29 都会
ニャルグから戻り、しばらく平穏な日々が続いた。そしてそれを裂くような助けを呼ぶ声が王宮の門前に届いた。
「すまない!助けてくれ!」
なんだなんだと顔を出すと王宮の少ない警備隊が声の主にとりついているが、まるでその二人は意を介さない勢いで進んでくる。
ボディアーマーを展開しようとするもその二人の顔に見覚えがある。でも微妙に思い出せない。
「あ、王!」
「すまない、助けてくれ!」
明らかに助けを求めている姿じゃない二人が、警備を引きずりながらずんずん進む。すると後ろからメノウとリノト親子が出てきた。
「あれ、ヴァズリ?」
メノウは覚えていたようで、その名前でようやく思い出す。この二人イタチの二人か。
「すまねぇ、ばあさんが、イズナが病気なんだ!頼む、助けてくれ!」
その声に今度はリノトが反応する。
「わかった、詳しく話を聞かせたもう。」
そう言ってリノトとメノウに二人は連れられる。そして次の日に緊急の全体会議が行われて、リノトとメノウは死んだ目で俺を見ていた。
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「んで議題は何さ。」
「イズナの病気じゃ。」
リノトが死んだ声でまとめる。緊急会議を開くのなら緊急の話だ。なのになんでそんなノリなのか。
「すまねえ、ゲンガンでもみんなに聞いて回ったんだが病だとしか言われなくて。」
それとは対照的に渋い顔をするイタチ二人、ヴァズリとラル。
「とりあえず、あの映像を見せてください。」
こちらは死んだ目で続けるメノウ。するとイタチ二人は映像をホワイトスクリーンに映し出す。最近犬の国から輸入した魔導映写機である。一応フィルも手を加えて改造したとか。
映し出されるイズナ。顔は紅潮しており、両手にはそれぞれ服を持つ。
『な、なあ、どちらの方がわしに似合うと思うかの?』
『い、いや、どっちでもいいんじゃないか。』
ヴァズリの返答が聞こえる。撮っているのはヴァズリなのだろう。
『むう、ではラルにも聞いてみるかの…。』
そして肩を落としたイズナが去っていく様が映されていた。続く映像では恋バナや、イズナの部屋に積まれたエルフの恋愛小説の映像が続く。そして映像ではたびたび、ミズタリの王という言葉があった。
「なにこれ。」
「ばあさんが最近いつもこんな感じで前までの覇気が全然ねえんだ!小突いても笑ってすましちまうんだ!」
丸くなったって事でいいじゃん。
「それをゲンガンの皆に聞いても笑いながら病だと言うだけで、相談はミズタリにした方がいいと言うんだ。だから頼む!」
イタチ二人は真剣そのもの。改めて周りを見ると、いくらかメノウ達の死んだ目が他の者にもうつっていた。
「恋の病じゃ。」
リノトが死んだ声でぼそっと言う。
「はい、恋の病です。」
メノウもその声のまま続いた。
「はー。」
なんじゃそりゃと思うと同時に、急に何やってんだろ俺達感が出る。まあ病気のイズナが居ないんならそれでいいか。
「んでその相手は?」
「旦那様です。」
なぜかメノウが答える。周りを見ると何人かが死んだ目で俺を睨んでいた。増えてる。
「だれなんだよ。」
「お前じゃ!お前がイズナを口説くからじゃ!」
ここでリノトが声を荒げる。え、俺?
「旦那様があそこで口説いたからじゃないですか!」
「え、いや、そもそも友達になりたいから友達になろうって言っただけだぞ!」
「イズナは戦い続きで色恋知らずで老年まで行った傑物じゃ!若い、しかも強国を抑えた英雄にそう言われれば意識するにきまっとろう!」
ええー。
「そもそもなんで声なんてかけたんですか!」
キツネ親子に一気に攻め立てられる。そりゃあ、お前ら親子との関係を相談しようと、と言おうと考えるも、それを言うとこの関係が嫌なのかと二人が悲しい顔をするのではないだろうか。
「んぐ。」
思わず声を出そうとして抑えた事で、非常に言いよどんでしまった声が出る。そして周りの嫁がため息をつく。なんというか、俺が泥かぶる形になってしまった。
「まあ、なってしまったものはしかたないんじゃないかな!」
ここで助け舟が入った。声の主はフィル。周りには死んだ目が多いが、彼女だけはなんか目が輝いていた。
「んで、どうすんの?」
「ああ、とりあえずゲンガンの皆からは一度逢引してみればと言われたんだが。」
そういや映像でもなんかデートスポットの本見てどこがいいとか言ってたな。というかゲンガンの皆に聞いたって事だけど、これゲンガン内で周知の事実になってそうだけど平気?
「いや、その、無理にせんでもいいんじゃない?」
俺がそう言うと死んだ目のいくつかが攻撃的になる。まあここで断ると乙女心をもてあそんだみたいになってしまうけども。
「いや、だがそれも危ない。ばあさんは男に厳しいんだ。半端にくどいた男の腕を切り落とすなんて普通だし、リオウが酒の席でばあさんの尻触った時は股間を桂剥きにされたと聞いた。」
「あそこまで真剣なばあさんに遊びでしたって言ったら、確実に桂剥きコースだぜ、王様。」
え、まさか俺のキ○タマに桂剥きの危機が迫っている状態なの?
「もう、一度いってあげてください、旦那様。」
すげえ嫌そうなメノウ。
「いや、なんか、すまん。」
こういう時男って弱いよね。
「はあああああああああああ、何で姉弟子の恋愛に関わらにゃならんのじゃ…。」
さっきまで暴れていたリノトの尻尾が下向いている。
「そういや年はいくつなんだ?」
「確かそのままなら八十六のはずだ。」
それは、結構リアルな高齢ね。一応前女神さまに聞いて、この世界一年が330日だから生前からするとちょっと大きめに出るけれど。
「ばあさんって言ってもそんなもんか。俺確か百八十九歳だぜ。」
フォローなのかアズダオが言う。え、お前そんな年齢なの?
「あら、アズダオは私より年下なんですか。私は確か二百十一ですよ。」
今度はリルウが続く。なんというか、高齢とかどうでもよくなってきたなこれ。
「ちなみにフィルは?」
「私はなな、」
そう言いかけた瞬間に魔法の矢が頬を掠めた。
「いいから。」
「はい…。」
とんでもねえ殺気が出た一言でその場の全員が黙る。そうか、七から始まるのか…。
「たとえどんな年であっても、恋愛は諦めさせちゃだめだよ!」
そしてその沈黙を破ったのもフィルだ。確かに彼女の年齢を考えるとその言葉は重みも出る。でも相手あなたの旦那、いや、もう複数いるから良いのか?
「と、とりあえず、適当にデートして幻滅させる方向とるか?」
周りのご機嫌取りでそう言ってみる。
「それも手だが、指ぐらいは落ちるかもしれんぞ、王よ。」
答えるヴァズリ。何でだよ、というかデートってより爆弾処理みたいな話じゃねえか。
「はあー、しょうがないっすねえ、協力するっすよ。」
「僕も手伝うよ、はあ、僕が一緒に行きたかったのになあ。」
そう言ってヤナとガルムが手を上げる。
「すまない、ミズタリの皆、ありがとう!」
「すまねえみんな!」
そう言ってイタチ二人が額を机に擦りつける。まあ、この二人も普段文句言いつつなんだろうけど、結局イズナが大切なんだろうなあとほっこりする余裕も無く、かつてなくすっきりしない会議が終わるのであった。
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イタチ二人が国に戻り作戦会議と相手の情報を確認する。するとこのイズナ、かなりの人物だったのだ。
イタチの国、ゲンガンは割とやばい国で世紀末覇者とか出そうな状態であり、強者三名が永く争いつづけてイズナはその一枚下にいた者だそうだ。
イタチ獣人は気力側の獣人で、牙という虎爪族の爪のような独自の物を使う。それは爪とは違い、左右一対の大型の気力の刃を出す物で、貫通力が非常に高い能力だそうだ。
そしてイズナはこの牙が非常に大きいのだが、女性である上に体躯が非常に小さい為、トップ争いに加われなかった。
しかしイズナは牙以外に特殊な点が一点だけあり、気力を使う一族にもかかわらず魔力がごくわずかながらあったそうだ。
だが正直言えば魔力といえる程の量も無い、ただ何か感じる程度の物である。これはイズナの家系に純人が含まれていた為だとか。亜人は基本魔力と気力のどちらかになるのだが、純人が親に居ると稀に出てくるらしい。
そしてイズナはこの小さな魔力の可能性に賭け、願術の修行を行い極めた結果、超高速の占いによる未来予測で先読みをし、それを牙格闘術に取り込んでゲンガンを制覇したとの事だ。
だが犬の国からの人海戦術と銃による個人の強化により、ゲンガンは牙だけで立ち行かなくなる。もっと強い者が沢山いればと接収される奴隷の中に自分の部下を入れて、犬の遺伝子工学技術を盗み、自身の強化複製体を作るも失敗続きで若返り、なんとか二人成功例が出た所でミズタリが制圧したという流れらしい。
「なのでイズナは武人かつ覇者じゃ。それがなんでこんな色ボケに…。」
説明していたリノトが最後にそう付け加えていた。人に歴史ありだなあと思いつつ、作戦会議は続く。
イタチ二人からのリークでデート場所は恐らく犬の国となる模様。というのも結局都会である為にいろいろな物や最新の文化が出ている事で、独裁政権が終わった今は若者憧れの地になり始めているとか。
そして会議中に流れた映像でも犬の国の観光案内とかデートスポットの雑誌が含まれていた為にヤナとガルムが手を上げた流れとなる。
「それじゃあ道具の説明をするね!」
そう言って気合いの入っているフィル。何でそんな気合い入ってるのと聞くと、ちょっと口を濁したが、まあ恋愛という事で気合い入ったらしい。
今回導入するのは小型白石のステルス通信だそうだ。犬の国の魔力使用規制を掻い潜る為に研究していた試作機で、これと同時に魔力使用の映像ドローンまで作りやがった。これらとヤナのバックアップを用いてサポートを行うという。
なお、イズナは割と暗殺もいける口らしいので、ばれたら非常に危険との事。その一言で皆の顔が一瞬曇るも、まあやらねばいけない理由がある以上、気を引き締め直す。
「それじゃあこの作戦で。」
ただ結局恋愛事が女性陣は好きなのか、話が進むにつれて乗り気になっていく。だが話が進むにつれて俺のキ○タマには冷たい気配が何度も通り過ぎるのであった。
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「ああ、すみません、待たせてしまいましたか?」
「いや、今来た所じゃ。」
まさか異世界でこの会話をする事になるとは。約束の時間の十五分前に来たがイズナはもう来てた。顔は真っ赤でこっち見たり目を反らしたりと忙しい。これ本当に元覇者なのか。
「それじゃあ、さっそくいくぞ!」
「はい。」
一応デートプランをガルムと共に立てたのだが、イタチ側の事前リークにより行きたい場所が決まっているとの事でこちらが合わせる形となった。
なので食事とか休憩とかその周りをうまく処理するのが主となる。だが行先は上手く聞き出せなかったとの事で、逐次対応が必要である。
『なんなんすかぁ!あの人!』
ここでいきなり通信機からヤナが悲鳴が。
『どこ行っても、どの角度からでも追跡や視線を察知されるっすよ!これ以上は干渉できないっす!』
『それは仕方ない、イズナばあさんは願術も相まってその手の気配感知は尋常じゃない、斬られる前に戻った方がいいぞ。』
『うう、自信なくなるっす…。』
オープン回線でヴァズリが言う。一応今回はHQとして犬の国にあるヤナの部屋を拠点に複数人集まっている。
『ねー、たいくつー。僕も混ざっちゃ駄目?』
『駄目だよオシュさん。僕も我慢してるんだから。』
ステルス通信機のシステムが結構大がかりの上、ステルス通信は距離制限があるので犬の国に持ち込む必要があった。しかしポータル転送ができないのでオシュによる人力輸送を行った為に、彼女も残って必要以上に人員がいてちょっと騒がしい。
『でも映像機は気づいてないみたい!そっちから補佐するよ!』
メインオペレータのフィルの元気な声が聞こえる。とりあえず独り言を喋り続ける訳にもいかないので通信機を二回叩いて了解を伝える。
「ほい!これがこれから行くところじゃ!」
「ああ、ありがとうございます。」
そうイズナから話しかけられ、パンフレットを渡される。そしてそれを見てみると、なんか既視感を感じる。
「うん?」
歩きながら広げた後、裏や表を見回す。そして改めて表紙を見ると、なんかガルムが写ってる。よく見りゃこの腕の所、俺の、
「ついたぞ!」
「え、ああ。」
これ結婚式場じゃん。
『うわあ、ばあさん、逢引の初手結婚式場かよ…。』
『ああー、まあ、ばあさんらしいな、首取っちまえば勝ちだってよく言ってたからな。』
通信先では引き気味のどよめきが入る。確かに生前でこのムーブされたら相当だしな。
「今回どうしてここにしたのですか?」
動揺を隠す為に生前での仕事で培った客対応の感じで接っする。
「いや、そのな、わしの友達がなんか見たいというもんだからの、ちょっと、それで、しょうがなくじゃ!」
うーん、まあ真っ赤でしどろもどろなので深く追求するのはやめよう。通信機からはため息しか出てない。
「そうなんですか、私も参考にしたいですね。いきましょうか。」
「そ、そうじゃろう!」
とりあえず乗り気である感じと、否定せずで行こう。
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「むうううううう。」
「あ、あははは。」
その後受付にて話をするとイズナはちゃんと予約を入れており、また服の試着や式場内をそのまま歩けるなどというコースであった。だが式場側からなんか変わった親子だと判断された上、文字通りの子供体系でドレスが無く、子供用の服しかなくてむくれてしまった。
そして場内では別の犬族同士の結婚式が行われており、混ざるわけもいかず遠目で二人で見ていた。
『はあー。』
『いいなー。』
通信機からは追加でため息が。オシュまで話に混ざってきて変な飛び火が起きている。
『ところでドレスが無かったって話でしたけど、イズナ様の体のご年齢はいくつぐらいなんですか?』
『ん?ああ、確かばあさんが言うには八歳位だと言っていたが。』
『へえ、じゃあ僕の実年齢と同じくらいなんだ。』
そんなガルムの雑談が通信機に入り、俺は一人咽るのを隠しつつ式場を後にした。
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「むうー。」
「ああ、そんなむくれないで。」
それなりにイズナをなだめつつ大通りを歩く。
『そのまま左に曲がって、その後真っすぐだよ。』
ガルムのナビに従って進む。位置と状況からある店が最適であるという事でその店に案内してもらう。
「この店か。」
着いた所はおしゃれな感じのカフェだ。なかなかどうして、建物が新しいのに装飾品にレトロ感があって雰囲気がある。そのまま外の席に座り、店員を呼ぶ。
「おすすめはなんだ。」
『特にないよ、味は並みだし。』
ええ、なんでそんな店選んだんだ。そう言いたいが多くは言えず。
「なんで。」
『イズナ様、体小さいでしょう。だから机と椅子の大きさの差が少ない所にしたんだよ。』
うお、その発想は無かった。確かにそれであるのか知らんがチャイルドシートとか出てきた日にゃえらい事になりそうだ。その気配りは俺にはできんな。
とはいえ何か頼まねば。一応メニューに絵が書いてあったのでそれを見ながらサンドイッチっぽいもの二種類と飲み物二種類を適当に頼む。
「意外と、普通じゃの。」
「そうですね。」
届いた物を二人で食べる。見た目や盛り付けは凝っているものの、確かに味は並みだし、なんならゲンガンで食べた物の方がおいしい。まあ、ここは俺も相手も重役故にいい物食ってる以上、仕方ないかもしれん。
「意外と都会も微妙じゃのう。」
「ですね、私はゲンガン結構好きですよ。」
そんな感じで無理矢理話を繋げる。接待とまで行かずとも、結構いい感じに収まりつつある。
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「ほれ、あっちじゃ。おっと。」
「ああ、ほら足元気を付けて。」
そう言ってまた歩道を歩く。今度は午後に劇を見に行くとか。だがそれは夕方近い。なのでその間どう時間を使うかなのだが。
「そうじゃ、こっちの道が近道なんじゃ。」
「あ、ちょっと。」
少し駆け足で進むイズナの後をついて行くと。
「う。」
なんかホテル街に着いた。
「そう言えばー、ちょっとー、疲れたかのう。」
『うわー、ばあさん、ダメだって攻め過ぎだって。』
『本当に取り合えず首とりゃ勝ちで生きてるんすねえ、イズナさん。』
通信機と会話に悩み、周りを見る。冷ややかな目線に冷たい汗が胸に伝った。
「それにこっちの道が近道なんじゃよー。」
そう言って俺の手を引くイズナ。だがその体格からは考えられない握力と膂力で手を引かれる。
『あ、まずいよそこは!急いで抜けて!あの法令問題!』
ガルムから急ぎの通信が入る。だがその言葉の法令問題に少し頭をひねり、思い出す。というのも犬の国では奴隷解放が進んでおり、犬族以外の奴隷に対する法令も作られたのだが、そこで空いた首輪を使い、無理矢理の児童買春が流行っており警備が強化されたのだ。
そして目の前には八歳児の体系の奴が成人男性の手を引いている。まずい、このままでは警察署で今日が終わってしまう!
「じゃあ、急ぎましょうか。」
「ふえ?」
そう言って彼女の手を引っ張り返し、お姫様だっこでそのまま駆け抜ける。子供の体躯なのでさすがの軽さだ。だがまずい、ちょっと誰か追ってきてるかもしれない。
仕方なしにイズナを抱えて全力疾走し、ホテル街を抜ける。息を整えつつ、何か休めそうな所を探しつつイズナに話しかける。
「すいませんね、少しちょっと、息が。」
「う、むう、いいぞ。」
イズナは真っ赤になってもじもじしていた。とりあえず丸く収まったようだ。その後は少し公園で休み、犬族の子供に一緒に遊ぼうと誘われて微妙な顔をしたイズナを率いて劇場に。
劇の内容はまたエルフの恋愛小説が元だとか。俺は眠りはしなかったが途中から半分死んだ目になっていただろう。横のイズナは感動して泣いてたが。
「何だあの劇、なんかヒロインというか、男だからヒーローか?あの男がなんかどっちつかずですっきりしなくて気に入らんぞ。」
『ええ、それあなたが言うの?』
劇が終わりトイレで愚痴ると、ガルムがドン引きの声でそう言ってきた。
『ううーん、ちょっと解釈がちがうんだけど、そういう考え方もありなのかなあ。』
フィルはなんか独り言をぶつぶつ言っていた。
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その後夜となって、そこそこ有名なデートスポットの高台の噴水へと向かう。
『下手すりゃばあさん今夜泊まるみたいな事言いそうだから俺達が向かいに行くぞ。』
そうヴァズリから通信が入りしばらくすると日が落ちて、光輝く夜景が広がる。
「綺麗じゃのう。」
「そうですね。」
生前の世界ではもうありきたりになってしまった夜景であるが、文明の程度が低いここではまだ有効だったか。
というか犬族結構残業してるな、これ残業の光なんだよな。それに複雑な気持ちになりつつイズナを見ると、思った以上に暗い顔をしていた。まずい、なんかミスったか?
「どうしましたか?」
「すまぬ、おぬしに謝らねばいけぬ事がある。」
やべえ、なんかミスったか、それとも追跡ばれてるのか。通信機からも動揺の声がわずかに入る。
「前の、ラルやヴァズリに引かれて来た時に、犬の女に刃を向けられたじゃろう。」
「え、ああ。はい。」
「あの情報を流したのはわしじゃ。」
周りには幾人か人が居るはずなのに、空気が止まった。
「すまぬ、試すためとはいえ、おぬしを。」
「いえ、その件は大丈夫ですよ。」
「じゃが!」
「あれは、私の立場として無視してはいけない事でした。むしろ切っ掛けをいただいた形です。ありがとうございます。」
この言葉は本心である。恐らく俺は彼らを見ずに生きる事はできたし、排除する事も出来ただろう。だが、それでもやはり向き合わなければいけない事だった。罠とはいえ、今後も力を振るっていく事を考えれば必要な事であると今も考え、悩み続けている。
「すまぬ…。」
「いえいえ。」
そう言って寄りかかるイズナの肩を優しく叩く。すると急に彼女は縮こまり、わずかにだが震え出した。
「え、どうしました?」
「む、すまん、すぐ終わる。」
思わず言葉が元に戻ったが、イズナの震えが止まるとゆっくりと彼女は天を仰ぎ、その体が光るとその光が彼女の頭上に分離した。
「なんだ?」
「おぬし、見えるのか。」
その光は淡く、夜でなければ見えぬであろう。それはゆっくりと形を作り、人の形になった。
「これは?」
「わしに居る、子供達の霊じゃ。恐らくまた一人、天に還っていくのじゃろう。」
そうか、この光はシンジュと同じ光なのか。そしてその光は我々の周りを少し回り、スッと俺の耳元に顔を近づける。そしてその小さな口を開くと。
『初デートとはいえ少々相手に任せ過ぎだし、内容としても子供のデートである。王族ならばもう少し豪勢で大人のデートでもよかったのではないだろうか。一応本人が満足している点から五点中三点であるが、内容単体で言えば二点といった所である。次回に期待。』
そう言った後、光は天に昇って行った。嘘だろ、レビューと駄目出し喰らうのかよ。
「何か言っておったか?」
話しかけられてイズナの方を向く。くっそ、今回も感知できんの俺だけか。
「ああ、頑張れって。」
「そうか。」
一応内容的に近い事言っといてごまかす。改めて光を見直すと、宙に止まってこっちを覗いていた後に、目が合って天に昇りなおしてた。油断も隙もねえ。
「おーい、ばあさん、こんな所いたのか。」
ちょっとイズナから期待の目線が来ていた所で、後ろからラルが声をかける。どう出るかと身構えたが、笑顔のままその日は別れた。別れてから一キロほど歩いた後、俺は深いため息と共にベンチに深く座った。
こうして我がキ○タマの平穏は保たれたのだが、次何時にするかという打診にて股間に吹きすさぶ風は復活した。
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