二校時目〜監禁〜

 こんな日常をどうしたらぶっ壊せるのだろうか…。

 どうしたらあのクソ野郎を殺せるだろうか。

 階段を登り、三階の廊下の一番奥の自分の部屋へ入る。

 カバンを放り出し、ベッドにドサッと、倒れ込む。

 殴られた場所がズキズキと痛む。

「……今なら……、今なら、殺せるッスかね」

 そうだ、思い返せば、チャンスはいくらでもあった。

 クソ野郎は強い、故に油断しきっている。

 現に、テレビを見てる今だってそうだ。

 僕がクソ野郎をビビって、実行しなかっただけだ。

 今ならいける。

 実行できる。

 何故今まで、こんなに簡単な事に気付かなかったんだろうか。

 僕は、ベッドから勢い良く身を起こし、机の引き出しを開ける。

 引き出しには、毎日手入れしている緑の柄の包丁が入っている。

 大丈夫、これなられる。

 包丁を右手に持ち、引き出しに包丁と一緒に入ってたスタンガンを左手に持つ。

 包丁の柄は、僕の手に、フィットする。

 包丁を握り締め、気配を絶ち、部屋を出て、音を立てず廊下を歩き、階段を降りる。

 リビングのドアから、中を覗き見る。

 クソ野郎は呑気にテレビを見ている。

 そっと、ドアを開け、中に入り、ドアを閉める。

 匍匐前進ほふくぜんしんで進み、ソファの裏に行く。

 ソファにはクソ野郎が座っている。

 そろりと立ち上がり、包丁を構える。

 自然と笑顔になる。

 なんだ、

「簡単じゃないッスか」

 包丁を振り下ろすと同時に、クソ野郎が振り向く。

 ザクッ、と、刃が、背中に刺さり、グジュッ、と中に入っていく。

「痛っ!何すんだてめぇ!」

 耳障りな声が聞こえる。

「うるさいッス」

 スタンガンに電源を入れ、最大出力で、三秒以上クソ野郎の体に当て続ける。

「あ……?」

 ソファの上でクソ野郎は、平行感覚を失い、筋肉が麻痺して動けなくなっている。

「大丈夫ッス。まだ、殺さないッスから。」

 僕はそう言いながら、クソ野郎の口に、睡眠薬を無理やり、指で突っ込み飲ませた。

 その時――。

「何をやっているの……?」

 リビングに母さんが入ってきた。

 母さんは眠っているクソ野郎に目をやる。

「あなた!?大丈夫なの!?」

 母さんはお父さんに駆け寄り、声を掛ける。

「白……!あんたの仕業ね!お父さんの連れ子だったから受け入れていたけど、あんたなんか元々要らなかったのよ!」

 母さんはそんなこと言いながら、キッチンへ入り、包丁を持ち出してきた。

 どうやら僕がお父さんに何かしたと思ったらしい。

 確かにお父さんを刺したりはしたが、いくらなんでも急過ぎるだろう。

「あんたなんか居亡くなればいいのよ!」

 母さんはそう言い、包丁の刃を私に向けながら突進してきた。

 僕は右手に持っている包丁を放り投げ、お母さんの左手首を掴み、僕の方へ引き寄せる。

 そしてスタンガンに電源を入れ、最大出力で、三秒以上母さんの体に当て続ける。

「ゔっ…………!」

 母さんは平行感覚を失い、筋肉が麻痺して、床に倒れ込んだ。

「母さんもまだ、殺さないッスから」

 僕はそう言い、母さんの口に、睡眠薬を無理やり指で突っ込み飲ませた。


「これでよしっ!」

 目の前には、拘束台に拘束されたクソ野郎と、母さんの姿がある。

 二人はまだ眠っている。

「そろそろ起きてほしいんスけどねぇ」

 二人が眠ってからかれこれ一時間経っている。

 僕は、自分の顎に手を当てながら、この2人に何をしようかと考える。

「……とりあえず、起こすッスか……」

「おーい、起きろっす〜」

 バッチーンッッ

 僕は、二人のほっぺを力強く引っ叩く。

 そこまで効果は強く無いはずなのでこれくらいで起きるだろう。

「んがっ!」

「痛……」

 クソ野郎と母さんが目を覚ます。

「やっと起きたッスね」

 クソ野郎と母さんは、眠そうに僕のことを見る。

 だんだん意識がハッキリしてきたのか、二人の目がしっかりと開く。

 そして、拘束台に拘束されてる事に気付き、なんとか拘束から抜け出そうと足掻き始める。

「おい、白!てめぇ!これ外せ!」

「そうよ!外しなさいよ!」

 クソ野郎と母さんが、僕に向かって文句を言ってくる。

 どうやら自分の立場をわきまえてないようだ。

「はぁ?お前ら今の自分の状況分かってるッスか?拘束されてるんすよ?後、周り見ろッス」

 僕はクソ野郎共に周りを見るように言う。

 拘束台の周りにはワゴンが二台置いてあり、一台には、メスやハサミなどの解剖器具が置いてある。

 もう一台にはノコギリやペンチなどが置いてある。

「……お前……まさか……」

 クソ野郎は僕が何をしようとしてるか察したようだ。

「えっ?どうゆうこと?」

 一方で、母さんはよく分かっていないようだ。

「クソ野郎は分かったみたいッスね。分からない母さんはバカ過ぎるッスね」

「クソ野郎って呼ぶんじゃねぇ!」

「なっ!バカって何よ!」

 また文句を言い始める。

「うるさいッス」

 僕はクソ野郎の首に、包丁の切っ先を当てる。

 クソ野郎共が静かになる。

「いいッスか?単刀直入に言うッス。お前らは今日から、僕が拷問するッス。僕が満足するまで、お前らは僕のおもちゃッス」

 そう言い、僕はクソ野郎共の末路を想像して笑みを浮かべた。


 一ヶ月後――

「…………そろそろ飽きてきたッスね」

 目の前には、傷だらけで、血が沢山ついたクソ野郎と母さんがいる。

「もう、いいッスか。僕は満足したッス。だから……」

 クソ野郎共の目から、希望が溢れ出している。

 そんなクソ野郎共に笑みを向ける。

「殺すッスね」

 クソ野郎共の顔が、希望から、絶望へと変わる。

「お、お願いだ……それ、だけは……やめてくれ……。もう……気は……済んだだろ……?」

 クソ野郎が言ってくる。

「…………」

 母さんに至っては、声も出ないようだ。

「クソ野郎。お前の言葉は正直言って」

 僕は、クソ野郎のふとももに、安いカッターで5mmほどの深さに刃を入れ、ゆっくり、ゆっくり、切っていく。

「気に食わないッス」

「うっっ、ぐっっ、っっっ〜〜〜」

 クソ野郎は痛そうに顔を歪める。

 この切り方は、肉を引っ張りながら切るからまぁまぁ痛い。

「お前がっ!」

 クソ野郎に刺してる刃をさらに深く刺す。

「あっっ、いっ、っっ〜〜〜」

「僕がやめてって言ったことをっ!」

 大粒の涙が溢れ出してくる。

「……やめたことが……あったスか?」

 拭っても、拭っても、次から次へと涙が溢れ出してくる。

 嫌いだ。

 こんな事で泣いちゃう僕も。

 大切なものを一個すら守れなかった僕も。

 僕の大切なものを奪って、嘲笑って、いじめて、僕を泣かせる奴らも。

 全部、全部、

「大っ嫌いッス……」

「……なんで……、なんで僕が、泣かなきゃいけないんスか?なんで、優しい人達が傷付いて、ゴミみたいな人達が、生きてるんスか?そんなの!全部おかしいッスよ!」

 駄目だ。

 僕の中から、嫌な気持ちがどんどん溢れて、汚くなっていく。

 始めは、殺したいくらい憎かった。

 けど、殺す気なんてなかった。

 拷問だけして全部、終わろうと思ってた。

 そうじゃないと、お母さん・・・・が、悲しい顔をするから。

 でも、だんだん、汚くなっていく。

 全部、真っ黒に、なっていく。


 気付いた時には、もう、

 視界が全部、真っ赤っ赤だった。

「あは、ははっ、はははははっ」

 誰かが笑ってる。

 笑い声が聞こえる。

 誰?

 …………。

 あぁ、違う、誰かじゃない。

 僕が、

「はははっ、はははははっ」

 笑ってるんだ。

 楽しいんだ。

 面白いんだ。

 どうしようもないくらいに。

 だから。

 笑ってるんだ。

「お、嬢……様……?」

 後ろの入り口から声がする。

 振り返ると、開いた入り口に、メイドのパウが立っていた。

 僕が笑っている間に、ドアを開いていたらしい。

「…………何を、して、いらっしゃるのですか……?」

 パウの声が少し、怒気をはらんでいる。

わたくしは、旦那様と奥様を殺さないと言う条件で協力しておりました。条件と違います」

「…………」

「……失礼致しました。気が付かなかった私にも、非がございます」

「…………」

「お風呂に致しましょう。返り血で真っ赤になっておりますので。準備は出来ております」

「……分かったッス」

 僕はお風呂場に向かった。


「…………」

 目の前には、原形を留めていない旦那様と奥様の残骸がある。

「片付けますか……」

 魔法で、旦那様と奥様を塵にする。

 私は、パンダの妖精だから魔法が使えるのだ。

「白お嬢様が約束を破るなんて……」

 殺してしまうほど、旦那様の事が嫌いだったのだろう……。いや、嫌いなんてものじゃないだろう。あれだけ、ひどいことをされたのだ。殺してしまっても仕方がない。

 でも……、それでも……、白お嬢様がお母様・・・・・との約束を破るなんて……。

 白お嬢様はおかしくなってしまったのかもしれない……。

 そうだとしたら……。

「私のせいです……」

 お嬢様には、僕のことを助けるな、と、命令を受けていた。その命令に背いてでも、お嬢様を助けるべきだったんだ。

 それなのに私は……、旦那様が怖くて動けなかった……。白お嬢様が殴られるのを、ただ黙って見ていることしたできなかった……。

 私は……、役立たずだ……。

 お嬢様が壊れていくのを、ただ、黙って見ていることしか出来ない、役立たずだ…………。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

白達のとてもおかしな学生生活 涼猫 @8972yarumina

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ