26 新作

 視察後の全体会議で報告をすると、リノトが青い顔をしていた。詳しく話をすると、どうも若返りの術は願術の外法らしい。


 複数の子供を生贄にする物で、外法を忌み嫌うイズナがそれをするはずはないという事から、その少女が本当にイズナなのかという話になった。


 後日リオウに取り次いでもらい、転送は行わず会話だけで確認を行った。長い時間話をしていたが、リノトは複雑な顔で部屋から出てきた。


 なんでも、技術と経験の少ない遺伝子操作により、若くして死ぬ子や生まれぬ子にせめて意味をと使ったらしい。


 普通はそんな小さな子供になるまで若返る事は無いが、「材料」が多くあったために子供にまでなってしまったとの事だった。


「自分にもしもの事があったら、うちのラルとヴァズリを頼むと言ってきおった。」


 その二人は数少ない成功例であり、同時に自分の子供のようなものだと言っていたそうだ。そしてその口ぶりからも、リノトは少女がイズナである事を認めた。


 なお俺は酒の席で口説いたという話からひっぱたかれた。




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「さて今日はどうするか。」


 視察も終わり、迷いも変わらず残り続けているが、具体的にどうする事も出来ずに気を紛らわせるような作業もない。


 一応ジンウェルの結界は材料の用意とかも必要らしいが、そっちは自前で集めるとの事で布団でごろごろしている。


「土木取られたのがなー…。」


 文句言いたい所だが、在中のゴーレム技師は変わらず俺のファンで、なおかつ馬の国で武勲を増やした手前余計に尊敬された。


「リノトに言ってもなあ。」


 お主王なのだからそれでいいのじゃと言われてしまった。だが馬の魔物の時心配していたし、犬の国の一件もあってあんま無茶させたくないのかもしれん。


ビー、ビー。


「うん?」


 久々の電子音。格納庫を開く。


「あ、こんにちは。途中経過確認しにきました~。今いいですか?」


「あ、はーい。」


 久々の女神さまである。まあ暇な時でちょうどよかった。しかしこの途中経過報告は俺が格納庫を開いてぼーっとするだけなので暇つぶしにもならんのだが。


「最近なんかありました?」


「うーん、そんなに、とくに。」


 あれ、前回の馬の国の話って報告したっけか。まあいいか。


「はい、ログ取り終わりましたー。」


「はーいお疲れ様です。」


 まあ初めての作業でもないし、馬の国の事もどうせログに入っているし。いつも通りといった所か。


「あ、そうそう。」


「はい?」


 一仕事終わったからか世間話である。


「あなたが言ってたゲームの新作発売されましたよ~。」


「おんぎゅにあなねこんとば!」


 俺は喚いた。



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「おねがいしますぅ!そのゲームやらせてくださいいいいいい!」


「ええ、うーん。」


 俺は格納庫画面の前で土下座する。


「ほんと、ほんとなんとかならんですか!」


「ううーん、ちょっと先輩に相談してみますね…。」


「おねがいしますう!」


 死んでもやりたかったものなのだ、是非とも、なんとかやりたい。一応能力のアンロック候補に入れ込んでくれて、女神さま的には喜んでもらおうと思ったからだそうだが、俺が変な食いつき方をした形である。


 一応あれやこれやとゲームをする理由も添えたが俺の本音は透けて見えているだろう。




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 二日後


「許可出ましたよ!」


「いよっっっしゃあああああああああああ!」


 生きててよかった!いや、死んだんだった、転生してよかった!


「ですがとりあえず能力を取った際に付随して、この格納庫を利用してゲームをするという形になります。それでこの能力のポイントはこのぐらいになります。」


「うぐ、高いっすね…。」


「前作に比べて人気だから高いらしいですよ。」


 株じゃないんだから。でも流石に活躍した上で王様なので、ポイントは足りている。


「まあ、迷う必要は無し!能力とります!」


「はーい。まあ一応、今回ゲームできるのも動作イメージを理解するのに良いのではって話もありましたから、能力を使う前にやってくださいね。」


「わかりましたあ!」


 お、取ってつけた理由が刺さった。なんでも言ってみるもんだ。


「次元が違うのでネットワーク対戦とかはできませんのでそこは我慢してくださいね。」


「はい!」


 次元が違うって言葉をこう使う事あるんだなあ。まあ、そこはしょうがない。流石に我慢しよう。


 こうなると今暇なのは助かるな。とはいえ一応なんかあった時用に、早めにクリアして実運用も見据えて機体もある程度形作っとこう。となると、徹夜でやるか。


 なおゲームができるようになるのはこれまた二日後だと言う。めちゃくちゃ楽しみにしながらも、皆に食事や散歩ですれ違った時に、ちょっと部屋で頑張るから部屋から出ないと言っておいた。


 もちろん詳しい内容は伏せた。みんな仕事してる時に徹夜でゲームと言いづらいし、テレビゲームの概念がここにはない。皆不思議そうな顔をしながらも頷いてくれた。




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三日後


「最高だ…。」


 とりあえず全部のエンディングを見た。三日かかった。前作から十年近く経った後の復活だったが、素晴らしかった。生きててよかった。いや死んでるのか、転生して良かった。


 だが久々の連続徹夜により体と思考がガタガタである。今また事件が起きれば俺はクソの役にも立たないだろう。早めに元の生活に戻らねば。


 とはいえ現在はまだ暗い早朝、この時間では食事は無いだろうから、水でも飲みに行くか。


 一応この国では王様らしい食事とかは無く、皆食堂で食べるという事になっており、これはリノトも一緒である。


 というのもあんま贅沢すると神様に怒られるからだそうで、王、神、民で互いに見合う三権分立みたいになっているのだとか。


 またミズタリは代々女王政で、女系が王でそこに男が婿入りする形であり、一妻多夫の時代もあったらしい。


 婿入りでも扱い良いのありがたいなと思いつつ、食堂に着き水差しから水を飲むとメノウと会った。


「お、メノウ。」


 そう声をかけるとメノウは驚いた顔と同時に駆け寄ってきた。


「だ、大丈夫ですか?」


「え、ああ。」


 まあ徹夜でゲームしてただけだし。


「で、でも。こんなにやつれて。」


 まあ飲食はおろそかにしてたけども。


「まあ、大丈夫さ。ちょっと疲れてるから、少し調子戻す必要はあるけどさ。」


「本当に、お体大事にしてください。」


 そう言った後、メノウはチラチラとこちらを見ながらも食堂を後にした。


 あぶねえ、変に大事になると面倒である以上に理由が理由なんだ。


 だが水飲んだ為に空腹を自覚し、ちょっと魔法冷蔵庫の中探すと干し肉を見つけた。


 一応この魔法冷蔵庫は割と一般的であり、最初の町で生肉売ってたのもこの手の技術かららしい。一応最新型のジンウェル製魔導冷蔵庫導入の話も出ているが、今のがまだ使えるので更新は先だ。


 とりあえずここのやつは自由に食っていいはずだ。そいつを食いつつ米喰いたいなあと思いながら水で流し込んでいると、今度はテトとアズダオが来た。


「おう、おはよう。」


「あ、おお!大丈夫なのか!」


 そう言って二人も駆け寄ってくる。


「なんだおい、犬との戦闘の時よりもやつれてるじゃねえか!」


「馬ん時よりもだぞ!」


「え、いやまあそんな。」


 あれ、一応合間に飯は食っているんだがな、なんでそんな疲弊した感じなんだ。


「そうだ、終わったんならまた焼き肉しよう!な!」


「あ、ああ!そうだな、またとってくるぜ!」


「え、いや、俺ちょっと寝たい…。」


 そして二人はそのまま走って出て行った。なんだ、消耗はあるにしてもちょっと変だな。


 だがちょっとだけ肉を食い満足。一応後少し経てば朝食もできるだろう、一度部屋に戻ろうとすると廊下の先から誰か駆けて来る。今度はフィルとリルウか。


「あー、おは」


「回復するよ!」


「はい!」


 そのまま立った状態で回復、一気に軽くなる体。おお、これならばもうちょっとだけ追加でやろうかな、そう思うとフィルが頭を押さえて固定してきた。


「目の充血がひどい、栄養状況がよくないよ。」


「脈は平常です。怪我もありませんがむくみは強くあります。」


「口開いて。」


「いや、あの。」


「口開いて!」


 思わぬ圧で口を開く。


「ちょっと腫れてる。けどさっきの回復でひくとおもうから。」


「あー、いや。そのさ。」


 そう言うもフィルに抱きしめられて黙らされる。


「あんまり心配させないで。」


 そしてフィルが離れるとリルウがそっと寄り添ってくる。


「私たちも力になりますから。」


 そう言うと二人はこちらを見ながら去っていった。ゲーム徹夜でしてただけなのに…。


 あの後朝食を食べて昼寝の後にちょっと外に出る事にした。案の状皆に結構心配される。


 結局ゲームも無いこの生活だとやる事無いので、基本何かなければ外をぶらついていたのだが、それが意外と皆や国民に見られていたらしく、引きこもってたらマジで見ねえけど何かあったのかという話になったらしい。


 これあれか、生前の営業が用はないけど来たって話が意外と効果あったみたいな事なのか。




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「なんて事がありました。」


 前回のログ取りの後、口頭で馬の国での話するの忘れた事で、ちょっと女神さまから小言を言われたので今回はちゃんと報告する。


「いや、あの、そんな一気にやらなくても…。」


 ごもっともであるが、何年も待った事も相まって徹夜を後押ししてしまった。だが仕方ないにしても今後は気を付けようと思った。


「というか結構人望あるんですねー、俺。」


「それは当たり前ですよお。」


 そう女神さまと談笑すると女神さまはなんか画面上で手を動かして、


「だって、あなた転生してこなければ大体こんな結果になったんですよ~。」


 そう笑いながら出した一覧表。それは俺の転生しなかった場合の事が書かれていた。その内容は。


メノウ

 純人の町で処刑


テト

 純人の町で処刑


リルウ

 望まぬ男性化により発狂、究生龍の一団と相打ちで死亡


フィル

 性差による差別から内乱が勃発し処刑


リノト

 犬の国にミズタリを滅ぼされ、犬の国で自刃


ヤナ

 任務中に捕縛、拷問の末死亡


アズダオ

 リルウ討伐の為に一団を率いて相打ちで死亡


オシュ

 魔物に捕食される


ガルム

 高負荷実験により廃人に、後廃棄処分


ザルカ

 孤独に生きた後、百年後に餓死


 その他にもミズタリはしっかり滅びるし、ジンウェルなども滅び、その余波で各国に死者が積み上がるなども書いてある。


「一応精度的に八割程度の確率でこの結果になるというただの予想ですが、あなたが転生してみんな助かっているんですよ!」


 そう言う女神様だが、もしも、何か一手間違ったらと思うと身の毛が弥立つ。


「だから自信もってくださいね!」


「あ、え、はい…。」


 その後の話はあまり頭に入ってこず、それから一週間は俺もみんなも妙に優しくなり、思いやり週間みたいになってすごいぎくしゃくした。


 そんなこんなで能力を取った事自体を忘れてしまい、新しい能力を使うのは結構後の事となる。

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