第5話 全然

クリスマスは販促にとって勝負の時。子供の物を扱っている我が社は尚更激戦だ。クリスマスまでにプレゼントとして購入してもらえる様イベントは満載。必然的にアルバイト君の出番が増える。


「桜さん 明日も現場来ます?」アルバイトの高木君が聞く。

「うん 直接お客さんの反応見たいし」

ショッピングモールのイベント広場を片付けながら周りを見渡す。


アルバイトの子に何か差し入れでも買ってこようかな、まだ片付けに時間かかりそうやし。ショッピングモールはもう閉まってるから外に買いに行かなアカン、近くにまだ開いてる店あったかな……


「私ちょっと買い出し行ってくるわ」高木君に声を掛けると、

「荷物重なるし 俺も行きますわ」と上着を着た。

「サボりたいだけやったりして…」

へへっと笑って誤魔化し、私の上着を渡してくれる。

「こっちの方が楽かもよ 重たいでー」

言いながら二人で建物の外へ出た。


寒っ やっぱり12月は寒い。上着の前をかき寄せていると高木君が、

「あったかい飲みもん買いましょか?差し入れもついでにコンビニでええんちゃいます?あそこにあるし」とハンバーガーでも買おうと思っていた私に目の前のコンビニを指差して言う。寒いのでもうコンビニで買うことにした。


コンビニに入るとレジの男の子が、

「おー ぎっちょん」と声を掛けてきた。

「あ、ここでバイトしてたんやっけ」

高木君はぎっちょんと呼ばれているらしい。

「スイミングは?」「今日は休んだ」「俺もー」

高木君がレジに近寄って行く。

「何で急にバイトなん?」

「別に……」レジの男の子が言い淀む。

「女やろ 絶対女や クリスマスプレゼンかっ!」

高木君が楽しそうにレジの子を冷やかした。

「ちゃうわっ!ほんで邪魔やねん お客様ー 何も買わんのやったら 話しかけないで下さーい」

「何やとー お客様は神様じゃ 崇め奉れ」

じゃれあいながら楽しそうに言い合っている。

可愛いなー 良いなー 高校生。

高木君が、この店員サボってますよーと誰もいない店内に大声で言いながらこちらへ戻って来た。


「学校の友達?」

「いやスイミングの連れです。2こ下やけど小さい頃からの付き合いなんで」

「スイミングやってんねやー」どうりで肩幅が広いはずだ。

「俺はもうあんまり行ってないっすけどね。アイツがおるからたまに行ってるだけで」

「もう受験ちゃうの?12月やけどバイトとかしてて大丈夫?」

高木君は確か18歳だったはず、と言うことは高校3年生だ。今更だがバイトしてても良いのだろうか。

「あー 進学しないんで」

「そうなんや」

そうか……勝手に大学とか専門学校に行くのだと決めつけていた。いかんいかん。

「何でぎっちょんなん?」話題を変えた。

「たかぎっちょんと左利きやから。ぎっちょって言うっしょ?左利きのこと」

「私もぎっちょんって呼ぼ、良い?」

「全然良いっすよ」


そう言えば昔「全然」の後に肯定的な言葉を使うのは間違いだと国語の先生に言われた気がする。

もともとは肯定的にも、否定的にも使えた言葉らしいが「全然良いやん」などと友達同士で言っていると叱られた。今では肯定でも否定でもどちらに使っても良いと国語辞典には書いてある。俗語という扱いのようだが。

言葉も時代と共に変化していくんだなーとぎっちょんの台詞で改めて思った。

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