37 始祖

 兎の国で数日滞在した後、ミズタリに戻る。ツジフはお土産を渡してくれたので帰った翌日に封を開けてみると。


「ッシャア!」


 入っていたのはバニースーツだった。いいぜ、最高だ。売り場が分からなかったから買いようが無かったのだ。サイズも何買うべきか分からんかったし、何より一人で買いに行くのがちょっと恥ずかしい。


 恐らく高級品なのだろう、質の良い生地の裏には結構なルーン文字が入っており、なんか紐が裏に沢山走っている。これでサイズ調整をかける様だ。


 ただ町行く人は紐が付いてる感じは無かったから、本来はオーダーメイドで作る物なのだろう。着てる人は大体気合い入っていたしな。


 その包みの中には手紙も入っており、もしこの国の正装をするならとの内容が書いてあった。やっぱりこのバニー正装なんだなあと思いながら何着か取り出していくと。


「あ。」


 底には黒ブーメランパンツが畳まれずあった。


 もし向こうで正装する場合、男の俺はこの黒パン一つで外練り歩かなければいけない事を理解し、厳かにそれら全てを格納庫に仕舞った。



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「きんっきゅうです。」


 いきなり自室の扉が開かれ、フィルがそう言った。


「…何が?」


「やばいんですう。」


 なんか顔がげっそりしていて、なおかつ口調が普段と仕事モードが混ざってて初めて見る状態だった。


「とりあえずぅ、こちらへぇ。」


「あ、ああ。」


 そしていつもの会議室だが準備など特に出来ている状態でもなく、既にいた数人が不思議そうな顔で椅子を用意していた。フィルの居た方を振り向くと既に部屋から出て行ってしまったようだ。


「…なんなんだ?」


「解んねえけど、あんなフィル初めて見るからなんか理由あんだろ…。」


 そう言いながらめんどくさそうにアズダオも椅子を運んでいた。背が小さいからか運びにくそうだったので手伝ってあげたら怒られた。



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「滅びますう。」


 わけわかんねえ一言から会議は始まった。一応プロジェクターだけ起動したが机も椅子も準備は最低限である。そう、この時までは皆大した事ではないと思っていたのだ。


「ちょ、ちょっとフィルさん、回復しますね。」


 見かねたメノウがフィルに回復魔法をかけた。すると心地よかったのか一瞬幸せそうな顔の後、みるみる厳しい表情に変わった。


「後六日でこの大陸が滅びます。」


 突飛な話が出てきた。この時点で理解する者は当然居らず、戸惑いのざわめきだけが聞こえる。


「理由としては、我が故郷のエルフの森の神樹、その根元の深くにある龍の死骸が動き始めているからです。」


 フィルが手を光らせプロジェクターに向けると地図が壁に映し出された。


「これは世界樹を育てる為に高いマナ濃度のある土地で根を張らせたからなのですが、その幼木の神樹がおかしいという事で数日前に調査へ向かいました。」


「うん。」


「そして色々確認した所、どうも神樹が動いた形跡がありました。そのほかにも広範囲に植生の変化があるので地脈の関係かと思いましたが、先日それを辿り獣人連合の方へ向かった所、一つの個体と判明しました。」


「はあ。」


「その個体の大きさがこれになります。」


 そう言ってプロジェクターの地図に一部青く色づけされた。近くにある毒竜が住むと聞いた山間部よりも広い範囲である。


「うん?ここに竜たちの死骸が埋まりまくってて、それがなんか影響あるってこと?」


 横ではリノトとメノウが占いをし始めた。祭壇使うやつじゃないから簡易的なものだろう。


「違います。一個体の龍です。それが今の黒マナ活性でドラゴンゾンビとして動きそう、というかちょっと動いたんです。」


「そんな大きな龍なんていましたか、アズ。」


 リルウが不思議そうにアズダオに聞く。


「えー、あれ、なんだったっけ…。」


 それになんか思いだそうとしているアズダオ。


「ふう、やっと戻ったよ。」


 ガルムが遅れて会議室に入ってきた。そう言えば彼女は犬の国でダンジョンを破壊しまくっていたが、ダンジョン壊しが届いた事で破壊を現地の犬人に任せて近々戻ってくるという話だったが、今日だったのか。そしてガルムが席に着いた瞬間。


「あ!思い出したぞ!」


「え、何を。」


 アズダオが叫んだ。思い当たる様な何かがあるという事か。なんかよく見えない何かが、どんどん嫌な方向に可視化されて行ってる気がする。


「この辺りに究生龍の始祖が眠るって話があった!」


「そんな話どこで聞いたんですかアズ。」


「おめーが龍の里の勉強さぼっている間だ!歴史の授業で習ったんだよ!」


 そんなもんあるのか、結構教育とかしっかりしてるんだあそこ。


「つーかお前は知ってなきゃ駄目だろ!」


「なんでですか?」


「始祖龍はマナドラゴンなんだよ!つまりお前の先祖だ!」


「あら、そうなのですか。」


 相変わらずどうでもいいを貫くリルウとは対照的に、アズダオはみるみる顔色が悪くなっていく。


「確か授業じゃあ山ほど大きい龍で、マナや魔力を無限に蓄えれるとか言っていたぞ。神話の類の誇張と思ったけども…。」


「えっと、つまり?」


「そのマナドラゴンの遺体に最近溢れる黒マナが叩きこまれた結果、膨張して山脈のような半ダンジョンのゾンビとなって、魔物をまき散らしながら暴れて大体滅びます。」


 無情な感じにフィルが続けた。


「んなまた、そんなぁ。」


 まだ二割ほど現実を受け止められない自身が居る為に半笑いでそれを聞き流し、占っていたリノトとメノウを見る。ミミやしっぽが総毛だっていた。


「…まじじゃ。」


「まじです…。」


 俺はふうーとため息をつき、一気に胃が重くなった。



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 翌日緊急警報を発令。とりあえず伝手を頼りに俺と龍二人、そしてオシュが各国を走り回る。テトとヤナは猫の国に跳び、ガルムはせっかく帰って来たのにと半泣きで犬の国にとんぼ返りだ。


 ただ詳細を調べると異常は既に起きていた様だ。フォレゲンに比べて獣人連合国では気持ちダンジョンの発生量が増えた程度だったというのが判明した。ただそれでも冒険者ギルドが流行ってないので手一杯だったらしく、数字で増加量を見て無かったのだ。


「たぶん黒マナは西から東へ流れていくのに、その間に始祖龍の遺体があったから、獣人連合まで流れて行かなかったんだろうねえ。」


 フィルはあの会議の後、倒れる様に寝て今はそこそこ復活した。逆に我々は根回しで走り回り気持ちやつれた状態となっているが、そのおかげで各国から幾らか協力を取り付けた。


「まあ、この応援の戦力じゃあまり意味は無いかもしれないけどね…。」


 ガルムがため息交じりにそう言う。そもそも急な話でいきなり終末論、当然我々同様に信じたくないというバイアスもかかっている為、各国とも応援は少量であった。


 だが客観的に見れば逆によく応援寄越してくれたなあといった印象。そもそも準備期間が一週間も無いのだ。二つ返事でないと対応できない速度である。


「情報でました。」


 親子で必死に占ったメノウとリノトがしおしおの状態で部屋に入ってきた。


「大きさは恐らくあの図より少し小さい模様です。ただ、山脈程度が山一つになったと思ってください。その変わりあの図分の黒マナを纏っていて、それを操作する攻撃が予想されます。そして本体にダンジョンコアが五つあり、魔物を生み出すといった様相です。」


「コア位置は大体このあたりじゃな。」


 手書きの筆で書かれた龍から、前足にそれぞれ一つ、尻尾に一つ、足に一つ、胸に一つといった所。片足は朽ちているようだ。


「これらを叩く必要があるの。」


 げんなりな準備期間である。そしてそこから出来るだけ準備をしまくって、すぐに当日になった。



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「後方は任せる、というより任せる以外に手が無いんだよなあ。」


「そっちの方は大丈夫っすよお。」


 ここに居るのは計七名。俺とリルウ、アズダオの龍二人、そしてフィル、リノト、ヤナ、ガルムだ。その人数もさることながら集まるのが珍しい面子だ。


「さて、大仕事じゃ。久々心躍るが、どうでるかの。」


「はあ、どこまでできるかなあ。」


 この面子の選定理由は戦闘力ではなく、理由で決まっている。


 龍二人は究生龍としての責任、そして弔いの為に。


 フィルはエルフ代表とその責任を。一線を退いた身の為死んでも問題が無いと言っていた。


 リノトはもうメノウに王女を継いでも良いと。


 ヤナはテトが将軍の子だからとその代理で。


 ガルムは前独裁者の子という微妙な立場の上、私人として、そして人造であるが勇者として志願した。


 そして俺も王だがミズタリは女系の王族、男は最悪替えが効く。


 つまりここに居る者達は、ある程度戦死を見据えた面子なのだ。何より俺についてはこのタイミングで出ないなら他国が動く事はなかっただろう。


「よし、やるか。」


 その覚悟の上で皆ここに居るが、俺は全てにおいてそれを起こすつもりは無い。昔に比べれば意志力も強くなったもんだ。


「ああ、やるぜ。」


 アズダオも人の身のまま気合いを入れる。一応究生龍側にも支援要請をしたらしいのだが、難しい+連携が下手だから味方にダメージが行くかもとの事で、最終手段のバックアップとして待機しているとの事だ。


「そう気負うな。占いでは半刻後じゃ。」


「それじゃあ、ネットワークを形成するよ。」


 フィルが俺の機体の上で杖を軽く振り、彼女が青く光って少し浮く。あの杖は神樹の杖であり、魔法を強力にする物らしく彼女が使うのは初めて見る。


「まさかこれをまた着るとはのう。」


 フィルの横でくっくっくと笑うリノトは戦衣を着る。願術を使う戦闘というのがよくわからないが各所の装備を確認していた。


 動きやすさ重視で案の定露出は多いが興奮している余裕も無い。その上見た限りでどういう戦いをするかが分からない。武装が見当たらないから格闘になるのだろうか。


 そしてその様子を見て俺も武装の確認。今回勇者の刀をボディアーマーの腰に取り付けている。そしてその鞘には丸い玉が三つ付く、数珠の様な追加のアタッチメントがある。


 これは刀にダンジョン壊しの機能を付与できる追加装備である。前にフィニルに相談してあったが、今回急遽必要となって突貫で作ってもらった物だ。しかし何分急ごしらえの上ぶっつけ本番で実践投入の為、過信できない装備である。


 なおガルムは勇者の剣を持ち、腰に無改造の鞘がささる。彼女はザルカにマナコントロールによるコア破壊方法を教わり、勇者の剣を持つ今は自身の力で即時破壊可能である。ここら辺も獣人ながら気力、魔力の両方を使える身だからできる事であろう。


「しかし、自国にも拘わらず一番応援寄越さないのが獣人連合というのが皮肉ですね。」


 リルウはそう言って微笑む。一応今回のターゲット究生龍の始祖、今は始祖龍と呼称しているがその遺体の頭がエルフの森にあり、それ以外の体はほぼ獣人連合国の平原にあるのだ。


 そして今回、ターゲットの大きさと想定戦力があまりに大きい為、応援を他国に要請した所、その過程で判明したのは獣人連合と我々は伝手が弱いという事だった。


 まあキツネ獣人のミズタリは獣人と純人の大戦で正式に参戦を表明しておらず、ほぼ中立であった上、王も勇者とはいえ大戦で争った純人である俺だ。信用しない事は妥当ではある。


 その為獣人連合はこちらの撃ち漏らした魔物に対する防衛部隊しかおらず、そもそもとして我々の話に半信半疑である。

 

「ネットワーク構築、切り離すよ。」


 フィルの纏う光が消える。今回はターゲット出現の後に大量の魔物を振りまくと予想されている為、相互連携して乗り切る為にネットワークの概念を教えて連携を取れるようにした。


 とはいえ皆、ここで始祖龍を叩いて自国を守るという目的で集まっている為、どこまで連携を取れるのか未知数である。生前で見た海外の合同軍事演習とかはこういう時の為にやるんだろうなあ。


 なお各国の状況は以下の通りとなる。


・エルフの森(ミズタリに来たエルフも防衛に志願、狐人と猫人も少数合流、森の防衛)

・フォレゲン+ジンウェル純人連合軍(魔導ゴーレム二体と魔導騎士少数、冒険者多数とオシュ達馬人も数人、自国の防衛目的だが士気が高い)

・猛犬隊(犬の国の少数精鋭部隊らしい、機械ゴーレム一体、目的は自国との国境防衛)

・獣人連合軍(半信半疑の為付近の都市防衛、あまりやる気なし)


 そして皆にフィルが映像と音声のネットワークを魔法で構築した。魔法は一番汎用性があるとの事で、各国の魔法使いならある程度繋げられるとの事。ただ回線速度は個人の能力によって変わるとか。


 なお黒マナが溢れて通信関係は行えなくなっていたのが、ここ二日でこの辺りのみ使えるようになった。ありがたい状況だが、単に始祖龍の復活が近くなって効率よく黒マナを吸収するようになった副作用である。


「それじゃあ通信の場合はここに接続してね。」


「解りました。」


 リルウはネットワークにつないでテストを始めた。彼女はこの状況でも落ち着いている。だがそれでも普段より髪を弄ったりとそわそわしており、何かを感じているのかもしれない。


「そろそろじゃ。」


 俺はボディアーマーのヘルメットを展開してマルチプルに乗り込み、機体に火を入れる。五分間、心地よい草原がたなびく映像が流れていたが、不意に全て止まる。


「来るっす!」


 ヤナが叫んだ瞬間うちの龍二人が一気に龍化、しかしそんなのがどうでもよくなる土煙が前方に炸裂する。そしてその土煙は一気に消滅して対象が見えた。


「うぐ。」


 デカすぎて全容が見えないが、その前に機体からアラートが鳴る。本体横にうす黒い気体が広がるとそれが腕の様な形になり、


「「はああああああああああ!」」


 我々を潰そうと挟みこんだ。それを両翼の龍二人が相殺する。辺りには我々の居る場所以外すべての土地が破壊された。


 黒マナで腕を作り両手で我々を叩いたのだ、羽虫を叩く様に。しかしその初撃を龍二人がその手を貫いて無効化させた。


「行ってください!」


「があ!頼んだぞ!」


 リルウとアズダオが叫ぶ。作戦としては俺が機体ごと突撃し、背中の皆を始祖龍の中に突入させた後、龍二人と共に外で応戦する予定だが状況次第で突入組に合流する。


「クソ!」


 だが初撃でアズダオにダメージが入った。これは外での応戦を優先したほうがいいかもしれない。マナコントロールで威力を中和したリルウに対し、アズは炎で焼き貫く力技だったからか。


「うーん、それじゃあここら辺かなあ。ヤナちゃん一緒にいこう。」


「へ?」


 そう言うと機体の甲板のフィルがヤナと共にふわっと浮いて、まさかの途中下車。


『ちょっと削ってから合流するねー。』


 通信用の白石からおっとりした声が鳴る。初期の計画と違う動きに止めようと思ったが、そのしばらく後に青い極太レーザーがターゲットの黒マナ腕を引き裂いてた。


「ええ…。」


「むう、フィルのやつ結構やるのう。」


「リルウさんのブレスと遜色ないね、あれ…。」


 なんやかんやフィルはインドア派で戦闘は初めて見るが、割と戦闘力上位だったのか。今度から怒らせるのやめよう。


 しかしそんなやり取りをしてもまだターゲットまで着かない。思った以上に敵が大きい!


 俺は続く青い砲撃の射線から外れる為に右へそれる。そして側面辺りに入ると丁度四人が陽動してくれているおかげで黒マナがかなり薄い。好機と接近しターゲットを仰ぎ見ると龍の輪郭が急に崩れ始める。


「なんだ?」


「人海戦術じゃな。魔物じゃが。」


「ついにきたね!」


 更に接敵してようやく解る。死体の隙間から虫が湧き出る様に、ドラゴンゾンビの隙間から魔物が湧き出ている。


「うう、入るのやだなあ。」


「まあ仕方あるまい。それじゃあ投擲頼むぞ、お前さん。」


「ええ、それ本当にやるのかよ…。」


 巡航状態のまま一応群れにバズーカを数発撃った後、右手のそれを投げ捨てる。そして二人を機体の手のひらに乗せると、リノトが球状のバリアを張った。ジンウェルでも昔みたなこれ。


「行くぞ!三、二、一!」


「「「射出!」」」


 そしてそのまま彼女らを投げた。すると球は真っすぐに飛び、急に球が三倍ぐらいでかくなる。そしてその範囲にいた魔物は溶ける様に消滅していった。


「ええ…。」


 なんか、うちら強くないか?意外といけるのではと思いながら右ハンガーのライフルを機体の手に移動させる。


「というか、どうする!これ突入か?迎撃か!」


 くそ、初撃でアズが痛んだから流れが変わってしまった。恐らくフィルはそのカバーで降りたのだろう。


 となると彼女の代わりに俺が中に突入するか?しかし俺単独だとコアまでのルートを知る術が無い。しょうがない、なんとかリノトに合流するか。


 光の球は既に無いが魔物が消えた跡から着弾点を予測して更に前進。すると道中で陸も空も黒く埋まった。


「うぐ。」


 確かに我々は強いのだろう。しかし魔物の数は際限なく、その上相手がでかすぎる。そして再度アラート!


「んな!」


 とりあえず横っ飛びしたが機体に掠った。衝撃と共に警告音、装甲値一割消失!左には半透明の黒い壁があるのだが、半透明のはずなのに厚すぎて先が見えない。


「く、くそ!」


 駄目だ、敵前で悠長に降りて中に入る暇はない!しかも寄って来た魔物、恐らくゾンビの類の様だがそれらが機体に取り付こうとしている!


 ならばとまだ動かぬその壁に突撃して壁を機体で蹴り登る。先ほどの衝撃からどうも物質然とした感覚があったので、本当に壁として使ってみたら登る事が出来た!


「おら!」


 登り切った後に上空からホバリングしながら射撃。すると左手のバズーカはマナに阻まれて途中で爆散、だがライフル弾は本体近くまで届いた。


「あー、そんな感じか、ならばライフルで!」


『ちょっと、そのさっきの弾危ないよ!』


「ぐ、そ、そうか。」


 白石からフィルの声が。ここから本体の破壊をと考えていたが、貫通した弾丸の挙動が不安定だったので突入組が危険と判断したのだろう。


『陽動組は表面のマナ削りに集中!あとこっちに来た魔物を殲滅したら合流して私達も突入するよ!』


「解った!」


 そしてこの後、準備期間の短さがもろに出てくる。



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「ごめーん。」


「あー!もう何やってるんすか!」


 バズーカで表面のマナを吹き飛ばし敵の外側を削っているとフィルからヘルプが。なんと魔法連発して打ち込んでいたらガス欠して動けなくなったとか。


「とりあえずアズ達に合流するぞ!」


「いや、無理だよお。ほらあれ。」


 フィルの指さす方にカメラを向けると龍二人が空中で黒マナ腕をいなしていた。


「マルチプルちゃん空は飛べないんでしょう?ちょっと無理だよ。」


「それじゃあどうすんだ!」


「うーんそうだね、エルフの一団と合流しよう。そうすれば私も回復できるし。」


「あー、わかった!」


「ちょっとまつっす。エルフたちは今回森の防衛で動かないんじゃないっすか?」


「さっき通信で一部が前へ出るって連絡あったよ。たぶん私達で魔物を抑えたから魔物来なくて戦線上げる事になったんじゃないかなあ。」


「判った、場所の指示を頼む!」


「あっちの方だよ。」


 その指先の方に機体を向けようとした瞬間、機体にアラートが奔る。


「まずい!」


 爆発に近いブースト加速で避けるも黒マナの砲撃が命中!既に戦闘中に何発か被弾していた為に装甲値はこれで残三割、機体から耐久低下によるアラートが鳴る。


「くそ!」


「ヤナちゃん!」


 その声で一瞬止まる。機体の甲板を見るとヤナが血まみれでうずくまってる。


「おい、どうした!」


「かばってくれたの!息はあるよ!」


「回復頼む!」


「今は、力が出なくてちょっとしか…。」


「う、ぐ。」


 怒りと恐怖で叫びそうだがこらえた。恐らく、ここで意識を、いや、意志を手放したらどんな被害が出るかわからない。心配だが、今は。


「エルフに合流する!」


 進むも逃げるも誰かが犠牲になるような今、すべてに縛られているような気分だ。



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「こちらです!」


 無事にエルフの攻撃部隊と合流。というか面子はほとんどミズタリエルフと狐、猫の混成部隊だった。森エルフが一人も居ない事に文句をつけたいが、それを言う暇と相手がいない。


「すまない負傷した!二人を頼む!」


 とはいえ猫人が居るのは助かった、機体に飛び乗ってすぐに二人を降ろしてもらう事が出来た。俺もその後に機体から降りる。


「状況は?」


「今のところ森まで被害は出ていません。魔物の進行速度が遅い事と、フィル様が削ってくれた事が大きいですね。その上視界で状況を共有してくれたので前進する説得も容易だったので前に出てこれました。」


「ふーむ。」


 フィルの判断もある意味で間違っては無かったと言う事か。その上発生する魔物がゾンビ系ばかりだった為、移動速度がかなり遅いという状況が味方してくれた。


「また同時に純人連合軍も前に出てくるそうです。その点についてはちょっと難しい所ですが。」


「ええ。」


 前進してくれる事は喜ばしいのだが、ここは獣人連合の領地である。となるとこれ領域侵犯になるのだろうか、その方向で後々揉めなければよいのだが。


「彼らとは後に我々も合流する予定です、その際は…。」


「危ない!」


 その声に振り向くと今度は空から龍が飛んできて、すぐ近くに炸裂音と共に落ちた。恐らくあの赤色は。


「アズダオ!」


 草原を突き破って舞う砂煙に駆け寄ると、そこに龍の姿は無く人の体躯としても小さなアズダオが倒れていた。


「大丈夫か!」


「いってぇ、マジきついなこれ…。」


 起き上がる彼女はその腕が震えている。出血こそ見えないが痣が多い。


「お前、その怪我は!」


「おい、どうしたんだそんな焦って。こんなの修行でもあったろうがよ。」


 顔をしかめながらも、めんどくさそうに応対するアズダオ。


「だ、だが。」


「はあー調子狂うな。俺は怪我だけ、大丈夫だ。どっちかというとリルウの方がまずい。」


 その言葉に驚きまだ空で戦うリルウを見ると、うまく攻撃をいなしてブレスで反撃をしている。


「大丈夫そうだが?」


「いや、あいつ色が濁ってきてる。攻撃して引っぺがした黒マナをそのまま吸っちまって白竜から灰色ぐらいになっちまった。」


 その言葉の後、ターゲットを見直すと急に叫び声をあげて動きが止まった。そしてそれを見計らって、リルウもこちらに飛んできた。その間に一人の狐人がこちらに駆けて来る。


「アズダオ様、回復を!」


「ああ、頼む。あとお前、リルウの相手してやってくれ。それと…」


 アズダオから苦言を一つ言われた後にリルウに向き直る。彼女はスッといつもの様に人の姿に変わり、ゆっくりと俺の方に歩いてくる。


 彼女に傷は一切見えないが、肌の一部や白目の部分にマーブル模様の黒が混じる。これが黒マナか。混じってしまったという事か。


「旦那様。」


「リルウ。」


 また大丈夫かと声をかけようとする前に、彼女は言葉をつづけた。


「抱いてください。」


 手を広げる彼女に対して一拍考えてしまい。


「え、どっち。」


「抱きしめてください。まだ皆が周りに居ますので。」


 あ、ああ。そうだよなと思いつつ彼女に走り寄り抱きしめる。というかこの手の勘違いを俺がした事実から、少し自分がおかしくなっているのでは、という自覚がここでやっと出た。そして。


「はい!元気出ました!」


 パンと炸裂音が鳴ってリルウの黒い部分が吹っ飛んだ。意外とあっさり。


「おっしゃ回復したぜー、うお、リルウももう黒マナ剥がせたのか。」


「はい。旦那様が協力してくれましたので。」


「いや、そう簡単なもんじゃねえだろ、原初の呪いみたいなもんだぞあれ…。」


 そう言って笑いあう二人。だが敵はまだ奥に見える。


「おい、そんななごんでる場合じゃないだろ、あいつだっていつ動くか。」


「いや、大丈夫だろ。ガルムがコア一個ぶっ壊したからまだしばらく動けんはずだぜ。」


 そうか、だからリルウはこちらに飛んできたのか。俺にネットワークのアクセスする術がないのが辛い所だな。だがそれでも心配な視線の元、もう一度始祖龍を見るとまた叫び出した。


「おい本当に大丈夫か?」


「っち、あの叫び中途半端に古代龍語が混じってて、あんま聞きたくないんだがなあ。いくぞ、リルウ!」


「はい、アズは怪我しないでくださいね。」


「うるせえ!」


 そう言って二人はまた龍の姿になって飛び立った。そして後ろから大声が響く。


「猛犬隊コア一つ破壊成功!防衛に移行するとの連絡です!」


 歓声が周りから上がる。エルフと狐人は安堵し、猫人は負けじと気合いが入った様だ。ヤナもフィルも回復した様で、万全ではないようだが明らかに目に意志が宿っている。


 そしてそれらを見て俺はアズダオの苦言を思い出す。


「俺らはそんなに弱くねえぞ。」


 競っているわけではないのだが、これ以上みっともない姿も見せてられないな。俺は格納庫を起動し、機体の部品を組み替えて消耗してない機体を組み立て直した。

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