第7話 クリスマスプレゼント

「だーかーらー 女と思われてないねんてって聞いてるー?」

梅がベロベロだ。めんどくさいなーもう。昼からのイベントに向けてちょっとは寝たかったのにこの調子では朝まで帰られへんやろな。


結婚式の三次会は最早参加者の半数以上が寝ているか、呂律が回ってないのに同じ事を繰り返し喋っているか、トイレで吐いているかのどれかだった。


「わかった わかった」

「わかってへーん。いやホンマはわかってんのかな。わかってるけど女と思われへんから気づいてないフリしてるんかな……」泣き出した あー もー

梅の背中をさすりながら、眠れー眠ってくれーと呪いをかける。呪いが効いたのか梅がテーブルにつっぷした。やれやれ起きるまで帰られへんし。

新郎の知り合いだと言う事で店は貸切のままクリスマスの太陽があと何時間かで昇る。

私もちょっと寝とこかな、ゴチャゴチャと言い寄って来ていた新郎側のご友人たちも撃沈していることだし。

時計を見ると朝の4時だった。こんな時間まで飲んだのは久しぶりだ。学生の頃は結構飲みに行っていた。午前様なんかザラにあった。今は午前様って言うのかな今度ぎっちょんに聞いてみないと。


酔い覚ましに外へ出てみる。

まだ太陽は昇っていない。ふっと何気なく見た先にカップルが歩いているのが見えた。暗くてわかりづらいはずなのに何故かハッキリわかった。俊介と後輩ちゃんだ。ベタベタの展開だった。

こんなほぼ徹夜明けのヨレヨレで化粧ハゲハゲ状態では 昔のドラマのように「この泥棒猫っ!」と出て行く事も出来ない。こちらからこの現場を目撃したと伝えるべきか、俊介の出方を待つべきかそれが問題だ。もしかすると男の前以外では気の強そうなあの後輩ちゃんが、俊介より先にこの事を私に言いに来るかも知れないが……

顔を見られない様に店に戻りながら考える。

3年間も付き合ったのに何故私はショックを受けてないんだろう。確かに最近は全く上手くいってなかった。会社で会うからと外でのデートもほとんどしてない。それでも気持ちがあったから今まで付き合ってきたはずなのに……


高校生の頃は相手のことが好きで好きで堪らなかった。目が合うだけでドキドキして手が触れただけで息が止まった。初めてキスした日は眠れなかった。

今と何が違うのだろう どうしてあんな風に真っ直ぐ誰かを想うことが出来なくなったんだろう。

子供だったのに子供の気持ちがわからなくなったのと同じだろうか…子供の頃に出来なかったことが出来るようになった分、出来なくなることも増えていくのか。

クリスマスのプレゼントをワクワクしながら待っていた幼い頃は、サンタさんがプレゼントを持ってきてくれた。いつしかサンタさんは両親になり、その後は恋人がサンタさんになった。

そして26歳のクリスマスの朝、恋人にもらったプレゼントはこの不毛な付き合いへの終止符か……

恋人と別れることより、別れることが悲しくないことの方が哀しいなんて。高校生だった頃の私は思っても見なかっただろう。

やれやれとんだメリークリスマスや。

涙も出ないことに泣きそうだった。

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