30 迷宮

 デートの後しばらくして、またイタチの国から緊急の連絡が入る。というのもラル達二人が国民に相談していた事がイズナにばれたらしく、国内で血風混じる無双乱舞をしているとの事。


 仕方なしに突っ込んで、対応。そこそこの被害で納まって無事帰る事が出来た。


「きつかった…。」


 その数日後に全体会議を行う。それぞれ近況を話し、状況をまとめる。そして結論が出た。


「状況安定!お疲れさまでした!」


 俺がそうまとめると拍手が舞う。隣国との国交が正常化し、犬の国との戦争後の状況も安定した。まあ、遺恨は残れどそれはおいおいである。少なくとも、占いにて国家間戦争やテロの可能性は無くなった。


「がんばりましたね!」


 そういって会議室にケーキが運ばれる。これはエルフの森で取ってきた木の実を元に作ったチョコレートケーキのような物だ。ザルカがうまく調理してくれて普通にチョコとして食べれる味だ。色が紫な事以外は。


「みんながんばったね~。」


 ケーキが出てくる最中にクラッカーのような音とキラキラするものが散っていた。用意周到だなと思いきや、魔法が使える者が魔法で鳴らしていた。そんな手あるの?


 ザルカがケーキを切り分けて、全員に配った後にザルカもクラッカーを鳴らす。そしてその顔はなぜか困り顔だった。


「すまない、一応この席で一つだけ。」


「何だ?」


「僅かであるのだが、微妙に黒マナの乱れがある。何かとは言えないが、留意しといておくれよ。」


 一応だが気は引き締めておこう、そういう事だと思いその場の皆がそれを聞き流してパーティを開始した。


 そして恐らくその日の夜に、町の真ん中にダンジョンが生えた。



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「深酒ミスった…。」


 翌日の九時ころに自転車を漕いで報告の場所に行く。なんでも朝一で警察が報告を上げてきたのだ。


 俺はその意味を理解してなかったのだろうが、それを聞いた他の嫁は結構まずそうな顔をしていた。二日酔いもあったのだろうけど。


「うわ、本当だ。」


 地面がそのまませり上がって洞窟みたいになっており、警察が入り口をふさいで守りについている。その横でザルカとリノトが話し合っている。


「おはようございます…。」


「おはよう、何じゃおぬし、二日酔いか。」


「はあ、あんたも結構飲んでいたからねえ。回復するかい?」


「お願い…。」


 大体この手の回復はフィルかリルウであるのだが、両方つぶれている為にそのまま出てきた。ザルカの回復を受けると二日酔い当日の夜くらいに回復した。


「ねえ、まだちょっと残ってるんだけど。」


「完全に回復させると二日酔い残りやすくなるから駄目さ。頑張るんだね。」


「はい…。」


 そのまま三人で状況確認。とはいえ異世界まで来て今日日ここまでダンジョン攻略をやらなかった身、ちょっと気になるも話し合う二人はなんか変な感じだ。二人は危険な物を見る目ではなく、何かに迷い検討している感じだ。


「しかし、あたしが昨日あんな事言ったからかねえ、本当に生えるとは。」


「どういう事?」


「昨日黒マナがって話をしたろう?ダンジョンってのは黒マナのあふれ出た場所、マナ間欠泉なのさ。」


「はあ。」


「とはいえ、このミズタリは結界にて黒マナの流入は少ないはずじゃ。その地の真ん中に出るとはちょっと普通ではないぞ。」


「んじゃあ、マルチプルで埋める?」


「いや、それじゃあ意味が無い。別の所に口が生えるだけじゃ。しかも恐らく地の下でつながっておる。地盤的にも弱くなるぞ。」


「はあ。」


「それにすぐに埋めちまうのかい?純人の国ではこのダンジョンで狩りや探索をして、魔石や未知の武器を手に入れて商売してるんだ。うまく使えば財政に一役買うよ?」


「え、そういうもんなの?」


 なんと新事実。というのも純人は産業リソースとしてダンジョンを有効活用しているらしい。


「じゃあ迷うな。ちょっと保留にするか?」


「いやダメじゃ。ほっておくとダンジョンから魔物があふれ出て来る。町中に魔物が出るのも危険じゃし、逃せば野でふえるやもしれん。」


 ええー、めんどくさい。二人が話し合っている際に感じた違和感は、この利点と欠点で迷っていたからか。


「それに有名になれば冒険者も来てそれ向けの産業も回るだろうね、ドワーフの武器も高値で売りつければ外貨獲得ができるさ。」


 うーむむむ、結構難しいな。


「ただ、ミズタリは冒険者ギルドの加入はしておらん。小さい国でそもそも結界にてダンジョンや魔境が発生するのは知る限り初じゃ。いずれにせよ判断が難しい。昨日の今日でさっそくであるが、話し合う必要がありそうじゃ。」


「ふーむ、わかった。俺もちょっと今の状況やダンジョン周りの常識が解っていない。道中教えてくれ。」


「一応今日の今に魔物が外に出る事はないだろうさ。でも潰すなら早めがいいし、運用するならしっかりと準備がいるよ。」


「ああ、わかった。」


 そう会話をし、三人で王宮に戻ろうとすると、一人の男がこちらに駆けてきた。


「王様!」


 警備隊が身構えるが俺が制止する。何でそんな身構えてるのかと俺への扱いに戸惑うも、立場考えるとこれが当然かと思い直して男を見る。行きつけの、ダンジョン横にある団子屋の主人だった。


「ああ、すまん。要件は?」


 ある意味仕事中である為に、彼にいつものように接せれない事が歯がゆい。


「すみません、王様。できれば潰していただけやしませんか。魔物が出るとなると店も客も、怖くて。」


 まあそうだろうな。とはいえ二つ返事ですぐ潰すも早計だ。


「まあ、追って連絡する。もし危険なら王宮にでも避難してくれ。」


「ははー!」


 実際にははー!って言われてちょっと驚くも、国民と利益を平気で天秤にかける自身に気づいて、ちょっと嫌な変化を自覚する。



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 フィルとリルウを何とか復活させて、午後一で全体会議。せっかく一区切りついたと思ったのに。


「おぬし、年長者なんじゃからしっかりせんといかんぞ。」


「…はい。」


 フィルがリノトに会議前にたしなめられている。まあ昨日の時点で結構酒癖悪かったからなあ。


 んで会議を開始。道中説明受けたけど、まとめついでにダンジョンの説明からである。


 とりあえずダンジョンは黒マナの間欠泉であり、中はタイプによるが洞窟だったり石造りだったりと色々あり、なぜか人が歩けるサイズになっているのだそう。年期の入ったダンジョンだと、魔物どころか逆に生物が入って生態系に組み込まれるとか。


 そしてほっとくと中がいっぱいになって魔物が外に出てくるという事なので、潰すかどうするかは早めの判断が必要なのは変わらずである。


「うちはあってもいいと思うけどな。」


「でも姉御、場所が悪いっすよ。流石に町のど真ん中は危ないっす。」


「僕もあの道よく通るからちょっとやだなあ。」


「俺ら龍は暴れるとそのままぶっ壊れる事あるからダンジョンは好きじゃねえなあ。」


「そうですね、私達はどちらでも。もし冒険者をミズタリで受け入れると言う話でしたら良いと思いますが。」


「ふーむ。」


 冒険者ギルドとか久しぶりに聞くなあと思いながらも、冒険者ギルドという物が成立している理由がこのダンジョンである事を改めて理解する。


 そうじゃなきゃあんな薬草集めとか木材伐採でやってけないだろう。産業として機能するレベルで運用が効くという事か。


「運用するならダンジョンレベルの測定とかも必要だし、それに現状ミズタリには一つしかないからあんまり人来ないんじゃないかなあ。」


 話を聞くと、初心者用、中級者用とか色々あるらしく、それらが揃っている方が人が永く留まる為運営しやすいらしい。その点、一つしかないミズタリでは運営してもあまり人が来ないのではないかとの事だ。


 まあ、町中という立地が悪いというか良すぎる場所だし、潰す方向かなあ。ほぼほぼ意思決定が決まりかけている時にメノウが部屋に入ってきた。


「すいません、一応連絡取れる国に確認したのですが、確認したすべての国でいきなり複数箇所ダンジョンが発生しているそうです。恐らく異常に黒マナが活性しています。」


 まじか、一応ザルカとリノトに調査してもらった限りミズタリはこれ一つだけだったのだが、これまさかミズタリは被害少ないって事なのか。


「流石にその数はやっぱりおかしいね。下手すると魔物が各地で溢れ出るよ。」


 その後の話にて結局潰す方向で決まる。ため息と共に考え込むと、これって天変地異でなんか地震の異世界版みたいな感じっぽいなーと思った。



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「むう。」


 俺は団子屋の長椅子に一人腰かける。ちょっと前、四人がダンジョンに入っていった所だ。


「んじゃあいってくるぜ。」


「姉御張り切って壁壊さないでくださいねー。」


「ちょっと緊張するけど、僕も頑張るよ。」


「魔術トラップについてはあたしにまかせな。」


 テト、ヤナ、ガルム、ザルカの四人パーティである。というのも致死性のトラップがあるそうで、俺は危険だからと外されてしまった。


 とはいえ俺も役割はあり、ダンジョンで暴れると中の魔物が逃げ出てくるそうで、その処理を頼まれた。市街地戦で一番被害無く処理できるだろうという点と周辺の安心感を確保する為という点からだ。


 この為にポイントを使用してフレンドリーファイア機能を取得した。これで誤射しても死なないし、弾丸も能力の一部である為に能力をオフにすれば消滅するので安心である。


 だが俺は即死トラップがある場所に皆を行かせたく無いとごねたのだが、どうも測定値からかなり強力なダンジョンらしく、完全素人を入れる訳にはいかないと言われてしまう。


 一応テトが経験者なので彼女が人員の選定をした。トラップ対処と不意打ち警戒でヤナ、回復魔法から魔導による攻防一体が出来るガルム、マジックトラップ対応と黒マナのスペシャリストでザルカである。


 目標はダンジョン内にあるコアらしく、そいつを破壊し、封印すればダンジョンは消えるらしい。なお封印しないと時期に再活性化するらしく、そうやって他国では産業にしているそうだ。なおコアの封印が出来る者は少ないものの、、黒マナの専門家であるザルカが出来るとの事。


 その話が決まった後で各々装備を確認している時、心配で皆を見ているとガルムの直剣が目に入る。そこでどうせだからと王宮に飾ってあった勇者の剣を彼女に渡す。


 というのもこの勇者の剣が何故そう呼ばれるかというと、この刀身の素材が極めて魔力と気力を乗せやすい材質であるからなのだ。


 本来の勇者というのはすべて純人であり、その理由が気力と魔力両方使える者であるからだ。しかし純人の力は弱く、その上どちらかに特化した亜人に戦闘力で劣るのが常である。しかしその中で特異点のように、気力と魔力が両方一流の者が出てきてそれが勇者となるらしいのだ。


 その点からガルムは獣人の作った人工勇者ともいえる。そして両方使えない俺からは最も適してない武器でもあった。


 まあ、有効活用するべきだし、これで安全が確保できれば儲けものだ。ガルムに渡すと彼女の眼はやはり輝き、同時になんか変な音するなと思ったらすごい勢いで尻尾を振っていた。


 その様子から喜んでくれてよかったと思いつつ、横にいたヤナがジト目で見て尻尾をタンタンと壁にたたきつけていたのにも気づいてしまった。


 なお、これを渡す事で勇者の任から降りたりできないかなと言うと、有名過ぎてもう無理ですと横からメノウに言われた。




「しかし外で見張るだけというのは歯がゆいなあ。」


「はい、どうぞ。」


 いきなり話しかけられ、長椅子の横に団子が置かれる。独り言を聞かれたのでしどろもどろで団子屋を見ると、変わらず微笑みながら団子屋の主人が横に座った。


「ありがとうございます、王様。」


「あー、まあ、いつも通りでいいよ。それに流石に町のど真ん中はねえ。」


 そう言って落とさないように団子を取って食べ始める。一応臨戦態勢と言う事でボディアーマーを展開済みだ。フィルが作った魔物用のレーダーに反応は未だ無いが、いつ来るか判らない。その為にアーマーを着ているのだがそのおかげで食べにくい。


「流石に今日はお客さん来ないと思うんで、好きに食ってくだせえ。」


「いや、まあ、予算出るだろうから出すよ。」


 そんな話をしながら団子を食っているとレーダーが震える。


「反応!来るぞ!」


 ヘルメットを展開し、食べてた団子を巻き込みそうになるも銃を構える。そして出てきたのは緑色の小さな人型のやつ。これは!


「ゴブリンだ!」


 団子屋の叫びで確信する。うおおお!ゴブリンだ!アフリカではまだ現役で話が出てくるゴブリンさんや!


 すげえステレオタイプのゴブリンに今更ながら感動しつつ、これまたこん棒を振りかぶってこっちに来たので銃を一発撃つと、しゅぼっと黒い霧と共に消えて紫色のガラス片みたいなのが落ちた。これ魔石か。馬の国で出た魔石に比べるとすげえちっこいな。


「おおお。」


 後ろで団子屋が驚いている。ちょっと調子にのりそうになるも、まだ来るかもしれない。継続して銃を構え続け、レーダーを確認するも反応なし。ヘルメットを収納し銃を降ろす。


「オーケーだ。というか、あぶねえから避難したほうが。」


 今回団子屋の彼は自身の願いを聞き入れてくれたからと、横に居る事を志願してきた。まあ家が心配だろうしと許可したのだが、その後にダンジョンの外に出た魔物を退治してくれと言われたのでそのままになってしまったのだ。


 今の状況を考えると退避させるべきだろう。そう考えながら振り向くと、団子屋はキツネミミを横にしながら魔術師が使いそうな杖を握っていた。


「すいやせん、それでもご一緒させてください。」


 俺は一つため息をつき、その自主性を重んじる事にした。


「んじゃ、次味噌で。」


「へ、あ、はい!」


 俺は団子を食べ直して、空いた皿を団子屋に渡すと、長椅子を持ち上げてダンジョンの入り口に正対するように置いた。



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「ふーむ。」


 あれから数体ゴブリンが出てくるも、総計十にも満たない。それに団子屋に聞くとゴブリンは割と初級ダンジョンで出てくるものらしい。このダンジョンは結構上級と聞いたが違うのだろうか。初級ならば安心できるのだけど。


「しかし詳しいな。」


「昔ちょっと冒険者を齧った事がありまして。」


 話を聞くと反抗期ちょっと後ぐらいで家を飛び出して、純人の国で冒険者をやっていたらしい。一応ミズタリは奴隷禁止という立場から純人の国でも襲われるような事はないらしいが、それでも居づらくって二年くらいで戻ってきたらしい。


「中級手前ぐらいまでは頑張ったんですがねぇ。」


 そう懐かしそうに話す団子屋に集めた魔石を渡して、交換するように味噌団子をもらう。甘辛い味でうまい。キツネ人というか獣人はあまり味濃いの好きじゃないけど、今回俺用に味濃めにつくってもらった。


「おう、やってる?」


 不意に横から町人がやってきた。俺も団子屋も二度見する。


「団子二つたのむよ。」


 そう言って普通に店先の長椅子に座ってきた。


「え、いや、その。」


「まて、お前警察に止められなかったのか。」


「うち近所ですからね、それに王様だけに任せるのも。最悪肉盾にでもなりまさあ。」


 そう言って町人は刀を見せる。団子屋を見直すとため息の後に団子を焼き始めた。


「おい、お前外へ出ろ、守り切れなくなる。」


「いや、王様死んでもらうと困るんだよ、ならばせめてね。」


 そう言って町人は長椅子に深く座り直した。状況的に手間が増えただけであり、ため息を吐きつつも心だけは温かくなった。


 その後も数匹ゴブリンを撃っていると、それに合わせる様に町人がちらほら来てしまう。どうするかなと迷っていると、違うやつが出てきた。犬のような顔、これは。


「コボルトだ!」


 コボルトさんや!本来ゴブリンと同じらしいけど、なんか犬顔が使われてから定着したコボルトさんや!俺は銃を一発撃つとコボルトは唸り倒れ、もう一発撃つとしゅっと煙に消えた。レベル上がってるな。


「「「うおおお。」」」


 また背中から感嘆のリアクションをもらい調子に乗るのを抑える。とはいえ一応出てくるのがレベルアップしているので突入組の皆が少し心配になる。




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 時刻は正午手前ぐらいか。コボルトがちょいちょい出てくるも無事に処理して魔石を来ていた町人に渡す。すると今度はリザードマンが出てきたが、弾丸十発程度で煙に帰した。


「疲れてきちゃったな。」


 団子も全種類の味を食べてしまったし、守るにしても中途半端に集中する必要があり手持無沙汰な上にちょっと疲れてきた。


 交代が欲しいなあと思いつつもそれは日が暮れるまで無しである。しかも皆今回の件でやる事があるそうだ。フィルはエルフの里に出てきたダンジョンの対応をさせてくれと進言してきたし、アズダオはなんか急ぎで空を飛んで行ってしまった。


 アズは微妙に理由を濁した上に見た事無い感じで焦っていた彼女を見て、それはそれでなんかあったのかなあとちょっと心配である。


 そんな事を考えていると団子屋の向かいの干物屋の女主人が魚の干物を持ってきた。ええ、と思いつつも背中に薙刀を背負っている。一悩みした後、団子屋に焼いてもらう。


「お届け物でーす。あ、勇者さまー。」


 焼けた干物に箸をつけるとオシュが来た。後ろには大八車から米俵を降ろして団子屋に渡していた。これが最後なのか他に物が乗ってない。


「どう?おわりそう?」


「いや、わからん。」


 この時に初めてこれいつまで続くのかという疑問が出て少し悩む。突入部隊はマナ転送ができる為に途中で王宮に戻って休憩も可能らしいが、もしかしてこんな見張りが数日続いたりするのだろうか。


「一応疲れたらメノウや警察の人が替わるってー…」


 オシュが言い切る前になんか声が別の方向に向けられる。


「ねえ、なにこれ。」


 今までにない冷たい声でオシュに話しかけられる。ダンジョンに変化があったのかと思いダンジョンを見るもレーダーと共に変化なし。オシュに目を戻すと彼女は俺の自転車を指さしていた。


「え、ああ。それは自転車だよ。それに乗って移動するんだ。」


「どう乗るの。」


「え、いや、後にしてくれ。」


「今見せて。」


 何でと思い彼女を見ると、とんでもねえくらい冷たい目でこちらを見ていた。周りや団子屋もビビってる。それに気おされてアーマーを着たまま乗るとすごい乗りにくい。


「こんな感じ。」


「ふーん。」


 目線に脅えつつもダンジョン付近をちょろちょろ走る。


「そういうのが好きなんだ。」


「え、いや、まあでもこれは思い出の物で大切なやつだから…。」


「へえー!」


 オシュ明らかに切れてる。


「終わったらごはんの時一緒に話そうね。」


「え、あ、はい。」


 そう言ってオシュは大八車を静かに引いて離れて行った。


「あっし、オシュちゃんのあんな顔初めてみましたぜ。」


「王様、しっかり謝っといたほうがいいよ、とりあえず男が謝っときゃ何とかなるから。」


「うん…。」


 余計な仕事が増えてしまった。



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 正午を過ぎて気温が上がってきた。それと比例して町人も追加で増えてきている。物珍しさもあるのかもしれないが、一応皆武装しておりただの野次馬は居ない。佇まいからも皆経験者のようである。意外とフリーの戦力っていたのかこの国。


 しかもミズタリのキツネ人は魔力型の種族なのだが、その割に結構剣士みたいなの居るな。和風魔法使いっぽいのもいるが半々ぐらいだ。


 この国は結界のおかげで安全とはいえ、意外といるもんだ。その点まで考えると改めてミズタリはいい国だなあと思い、彼らを見ていると結構大き目にレーダーが震える。


「お?」


 ちょっと驚くような振動の大きさであるも、今の状況にこなれて来たのか反応が遅れながらも武器を構える。すると体がでか目の、角が生えたリザードマンが出てきた。


「ドラゴニュートだ!」


 こういう時知っている人いると助かるな。叫んだ彼は刀を構えながらこちらに駆ける。加勢が必要な相手なのか。状況を理解し引き金を引く。複数発命中、しかし。


「まだ余裕あるなありゃ。」


 出血というか、出マナはしているがまだ立っている。そして相手は口を開き火を吐いた。それを見て横に転がり、集中強化を起動。火を吐く口内に狙いを定めてマガジンの残りをそこに吐く。


「ゴギャ!」


 効果あり。そのままブーストを吹かし急接近、相手は反応して剣を振りかぶるもその速度はそこまで速くない。


 集中強化で剣閃を見切り避け、炸裂する地面に少し驚きつつアサルトライフルをショットガンに変形させて腹を撃つ。着弾の衝撃で下がった魔物の頭に二発目を叩きこむと照星の先で黒い煙に消えた。


「よし。」


「「「「おおおおー!」」」」


 明らかな歓声を背に照れそうになるも、結構強くなった魔物に気を引き締めて入り口から距離を取る。もしもこれが複数来たら一体の処理に時間がかかる為に被害が出るだろう。入り口に銃を向け、敵影が確認できない為構えながら給弾する。しかし二体目はこなかった。


「ふう。」


「まさかドラゴニュートをこうも容易く片付けるとは。王様、なかなかやりますな。」


「はは、どうも。」


 フォローに入ろうとしてくれた方が感心していた。話を聞くに上級ダンジョンに出てくる魔物らしい。


 その話を聞いてやはり上級ダンジョンなのかと理解して改めて心配になる。気を紛らわすためにもう一回味噌団子を注文し、警戒しつつ入り口を睨むも結局その味噌団子は食い終ってしまった。


「ふう、そろそろ日が落ちそうだが。」


 トワイライトと言われるような微妙な暗さの始まりを感じつつも、あのドラゴニュート以降魔物は出てこない。


 あれで打ち止めかと思いながら、もう少ししたら交代をお願いしようと考えるも、その時王宮連絡用の白石を持ってない事に気が付いた。ここの誰かに呼んできてもらうかな、そう思いながら王宮の方角に顔向けると、長椅子に置いておいた魔物レーダーが六十センチほど跳ね上がった。


「うん?」


 なんだ、間違えて蹴っ飛ばしたか?落ちたレーダーを拾いダンジョンの入り口を見ると、ポンっと音をたてて、濃い紫色のでっかいドラゴンの首がダンジョンの入り口いっぱいに生えた。


「は?」


 ちょっと意味が解らなく、幻影か何かなのかと思っていると、するすると頭が上に伸びて器用に全身を入り口から出した。


「ぶ、ブラックドラゴンだー!」


 明らかな叫びの後、そのブラックドラゴンも威嚇なのか雄たけびをあげる。


「ゴアアアアアア!」


 そのサイズはうちの龍よりちょっと小さいぐらいで手はあるが翼は無い。なんで町の真ん中に竜生えてくるんだよ!そしてそれは腕を振り上げてこちらを薙ごうとしてきた!ヘルメットを急いで展開しながら集中強化!勢いを潰す為に殴るように爪先を白羽取りして止める!


「ぬおおおお!」


 力も強いしサイズ的にも大きい!どうする、マルチプルで撃退?でも町の真ん中で暴れたら家屋が吹き飛ぶ!クソ、そもそも町人もいるし避難させるべきだった!


「いくぞ皆!」


「「「「「うおおおおおおおおおお!」」」」」


 結構でかい怒号が周りから上がる。見物していた皆が抜刀し魔法を撃ち始めた。よく見ると矢も飛んできている、屋根からだ。エルフも遠くから見ていたようだ。


 そうだな、俺一人がすべて背負う必要もないか。


「そんじゃあみんなで畳むぞ!」


「「「「「「応!」」」」」」」


 そう叫んだ後、俺は腕を蹴り上げてショットガンを叩きこんだ。




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 ボシュっと大き目の衝撃の後、ドラゴンは大き目の魔石に変わる。


「勝利だ!」


 俺が腕を上げると歓声が上がる。一応周辺家屋は流石に壊れたものの全壊は無く、死者はゼロであった。戦闘では俺が敵の攻撃を受け止め、町人皆で相手を削って勝利という形になった。そして歓声の中にはエルフも混じってた。他種族間の微妙な距離感もこの一戦で縮んだのかもしれない。


「あー、疲れた。」


 周りを気遣った戦闘は非常にきつかった。結局この時代、下手な家屋は人より価値が出てしまう。それを被害ゼロではないにせよ抑え込めたのは良くやった方だろう。それに相手が魔物の為に死体が残らないのは、ジンウェルの防衛戦後の掃除を思い出すと幸いである。


「あ。」


 ワイワイ皆で話ながらダンジョンの入り口に戻ると、入り口が吹き飛んでいた。ドラゴンが暴れた時に壊れてしまったのだろうか。


「ふむ、マナの様子からも攻略に成功したようですね。」


 やばいと思ったが横に居たエルフが説明してくれた。後ろのキツネ人もなんか魔法陣光らせて確認していたが、その表情から終わった事は確かなようだ。


 念のため、緊急連絡用の白石を取り出す。これは通信力強化品で音声通信はできないが単純な振動だけは確実に送れるという物だ。


 今回肌身離さず持っていたが緊急用の為に使わず、変に震わすと邪魔になるという事で確認にも使えなかった。


 終わったのならばと振ってみると、割とすぐに返答が返る。二回連続の振動が一定間隔で続く。一回は緊急、二回は安全と大きなくくりで決めていた。となると無事終わったという事だろう。それを皆に伝えると、また一段と歓声が上がる。


「それじゃあ、宴でもしますか!」


 町人の中の誰かがそう言うと、やんややんやと皆が食糧を持ち込み始めた。団子屋も干物屋もだが、酒屋の若主人も待ってましたとばかりに酒を持ってきた。


「ほら!王様!乾杯を!」


「え、ああ。それでは。」


 なんか忘れている気もするが、エルフが戸惑いながらも一緒に参加している様子からこういうのも必要かと音頭を取る。


 またも酒を飲む流れとなり、いい感じに酔っていると肩を叩かれた。


「ああ?」


「よう、楽しそうじゃねえか。」


 テト達突入パーティがこちらに来た。その様子から苦労が見えると同時に、なんかちょっと睨んでいるような気もする。


「お前せめてさあ、」


「良かった無事かー!」


 酒の勢いで突入組一人一人に抱き着くと怒った気配は消えたので、そのまま宴に巻き込んだ。よかった、無事にすんで。


「あ、そうさねあんた。あたし達はとりあえずまあいいんだけどね。」


「んえ、何どうしたの、怪我?」


 なんというか、ザルカが微妙な、ちょっと困ったような顔でこちらに話しかけてくる。


「ああ、いや、そうではなくてね、あっちの。」


「へえ?」


 ザルカの指先にゆっくり目を向けていくと。


「ううううー!」


「オシュがすごい勢いで怒っていたので連れてきたけど、何があったんだい?」


 そこで一気に酔いは醒め、公開説教に以降するも宴を緩衝材にして有耶無耶な形で仲直りした。ある意味で周りの町人が一番の味方になったのはここだったかもしれない。

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