第6話 子供の頃は

「クリスマスどうする?」給湯室で俊介に聞かれた。

そうか、忘れてた。めんどくさっ。

言われてとっさに思ったのがそれだった。俊介とクリスマスを過ごすということ事態考えてもいなかった。

「あー24日に従姉妹の結婚式があんねん。クリスマスも昼からイベントあるし。この時期販促忙しいやん?」

「そうか」言葉少なに俊介が答えた。

ちょっと罪悪感を覚える。一応恋人同士やったな…最早「一応」が枕詞になっているが。

「仕事忙しくないの?」

「忙しいのはいつものことやし。販促だけが忙しいわけちゃうわ」俊介の好戦的な台詞に罪悪感がどこかへ行ってしまう。

「あっそう じゃあお互いクリスマスデートどころちゃうよな」「……………」

無視かい。あー 嫌な感じ。私のせい?でも今までのように取り繕って機嫌を取る気にはなれない。お互い黙ったままでコーヒーを口に運ぶ。


「あのー 上野さん…」

例の後輩ちゃんが例のごとく給湯室に顔を出した。

あっちで…と俊介が後輩ちゃんを促して給湯室を出て行く。マグカップを流しに叩きつけるように音を立てて置きながら…

放置された俊介のマグカップと自分のマグカップを洗いながら、もうアカンやろなと他人事のように思った。



向かった現場では、ぎっちょんが子供達とわいわい言いながら遊んでいた。

「俺に勝とうなんて、1億1千5百万年早いねん」ぎっちょんがカードを出しながら子どもを挑発する。

「これや!」小学校低学年ぐらいの男の子がカードをテーブルに叩きつけた。

「なにぃーちょう待って 今のなしなし」大げさにぎっちょんが叫ぶ。

「あかーん 負けぇー」対戦相手も周りの子供達もきゃっきゃっと喜ぶ。

「マジか 強いなぁ」褒められた男の子が得意げにぎっちょんにカードを見せる。

「もっとスゴいの持ってんで」と得意げな男の子。

「どれどれ見して おぉプレミアムカードやん!」

僕も、私もと周りの子供達もそれぞれとっておきのカードを出してくる。

「戦う前に見せたらアカンって」そう言いながらも、ぎっちょんは楽しそうに子供達のカードを順番に見て回っている。


あー癒やされる さっきまでの嫌な気分が清められていく パワースポットや 御利益 御利益 


子供達がお母さんに呼ばれていなくなるまで、ぎっちょん達の様子を少し離れたところで見ていた。


「このカードはやっぱり人気っすねプレミアカード買うてもうてる子多かったし。強い弱いがわかりやすいから小さい子でも遊びやすいんやろな。ただもうちょっと分厚くしたった方がめくりやすいかも知れんなー」近づいていくとカードを箱にしまいながらぎっちょんが報告してくれる。

「企画部に言うとくわ 貴重なご意見ありがとうございます」

私の言葉にぎっちょんは笑ってこっちを見た。

「一緒に遊んだら良かったのに」

「うん でもぎっちょんみたいに子供と上手にしゃべったり遊んだり出来ひんわ」

「子供やったことないんすか?」ぎっちょんが笑いながら言う。

ぎっちょんの言葉にホンマやなと納得しながらも、何故自分も子供だったのに大きくなると子供の喜ぶことや楽しいことがわからなくなるんだろう、子供の頃のこと忘れた訳じゃないのに…と思った。

それが不思議でちょっと寂しかった。

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