第3話「泣いている時に限って、宅配便」

 田口 空。私は失恋をした。ずっと片想いをしていた高校の先輩に告白したのだ。意を決して気持ちを伝えたのに、私の恋は呆気あっけなく終わってしまった。


 水の流れる音が小さく聞こえる橋の上で、私は先輩と会う約束をした。久しぶりに会う先輩は、あの頃と変わらず眩しかった。

 近所のカフェで昼食を取り、公園に足を運んだ。今の季節は上を向くと、満開の桜を一望できる。

 桜の花弁はなびらが華麗に舞う中、私はお腹に力を込めた。

「先輩。突然会いたいって言ったのは、伝えたいことがあって」

 少し先を歩いていた先輩が、私の方を振り向く。

「そうだったの?伝えたいことなら、メッセージでもよかったのに__」

「すきです!ずっと、すきでした!!」

 気持ちが高ぶり、先輩の言葉を遮って思いを伝えた。

 すると先輩は、とても戸惑った様子で

「そう、だったの…?そうだったんだ。ごめん」

 と言った。

 その言葉を聞いた途端、気づけば私は走り出していた。

 振られてしまったんだ。

 頭の上で満開に咲く桜が憎い。私の恋は、散ったのにっ…。


 ピンポーン


 ぬぐうことさえも諦め、涙で濡れた顔を上げる。頼んでいた荷物が届いたのかもしれない。それにしても、最悪のタイミングで宅配便。

 涙を拭い、重い足取りでドアを開いた。

「はーい…って」

 眼前に佇む、予想外の人物に言葉を失った。

 ドアを開いた先に立っていたのは、肩を上下させながら息を荒くした先輩だった。

「どうしてここに?」

「俺に振られたと思っているかなって」

 私は混乱した。もちろんそう思っている。『ごめん』と言われたのだから。

「だって、そうなんですよね…?」

 先輩は大きく首を振った。

「違うんだ。あの『ごめん』は、大事な告白をメッセージでいいなんて言ったことへの謝罪で」

 確か、遮ってしまったがそんなことを言っていた気がする。

 でもそれが、先輩が私の家にくる訳とどう意味があるのだろうか。

「え?って、ことは」

「俺もすきです」

 真っ直ぐな瞳に見つめられ、言葉が出ない。代わりに私の瞳からは、拭いたばかりの涙が止めどなく頬を伝った。長年思いを寄せていた人の腕の中で。


 こうして、私の恋は花開いたのです。

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