27 防衛
思いやり週間が過ぎた後、適度に国の見回りをしつつ、思い出したように一人でジンウェル行って確認したりしていると、日々はすぐに過ぎていく。
そして遂に、防衛戦が間近に迫った。
「と言う事でフィル、今度転送を頼む。」
「わかったよー。」
事前にフィルに依頼をしておく。内容から数日向こうに滞在するという状況になる。低確率ながら魔物が来ない可能性もあるが、一応その状況は想定していない。
「えー!駄目じゃ!」
そこに水差すリノト。
「え、いや。転送なら直なんだからそれでいこうよ。」
「いやじゃ!わらわも御神体の背で旅をしたいのじゃ!」
そんなリノトのわがままから行った事ある道をわざわざもう一度飛ぶ事となった。
今回のメンバーは結界の専門家という事でリノト、市街地戦闘でヤナ、広範囲戦闘でリルウとアズダオである。
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「結構、大変じゃの。」
「だからいっただろうに。」
ジンウェル側に転送を使わない理由を説明出来ないながらも、陸路で行く事を伝えた後にマルチプルで移動して到着。初めて来た時と同様に門から離れた所で降りて歩きだす。
マルチプルでそのまま門まで着けてもいいのだが、ジンウェルでも人気があるらしく、もしかすると騒がしくなるかも、というフィニルの助言から前回と同じ距離にしたのだ。
しかし、目の前の尻尾が垂れたリノトは基本頼れるのだが、どうも偶に我儘な所がある。ただまあ、国外旅行したいというのはちょっと解るので説得をあまり粘らなかった。
「先いってるっすよー。」
ヤナと龍二人は先に行ってしまっているが、リノトは微妙に乗り気でない為とぼとぼ歩いて遅い。
「だからあのまま転送でよかったろうよ。」
「でも、久々にミズタリから出られたんじゃ。少しはのう…。」
今回メノウも大分巫女として鍛えられたという事で、女王として数日任せる事にしたらしい。確かに最近メノウの顔が緊張気味になっていた。
またメノウから旅の話を自慢され、ちょっとうらやましいとも感じていたとか。実際やってみると結構手間が目立ったようだが。
「ほらみんな先行ってるんだから、行くぞ。」
「むう。」
リノトは不満顔で手を差し出す。俺は軽くため息をつきその手を引くと、そこそこご機嫌になり歩き始めた。元々リノトはメノウと一緒に野山に行ったりもしてるので、身体能力は平均以上である。体力の問題ではないのだ。
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門番に顔を覚えられて上機嫌なアズダオを横に、また船に乗って水路から城へと行く。
道中で町人から歓声を受け、俺は照れつつ手を振ると、その横ではアズダオはどんどん胸を張っていた。皆を見るとヤナはなんかちょっと目線が多くて緊張気味、リノトは街並みや船に目を輝かせていた。そしてリルウはマジでどうでもよさそうだった。すごいな相変わらず。
前回と水路のルートが違うかな、と思いながら船に揺られていると、確かにその通りで別の門から入り、水エレベーター無しで船着き場のような所に船を付け、城内を徒歩で案内されて会議室に通される。
ちゃんとしたルートあるんじゃんと思いつつ、今回の船や案内などの手間はリノトのわがままから始まっているので、いろいろな人に頭を下げつつ進んだ。なお本人は船の移動に大変満足気味であった。
結界作成の準備は我々が来る前から行っており、意外と城内はあわただしい。そして明後日の午後から本作業を行う感じになるらしい。なのでマナがあふれ出て来るのは当日の朝方からという事だ。現状の確認を終えた後、最終確認の為に皆で現場の下見に別れる。
リノトは玉座の下の結界部屋へ、ヤナは町中で侵入経路等の確認、リルウとアズダオは俺と一緒に港の方へ行く。
「んで実際来そうなのか?」
防衛隊の隊長と港に向かう道中質問する。アズダオはまた町民から声をかけられて笑顔で手を振っている。
「はい、魔物予報にて八割の交戦確率です。」
そんな天気予報みたいな感じなんだ。
「ちなみに何が来るかは判るのですか?」
リルウが横から聞いてくる。
「一応は前回と同じく水龍と魚人が来る予想です。しかし、来る場合は前回の数倍となるでしょう。」
ここで俺は顔が曇る。その場合前みたいに上陸されると結構きついな。当初の案で問題ないか考えながら進み、港手前の広場を通るとなんかバカでかい鍋が置いてある。こんなん前来た時あったっけ?
「あれは何なんだ?」
「え、ああ、あれは無事結界が出来た時の記念として、一気に大量のチャエリアを作る予定の鍋ですね。なんか史上最大を目標にしているのだとか。」
「はー、少し気が早くないか?」
「まあ、これが失敗すれば滅ぶしかありませんし、何より星貫きの勇者が来るとの事で皆安心しきっていまして。」
「ええ。」
よく見ると俺が星を貫いた時の写真が横にあった。楽観的なのはいいけど変な重石を載せないでくれ。
なおチャエリアはまあ大体パエリアなんだが、前の歓迎会で俺パエリアの芯ある感じとべとついた感じがあんまり。と言った所、料理人が気を聞かせて材料据え置きでチャーハンみたいに調理した事で出来た最近の料理だ。
道理で最近ミズタリの米の出荷が多いと思った。確かに結構うまいのだが、このサイズの鍋でちゃんと炒められるのだろうかと聞くと、魔反発火を応用した意外とハイテク魔導鍋で均等に熱がかけれるとか。なにこれマジカルIHって事?
「なのでその関係から一部避難に否定的な者もいまして…。」
「いざって時は俺の機体が建物蹴っ飛ばすから避難しろっていっといてください。」
「はっ。わかりました。」
一応作戦からしても町中で機体を動かす流れは相当追い詰められている時だ。基本市街地戦になったら機体から降りないと碌に動けない。なので建物蹴っ飛ばして暴れる状況は、水龍などの大型が町にまで入ってきて大分追い詰められている時だろう。それでも万が一をケアする環境は必要だ。
港では既に配備された防衛隊の騎士と会ったが、そちらは楽勝気分でない事は救いだ。それにそもそも俺は当日港には居ない。ここから辛うじて見える城壁より高い丘の上から、スナイパーキャノンで遠距離砲撃をするのだ。そして砲撃から抜けてきたのを龍二人が迎撃、そして小型の上陸した魚人を騎士団とヤナが対処する。
一応テトも連れてきたかったが、あいつまた猫の国行っている上に、戦闘スタイルから町中壊すかもという事でヤナのみとなった。
「それじゃあリル、アズ、港の周りを確認してくれ。俺は射撃ポイントを再度見に行くから。」
「いえ、一緒に周りましょう。混戦になった時お互い状況が解った方がよろしいかと。」
「そうだな、一応お互い見とこうぜ。」
「それもそうか、見ておくか。」
一応確率二十パーセントを引けたら居るだけで終わる仕事だからか、少し俺も考えが甘いようだ。気を引き締めなければ。
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「ふあああ。」
早朝、俺は機体の中であくびをする。機体は既に構え状態に移行しており、単発と5点バーストのスナイパーキャノンを構えて覗いている状態だ。
最新の予報で魔物が来るのは確実になったとの事。なので今はいつ来るかだ。
「一応予報だともうそろそろだけど。」
「皆の者、こちら作業開始じゃ。」
「ん、ああ、わかった。」
リノト側が作業を開始した様だ。今は大体魔力増幅と接続の工程で、予定通りなら正午に結界作成開始、張り終わりは大体日暮れのしばらく後だ。
結界が張れれば仕事は終了である。とはいえ新品の結界叩かれるのも嫌なので残った魔物の排除という残業もあるが。
しかし未だ、凪の海。その鏡面に少し遠目から波が一つ、二つ見えると。
「うん?」
黒い霞が見えた。倍率を上げる。あの水龍だ。パッと見だが十はいる。うねうねしてて長時間は見たくない。
「距離四千確認!水龍十!来たぞ!」
「了解!」
通信用白石から複数の返答が返る。さて、流石に距離があるが、海故に射線は通っている。スナイパーキャノンのカスタムも長距離用だ。
「さて、やるか。」
風向き等が判っていない為に距離計だけ合わせてバースト側を撃つ。爆音と衝撃が機体内部からでも伝わる。これだからこの武器町中で撃ちたくねえんだ。
「なんだそれすっげえ音だな。どうだ?」
アズダオからの通信を横に弾着確認。少しばらけさせて撃った為に一発だけ着弾したようで、水龍が一匹崩壊した。小口径のバースト側の弾一発でダウンか、こうなると過剰火力かもしれん。
「一体だけ落とした。引き続き削る。」
「わかった、こっちは…ってやべえ!魚人がもう来た!リルウ前頼む!魚人は俺の方で少し削る!」
「わかりました。」
「頼んだぞ。」
朝日が照り始めたが、結界が出来るのは日暮れのしばらく後だと言ってたな、こりゃ長丁場になるぞ。
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「第一陣終了か。」
遠目には追加で来た水龍が未だ多数蠢いているが、寄ってきた奴は軒並み消した為に進行してこない。俺の射撃で大分抑えたが、何匹か潜水してきた水龍もいたものの、海上に出たリルウが魔力を感知しつつ魔術で分解した。アズダオは港で魚人を雑に燃やして、その残りやとどめを防衛隊がきっちり行ったので市街地まで入り込んだのは居ない。
「一応水路とかも軽く見回ったっすけど、いないっすね~。」
あくび交じりでヤナが報告する。いいな、こいつ今回楽な役回りか。
「うん?」
水龍達がなんか変だ。距離を取った上にうねうねを直視したくなかった為、気づくのが遅れた。何かをやっているようだが靄になりよく見えない。
「なんだ?」
スコープ倍率を下げて引いてみると、なんか竜巻のような物が出来ている。
「すまん、水龍に動きあり。なんか竜巻みたいなの作ってる。」
「なんだ、何しようってんだ。」
「わからん。」
「いえ、警戒して下さい。何か変なマナを感じます。」
リルウがそう言うので俺も警戒してスコープを覗く。海面に変化は無い。だが空中になんか、黒い点がある。なんだと思いスコープの倍率を上げて覗くもその間に通り過ぎてしまうほど速い。
「なんだ、なんか飛んできている?」
「見えねえのか?」
「すまん、確認できたら報告する。とはいえ警戒を頼む。」
「「了解。」」
相変わらず何か飛んできて、一部はそのまま海に落ちている。だがだんだんと低倍率で見えるようになった。
「サメ?」
ヒレとかその辺りがとてもサメっぽい。しかも結構な数が飛んできており、中にはヒレが無かったり皮が剥げてたりもする。サメのゾンビ?
「サメのゾンビが飛んできてる!」
「サメは飛ばねえぞ。」
アズダオの指摘はごもっともだけども!
「いくらか手前に着水していた!海中を移動している可能性あり!」
「リルウ!どうだ!」
「水龍と違い小さいから海のマナと混ざって気配感知が上手くできませんが、いくつか変な感じはあります。」
そのリルウの回答に一拍おいて、アズダオが叫んだ。
「サメだー!」
「海中からサメが飛び出してきています!」
海上のリルウから報告が入った。
「どうする!援護入るか!」
「まだこっちは抑えられる!お前は水龍を頼む!」
くっそ仕方ない、まかせるか。こちらは竜巻の対処をしよう。しかし距離がありすぎる。
とりあえず放物線を描いて落とすように撃って水龍を削るも、竜巻で弾着が確認できない。一応機体のHUDには一応HITの文字が出るのだが、どれだけ落としたか、掠っただけなのか判らない。それでも撃てるだけ撃つ。
「今から結界を張る作業にはいるぞ。」
割と落ち着いたリノトの声が通信に入る。そっちの作業自体は順調なようだ。
「わかった、うん?」
なんか空中にでかい点がある。明らかにでかいもんが飛んできている。
「なんだ、あれ。」
しばらく見ているとピントが合い全貌が解る。でかいクジラのゾンビだ。
「クジラのゾンビが飛んできた!撃ち落とすぞ!」
「クジラは飛ばねえよ!」
飛んできてんだよ!
「う、あれは。」
リルウのちょっと引き気味の声の通信を聞きながら引き金を引く。真っすぐ飛び、着弾。しかし。
「あれ、弾が抜けてそのまま飛んできやがる!」
「おいリルウ!回復ブレスで浄化できないか!」
「無理です!あの大きさでは表面だけです!」
「クソ、なら俺のブレスで焼いてやる!リルウ交代だ!サメの方の浄化たのむ!」
ごちゃごちゃ言っている間にかなり近くまで飛んで来ていた!
「いくぜぇ!」
「ダメです!」
リルウの静止に一瞬疑問を持つと同時に、アズダオが口からレーザーのようなブレスを吐く。それは正確にクジラを貫いて、次の瞬間。
ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!
大爆発した。
「おい大丈夫か!」
通信を入れても雑音しか入らない。白石が壊れたか?だが三分ほどで声が入り始めた。
「大丈夫か!」
「うええええええええ。」
「ううううううううう。」
来たのは龍二人の情けない声。
「どうした!」
「腐肉が飛び散ってぐちゃぐちゃになりました…。」
「ふううううう、うううううう。」
やべえアズダオがふにゃダオになりそう。
「だから言ったでしょう、アズ!」
「ううううううう。」
「とりあえず水か火で洗浄、あと回復で対処を!」
「さっきの爆発音なんすかあ!耳やられちゃったっす…。」
ヤナからも弱気の通信が。とはいえヤナは距離があるはずだ、となると。
「リルウ!もしかすると防衛隊の耳もやられているかもしれん!回復を頼む!」
「わかりました…。」
結構きついぞ、そう思いながらスコープを覗くと。
「サメゾンビ第二陣接近!角度から今度は直接飛んでくるぞ!」
「「ひいいいい。」」
本当にきついぞ。
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「サメゾンビ掃討しました!」
そのリルウからの通信には防衛隊の雄たけびも混ざっていた。リルウとアズダオが前後入れ替わり、前衛のアズダオが空中で落とし、リルウの回復を兼ねた浄化魔術を使う事で防衛隊もうまく立て直せた。
「ういいいいいい。」
恐らく現状の撃破MVPであるアズダオの声に覇気は無い。落とす最中も叫び声が聞こえてたので追加で腐肉を浴びたっぽい。多分ふにゃらないのは周りの目を気にした上での根性だろう。
「一応水龍も撃退できたが更に後ろに下がった可能性もある。現在視認距離には居ない。」
とりあえずフライング海産ゾンビの第二波は越えたか。ここで一息つく。
「待ってください、何かわかりませんが、何か来ます。」
リルウからの通信が入る。それで俺は改めて気を引き締め直し、スコープを覗くもよく見えず。一応最大倍率にしてみると、なんか黒い塊が海面からせり出している。
「やばい、なんか、来るかも。」
「えええええええ。」
アズダオの声を無視し、なんとか判別できないかとスキャンモードに切り替える。するといつもの三倍の時間がかかったがスキャンができた。結果。
「クジラゾンビ、成体?」
現状を確認したいがどうするかと一悩みし、能力に何かないかと探すと撃破ログという物があったのでそちらを解放。
早速撃破ログを見る。するとログ内にクジラゾンビ(幼体)の文字が。撃破物の詳細を確認し、そのサイズをスキャン結果と比べてみると成体と幼体で長さ三倍。一瞬脳が理解を拒むも、すぐ寒気が走る。
「まずい!さっきのクジラの三倍以上のが飛んで来ようとしてる!」
「はああああああああ?」
「ええ!」
「最初のアレは幼体、子供だったらしい!まだ海面からせり出てる段階だがアズ、いけるか!」
「む、無理だ。そもそもこっちからは見えない距離だぞ。」
いや待て、そもそも撃てたとしてもアズが吹き飛ぶかもしれない!対国砲を破ったアズに任せたいが、あれは拡散力を高めた兵器であった為に、着弾しても国民以外は死なない威力だったとアズから聞いたが、今回のは単純に威力が高い!
「結界は順調じゃ!およそ日暮れには終わる!」
リノトから通信!だがクジラは胸鰭までせり出してる!あれ確実に飛ばす気だ!この武器では抜けてしま駄目だった、それでも撃って削る?だがサイズが三倍だと体積は、そして重量は?
「リルウ!対処できるか!」
「無理です!私の浄化ブレスでも無理ですし、マナブレスだと黒マナが詰まったあれは大規模な魔反発火を起こします!」
「ぐうううう、くそ!」
居ても立ってもいられないが、何もできずせめて何か探す為に機体の頭部をずらし、辺りを見る。そして目に入ったのは眼下の港、の鍋。
「え、いや、ううーん。」
そこで目に入った物で変な思い付きをして、少し悩む。だが時間は無い。
「リルウ、アズ、相談だ、こういう事ってできるか?」
「なんでしょうか。」
「なんだ?」
いや、でも、流石に無理か?
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「何よ、もう、くっさ!何ここ!」
ヤナが女王を連れてきた。ヤナも涙目で顔をマフラーで覆っている。俺も臭かったのでボディアーマーを展開し、炭素フィルターをアンロックして耐えている。そしてその横には俺の機体と外して置いてある規格外兵器、大型ブーストハンマーだ。
「すまん、女王様、この鍋をこのハンマーの先につけてくれ。」
「はあああああ?」
至った結論から、アズの爆発魔術と、リルウの魔術を広範囲化させる衝撃拡散魔術をハンマーに載せて、それでクジラゾンビを打ち返すという話になった。港の鍋を見て、チャーハンを作る様を思い出し、そんな感じでクジラを吹っ飛ばせないかなあと思ったのだ。
そして龍二人の魔術を武器に載せる為に、実行するにしても衝撃拡散の土台が必要との事。じゃあ本当に鍋を使おうという話になった。鍋のアール形状がちょうどいいんだとか。
そして機体に無理矢理接続するなら魔導による溶接が必要の為、スペシャリストが要るという事で、ヤナに女王を一人を港に送ってくれと依頼した。
「流石にちょっと俺でも馬鹿じゃねえかなって思うぜ。」
「ですがアズの魔術でなら吹き飛ばせるのでしょう?」
「当たり前だ、威力は十分だ。だが絶対貫いちまう。」
「それなら私の拡散魔術も十全です。ですがその威力に耐えれる力がありません。」
「その威力なら規格外兵器のこれなら振りぬける。データを取る時間も無いから言い切れんが。」
「何、そんな馬鹿な作戦しかないの!」
「それしか取れず、その上急ぎだ。見ろ。」
俺の指す指先には小さな黒い点。
「もう飛んできてるんだ、選択肢がない。」
「ちなみに出来なきゃ?」
「国が腐肉塗れになって魚人や水龍に上陸されるか、更地になる。」
するとフェニルが唸りだし、
「なんで女王のわたしがあ。」
泣きながら作業を始めた。
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「とりつけたわよ!」
がなり声でフェニルが叫ぶ。
「固定大丈夫だろうなあ?」
「何いってんのよ!ここの女王よ私は!」
それぞれのスペシャリストが全力出しているといった状況ですばらしいはずなのだが、その内容がクジラゾンビをかっ飛ばすという状況からいまいち締まらない。とはいえ今ここは死地だ。
「それじゃあ武器展開後、魔術を鍋にいれてくれ!後の追撃は任せる!」
「おう任せろ!リルウ!かっ飛ばした後の渦までのガイド頼んだぞ!」
「まかせて下さい。渦に放り込んだら後は頼みますよ、アズダオ。」
かっ飛ばした後どうするかみたいな話が鍋接続中に上がり、水龍に返した後に爆発させるという話になった。理由は恐らくうちの龍二人が腐肉に塗れて恨み骨髄状態だからである。
「魔術こぼれたら大変だから、私の魔導で定着させるわ!ヤナ!運んでちょうだい!」
「オッケーっすよー、やっぱ腐っても女王様なんすねえ。」
「腐ってないわよ!」
二人もこちらの想定以上に動いてくれている。そして迫るクジラゾンビ。視認できる距離であるが一応スキャンモードにて距離を確認。
「速度から十秒後に展開する!いくぞ!」
「「「「「応!」」」」」
周りの皆以上の声が返る。というのも防衛隊の皆も残っているのだ。まあ、逃げる場所もその時間も無いからなのだけど。そして俺は五秒前から声にだし、
「展開する!」
規格外兵器機動!
「いれたぞ!」
「いれました!」
「定着させたわ!」
「降りたっす!」
「いくぞおおおおお!」
ブースターを巡航状態に移行!眼前にぐんぐん迫る、クジラの顔!ちゃんと頭からこっちに飛んできてやがる。
あまりのサイズに距離感外して空ぶったらすべておじゃんだ、距離計をしっかり見る。
「まだ、まだ!」
もう顎の部分しか見えないが後五十メートル!
「今!」
ブーストハンマー起動!鍋ごと綺麗に当て込むと青いリルウの拡散魔術が伸びた後、アズダオの火と衝撃が視界を歪める!
「ふりぃきれえええ!」
ぎりぎりと機体が軋む音が一瞬するも、打ち勝った。再度景色が歪むとクジラは跳ね返るように上に飛んだ!
「うおおおおお!」
ハンマーを振りぬいた後、後方に全力でブースターを吹かす。機体のブースターはまだ動くが、規格外兵器の為にすぐにジェネレータがダウンして機能不全になる!なるべく陸に近づくようブーストを吹かすと、背中から龍二人がすれ違う。
「ガイドいきます!」
「まだ先だああああ!」
白竜はクジラの上下に光るレールを引き空中で滑らかに前へ進めている。赤龍は既に口に青い光を咥えている。
「場所決めできました!離れます!」
そして白竜は翼を翻し、遠目に見えたクジラの着水と共に機体は動作異常を起こした。
「死ねええええええ!」
その場所に赤龍は青く輝いて光を放つと、一拍置いて津波が起きた。
「へえええ?」
機体が落水した瞬間に俺は波にのまれた。
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「し、死ぬかと思った。」
「ま、まあ一網打尽だ、よかったじゃねえか。」
「まったく、結界が出来たからいいものの、爆発方向考えてくださいアズ…。」
あの後波のもまれて港に流れ着き、機体を強制収納して港に駆けると、光の壁が津波をはじいていた。日暮れ前だが前倒しで結界が完成し、丁度その時津波が来たので結界にリルウがマナブレスを吐いて衝撃を作り、津波の威力を緩和させたらしい。というのもこの結界、物理的な衝撃は一切関与しないのだ。
一応内部からもフェニルが結界に追加で魔導防御をかけて補強した、即席マジカルリアクティブアーマーである。すげえやっぱ天才なのかと思いつつフェニルを見ると、騎士のひざ元で寝ている。泣き疲れて寝たらしい。
「とりあえずなんとかなったが、綱渡りが過ぎるな…。」
過去一準備をしっかりしたはずなのだが、一番きつかった。もっと人員を、でも逆にこれ以上に必要な人員はいないか。
「結界張れたから呼びいこうと思ったら港からの異臭がすごいぞ!なんなんじゃ!」
白石からリノトの声が入る。もうここに居る全員は鼻が麻痺して臭いが解ってないが、この腐肉や汁をほっとくと疫病が起きたりするかもしれない。
「はああああああ、掃除か。するかあ。」
「もう今日あがりでいいじゃんかあ…。」
「でもこれほっといて帰る訳にはいきませんよ…。」
「城から兵士よんでくるっす…。」
はしゃぐ気力もなく皆で残業へと移行し、祝賀パーティを行ったのは一月後だった。使った鍋は逆さに反り返った為にパーティでは新たに新調した物を使用したが、今回防衛に使用した物はそれはそれで記念品として港に飾られた。
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