28 親

 防衛成功パーティーのしばらく後、新聞が送られてきた。第一面の写真は俺がクジラをかっ飛ばす写真だった。なんでも防衛隊の一人が後ろで撮っていたらしい。


 ただ星貫きの勇者よりもクジラ打ちの勇者はやっぱり締まらない。それでもまあ、チャエリアうまかったしいいかと思いながら、多機能ナイフのハサミを使って一応切り抜いておく。


 そしてその作業中、写真に写る自身の機体を見て、新能力のアンロックをしたのを思い出す。皆に声をかけてその数日後に機体をお披露目する事にした。


「どうだ!これが新機体だ!」


 アニメとかであれば新機体お披露目は熱めの回だ。そして皆の反応を見ると、なんか微妙。


「どうだ?」


 あれなんか思ってたのと違うなと思いつつ聞く。今回の機体は前よりも明らかに大きく、高さも二倍ほどあり、ずんぐりむっくりではないよく思いつくロボットの形状だ。


「うーん、まあ、いいんじゃないですか?」


 メノウがそう答えるが、明らかに月並みな事言っとこう感ある。


「いや、大分強いんだぞ、この機体なら垂直上昇できるんだ!」


「へー。」


 ノリ悪!なんでぇ?


「うーん、高さがありすぎて乗りにくいな、というか、うちら乗る場所はどこだ?」


 テトがそう聞いてきた。え、うーむ。マルチプルのように足場の増設しても高さがあるから乗りにくいし、背面部分には変形機構がある為にそもそも危ないし、その上垂直上昇がしょっちゅうできるこの機体では振り落としてしまうかも。


「ちょっと、出来ないかな。」


「ええー。」


 明らかに不満そうなテト。そうか、そこ考えて無かったな。


「ちなみに前より細身だが耐久力はあるのか?」


 見上げながらもアズダオが聞く。また痛い所を付いてきた。


「前の三分の一以下です…。一応追加で耐久力は確保できるけど。」


「ええー。」


 アズダオもなんか不満そう。


「まあ、飛べるのであればいろいろな場所いけるのでしょう?」


 リルウがそう聞く。


「あ、いや、これジェネレータの仕様上、ずっと空飛べないんだ。陸に降りなきゃいけない。」


 一応能力アンロックにて非戦闘モードによる巡航もあるのだが、それは本体価格も相まって結構高額だ。しかも即座の戦闘モードへ移行が出来ない為に、結構なデメリット込なのでポイントの割に合わない。


「そうですか…。」


 リルウまで残念そう。


「わたし前のマルチプルちゃんの方がいいなー。」


 フィルがついに本音を言ってしまった。そして賛同する皆。


「で、でもコイツ滅茶苦茶強いんだぞ!」


「でも耐久下がったんだろー?」


「それに前の方が可愛かったよね。」


「うん。」


「うん。」


 意外とマルチプルが人気な事に驚くも、せっかく取ったのにちょっとショック。その様子を見たのかアズダオが焦って声をかけてくれる。


「ま、まあ俺はかっこいいと思うぞ!それに強いってんなら一発やってみようぜ。」


「うん…。」


 元気なさげに俺は答えて、その後また訓練所に。そこでちょっと張り切り、思い切り機体を動かすと、滅茶苦茶楽勝にアズダオを組み伏せられる。


 機体を仕舞い、アズダオも人にもどる。そしてニコニコでアズに話しかける。


「どうだ!強いだろ?」


「…俺もうそいつとは戦わない。」


 そう言ってアズダオは拗ねてしまった。まずい張り切り過ぎたかと思うも、リルウが声をかけて来る。


「ううーん、何というか、前のマルチプルさんは戦士といった感じでしたが、その機体は動きが狩人のようでしたので、戦うという形で考えるとアズは嫌いかもしれませんね。」


 そんなこんなでせっかく取ったのに評判が良くなくて萎れていると、テトが気を使ってアズダオとの仲直りを兼ねた焼き肉をし、お互い機嫌が戻った。


 まあ取っちまったものは仕方なしと思いつつテトの家で皿を洗っていると、後ろから暗い声で話しかけられる。


「なあ、旦那、相談があるんだ。」


 そこには声と同じく暗い表情のテトが。こんな顔するなんて随分と珍しいな。




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 話を聞くと、どうもテトはニャルグから帰って来いと言われているのだとか。理由は白虎化。あれに到達できる虎爪族はそうは居ない為に、その強さから国に留めておきたいらしい。


「もしかして最近留守が多かったのはそれか?」


「うん…。」


 テトは力なく頷く。恐らく一人で処理しようと頑張ったが、出来なかったのだろう。とはいえ変に抱え込まずに正直に相談してくれたので頭を撫でると、テトは訳が分からない顔をするも受け入れていた。


「一応、権力とかも与えられるんだけどさ、旦那はどう思う?」


「そもそもテトは行きたいのか。」


「うちは、ううん。」


 すごい悩んでいる様を見たと同時に、とっとと本音を言う事にする。


「俺は嫌だぞ。」


「で、でも、関係も悪くなったりしたり。」


「戦争も辞さない。」


 そう言い切るとテトの顔が少し柔らかくなる。まあ実際、彼女が選ぶべき事なのかもしれないが、この表情が心情を物語っている。


 次の全体会議でその話をし、決裂時には戦争もあり得るかもしれんと言い、一応反対意見を確認したが出てこなかった。


 意外と慎重派は居ないんだと思いつつ、姉御に政治は無理でしょと軽口を叩いたヤナがテトの照れ隠しで壁までぶっ飛ばされていた。




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「んじゃ行ってくるか。」


「うちはいかなくていいんすか?」


「ああ、大丈夫だ。うちがちゃんとケリつけてくるよ。」


 数日後、テトと共にミズタリを出る。一応変に刺激しないようにと前回と同じ方法で機体を使わない移動だ。


 ただ今後も陸路で行くのは手間なので、ポタポタ石も持ってきている。次からはこっちで行きたいものだ。


 道中は休みながらの移動となった。その移動速度からテトは本調子ではないだろう。


 心配で声をかけようとするも、張りつめた表情からテトは心配されればそれを隠そうと頑張ってしまうだろう。なので俺が頻繁に疲労と休憩を訴えて、ゆっくり進む事にした。


 だがニャルグの端に着く頃には体を動かしたからか、テトの表情はすっきりしていた。少し安心しつつも国の端の村で一泊する。


 その日の夕食はでかい虫の串焼きだった。テトは好物らしく、ヤナがニャルグに行った時にお土産で買ってもらうのだとか。しかもヤナの高速デリバリーによりちょっとあったかいぐらいで渡してくれるらしい。


「今旬なんだ!一緒に食おうぜ!」


「うん…。」


 俺はミズタリで相談を受けたテトの暗さに負けず劣らずの表情だっただろう。なお食べてみるとエビっぽくてうまいのだが、時折口の中に刺さる足が現実に戻してきた。




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 ゴロングルに着き、また例の闘技場へ。そのままテトの親父さんに話をする。


「それはミズタリの総意か。」


「ああ。」


 親父さんの態度は以前と変わらないのだが、俺の方が修羅場をくぐり怯まなくなっていた。というかこれ正式に会合とか開いた方がいいやつじゃないのかな、テトに言われてきちゃったけど。


「すまない親父、頼むよ。」


 珍しくテトが頭を下げる。確かに今回の事は親子の問題ではなく虎爪族全体にかかる話だ。だがあまり、国の象徴というかたっくるしいのはテトにやらせたくない。猫に盲導犬の代わりをさせるようなものだ。


「……わかった。」


 テトの親父さんははっきりとだが、勢い弱く返答した。


「ごめん、ありがとう。」


 テトはそうひとこと言って踵を返した。俺はあっさりしすぎで少し驚くも、その驚きを表面に見えないようにして、


「すまない、ありがとう。」


 俺からも礼を言いテトを追った。すると。


「すまなかった。」


 親父さんは小さくそうつぶやいた。俺はそれを聞きつつも、聞こえないふりをして彼女を追った。




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「はあー。せっかく白虎化できたのに、面倒な事になったなあ。」


「だがそれは修行の成果だし良い事だろうよ。」


「でもまあ、訓練所の座学ですら出てくる存在だからなあ。まさかうちが成るとは思わなかったけどさ。」


 闘技場から出た後に、内容からして国家間の話のはずだが良いのかと聞く。するとまだ水面下の話である為に、むしろオープンにした方が揉めるとの事でこれでいいらしい。


「んでどこ向かっているんだ。」


「かあちゃんとこ。」


 闘技場からそのままテトの後を歩いていたが、歩く先が帰る方向ではなかったので何故だろうとは思っていた。


「どこら辺なんだ?」


「結構ゴロングルの端の方だな、歩きだと距離あるけど、歩きたい気分だから歩かせてくれよ。」


「ああ、わかった。」


 道中の会話ではテト自身も象徴になったほうが国がまとまって良いのだろうけど、と言う話からも少し後ろめたい所があるようだ。その気分を晴らしたいが為に今歩いているのだろう。


 そのまま真っすぐ進んでいくと、割と木々が茂る場所に着く。その木々の合間を進んでいくと、作りは違えどフル木造の昭和の民家みたいな家が出てきた。


 結構歩いたからか、時刻は夕方少し手前といった所か。日の傾きも相まってなんというか、生前と違う作りの家なのになつかしさを感じる。


「ただいまー!」


 テトはそう玄関口で大声をあげながら戸を開ける。鍵かかってないのか。


 一緒に入ってばらくすると奥からパタパタと誰か駆けて来た。少しやつれた感じが見受けられるが、一目でテトの親だと解る容姿だ。


「おや、テトかい!おかえり。」


「ただいま。」


 何というか、テトの雰囲気が少しフィルよりになっているというか。一緒にいるが意外と見知らぬ一面もあるものだ。


「おや、そちらの方は?」


「うちの旦那。」


「ああ!あなたがミズタリの!娘がお世話になっています。」


 なんかすごい既視感のある世間を感じてちょっと感動する。


「いえいえ、こちらこそ。」


「それじゃあどうぞ、こちらに。」


 そう案内されて、テトと中に入る。


 そこで食事をごちそうになり、月並みな会話をする。だがこんな世間話は王宮じゃあ珍しいものだ。ある意味で一番生前に近い状況であり、それ故に逆に緊張してしまった。


 話し込み夜が更けると、魔法具が無いこの場所では久々に蝋燭に灯りを灯してくれた。そういえば最初の町ではこうして灯りをつけていた。ミズタリであれば魔法具が普及しているし、俺の道具でも充電できる今、ライトがある。だが今はこの小さな灯りが心地よい。


「ごめんなさいね、灯りなんて久々に使うから。」


「うちらは夜でも目ぇ見えるもんな。」


 あ、何、猫科だから暗くても見えるの?それに火をつけるのも石に光る爪擦り合わせてだったし、なんか急になつかしさが無くなってきた。


「でも火ぐらいうちが点けたのに。」


「それぐらいまだできるわよ。」


 そう言うテトのお母さんの光る爪は小さく、その上一本だけだった。体が弱いと聞いていたが、あれはそう言う事なのだろうか。




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 そのまま泊まり翌日の昼頃出る事にした。もう数日間居るかと聞いてきたが、あまり長居すると居着いてしまいそうだ。だが心配そうなテトの母親、ナチゴヤを見てどこの母親も心配性なものだとまたなつかしさを思い出す。


 そしてそれならばと、ここにポタポタ石を置かせてもらう話をすると快諾してくれた。名残惜しさも交えつつ、そろそろ出るかと話をしていると。


「あ、待って!テト、そういえばもう出来てるの!」


「え!まじか!」


 そう言ってナチゴヤはまたパタパタと部屋の奥へ駆けて行き、木箱を持ってきた。


「これ!一応いくつか作ったから!」


「おおー!ありがとう母さん!」


 なんだろう、お土産かな、テトはあまり見ぬほどに目を輝かせて取り出した物は。


「おお、すごい!かなり小さくなったね!」


 すげえマイクロビキニに見える。


「何それ。」


「うん?うちの新しい服さ!」


「まったく、前回近いうちにまた来るっていうから、何時かわからなくて夜なべして作ったのよ?」


 本当にそうかよ。微笑ましいと思っていたが、母ちゃんが夜なべして作ったマイクロビキニがとんでくるのか。すげえな異世界、もう慣れたと思ってたけどちょっと油断してたな。


「だ、だがちょっと、小さすぎないか?」


「でも旦那好きだろ?」


「………うん。」


 ここ回答にすごい迷うが変に否定するのも製作者が目の前に居る為にできず、正直に答えてしまった。


「ふふふ、男なんてそんなものよねえ。」


「だよなあ。」


「お父さんもそうだったし。」


「………うん。」


 あ、やっぱりテトも親のその手の話は嫌なのか。めっちゃ表情曇ったぞ。尻尾も上から下へ急降下だ。


「何、まだレオンの事嫌いなの?」


「レオン?」


「ああ、親父の名前さ。あいつレオンヴェルグっていうんだ。」


 ええ、何それ名前かっこ良。


「なんだ、知らなかったのか?」


「仕方ないわよ、あのひと自分の名前嫌いだからあまり言わなかったのでしょう。」


「え、それは何でなんですか?」


 レオンヴェルグはすげえかっこいいじゃん。というか名前にレオ入っちゃんてるじゃん。トラなのに。


「ああ、うちの国だと男らしくて強い名前ってのは短い二文字の名前でさ、長い名前ってのは女性っぽいって言われるんだよ。」


「だからって、自分の娘にテトなんて男らしい名前つけるのは私も止めたんだけどね。でもあの人その名前で苦労したから私も止めきれなくて。」


 ああー、だからテトの名前かわいいって言った時になんでだよって言ったのか。というか、もしかすると猫の国の価値観は結構独自なのかもしれない。


「いや、それはいいんだ。旦那はうちの名前良いって言ってくれたし…。」


 ちょっと照れながらテトは言う。お前もちゃんと覚えていたのか。


「それじゃあ何かあったの?」


「だって親父、かあさんをこんな国の隅にほっとくじゃんか…。」


 テトと親父さんは最近は少し打ち解けてきているが、昨日の話し方からしてもまだ苦手という感じだ。


 まあ初めてこっちきた時、テトは結構いらついていて、首都に近づくにつれて尻尾の揺れが大きくなっていた時に比べれば大分良いが。何というか、お互い距離感が解ってない感じというか。


「ふふ、あのひとは不器用だからね、後宮にでも入れたら私の体の弱さから目をつけられると思ってここに置いたのでしょう。それに服飾の仕事するのに静かでちょうどいいのよ。買い物は少し手間なのだけれど。」


 その言葉を聞きハッとした顔をするテト。思う所があるのだろう。


「本当に偶にだけど、あの人もここに来るのよ。あまり多くは語らないけれど、私は今の関係を気に入っているし、あの人はいつも私の服を着てくれているからね。」


 形は違えど、テトの両親も絆があるのだろう。テトの表情が今までよりも少し柔和になり、その眼は木箱に移った。


「ところでこの服、かなり小さくなったけどこぼれたりしない?」


 急に男が入りづらい話に戻る。


「一応、肌に追従する力を倍にしてあるから平気よ。それにこれは、この箱で一セットなの。」


「どういう意味?」


「それはね、この小さな方を下に着て、その上にこれらを着るの!」


「おおおおおーーー!」


 すげえ感心してるけど、それ重ね着というより本来の下着の運用じゃない?と思いつつ、箱の中からは更に普通のビキニが出てくる。そこ据え置きなのか。


「一応防御性能重視や、後は耐環境性をあげた物もあるわ。状況に応じて着てみてね。」


「すげえよ、かあちゃん!」


 まあ確かにすげえんだが、そういやテトの着ている服ってもともとすげえ高級品だって話もあったな。


「テトの今着ている服って結構高いんだろ?それよりもいいのか?」


「そりゃこれも母ちゃんが作ってくれた物だからな。」


「そうね、でもそれは大分昔に作った物だもの。それよりも良い物つくらないと。」


 え、それもそうなのか。


「一応私はこの国で一番の服職人をやっていますから。」


 はあー、意外な仕事。そういや前に焼き肉したときアズダオが最近テトが刺繍してるとか言ってたけど、それ親の影響だったのか。


「だから刺繍始めたのか。」


「え!テトも始めたの?」


「あ、馬鹿、言うなよ旦那!」


 そこからレクチャーが始まって、結局夕方になってしまった。テトが文句言いつつも徐々に真剣に作業をしている様を見て、普段アズダオと修行をしているのと違う一面がよく見れた。


 だが夢中になる姿はまるで同じで、戦闘と刺繍という真逆の趣味は、両親の血をしっかりと受け継いだという事なんだろう。


 俺は二人に気づかれぬようにこっそり部屋を出て、ポタポタ石で連絡をし、滞在日数を伸ばすと伝えた。

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