんなん見られたら余計 なんでこいつが生きてて まあくんが死ななアカンねんって思われそうで怖かったから…


ぎっちょんの左耳のピアスが光った

「これあゆむちゃんに渡そうと思って買ったプレゼントっす。アホやからイヤリングとピアスの違いとかわからんくて。俺がそんとき買える値段で一番エエなと思って買ったらピアスやった。あゆむちゃんピアスの穴なんかあけてへんかったのに」

ぎっちょんがまた笑う。

笑ってるのに寂しそうであまり顔を見れなかった。

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