38 体内
「よっしゃ行くぞ!」
「いくっすよー!」
パーツを組み替えた機体の背中にはヤナ一人、出血こそ多かったが割と軽傷だったそう。
なおフィルは置いて行く事となった。というのも流石にプラチナエルフを死なせる訳にはいかないという事で合流したエルフから引き留められてしまった。
しかし彼女自身が種族の責任を取るとして突入に志願するが。
「フィルさん攻撃力高いっすけど戦闘下手っすよね。」
このヤナの一言で本人が戦意喪失。一応外からの砲撃でリルウたちの援護と前線指揮をするという事で溜飲をさげさせた。
とはいえ前線で他部隊から見える場所の方が後々恰好が付くという話になり、落とし所としては悪くないだろう。
「みんなで大分黒マナ散らしたから突入もしやすいはずっす!」
「本当かあ?」
相も変わらず黒い靄が覆っている為にターゲット本体の大きさがうまく認識できない。
「それに黒マナならうち得意っすよ!突入はこのまま右側面に大回りでいってほしいっす!多分足に出るはずっす!」
「え、でもそこめっちゃ魔物多いぞ。」
「だからっすよ!恐らくマナ防御が手薄な所に多く魔物を集めてるっす!」
その意見は非常に納得いくものに聞こえる。それに黒化できるヤナは黒マナと相性が良い事も確かだろう。
「判った信じるぞ!」
そのまま彼女の言葉通り一番魔物が多い場所に機体の舵を切った。
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「集団と接触、突っ込むぞ!」
「それじゃあ手筈通りにお願いするっす!」
平地故に高低差が無い為、ここでは巡航状態の高度確保が出来ない。なのでこのまま魔物の群れの中を体当たりで突っ込む事となる。
とはいえリルウとアズダオが空戦にて上に視界を引き付けてくれている為に、低空での突撃は始祖龍が感知しにくい位置である。
そしてこの位置は陽動隊のちょうど裏の為、黒マナが陽動側に伸びて厚みが無くなっている。一回目のリノト達の突撃タイミングもこの状況で、その情報を二人がネットワークに流したらしく猛犬隊もそのタイミングで尻尾に突撃したそうだ。。
本体に気が付かれぬ前に急ぎ魔物を引きつぶしながら突き進む。後少しと思った矢先に大型の泥が目の前に出た。
「何!」
ガキィン!という音と共に姿勢制御異常!泥だから突っ切れると思ったが中に芯の様なものがあったのか、巡航状態が中断されて足が止まってしまった。
「ヤナ!大丈夫か!」
「うちは大丈夫っすけど、まずいっすね!距離あるけど交代するっす!」
「判った!」
姿勢制御が回復したと同時に地面から少し跳ね、そのまま機体を緊急格納。相変わらず脳に負荷がすごいが、始祖龍に感知されるとそのまま範囲質量攻撃で押しつぶされる今、速度がすべてだ。
俺は空中でボディアーマーのブースターを使い姿勢と落下位置をコントロール、ヤナの真上に来る。そして。
「それじゃあいくっすよ!」
ヤナの背中におぶさり彼女が一気に黒くなって前に駆ける。俺はボディアーマーの腕力補助まで使って彼女にしがみつく、そうでないと吹き飛ぶほどの速度だ。魔物の隙間を縫いながら見えぬ速度で駆け抜ける。そして十秒後にまた彼女も高く跳ねた。
「ミスったっす、息切れっす…。」
「へ?」
そのまま空中で黒化が解けるヤナ。持久力については少ないと言ってたけども!前には始祖龍の朽ちた足が見える。そして落下地点とその間には大小わらわらゾンビが。どうする?どうする!
「うおおおおおおお!」
空中で腰のグレネードをあるだけ投げまくる!
「次!」
ヤナを抱えて武器を換装、ロケットランチャーに変更!地面が近くなる、このタイミングで!
「行くぞ!」
ロケットランチャーの射撃反動と爆風で落下の衝撃を殺し、同時に落下地点の魔物を排除!グレネードも前方で爆発!モザイクのような突破口は作れた!
「だあああああああああ!」
武装をヘビーマシンガンに変更、ボックスマガジンの弾数でなるべく前方を削り隙間を広げ、その隙間をブーストスライディングですり抜ける!
「行った!」
流れ閉まる様な魔物の壁を縫う様に避け、群れを貫けて本体付近まで到達!しかし距離がまだある上アーマーのブースト切れ、その上本体の突入経路は無く体内に入る場所は無い!
仕方なくそのままヤナを抱えて始祖龍に走り向かうもこちらに近づく足音を感知、犬型のゾンビが複数、集団から抜けてこちらに走り寄る!
「やばい!」
「な、投げるっす…。」
ヤナの絞り出すような声は緊急時の今、ありがたい事に澄んだ様に届いた。ヤナを始祖龍側に投げ飛ばした後に向き直ってゾンビ犬を迎撃、集中強化起動!
「最後の一匹!」
撃ち漏らした最後の一匹を殴り飛ばすと同時にアーマーがオーバーヒート!まずい、今は硬めのただの人だ。だがそれと同時に背中で炸裂音が!
「穴開けたっす!こっちへ!」
「わかった!」
なけなしのフラッシュバンを後ろに投げてヤナの元へ全力疾走。とはいえアーマーの動作補助が無いので人並みの速度だが、なんとか入り口まで駆け寄った。
「内部は魔物居ないはずっす!そのまま中入るっすよ!」
「ああ!」
そのままヘッドスライディングで穴に飛び込み、体をねじって入ってきた突入口に銃口を向ける。外から魔物の追撃が来ない事を確認してすぐ二人でへたり込んだ。
「ぜってー、二度と出来ねえ突入だぞこれ…。」
「死ぬかと思ったっすねえ。」
ヘルメットで隠しているが恐らく青い顔をしている俺に対して、ケタケタ笑うヤナから修羅場の場数の違いを思い知らされた。
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始祖龍の体内は赤い光が壁面や床に走り視界が確保できていた。なんというか、馬の国の励起状態に近いのかもしれない。
「というか、変に空間があるな。龍ってこんなもんなのか?」
「うーん、詳しくは無いっすけど半ダンジョンという性質からか、ダンジョンによる構造物の性質が体内に反映されてるっぽいっすね。」
「はー、異世界サイボーグって事?」
「なんすかそれ。」
俺自身も何言ってんだみたいな言葉だが、ある意味形容として適格なのがちょっと嫌だ。というかゾンビだしフランケンシュタインか?どのみち分かる人いないけど。
一息ついた後でヘビーマシンガンのリロードを行い、取り回しの良いアサルトライフルに武器を切り替える。なおリロードの際に残弾二発という事が分かり改めて肝が冷えた。
だがヤナが言うには内部に魔物は少ないという。魔物自体も内部にとどまると黒マナに分解されてしまう様で、強力な魔物以外は外に飛び出したのだとか。
またその上で新たな魔物の発生もしばらくないらしい。最初に噴き出た魔物は心臓から血を送り出す様に噴き出た物で、もう一度それが鼓動するまでにまだ時間があるという。
「それじゃあこっちっす。マナ濃度でコアの位置おおよそ解るんで。」
そのままヤナの案内について行く。内部は元生物らしく立体的な形状であり、梯子や坂を登る塔の様な形状だった。道中何事も無く進んで行くが、彼女はある部屋の前でしゃがみ、こちらに手の平を向けた。
「着いたっす。けどボスいるっすね。」
俺はそのヤナの様子から隠密行動を思い出し、久々にボディアーマーのゲームのコンフィグを起動して効果音をゼロに変更してそっと覗く。すると大きなコアの前に朽ちかけたドラゴニュートが大きな青龍刀を上に向けて鎮座している。
「どうする?」
「いや、こんなのコア特攻以外ないっすよ。」
ここで話に聞いたコア特攻が。そんなんあるのかと話半分で聞いていたが、まさか自身がやる事になるとは。
「わかった、それじゃあ陽動は、」
「うちがやるっす。」
「へ?」
武装タイプ的に陽動は俺の方が適格だ。それに今回はコア破壊アタッチメントが勇者の刀にあるおかげで俺でも、ヤナでも破壊は容易だ。しかしヤナは一切譲らなかった。
「仕方ない分かった。だが一つ、訳だけ聞かせてくれ。」
「…怒らないっすか?」
「物によると言いたいが、怒らないと約束する。」
なんか変な間と微妙に暗くなるヤナの顔。そして怖気ながらもヤナが口を開くと。
「…その剣は、あなたが使ってほしいっす…。」
そう言いながら、ヤナは俺のあげた短刀を胸に抱きしめた。ああ、うーん。何となくだが、ちょっと理由が解った。
「わかった、任せろ。」
たぶん、勇者の剣、刀だけど、それを持つのは勇者でいてほしいという事だろう。
「はい!」
そのヤナの返答は久々に彼女の本心が垣間見えた瞬間だった。
「それでは行くっす。」
ヤナはゆらりと倒れこむ様に体を傾けると、歩くような仕草でおよそ三十メートルを三歩で進み、ボスの目の前にたどり着く。
ボスの頭が僅かに動くと同時に短刀を黒く波打たせて飛び上がり、逆袈裟切りを直撃させて対象を引き裂いた。
「があああああああ。」
その一撃にボスは叫ぶが、その声は低く一定で抑揚が無い為に気味が悪い。裂いた傷から血は流れず、動きは鈍いが構え直す様子から効いていない様だ。そして反撃としてヤナに剣を振る。ヤナは難なく回避しボスの目線を入り口から外す。
「今。」
俺は無音設定のまま部屋内に突入。効果音を切っている為の無音のブーストスライディングでコアに急接近、しかしコアは微妙に高い位置にあり、刀は届かない。
なので計画通りに、その勢いのまま壁に向かって壁を蹴り跳び集中強化を起動。空中でゆっくりと落下位置調整をブースターで行い、鞘のアタッチメントを使用する。
アタッチメントである数珠の一つを抜刀前に指で押しつぶして薬液を鞘に送り込む。すると鞘に薬液が満たされて、一時的にダンジョン壊しと同等の効果が付与される仕組みだ。
そのまま空中でゆっくりと刀を抜き、刀身の光を確認。そして体ごと確実にコアに突き刺す体勢をとり、そのまま落下。
「よし。」
全て万全となった今に集中強化を解くと、ドスっと重い音と共にコアに刀が突き刺さる。正しく機能したのかという疑いの緊張の元、突き刺した刀を更に抉り貫く。
するとゴバっという音と共にコアが吹き飛んだ。壊れ方がいつもと違う。異常動作が頭を過り一抹の不安の後、とりあえずヤナのフォローをと彼女の方を向くと、ヤナは防御態勢を取っていたが攻撃が来る前にボスは倒れた様で、端々から靄と消えていった。
「成功っすね。」
「あ、ああ。」
だが怪我は無いかとヤナに駆け寄ろうとした所でバカでかい大声が辺りを震わす。またコア破壊による始祖龍の叫びなのだろうが、内部ではそれがより大きく響いた。
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「まだミミ痛いっす…。」
「あー、俺は何とかなったかな…。」
ヘルメットで頭が守られているのが功を奏した様だ。我々はそのまま次のコアである胸の方へ向かう。
「恐らくっすけど、道中でガルム達と合流できると思うっす。」
「道つながってるのか?」
ヤナ曰く、よくわからないが黒マナに対する異物が真っすぐコアに向かっているという事で、恐らくそれがガルムとリノトだろうとの事。
「でも急ぐっす。そろそろ魔物があふれ出すタイミングっす。」
「わかった。」
彼女の案内の元、道を進み目的地を目指す。とはいえヤナだけが頼りの今、どこまで進んだかわからない。また一つ壁面を登り切り、疲労から息を切らしているとヤナが止まる。
「来るっす。」
「何!」
肩を揺らしながらも銃を展開し、何もない通路先に構える。すると少し前の通路の壁が吹き飛んだ。息を止め、サイトをのぞき込む。すると。
「おお!お前さん!奇遇じゃのう!」
リノトが穴からはい出てきた。すごい元気。その後ろからは疲れた様子のガルムが続いて出てきた。
「少し休みましょうよ、リノトさん…。」
「何を、まだまだじゃ!」
「あの、というかどうやって進んでるんすか、リノトさん。」
「方向以外の道判らんから壁ぶち破って進んだんじゃ。」
「ええ…。」
なんかすごい脳筋。とはいえ意外とよくやる事なのかと思いヤナを見てみると、ちゃんとヤナも引いた顔をしていた。
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そのまま合流後に一時休憩。格納庫からエルフ達に渡された補給食を取り出し、久々登場のテント用グランドシートを下に引いて皆で食べる事にする。
なお食事の時にヘルメットを取る時、ゾンビの体内という事から匂いすごいかと思ったら意外と土くれの臭いだったので助かった。
またその時、リノトに願術の戦闘方法を聞いたのだが、何でもできるの一点張りでなんか要領を得ない。するとガルムが説明してくれて、なんというか思った事がそのままできるという事らしい。
なので壁を殴り壊せると思えば壊せるし、疲れないと思えば疲れない。けど実際のところ疲弊はしているらしく、食事の途中でリノトの勢いが落ちていった。分かりやすく言えばプラシーボ効果を現実化させるような感じなのだろうか。
「後、リノトさん少し張り切っている感じもするかな…。」
食事が終わり、皆が数歩歩きだした所で目立たぬ様にガルムはそう言った。
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その後、ヤナの案内もあって速攻で胸のコアにたどり着いた。まだ魔物発生の脈動には時間がある様で道中の戦闘も無し。案の定また大広間が入り口の先に広がるが。
「でかくない?」
「胸部だからかな、ボスも強そう。」
そのコアは大きく、立方体の組み合わせなのだが伸縮を繰り返してる。胸部にある事から恐らく龍の心臓が元となったダンジョンコアなのだろう。
そしてその部屋の前に居るボスも始祖龍の姿を小型化した物だ。所処朽ちているが、それでも俺の機体より大きいサイズでちょっとした覇気を感じる。
「やっぱコア特攻?」
「なんじゃそれは。」
「へ?ああ、えっとっすねえ。」
リノトはコア特攻を知らなかった。ガルムに聞くと、ボスがいけそうならなるべくボスを倒してからが基本だそうで、前回は二人でちゃんとボスを倒したのだという。
「ふむ、それじゃあ今回はコア特攻とやらにしてみようかの。時間も惜しい。」
「コア破壊係りは、ガルム。頼んだ。」
「え、僕?なんで?」
「俺の勇者の剣、破壊に回数制限あるんだよ。」
「そっか、それなら仕方ないね。」
回数制限のある武器を無理に使う必要はないだろう、一応ガルムが駄目だった時用に俺が行く様なサブプランを話して作戦会議を終える。
「それじゃあ、いくっすよー。」
「ああ、行こう。まずフラッシュバン、閃光弾投げ込んでから突入するか。」
「うちらがうるさいから嫌っす。それにゾンビにはあんまり効かないっすよ、それ。」
「そうなの?」
じゃあ体内突入時の最後に投げたのは無駄撃ちだったのか…。
「よし、それじゃあ行くぞ、せーの。」
締まらない突撃号令だなと思いつつ全員で部屋に突入。ヤナは一気に黒化して首を狩る。俺は彼女の誤射防止で腹部に銃撃、ガルムは目立たぬ程度に身体強化をして壁沿いを駆ける。そしてリノトは。
「はあー!」
連続で気弾みたいなのを撃ちまくってた。すげえ何とかボールじゃん、メノウもそうだったけど願術ってそんな感じなの?
「うげ。」
ヤナは切り上げた勢いでそのままこちらに戻って来た。その表情から良い様子ではなさそうだ。
「首の骨割り損ねたっす、硬いっすね。」
黒化を解いてそう言う。そのままボスは両腕を広げてこちらを手のひらで潰そうとして来る。そういや外でも初撃はこれだった、敵の癖みたいなものか。ヤナをチラ見すると反応が一拍遅れていた。たぶん平気だろうが、まあ、やるか。
「弾くぞ。」
「おうよ!」
なんかリノト戦闘だと随分感じ変わるなあ。俺は武器をショットガンに変更、集中強化による連射で手のひらに二発撃ちこみ肉が削げるもまだ迫る。ならばと手首の付け根の骨を狙い、そのまま拳を叩きこむ。
「おらあ!」
「そうら!」
俺もリノトもしっかり弾けたが、リノトは蹴り一発だった。やばい、本気の夫婦喧嘩したらこれ飛んでくるかもしれないのか。
「ふう、これで終わりっすね。」
「そうじゃな。」
そしてボスの後ろにはコアに三太刀、勇者の剣を入れているガルムが。というかガルムの勇者の剣、光が伸びて二倍ぐらいの長さになってる。いいなあ、使いこなしてるんだなー。
「グアアアアア!」
前のボスに比べると生きている様な新鮮な叫び。心なしか外で聞いた叫びに似ている。だがそんな事を考えていると消えていくコアの中から変な、光る鼓動するモノが出てきた。
「なんだ?」
このとき俺は安心しきっていたのだろう。それをゆっくり見送ると、それはボスの中に入り、ボスごと光始めた。
「え?何これ。」
「「まずい!」」
気が付いた時には遅かった。俺は完全に反応できず身構えるだけ。自爆だ。だが爆発の後でも変に衝撃が来ない。まさか死んだかと思ったら、皆が俺を守っていた。
「え、おい!」
「う、うちは大丈夫っす。」
「リノトさん、なんで!」
「ガルムこそなんでじゃ。おぬし、この中で一番年少であろう…。」
俺だけマナ関係の気配感知が出来なかった事から、反応が圧倒的に遅れてしまった。その結果ガルムとリノトが負傷、程度で言えばリノトが重症だ。
「おい大丈夫か!」
「大丈夫じゃ。願術であればどんな傷も治せる。逆にお主の心配顔で自身を疑うとうまく治らんよ。」
「なんで、僕が盾になれば…。」
「あたたた、勇者であるお主が倒れる訳にはいかんじゃろ。だが、それ以上に頑張るお主が見てられなくてな…。」
「そんな。」
「おぬしが固くなっているのは解ったんじゃ、そして自分自身も。前の旦那の敵の子供と二人で居るのは何の因果か、考えない様にしたんじゃがな。」
「とりあえずうちが回復補助するっす。ガルムはリノトさんに回復魔法を使うっす!」
「え、あ、うん!」
「だが、今はそれに拘る暇は無く、そしておぬしに罪も無く。何よりそれを恨めば願術は弱くなり先の大物にも生き残れんかった。」
「ごめんなさい、ごめんなさい。」
「いいや、謝る必要はない。ただ、恨みはあったが今こうして居られるのも。」
そう言って二人は俺を見る。そして俺は。
「あ、マロキンの携帯サイズあったけど使う?」
滅茶苦茶焦って格納庫を探してなんかないか頑張っていた。なお普通に回復できる範囲の傷だったそうで、死に際みたいな空気から今日一で焦ったというと皆笑っていた。
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「意外と効くのう、この丸薬。」
「用法、用量は正しく…、いやこれ人以外に使うべきではなかったか?」
あの後二人の傷は治せたがリノトが痛みが残るという事で、生前の解熱鎮痛剤を格納庫から出してリノトに渡した。これは純粋な痛みも抑えられるはずだ。気休めだがこの場ではその気休めも生死を分かつ、かもしれない。
しかし食後からしばらく時間が空いたがいけるだろと渡したが、頭からケモミミ生えている場合はもう用量とかわかんねえな。
「えー、それ純人用ってこと?」
「うーん、どうなんだろうな…。」
あまり薬とかを容易に使うもんでもないかもしれないが、結果オーライという事にしておこう。
「あ、ちょっとまずいっす。急ぐっすよ。」
「どうした?」
「そろそろ魔物湧くっす。恐らく、最後のコアの左腕からわっと出てくるはずっす。」
「それはまずいね、急ごう!」
くそ、まだ予断を許さぬ状況か。そのまま行軍を速め、ヤナの案内とリノトの壁抜きで速度を一気に上げる。
なおヤナとガルムは壁抜きを見る度に驚く。聞くところによると、普通ダンジョンの壁は破壊してもすぐ元に戻るか、そもそも壊れない物なのだそうだ。これただ殴ればいいって話じゃないのか…。
「あ、まずいっす!」
「なんじゃ、それじゃ開けるぞ。」
「待つっす!開けちゃダメっす!」
ぴたりと止まるリノト。
「どうした?」
「魔物が発生したっす、たぶんこの先からドバっと来るっす。」
「なら急いでここも開けよう。」
「開けたらそこからドバっと来るっす!」
ヤナは青い顔をしている。俺は半信半疑だが戦闘に備え確認を兼ねた武器のリロードを行う。
「どうするべきだ?」
「まずは…、そうだ!こっちっす!」
そう言ってヤナは走り出した。だがその速度はあまりに速く曲がり角で毎度見失いそうになる。
「ここならいけるっす!開けるっすよ!」
「あれ、ヤナでも壊せるのか?」
「この先は外っす!外への出入り口は割と開けやすいんすよ!」
そういや突入経路はヤナが作ったな。内部の破壊だけ難しいと言う事か。微妙にルールがあるなダンジョン。
腕だけ黒化したヤナがナイフを壁にたたきつけると、突入時の爆音と同じ音が鳴り、穴が空く。
「これで外皮伝って腕まで行くっす!」
「わかっ、た?」
だが外側は当然内部のように建築物になっておらず、普通にゾンビの体表であって、肋骨の間から出た我々の前にあるのは朽ちた体表と動く腕と連なる脇があるだけだ。
「え、ここ行くの?下見えないくらい高いけど。いけるの?」
「うちは爪使ってひっかけて行くっす。」
「僕は魔法で壁にはりつこうかな、いざって時は魔導爪でひっかけるよ。」
「わらわは願術で壁を歩ける。」
そう言って各々が穴から出る。
「早く来るっす!魔物来ちゃうっすよ!」
「ええ、うそお。」
いきなりロック、いや、ゾンビクライミングが始まった。
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「もうやだ…。」
「だいじょうぶっすか~?」
ちょっとニタニタ笑いながら俺に問いかけるヤナ。結局外皮を伝って移動する間で俺は三回滑り落ちたが、皆に助けられて戻って来た感じだ。
「もう、王様だって苦手な事あるんだよ!」
「とはいえ他人に使う願術は効きが悪いからか、疲れたの…。」
連続で足を引っ張ってしまった。だって掴んだ部分が腐ってちぎれ落ちるんだぞ、怖すぎるだろ…。落下したら機体出せば即死はないけど、外皮の少し外にある黒マナに触ったらどうなるかわからん。一応溢れ出た魔物は素通りしてたが。
「あ、閉まった。」
先導するヤナが開けた入り口は休んでいる内に閉じてしまった。
「やっぱ長続きしないっすね。」
「む?わらわが壊した壁は戻らなかったぞ?」
「やっぱりこうだよね、そもそも外壁でも壊せるのって結構特殊だよね、魔境やダンジョンの入り口増やしたなんて話聞いた事ないもの。」
というとヤナの攻撃もかなり特殊なのだけど、リノトがその上位互換であったと言う事か。
「ほら、そろそろいくっすよー。」
「うん…。」
続く戦闘で精神も辛いが肉体も辛くなってきた。仕方なしに立ち上がると、ガルムが抜剣。
「敵!来るよ!あっちの方!」
「進行方向っすね、全部掃けてくれなかったかー。」
「ああ、クソ。」
そのまま俺は進行方向に銃を向け、皆で前進を始める。とはいえ道を埋める程敵がいるわけでは無かったので、最低限倒してそのまま横を通り抜け急ぎ進む。すると見た事のある入り口が見えた。
「着いたっすね、あそこがコア部屋、でも恐らく気づかれてるっす!突撃するっすよ!」
「まて、追ってきている魔物と挟み撃ちになるぞ!」
「大丈夫っす!恐らく雑魚はコアの部屋には入れないっす!この黒マナの流れだと多分分解されて吸収されちゃうんで!」
そんなもんなのかと思いつつ、俺は追ってくる魔物をゾンビ映画チックに銃で牽制しながらボス部屋へと突入、ボスはなんか翼が生えた、細身の剣を持つ流麗なドラゴニュートだった。でもやっぱり朽ちてる。
「えーっと。」
今まで事前に行動を話し合った後に突入していたので反応が一拍遅れて先に敵が動いた。真っ先に入って来たヤナに剣先が向かうも彼女は上手く反らす。
「とりあえずさっきと同じやり方でやるっす!」
「おう!」
「わかったよ!」
「まかせるのじゃ!」
一応念のため背後を見ると入り口から魔物は入ってこない。しかしこういう細かい所の無知が、一瞬の判断遅れへと連なって危機が迫るのだろうな。
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