第5話 二輪香奈

「また明日!」

「明日はもう少しゆっくり来い。

 弁当も作んないといけないから。」

「了解である!」


 くだらないやり取りにふと笑みが溢れる。


「「またな。」」


 そうして俺は家の前で優樹と別れた。


「……」


 俺は何も言うことなく流れ作業のように部屋に戻っていく。


「な、直哉お帰り。」


 雑音に耳を傾けることなく部屋に戻る。

 部屋のベッドに倒れ込みいつも通りに考える。

 いつになったら出ていけるんだろう。

 ここは俺の家ではない。

 ここは、二輪家にわけの家だ。

 しかし俺は自分のことを二輪家と考えてない。

 俺は俺。

 直哉と考えている。

 そんな事を考えているとドアが勢いよく開けられた。

 どうやらゴリラとエンカウントしてしまったようだ。


「ただいまぐらい言いなさいよ。」


 偉そうな態度のままオレの部屋に入ってきたこいつは俺の姉の二輪 香奈だ。

 こいつは俺の気持ちを考えることなく自分のやりたいようにやる横暴の化身だ。


「チッ。香奈さん何かようですか?」

「いま舌打ちしたでしょ。姉を敬いなさい!」

「赤の他人が部屋にいきなり入ってきたら不機嫌になるでしょう。そんなこともわからない馬鹿なんですか?」

「少なくともあんたよりは頭はいいわよ。」

「そうですか。それではお帰りください。」


 自然な流れで追い出そうとしてみた。


「あんたがただいまを言わなかったから来たのよ。」 


 ただでさえ今日はクラスメイトがあまり良くなかったのにこいつは俺の気分を害するのが好きらしい。

 そのためか普段使わないような態度でキレてしまった。


「難聴ゴリラとっとと自室にもどれ!

 気分悪いんだよ。

 聞こえてんならさっさと行動しろ。

 部屋から出てけって言ってんだよ。」


 その言葉を聞いた香奈さんはうつむいたまま部屋を出ていった。

 はぁ、これだからあいつ等のことが嫌いなんだよ。


 ===


 自室にいると玄関が開いた音がした。

 何も言わず部屋に入っていった様子から直哉だという事がわかった。


 少し気に触ったため直哉の部屋に行きただいまをいうように言った。


 相変わらずの他人行儀。

 私は直哉のことを家族と思っているが直哉は思っていないようだ。

 くだらない会話をしていると流れるような作業で退室を促される。


 それに答えることなく部屋にいると直哉がキレた。


「難聴ゴリラとっとと自室にもどれ!

 気分悪いんだよ。

 聞こえてんならさっさと行動しろ。

 部屋から出てけって言ってんだよ。」


 なんとなく嫌われていたのは分かってた。

 でもそこまで言われたくないと思い直哉の表情を見るとまるでゴミを見るかのような軽蔑、拒絶の目をしていた。


 私は何も言うことができずに泣きそうになるのを必死にこらえながら直哉の部屋から自室に戻るのであった。

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