33 にゃん

 無事ミズタリへと戻り、王宮の庭先でさっそく採った血を飲む事となった。なんやかんや長寿食糧も結構食ってきたな。


「はいどーぞー。」


「これ生じゃないといけないの?」


「一番しぼりってことでいいんじゃない?」


 初冒険が無事終わった事でノリノリなのかガルムは飲む気だ。まあたまにはいいかと思いそのまま二人で一気飲み。まじでただの血。


「うごぇ。」


「うぶ。」


 一緒に飲んだガルムもえずいてる。


「うぎゅ。」


 その様子を見たのかメノウはちょびっと飲むと口を離した。うーむ、渋い顔してコップを見つめるメノウを見ると、一気飲みがある意味正解だったかもしれない。なおフィルは元から長寿なので見てるだけである。


 というか口当たりはただの血なのだが、後味にえぐみが出てきた。コレ毒とかないかと考えて、でもお守りあるかと考えて、アズダオに殴られた時お守り無反応だったことを思い出した。


「そういえば、メノウ。」


「こほっ、なんですか?」


「前アズダオに殴られた時にお守り反応しなかったんだけど、壊れたりしてないよな?」


 そう言ってお守りを渡す。コップを置いてそれを受け取ったメノウはお守りを触り、頭をひねる。


「問題ありませんね。」


「そうか。なんか一撃で骨までイったんだよ。」


「どんな状況でした?」


 このとき、既にメノウの目つきがすわっていた。


「え?いや、まあ特になんというか。」


 残る二人も俺の様子を見ている。


「ちなみにですが、あなたが悪意を持っていたり、操られていたり、浮気とか考えていたりする場合はこのお守り効果でませんからね。」


「え。」


「無敵にしてしまうと皆があなたを止められなくなってしまいますし、あんまり女性に手を出しますと関係がこじれてしまいますので。」


「うーん、でもほら、既に結構、みんないっぱいいるじゃない。」


「皆はミズタリに利益がある方ですし、その様な女性を選定しておりますので。あまりみだりに増やすのはダメです。」


 そうメノウに言い切られた後、横を見るとフィルとガルムがジト目で俺を見ていた。一応その後少し会話があったのだが、二割ぐらい微妙な空気が漂っていた。


 そして皆と別れた後に、久しぶりに上からヤナが降ってきた。


「うお。」


「旦那、猫の王から依頼がきたっすよ。」


 そしてその顔はいつものヤナらしくなく、真剣であった。



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 翌日、ちょっと疲れが残るも会議室へ。だが中にはヤナとテトだけだ。


「すいません旦那。まだお疲れみたいっすね。」


「ああ、まあ話だけならな。んでなんでまた、なんというか。」


 ちょっと二人がピリピリしている。


「ああ、うちも話聞いてよ、あの親父またふざけた事言ってるらしいじゃねえか。」


「はあ。」


「んでその話が、ニャルグの魔境を破壊しろって話なんすよ。しかも、旦那一人で。」


「はあ?」


 話が読めないがそういう依頼が来たらしい。


「えーっと、俺一人じゃないといけないの?」


「そうっす。だけど問題はうちに話来た事っすね。緊急、かつかなり重要度が高い依頼じゃないとうちに来ないという取り決めなんすけど、その上でこの依頼なんすよ。」


「あんのクソ親父何考えてやがる。なんでも中級クラスだから問題ないって話なんだが、そんなもん自国で処理できるはずだ。試しているのか、罠なのか。いずれにせよきなくせえ話だ。」


 テトは尻尾を横の椅子にぺちぺち当ててる。この前ちょっと仲良くなり始めていた為にまたこじれるのは残念であるが。


「だが彼も馬鹿じゃない。なんか理由があるんじゃないか?」


「ああ?」


「恐らくそうだと思うっす。そうじゃなきゃ、わざわざうち通したりしませんから。」


 テトはともかく、ヤナはなんかを感づいているようだ。だがそれが何なのかは解っていないようでもある。しかしそれ以前に。


「と言っても俺そもそも魔力ないから壊せなくない?あ、そうか、ニャルグの人達は気力側だからダンジョンとか壊せないからって話?」


「いや、壊せる。手間だがな。バキバキにコア砕いた後に、そのマナや魔力を取り込んで気力に換えれば失くす事が出来るんだ。時間かかるし、確実じゃないけどな。それにダンジョンなら入れる人数が限られてるから少人数でそれをこなせる奴は限られるけど、魔境なら結構な頭数送れるはずだ。そもそも俺が所属していた部隊の訓練でダンジョンにもぐった事もあるのに、なぜそれをやんねぇんだあの親父。」


「ふーむ。いやでも待って、だからって俺がコア壊せないの変わらないんだけど。」


「うちもそう思ったんすけど、ザルカが旦那でも壊せる道具を持っているって渡してくれたんすよ。」


 そう言ってヤナは箱を差し出した。その箱はちょっと見覚えがある。これ多分、ザルカと二人で荷物とり行った時のやつだ。


 中を開けるとなんか黄色い半透明の、綺麗な琥珀で出来た様な釘が一本だけ入っていた。その釘の周りには緩衝材なのかビロードのような物が敷かれており、道具って言うよりちょっとした宝石である。


「はー、なんかすごい感じねコレ。」


「なんで一応できるにはできるっす。どうするっすか。断る事もできるっすよ。コレ依頼なんで。」


「ふーむ。」


 ちょっと悩む。が、友好国としてなるべく対処はしたいものだ。


「いいや、受けよう。ただ一度やる前に話はしたいな。」


「チッ。ったくしょうがねえな。」


「わかったっす。一応念のために裏も洗っとくっすけど、王のあの表情、結構追い詰められた感じだったんでたぶん理由はあると思うっすよ。」


 そういって皆で日程調整をする。そしてその話をしている間に、テトもなんかおかしい事に気が付いたのかちょっと冷静になっていた。



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 数日後にテトと共に猫の国ニャルグへ向かう。ヤナは調査を兼ねて先行して既に入っている。


 我々は今回ポータルで来た為に楽なのだが、何が出てくるかわからない緊張を感じている今は、寧ろ山越えのルートの方がいい運動になって、緊張ほぐれて良かったかもと考えてしまった。


「気を付けてね。」


「はい、それでは。」


「いってくるぜー。」


 テトの母、ナチゴヤさんの見送りの元闘技場へ向かう。そして町中を歩き進んでいるといつの間にかヤナが合流していた。


「どうもー。」


「うお、おう。」


「どうだったよ。」


「調べたんすけどその魔境、なんか特殊なやつ見たいっす。」


 ヤナは色々と調べてくれたのだが、その場所は非公開となっており場所は突き止められなかったそうだ。


 だがこの国の戦士を結構送り込んだようなのだが、いずれも自信無さ気に戻ってくると聞きこみで確認。


 そしてそこに向かった者達にもヤナが確認を行ったのだが、その内容を皆話したがらなかったとか。


「リスク考えるなら無理にでも聞き出すべきなんすけど、悪くもない同朋相手にそれやるのは忍びなくって。」


「ったく、あいつら最近たるんでるんじゃねえのか。」


 そんな会話をしながらまた闘技場へ。お久しぶりの門番なのだが、二人とも元気ない。一応我々を見て軽い会釈の後に通るも無言。


「うーん、例の魔境いった人とおんなじ反応っすねえ。」


 一応門番二人はパッと見屈強な体付きであり、彼らがあんな状態になるという現実を見て、ちょっと安請け合いだったかなと後悔し始めた。


 続く階段を上り切り部屋へと入る。猫の国の王、テトの親父さんのレオンベルグは相変わらず闘技場の方を向いていたが、部屋に入ると同時に背を向けながらゆっくりと立ち上がった。


「お久しぶりです。」


「すまない、助かるぞ。依頼を受けてくれて。」


「いえいえ。」


 久しぶりのテトの親父さんだが、最初に比べて大分柔和だ。けど、少し元気が無いかもしれない。


「おい、一応うちも行くからな。」


 そして依頼が気に入らないのかテトが切れ気味で言う。


「駄目だ。ミズタリの王にまかせろ。」


「なんでだよ!」


「…深くは言えん。」


 よく見ると親父さんも尻尾がねている。気丈に振る舞っているがやはり元気は無いようだ。


「すいません王様。我々も同行します。そもそも魔境で単独行動はあまり良いやり方ではありませんので。」


 いつもと違って敬語でヤナが言う。そして横で頷くテト。親父さんは険しい顔をした後にため息をつく。


「…分かった。頼むぞ。」


 そう言った彼の声と目線は明らかに俺に向けてだった。その後にダンジョンの詳細を聞き、恐らくトラップは無いという情報ももらい、闘技場を後にする。


「ったく、なんだってんだ。話聞く限りかなり簡単な魔境だぞ。」


「それでもなんかあるんすよ。でも大丈夫っす、うちらもいるんで。」


「ああ、すまんが頼りにしてるよ。」


 そして、やはり親父さんが言っていた事は間違っていなかったのだ。



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「にゃあ、うにう。ぐるにゃあ!」


「あー、はいはい、よしよしよし。」


「にゃうう!」


「にい。」


「あー、もう大丈夫だって、ほらほら、こっち来て。」


「にゃ…。」


 俺達は三人で魔境に入った。最初は違和感だけだったようだが、十五分ぐらいたったころか、


「ほーれテトちゃんヤナちゃんよーしよしよし。」


「にゃううう。」


 二人が完全に猫化した。


「にい…。」


「あーもう、どーしたのヤナちゃん。」


 性格はテトがべったり、ヤナは消極的というか、テトに遠慮気味な感じである。


「にゃ!」


「あ!こら!」


 テトは獲物を見つけたらしく、飛び出していった。すると今度はヤナが喉を鳴らしながら寄ってくる。


「あー、はいはいよーしよしよし。」


「ぐるるる…。」


 正直、美人二人のネコモードなのだが、あまりにも挙動がガチ猫すぎてエロさとかが無い。しかし俺はもともと猫好きなので、まあこれはコレでと受け入れたのだが。


「あ、テト戻ってきた。」


 テトは口に紫の石を咥えている。たぶん魔物を狩ったのだろう。その魔石をどや顔で俺の前に落とし、頭を擦りつけてくる。


「うお!」


「にあああ。」


 そのパワーが据え置きなので難なく押し転がされる。一応ボディアーマーを着こんでいるが、こちら設定上カーボン製の装甲なので軽いのだ。


 その上冷静に考えるとテトの単純筋力ライオン以上なうえ、気力の爪でも出されたらアーマー上から裂かれる事になる。


 そして二人がこうなってからは進行速度が滅茶苦茶遅くなった。二人ともちゃんと猫なので言う事をしっかり聞かない。


「ほら、行くよ。あー、もうそんな草にじゃれない。」


 テトが高速ねこパンチを魔境の壁際の草に放っている。というか、これまさか門番の二人やテトの親父さんもこうなったのか。


 あの筋骨隆々な男達がこうなったらちょっと絵面がすごいな、まだテトとヤナだから見れるって所あるぞ。


 一応なついているので足を進めると二人はちゃんとついてくるのだが、じゃれたり遊んだり走ったりが毎度挟まるのでその速度はあまりにも遅い。気が付くと日が結構上がっている。


「小さい魔境だから早く終わるって話だったが、これもう正午だな。」


 進んだ先のエリアにたまたま良い大きさの岩があったので座り一息つく。戦闘は無いが疲れてしまったのだ。また魔境の空は大体靄か霧で覆われているのだが、ここのエリアだけ晴れていた。


 なおこの魔境、マルチプルで強襲しようかとも考えたのだが、そうすると魔境がコアごとぶっ壊れて結局しばらく後にコアごと再生するから、破壊となると普通に入るしかないらしい。


「うん?」


 一息ついても二人が静かだ。見てみると二人とも日向でお昼寝していた。あの時親父さんが明らかに俺に向けて頼んだぞと言ったが、今確かにその通りであった。


「ええ…。」


 テトが下で、ちょっと寄りかかるようにヤナもねている。微笑ましいのだが、微笑んでいる場合ではないので冷静になる。何故なら時間制限があるからだ。ダンジョンは昼夜関係ないのだが、魔境は夜になると黒マナが活性化して危険度があがるらしい。


 そして改めて考えを巡らすと、何故俺に攻略の依頼をかけたのかが解ってきた。恐らくここには猫人をダメにする、多分スーパーマタタビ的な何かがあるのだろう。


 そしてそれが他国や、この国の奴隷か何かに持ち出されると、それによってこの国が滅ぼされかねないからではないだろうか。


 その為に自分の娘の旦那にならばと依頼をかけたと言った所か。結構信頼されているという事でもあるのだろうが。


「んお?」


 しばらくすると無言で二人がこちらに来て、二人とも俺の膝に寄りかかる様に眠り直した。くそ、自由過ぎる。そしてそのしばらく後にフィルの魔物レーダーに反応があった。


「何!」


直ぐに立ち上がりたいが二人が寝てて無理だった。そして居たのは、半泣きで剣を構えているコボルトだった。


「コボルトか、なら。」


 俺は座ったまま銃を展開し、コボルトに向ける。すると足元でうにゃうにゃ言いながらテトが寝返りをしたので落ちないように片手で支える。


 そこで俺はある考えが浮かぶ。俺猫愛でながら犬殺すみたいになってないかと。


「んぐ。」


 いや、相手魔物だししょうがないと思い直してコボルトを見ると。明らかに表情と構えに脅えが見える。


 というか、魔物ってただの敵と思っていたけど、あの怯えた感じからして最低でも犬ぐらいの知能あるんじゃないのか。


「んぐああああ。」


 二人を起こさないように銃にサイレンサーを転送し、コボルト、の足元に向かって銃を連射する。爆ぜる地面におびえたコボルトは一目散に逃げていった。


「くそ。」


 魔物にまで同情してどうするといった所であるが、考えてしまった今、俺にはできなかった。その後に魔物の反応は無く、三十分ほどして二人は目覚めた。



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「はあ、はあ。コイツか…。」


「にああああ!」


 遂に魔境の最奥にたどり着いた。奥には三メートルぐらいの赤い立方体みたいななんかがゆっくりくるくる回っている。恐らくあれがコアなのだろう、初めて見た。


お昼寝後の二人は落ち着いたのか、魔物を狩りながらもそこそこスムーズに進み、日暮れ前にはたどりつけた。


 なお恐らく移動距離は四キロメートルぐらいである。念のため色々警戒しても二時間あれば終わっただろう。


「にう。」


 ヤナを撫でながら辺りを見るもコア以外見当たらない。この魔境は恐らく初級クラスのものなのだろう。


 本当にトラップなどは無く魔物もコボルトのみ。それすら先にテトが狩りつくして見たのは休憩中の時の一体のみだ。事前情報の中級という話も念のため高く見積もったといった感じだった。


 その為にやたらと構造が単純で迷う事も恐らくなかっただろうが、その上で何故かうちの猫二人の進む方向はコアに直行のルートだった。


「よーしよし、良く見つけたねヤナちゃん。」


「ぐるるるる…。」


 なんというか、二人とも猫になっても目的自体は覚えているのだろう。


ガサッ


 その物音の後、無音で二人が構えた。目線の先には大きなコボルト、恐らくあれがボスとかその辺りのだろう。となるとコボルトリーダーとかそんな感じか。


「ガウッ」


 コボルトリーダーは小さく吠えると手に持つ大剣を片手でこちらに向けた。大きさは恐らく二メートルか。俺は銃を構える。そしてヘルメットを展開しようとした瞬間だった。


「キャウン!」


 後ろのコアから、チビコボルトが短刀もって飛び出してこちらに吠えてきた。


「キャウンキャウンギャウ!」


 するとそのチビコボルトを普通サイズのコボルトが抑え込んだ。


「ガウッ!」


 そしてその二匹相手にコボルトリーダーが吠えて一喝した後、また大剣を構え直した。


「え、ちょっと、ちょっとまって。」


 ねえ、なんかちょっとこれ、俺が住処を襲う侵略者みたいになってない?んであれコボルト親子で、お父さんが時間稼ぐから逃げろみたいになってない?だってあのチビコボルトと、それを抑えてるコボルトも涙目だもん。


「シャアアアア!」


「フー!」


「まってまって、ちょっとまって。」


 やべえうちの猫組も臨戦態勢だ。二人を抑えると言う事を聞いてくれた。ちょっとづつ人間的な判断ができるようになってるっぽい。


「ちょっと、そこの君さ、話できない?」


 俺は構えていた銃を収納し、両手を挙げてみる。するとコボルトリーダーは切っ先を降ろした。


「すまん言葉解る?」


 といっても交渉の術などあるのだろうか。一応そう語り掛けてみると、まさかの頷きが返ってきた。


「え!まじ?じゃあ喋れる?」


「ガウ。」


 今度は首を振った。まさかの会話が通じるパターンだ。喋れないけど。


「あー、ちょっと話そう。」


 試しにその場で座ってみると、


「ガウ。」


コボルトリーダーも剣を置き、前に座った。まじかーと思いつつも、やべえどう説得するかと頭をひねる事となった。



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 その後にまさかの二種族間会議開始である。魔物ってただの敵か何かだと思っていたのに、そんな事は無く割と知能があった。それにちょっと関心するもそんな暇も無く。


「後ろのコア壊したいんだけど。」


「ガウ!」


 そう、目的はコア破壊。要は彼らの家をぶっ潰しに来た身だ。当然意見は反対である。


「うむむむむ。」


「ガウ…。」


 だがここで真剣に悩んだのが功をそうしたのか、なんか理由があると受け取ってくれたようだ。ダンジョン攻略のつもりで来たのだが、何か難民問題に直面した状況となってしまった。


「うーむ、すまない。やはりどうしてもここのコアを壊させてくれ。何よりここには俺の横にいるような人間が何人か来て暴れたはずだ。そしてここの魔境が在り続ける限りまた別の人が来てしまうんだ。それも話が出来ない状態で。」


「ガウウウ…。」


 そしてその現状は向こうも理解しているようだった。


「ちなみに他に仲間は居ないのか?」


 そうコボルトリーダーに問うと無言で首を振った。テト、お前殺しきったのか。となるとこの家族が最後の生き残りなのだろう。


「すまない、こちらも目的を完遂しなければならない。それに、君達にとってもここは危険だろう。もし話を聞いてくれるのであれば、君達の住処について協力させてくれ。」


 そう言って俺はテトをあやしていた木の枝で簡易の地図を地面に書く。おおよその魔境の場所と、猫の国とミズタリを、へたくそながら描く。


 マルチプルのマッピング機能を使えば詳細な地形図を三次元ホログラフで出せるのだが、あいにく猫の国の外周の森は行ったことがない為にデータが無く、出しても虫食い状態なのだ。


「ここが今の場所。そこからここに行ってくれ。町中を通ると人が多く危険だから、ここの森に沿って進むんだ。その先にミズタリという我々の国がある。そこで身柄を預からせてくれ。一応念のために俺の服を渡しておく。これで友好の証となればいいのだが、なるべく見つからないようにしてくれ。」


 そう言って俺は格納庫から着替えの服を取り出して渡す。とはいえこれ、奪った物と判断されるかもなあ。だがその意図はちゃんと通じたようでコボルトリーダーは頷くが、彼は長い爪で俺が書いたミズタリに首を振りながらバツ印を書き、国境の部分で丸を書いた。


「なんだ、そこがいいのか?ふーむ、理由がわからんが解った。一応ここを破壊した後に俺もそこに向かう。もう一度会わせてくれ。」


 俺はそう言うと、コボルトリーダーは頷いてくれた。何となしだが、手を差し出すと彼は手を取ってくれた。


「すまない、それじゃあ壊すぞ。一応魔境が崩れると内部の魔物が一掃されると聞いた。だからここから出てくれ。一応、周辺に見張りは居ないはずだ。」


 そう言うと彼とその家族の二人は俺に背を向けて、我々が来た道を進んでいった。


「ううーむ。」


 これは、安請け合いしたか。でもあれだけの知能がある者を殺すのは、知ってしまった以上しのびない。


 これで無事国境の部分にあの家族が着かないのであればある意味楽な話なのだが、それはそれで彼らが死んだ事に心を痛めるだろう。


「ぐおおお。」


 不意の罪悪感がのしかかる。だがそれ以上にこのダンジョンを壊さずに、それが原因で猫の国が滅んだらそれも俺の責任だ、一生悔いる事だろう。


 悩んだ上で一息つき、俺は恐らく彼らは抜けたとして格納庫からザルカの釘を取り出す。


「よし、こいつを打ち込めば。」


 俺は同時に格納庫から生前のマルチツールを取り出し、それについているハンマーを構える。


「試しに一発。」


 位置決めとして軽く叩いてみると景気よくスコッと入り、ちょっとはみ出た釘の頭が割れる。


「あっ。」


 そしてその割れた釘がシャリシャリと砕けて、それが伝わるようにシャリシャリとコアが砕けた。あらー、と半ば他人事のように見ていると地響きが始まる。


「うお!やべえこれ崩壊はじまっちゃったじゃん!」


 振り返ると猫二人はうにゃうにゃ言ってゴロゴロしていた。なんでこの後に及んで、とも思ったが地震でパニックになって走り回ったりでもしたら逆に大変だ。


「えっと、フィルに…。」


 ポタポタ石を振って連絡するも反応なし。まずい、先に開いておく方が良かったか。でもここ屋外だし天井落ちてくるとかはなさそう、


ドガッ!


「うお!」


 遠くにあった盛り土みたいなのが爆ぜて土砂がこちらに飛び、そこの地面が崩落した。ああそう、下に崩れるのね。


「えっと、確か!」


 緊急避難用ポタ石!俺は腰についたグレネードを変更し、そいつを出す。コイツは魔力充填済みのやつで、地面に叩きつけると爆ぜてポータルが開く!転送先は選べなく、最寄りのポータルにつながるだけだが。


「南無三!」


 地面に叩きつけると設計通りにポータルが開く。コイツは充填された魔力分だけポータルが発生する。なので時間が経ったら閉まる!急いで入ろうとする前に、改めて二人を見ると、うにゃうにゃゴロゴロしてる。


「くそ!運ぶぞ!って重!」


「シャー!」


 近くに居たヤナを持ち上げるとぐったり体預けている上に、そもそも筋肉質なので見た目以上に重い。というか重いの言葉に対して怒るくせに動く様子は無い。もしかすると動けないのだろうか。


 ポータル先は案の定テトの実家だった。ヤナを放り込み、急いで戻ってテトを拾う。


「んぐ、やっぱ重い!」


「カーッ!」


 一応ボディアーマーの補助があるので持ち上がるのだが、体が伸びきってしまって運びにくい。


 怒るテトを運び終えれて振り返ると、まだポータルは開いていた。爆ぜた土砂が振り込んできたので閉めたいのだが、これ任意で閉めれない。ワタワタしているといつもの変な音をたててポータルが閉じた。


「何?なんなの?」


 部屋の扉からナチゴヤさんが入ってきた。


「ああ、すいません。ちょっと緊急で。」


「あらまあこんな汚して。こらテト、何ゴロゴロしてるの!」


「ぐるるるにゃあ!」


 テトはナチゴヤさんの声にご機嫌でお返事した。そしてその反応を見た彼女は。


「うわ。」


 とても親がしていい反応ではなかった。


「にいにい。」


 ヤナも落ち着いたのか鳴いている。そこにもドン引きしていた。


「ああ、すいません。どうも魔境の影響でこうなってしまうようで。」


「そ、そうなのね。」


 その後まだ土汚れが残る二人を寝かしつけ、部屋の掃除をナチゴヤさんと二人でする。曰く、あのにゃんにゃん状態は猫族の赤ちゃんがあんな感じなんだそうだ。


 そうか、あれ赤ちゃんプレイの類なのか…。ちょっと納得しながら、掃除が終わった後に俺もすぐ寝てしまった。



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「んあ…。」


 意外と疲れたのか、正午手前まで寝てしまった。ベッドを下りて、テトの親父さんの部屋から出る。空き部屋で滅多に来ないからと言う事で使わせてもらった。


「あら、おはよう。」


「おはようございます。」


 何というか、この家の穏やかさは相変わらず生前の実家感がある。二人はまだ起きていないようなので、二人が寝ているテトの部屋に入る。皆しないけど一応ノック。


「入るぞ。」


 部屋に入ると布団から起き上がって、二人ともぼーっとしていた。その虚ろな様子から、もしかするとまだ昨日の状態なのかもしれない。


「ありゃー、テトちゃんヤナちゃんどうしたの。」


 魔境内と同じように二人に話しかけると、ビクッ!っと体を跳ねさせた後、


「うわあああああああ!やめろおおお!」


「んああ、ひいい。」


 騒いだり泣き始めたりした。あー、これ酔ってた事忘れるってもんではなく、しっかり覚えているようだな。


 だが俺も癖になっていたのか昨日のようによしよししようとすると、テトにぶん殴られた。


 そんな寝起きのひと悶着の後、皆でまた闘技場に報告しに行く。そしてその時見た門番二人の様子と、うちの猫二人の様子はとっても同じだった。


 となると、恐らくこの国の戦闘員と王様は、皆職場仲間と一緒に赤ちゃんプレイをしてしまったという事なのかもしれん。

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