31 龍卵

 ミズタリはダンジョンを処理出来たとはいえ、他の国では今後どうなるのか、そもそも何個生えたのか不明の状態である。


 ある意味で時代が変わったその時があの日と言った所なのだろうか。ダンジョンの有無と運用次第で国力が変わり、コントロールできなければ国にダメージが出る為に、せっかく安定した国交も変わってくるかもしれない。


 せっかく安定した矢先に情報収集等で会議が重なる中、部屋に戻ると同時にテトが訪ねてきた。


「旦那、これ!」


 そう言って彼女は箱を渡してそのまま走り去った。なんなんだろうなと思うも、箱の様子からどうもプレゼントの様だ。部屋でゆっくりとその箱を開けると。


「うっ。」


 ブーメランパンツが入っていた。しかも生地がなんか見た事ある。テトが親子で作っていた物これなのか。俺短パン方式の方がいいんだけどな。


「ううーん。」


 とはいえ善意かつ頑張ってテトが作った物だ。あまりないがしろにしたくない。まあ試しにちょっと履いてみる。


「うおっ。」


 すんげえ履き心地良い。ブリーフとトランクスとスパッツのいいとこどりだ。まるで誂えたように、いや本当に誂えたのか。


 箱の中には手紙も同梱してあった。曰く、脱臭、汚れの浄化などの基本機能+防護のルーンもあるので戦闘でも安心だとか。誇張無く勝負パンツってことか。


「おい入るぞー。」


「失礼します。」


「あっ。」


 そしてノックも無しに入ってくる龍二人。一瞬ぴくっと止まったが、そのまま話を続ける。


「テトに続いてうちらも里にもどらんけりゃいけなくなった。一緒に行くぞ。」


「お、お願いします。」


 リルウの顔は赤く、アズダオは臆さぬ様子であった。だが二人の視線は同一でいつもよりちょっと下だった。



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「いやー、何やかんや話先延ばししていたが、逃げきれなくなっちまってわりいなあ。」


「テトさんの件からも思い出して、戻らねばと思っていましたので。」


 今回は龍となったアズダオの背に乗り移動する。こうやって乗るのも久しぶりだな。


「ちなみにどんな所なんだ?」


「火山の麓ですね。下には森が広がっています。まあ、変わってなければですが。」


「変わってねえよあの里は。相変わらずだ。はあ。」


 龍のままため息をつくアズダオ。相談したその日からも乗り気でない事は見えていたが、それは今も変わらずだった。


「なんだ、嫌なのか?」


「そりゃあ今俺女になっちまったからなぁ。負けて帰ってきたってのはかっこが付かねぇんだよなあ…。」


 あー、そうか、それは確かに嫌だなあ。


「でもそんな、無理に行く必要もないだろう。」


「いや、俺自身も用がある上に、これ以上無視したら多分究生龍が大挙してミズタリに来る。」


 国家の危機じゃねえかふざけんな。


「恐らく戦力的に撃退できますけど、被害が結構でてしまいますからね。」


 なまじ戦闘で勝てるから迷うって選択が出てくるのか。



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「ほれ着いたぞ。」


 着いた所は何というか、煙を上げる火山の麓。岩肌が露出してかなり暑い。正直言って長居したい場所ではない。


「ほら、あそこです。ああ、本当に変わってないのですね。」


 リルウの指さす先には安っぽい観光地のようなゲートがあり、上には龍の里と書いてある。ちょっと、ダサいのでは。


「はあぁーー…。」


 そしてアズダオのため息はどんどんでかくなる。よほど嫌なのだろうが、それでも歩みが変わらない所は彼女の強さだろう。


 そして門番すら何もないゲートを越えて進むと、角の生えた女性がこちらを見た。次の瞬間。


「リルウ!何しに戻ってきた!」


 気迫と共に尻尾を翼を生やして構えてきた。俺は焦りリルウを見ると、いつも通りで微笑み続けている。


「あー、すまん。帰ってきたんだ。」


 アズダオがすごい面倒くさそうに口を挟む。するとその人はわかりやすく二度見して、


「あ、アズダオ様!その姿は!リルウ貴様、あれ、お前もメスか?」


 目の前の人はしどろもどろしていると、アズダオはもう一度ため息をつき、


「ちょっと長に会うからさ、また今度な。」


「あ、え、わかりました。」


 そう言ってその人は引き下がった。彼女が離れ、しばらくしてアズダオに話しかける。


「あのひとなんなの?」


「俺の嫁。」


「ええ。」


 思わず声が出る。そして道中でそんなやり取りが続く。毎度リルウには敵意いっぱい、そしてアズダオがたしなめて場を治めると言った形だ。


 しかも話しかけてくる人を毎度聞くと、五割ほどアズダオは嫁と答える。何人いるんだと聞くと大体三百人との事。


「まじか!すごいな!」


「いや、ここまで多いと関係が希薄になってな…。」


 アズ曰く、大体が掟だから嫁にといった感じらしい。そういやアズが男の時に全員に卵は産ませたと言っていたが、三百人か。俺はちょっとアズを尊敬の眼で見るも、彼女はなんか悲しそうだった。


「とりあえず俺の家で少し休もうぜ。」


 そういって土の壁で出来た、半球の家に入っていく。なんというか、結構貧相である。意外と龍って生活に拘らないのだろうか。


「はあ、まったくここは相変わらずですねえ。」


「ミズタリがもう恋しいぜ。」


 そう言って龍二人は土で出来たベンチみたいな椅子に座る。というか室内の床も普通に土だ。


「なんか随分と質素だけど、そういう文化なのか?」


「いや、普通に文化が無いだけだ。究生龍と名乗って、生きる事を究めると名乗ってるのに、強さばっかで生活水準に無頓着でなあ。」


「本当に里のこの点だけは擁護できませんよね。」


 そのまま話し込むと究生龍の生態を知る事が出来た。曰く、究生龍は一般的な竜、ドラゴンが進化した者らしい。二人は進化後の親から生まれた二代目で、その場合は最初から究生龍だそうだ。


「竜が出世すると究生龍になるんだよ。んで俺はよくある色竜上がりだ。」


「まあ、最大派閥というか、一番一般的な形ですよね。」


 そんな出世魚じゃないんだから。


「だがリルウはかなりの希少種、マナドラゴンの究生龍だ。かなりの強さ故に筆頭候補だったのに男になりたくないと逃げだしやがったが。」


「でも筆頭になれば男になる上に、この里常駐になっちゃうじゃないですか。」


「昔の俺ならくだらない事をと言ったけど、今じゃ笑えない話なんだよなあ…。」


 そんな流れで昔話も交えて聞くと、究生龍は結構特殊であり、卵から生まれた時は男女比半々らしいのだが、里の中などで戦い、負けたという実感を得てしまうと女になり、勝ち続けると男になるとの事。


 そしてアズダオはいわば究生龍の中では一般人のような立ち位置であったが、修行によって筆頭となる。


 しかしやはり強さではリルウの名が挙がるのだが、男になるのを避ける為にリルウは里の外へ出て行った為、アズダオは名実最強を求めリルウを追ったそうだ。


 しかし里としてはリルウ抜きでアズダオで良かったそうだが、アズダオの意見も最もであると言う事で、何かあった時の為に卵を産ませた後旅立ったとの事。そして俺と戦ったという流れであった。


「なんで嫁にこの姿さらすのがなー。ちょっとなー。」


 そう言うアズダオも最初の時よりは表情が明るい。まあ表立って非難される事も無く、信頼は変わらずで人望は厚い事から少し安心したのだろう。


「アズ様!」


 なんて話をしているといきなり家のドアが開け放たれる。そしてそこには解りやすいゴスロリを着た黒い角を生やした人が立っていた。


「誰ですか?」


「あー、そうか。そうだよな…。」


 女性が辺りを見回して、アズダオを見ると早歩きで向かっていく。


「ああ、アズ様。」


「あー、久しぶりだなフォシル。」


「こんなすぐ調子に乗って鼻っ柱おられそうなメスガキの姿に…。」


「お前その同性に対して辛辣なのやめろって言ったよな。」


 俺はその適格な形容に鼻息を噴き出すと、アズダオに滅茶苦茶睨まれた。


「あれ、アズ様なんですかこの純人は。魔力が無いすごいヘルシーな人ですね。」


 ヘルシーな人ってなんだ。


「でも女性になったのなら私の作った人間を食べましょう!」


「やだよ、お前のやつ腐ってんじゃん…。」


「腐ってません!発酵です!」


 そのやり取りですげえ嫌そうな顔をするアズダオ。まって、ヘルシーな人ってまさか俺食糧扱いか。そして作った人ってお前、そんな人を納豆みたいに。


「まあ確かに投げ込まれてくる罪人は黒マナ多いですけど、フォシルがやると白マナと半々になって美容にいいんですよね。」


 ねえこれ人喰う話してない?


「ま、まあちょっとこれから上と話するからさ、また後でな。」


「うう、わかりました。」


 むくれながらもあっさり引き下がる女性。


「あの人だれなん。」


「俺の嫁の、ガチ勢。」


「へえー。」


 嫁が三百人もいるといっぱいいるから関係が希薄になるらしいが、その中でもやはり本気で好きだという者も出てくるとか。


「ちなみに彼女は何ドラゴンなの。」


「ドラゴンネクロマンサーです。」


「え、ドラ?」


「ドラゴンネクロマンサー。あいつ滅茶苦茶特殊でな、親が魔物のドラゴンゾンビで、どうも腹に卵を抱えた状態でゾンビ化したらしくてそれがそのまま孵ったんだと。」


 はあー、そんなのあんの。というか前例がないらしくそれ故にその種は彼女一人らしい。


「そんな生まれからあいつ周りから浮いてて、普通に接してたらこうなった。」


 へぇー。というかこっちでゴスロリみたいな凝った服初めて見たし、しかもその上でわかるぐらい色々デカかったな。ちょっと病んでる感も今までに無い。さすが嫁三百、色々居る


「おら。」


バギョ!


「おご!」


 アズダオから何か一閃が走り、俺は壁に吹き飛ぶ。脇を触ると明確に変形しており、骨などしっかり砕けてる。


「え、アズ!何やってるんですか!」


 リルウが急いで駆け寄って回復してくれて元に戻る。息を落ち着かせると同時に喉に残った血を吐き出す。


「お前、なんだよ!」


 いきなりの致死性の攻撃に憤りアズダオを見るとまだ目がマジだ。ゆっくりと歩み、目の前でしゃがむと、


「嫁と、旦那が、俺を跨いで浮気とか、許せるわけねえよなあ?」


 めっちゃ切れてるのも納得な理由。なんかすげえ変な三角関係になるのか。というか俺の眼でそこまで見抜いたのか。だがそのアズダオの上からリルウのげんこつが降る。


「それでもやりすぎです!」


「うー、いってぇくそ。」


 アズダオもそれで引いた。そしてリルウが俺を見ると。


「旦那様も気を付けてくださいね。あまり考えずに手を出すのは。」


 ううーん、なんというか俺が悪いみたいになってない?そういえばと、メノウ達のお守りを見ると無傷。まさか故障とかあるのだろうか、帰ったら見てもらおう。



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「ア、アズダオ!駄目だったのか…。」


「あー、すまん長。負けちまった。」


 しばらくして別の龍人が呼びに来て、これまたでっかい半球の家に入り話をする。長と呼ばれる龍人は人のサイズなのだが顔つきとかが龍のままだ。なんかいろいろ居るのか。


「うーむ、しかし、アズダオがメス落ちするとなると、長の交代はまた先になってしまうのか。」


「すまねえなあ。」


 かなり真面目な話の中に入るメス落ちの言葉に反応するも頑張って我慢する。


「しかも、リルウではないのだろう?」


「はい。私は変わらずです。」


「まあ、リルウでは長を任せるわけにもいかぬ故に、そこは助かったといった所か。」


 おう、リルウどんだけ信用されてないんだよ。


「しかし、勝った者というのが、コレか?」


 そう言って龍長は俺を見る。これって。まあ魔力も気力もない事考えると、これがこの世界での本来の扱いなのかもしれんなあ。


「もし、お前を殺したならば。」


 え、いきなり臨戦態勢?


バギギィン!


 だがその瞬間に横に居る二人から炸裂音が鳴る。翼と龍腕を生やし臨戦態勢だ。


「いっとくが、先に俺らが相手だ。」


「里を出る前よりも強くなっておりますので、心してどうぞ。」


 うちの龍二人は声こそ大きくないが、すさまじい威圧感である。それを感じ取り龍長は怯んだ。


「ああ、わかった。」


 やっぱ二人は強いんだなあと思いつつ、鉾を収めた二人を見ると彼女らは少しため息をつき、


「これ以上女増やされるとミズタリでどやされちまうからなあ。」


「そうですね。」


 割と呆れるようにそう言った。理由それなのかあ。



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 その後適当に話をして無事説得完了。うちの龍二人は今まで通りの生活となるらしい。


「おっと、そうだ。卵部屋行こうぜ。」


「卵部屋ですか?まあ、構いませんが。」


「卵部屋?」


「え?ああ、そうか。まあ卵部屋ってのがあるんだよ。そしてそれがここに住む理由なんだ。」


「ふむ?」


 そのままアズダオについて行き、道中で話を聞く。曰く、卵部屋とは産んだ卵を温めておく部屋らしい。


「自分の体では温めないのか?」


「まあそれもいいが、孵るのが長いと二十年とか掛かるからなあ。」


「短くても五年ぐらいは見ませんとね。」


「そんな掛かるのか。」


 そこで龍の卵事情を聞く事になる。というのも卵を温めるのが大変らしく、その為に温度が確保できる部屋を作る為にこんな火山の麓に住んでいるのだとか。


 そしてこの抱卵問題は別種族でも同じだそうで、その為に鳥人も火山近くに住みたいらしい。過去に何度か争ったそうだが、戦力差から鎧袖一触で一応こじれない様に殺さずに追い返しているそうだが、それでも流石に仲が悪いとか。


「んなもんで昔からうちらと鳥族は仲悪いんだよなー。」


「へえー。」


 そういや昔物流の話で馬族か鳥族かで馬に決めたのもここか。争う場所どこだよと思ったら卵が問題だったのか。


「あら、アズダオ様。それではどうぞ。」


「ああ、ちょっと入るぞ。」


 卵部屋には門番がおり、中の様子等も彼女が監視しているそうだ。扉の先は薄暗く、割と質素な部屋に入ると廊下が更に続き、奥に進むとどんどん熱くなっていく。


「こりゃ暑いな。」


「まあ、俺は火龍だからなあ。うっし、ここにするか。」


 そう言うとアズダオは手首のバングルに魔力を込める。これは最近開発した簡易ポタポタ石だ。用途は道具の輸送であり、特定の場所につながっている。


なんでも俺の格納庫見たいに道具を自由に出し入れしたいという要望からできた試作品だ。そしてアズダオはその穴から布が巻かれたでっかい何かを取り出す。


「なんだそれ?」


「ああ、すまん、ちょっと布取るから持っててくれ。」


 言われた通りにそれを受け取る。結構重いがなんだろうか。そしてアズダオはその布を優しく取り外し、なんか変な装置がとりついている卵が出てきた。


「あ、やべえ、これついてると茹っちまうか。取らねえと。」


「なんだ、この変な装置。」


「ああ、最近便利なもんあってよ、これ鳥族が作った魔法具らしくてさ。この装置で抱卵しないでも一定温度で温めてくれるんだ。」


「へえー。」


 そして装置を取り外して改めて見る。でっかい卵である。


「んでなにこれ。」


「俺の卵だ!」


 うん?


「誰との子だよ。」


 思いついた疑問をそのまま口にすると、アズダオの顔が般若に変わる。


「おめえとの子に決まってるだろうがぁ!」


 えっ!


「えっ!」


「この前急に生まれたから急いで装置買いに行って温めてたけど、ここ持ってきたかったんだよ!」


「これ俺の子?」


「しかねえだろ!」


 まって、卵生なの?急に卵が重く感じる。っていうか腹大きくなったの見た事ないぞ、やばい手が震えてきた。


「ああー、馬鹿もういいよ俺に渡せ。」


「お、おう。」


 くそ、急に来た話で父の自覚が、いや、でも卵の時点で微妙に湧かない。そしてそんな情けない姿を見るアズダオがため息交じりに卵を受け取る。


「す、すまん。」


「あー、いや、いいよ。俺も確か初卵の時震えながら抱えたから、男ってそんなもんかと色々思い出しちまった。」


 そう言ってアズダオは卵部屋のくぼみに卵を置く。不意の実子でそわそわしてると、リルウが驚愕している顔をしていた。


「な、なんでアズは卵産んでるんですか!」


「へ、ああ、まあ俺は慣れてるっていうかなあ。」


「わ、私だって、まだなのに。」


 そう言ってリルウは泣き出してしまった。やべえ、なんか昼ドラみたいになってきた。


「ま、まあ大丈夫だって。お前のせいじゃないさ。」


 とりあえず急いでリルウを慰める。


「いや、リルウのせいだぞ。」


 いきなり煽るアズダオ。


「な、お前そんな事!」


「いや、これはそうだろう。」


 なんてことない口で言うアズダオにキレそうになると、アズダオは一瞬変な顔をして何かに気づいたようだ。


「あ、そうか、お前純人だもんな、そうか。そりゃそうだな。」


「どういう意味だ?」


「あー、まさかここでこんな生物の話をする事になるとはな…。」


 ここで異世界保健体育の授業が始まる。曰く、動物と純人はまあ、やるとできるのだが、亜人種はなんと産まないという選択が女性側の意志で出来るらしい。


「詰まる所、俺らはメス側が子供欲しくないなあと思っていると、子供出来ないんだよ。だから無理矢理とかでは出来ないんだ。」


「え、でもリルウ嫌なの?」


「いいえ。」


「んで、ここが面倒な所でな。新婚とかに多いらしいんだが、子供出来ちゃうと生活とか態度が変わっちゃうかもしれないと考えて、無意識に子供出来なくなる事があるんだ。」


「へえー。」


「なんである意味お前すごいんだよ、割とこのままの生活が幸せだから壊したくないってのが大半なんだろうな。ある程度慣れて来ると普通に子供はできるんだが、未だに俺意外全員がその状況になってんだから。」


「ふーむ、あれ、じゃあお前は?」


「俺は、まあ最近結構厳しい戦闘とかもあったから、お互い生きてるうちに一回産んどくかと思ってな。俺は三百個卵産ませてるから子供居る事にそんな抵抗がなかったのが決め手だろうさ。それに卵孵るのずっと先だし、そもそも育てねぇし。」


「え、育てないの?」


 ネグレクト?


「究生龍はここで生まれたらそのまま里で預かって教育とか色々するんだ。それで百五十年くらいしたら外出るんだよ。その時初めて親見る感じだな。若いうちに大人と喧嘩にでもなったら全員メスになっちまうからだと。里の外の野良はそのまま頑張るんだがな。」


「はあー。」


 まさかの生態である。いや、これは文化なのだろうか。


「だから子供見るのはすげえ先だな。きっとうちらの子はマルチプルみたいな機械の鎧を纏った火龍になるぜ!」


 何そのカードゲームいそうな龍。いや、それが実子になるのか。改めて戸惑いつつも感心し、再度リルウを見ると変わらずめそめそ泣いている。リルウは足に寄生虫蠢いても泣かなかったのに、よっぽど先越されたのがショックだったのか。


「それに三百個の卵産ませたのも、この村の先入観からできたもんかもな。リルウみたいに心を入れ込んでたら、その数たぶん無理だぜ。」


 リルウの頭を撫でつつ皆で卵部屋を出る。そして俺は不意に奴隷と言えば純人というザルカの言葉を思い出す。まさか純人の用途は、と考えるも頭を振って考えない事にした。

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