23 走る

 アサルトヤンデレが突撃してきてしばらく経った。ザルカは揉めるだろうなあと悩んでいたのだが、意外と直ぐになじみやがった。


 今のところ目立って仲がいいのはメノウとヤナ。メノウはどうも独自に呪術を教わりに行っているそうで、リノトからどうしようかと相談を受けてたりする。ヤナは理由が分からないが妙に馬が合う上なんか教わっている。


 またフィルは黒エルフが嫌いだそうなのでひと悶着を警戒していたが、なんと割と早い時期から行動を共にしていた。


 なんでも魔法具と長寿食糧の知識交流が有益だったらしく、俺の為に手を組んだとの事。


 更にガルムとメノウの仲も良くなった。話を聞くと、機体の上でいろいろ聞いた所、結局自分とそんなに変わらないんだと解ったからだと言う。ガルムも照れながら受け入れているようだ。


 雨降って固まった地を見て意外と何とかなるなあと思っていたら、オシュのテンションが最近更に高い。なんでも誕生日が近いそうだ。そしてその日が数日後に迫った所で事件が起きた。





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「うん?」


 朝一で廊下から走る足音が聞こえたりして騒がしい。なんだなんだと俺も部屋から出て、侍女が走る先へ行く。


「お父さん!」


 すると先からオシュの大声が。なんだ、ちょっと尋常じゃないなと俺も声の先へと走り出すと、ポータル部屋にたどり着く。中に入ると傷だらけのムズネが居た。


「大丈夫か!」


 その姿に俺も大声を出すが横でフィルが回復魔法を使っている。恐らく命に別状は無いが、それでも衰弱が見て取れる。


「すまない、勇者殿、頼みがある。」


 俺に気づいたムズネは痛みに耐える顔が一瞬で引き締まり声をかけてきた。


「なんだ。」


「伝説の魔物が出た。頼む、助けてくれ。」


「わかった。」


 状況確認も打算も無く、そう答えた。





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 その会話の後に現状を確認していく。ムズネが言うには重傷者が沢山いるとの事で、こちらで回復魔法を使える者を送ろうとすると止められる。


「今は励起の季節だ、向こうで魔法は使えない。」


 意味がわからないが仕方なしに彼の言う通りに、重症患者だけをポータルでこちらに受け入れる。


 しかし狭いポータル部屋で馬族を受け入れるには手間がかかる為に一度閉じ、王宮の庭で輸送を開始。あっという間に野戦病院の有様となる。


 その間にムズネから話を聞くと、今は励起の季節という状態で、草原一面にマナが満ちており、下手に魔法を使用すると魔反発火でえらい事になるそうだ。


「一応現地に軽症者もいるが薬も底をつきそうなんだ。」


 馬族は気力の一族の為魔法は使えない。気力は物理的な力が多いために、自己回復力を高めるぐらいが限界だそうだ。またフィプルメヌはこの励起の季節の為に魔力を使う部族が居ないらしい。


「大丈夫です!一応ミズタリにも薬草の備蓄はあります!」


 そう声をあげたのはメノウだった。そう言えば逃亡生活でも薬草関係でひと悶着あったぐらいだからミズタリに来てもやっていたのか。


 同時に俺もなんかないかと格納庫を漁ってみると、使えそうなのは消毒薬マロキン大中小。確かに生前コピー品みたいなの使って見事に化膿した後、正規品のこれ使ったら見事に引いたので信頼してはいるけども、うーむ、しょぼいか?


 後は頭痛薬バリファン一箱。一応痛み止めとして使えるけど、体馬の人に使えるかは微妙だしやめとこう。後は脱脂綿一袋ぐらいか使えるの。


「それじゃあメノウ、俺に薬草渡してくれ。格納庫に入れて俺が向かえば転送負荷が低い。」


 この転送裏技は物流の革命になるも、俺が出ずっぱりになるので偶にしかやらない手だ。だが立ち上がろうとする俺の手をムズネが掴む。


「駄目だ、勇者殿。あなたには魔物を倒していただきたい。伝承と、相対して得た情報を伝えさせてくれ。」


 その一言で状況を理解する。これ結構俺の立ち回り次第で状況が変わるな。


 血が香る中、応急処置だけ終わらせたムズネと馬族が説明をする。なんでも相手は狼の魔物だそう。だが問題は大きさが王宮の母屋の縦横二倍ぐらいだそう。デッッか。


「大型の魔物であるが、更に眷属として小型と中型の狼を引き連れている。全体として数が多い。」


「重症とはいえ、そんな奴をよく撃退できたな。」


「向こうの前哨隊は撃退できたのだがな、魔物本体が来た結果この様だ。それに向こうが勝手に退いただけだ。言葉だけ残して。」


「何言われたんだ。」


「オシュを嫁に寄越せと。」


「はあ?」


 なんでもここら辺は伝承と同じようで、その部族の族長の娘を嫁によこせと言うらしい。あと、嫁という言い方をしているが結局生贄だそうだ。


「勇者さま。」


 オシュが怯えた目で俺を見る。そして俺の眼を見て一瞬で安心した様子だ。渡すわけがない。


「さすが、勇者殿だ。」


「大丈夫だ、そんなでけえ犬なんてうちのマルチプルで一発だ。」


「え、ダメだよ勇者さま。たぶんマルチプルちゃん使えない。」


 ちゃん付けは置いといて話を聞くと、励起の季節は魔法が使えないのもあるが、草がいつもよりも燃えやすくなるらしい。その上デカい衝撃を与えると何が起こるかわからない上、一度火が付けば全てが燃えて住めなくなってしまうとの事。


 楽勝勝負ではなくなってしまったが、とはいえ退くという選択肢はない。


「わかった、それじゃあうちの気力組を集めるか。」


「判ったっす、それじゃあ姉御呼んでくるっすね~。」


 いつの間にかいたヤナに今気が付くも、驚かずに居てくれて助かるぐらいの考えで無言で頷く。


 その後テトと合流し、白石でガルムを呼ぼうとするもテトに止められる。彼女は気力と魔力の併用が出来るが、単体使用はほとんどした事が無いので厳しい上、彼女は今、犬の国で二回目の解呪対応を行っているので無理に呼び寄せるのは、との事。


 とはいえ彼女に言葉も無しに出るのも悪いと思い、行ってくると話をするだけに留めた。


 そのガルムと話をしている最中に、テトはムズネと話をするとすぐに駆け出した。白石での連絡を終えると改めてムズネが話を始める。


「今一応フィプルメヌに居る他の部族も集まって陣を敷いている。詳しい話はそちらでしよう。」


「ムズネ様、傷埋めはあらかた終わりましたわ。よろしいですか?」


 横に居たフィルがムズネに話しかける。口調と声色からも外行きモードだ。


「丁寧にすまないな、それでは頼む。」


「わかりました。」


 そう答えたのはリルウだ。そして彼女が改めて回復を行うとムズネの傷は一瞬で癒えた。というのも彼女は回復魔法を練習し、回復魔術として独自進化させたのだ。


 その手腕は犬との戦闘でも生き、龍の姿で変わった色のブレスを吐いていたいたが、あれは炎と回復魔術を混合させたブレスで、焼きながら治す拷問みたいなブレスらしく彼女との死傷者はあの戦闘でゼロだ。それで軒並みPTSDになったのも問題になっているのだが。


「おお、すばらしい。これでもう一度戦える。」


「傷は残ってしまいますが。」


「構わんよ。」


 確かにいくつかケロイドが残るが、そこまでひどくはない。まあ、男ならば気にしないだろう。


「おおーい、頼む!転送変わってくれ!ちょっともうきつい!」


 そう声をあげたのはアズダオだ。彼女は自己回復しか使えないので転送係にさせられた。またリノトは占いで今後の状況を見てもらっている。


「それじゃあ、リルウ頼む。フィルはとりあえず応急処置だけ頼む。」


「わかりました。」

「わかりましたわ。」


 そう二人が答えた後にメノウが薬草袋を、テトは兵士と共に弓矢を持ってきた。


 俺はそれらの補給物資を格納庫に詰め込み、各々が準備し終わると日が暮れかけていた。そして準備が出来た気力組のオシュ、テト、ヤナとムズネと共にポータルへと入った。




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「なんだこりゃ、すげえな。」


 転送先の家から出ると、草原すべてが光るひび割れのように輝いて独特な景色となっていた。こりゃ何もなければ綺麗なだけなのだが。


「おお、話には聞いてたが確かにすげえな。」


「めちゃくちゃ気力みなぎるっすね。」


 猫二人は驚いている横でオシュの表情は暗い。まあそれもそうだろう。そろそろ誕生日なのに最悪の里帰りだ。


「向こうの建物に一族の長が集まっている。いこう。」


 そう言ってムズネが先導する。道中でも傷病者がおり、見た所馬族だけではない。馬族以外は二足で大体角が生えている。


 目的地の建物に入ると、ごたごた荷物がある道の奥に、真ん中に囲炉裏みたいな物がある場所に三人座っていた。


「彼らはそれぞれの部族の長だ。牛族だけ代理でその妻だが。」


 皆が頭を下げる。見た限り、羊、山羊、牛といった感じか。そして見入る牛族の女性。デッッ


バシッ!


「いって!」


「それどころじゃないだろうが。」


 テトに怒られる。いや、まあそうなんだけどさ、くっそ残る二人もすげえ顔して睨んできやがる。ムズネが微妙にノーリアクションなのがちょっと申し訳なかった。そのまま席に着く。


「早く皆嫁に出せ。」


 そして開口一番、山羊の長が言ってきた。


「はあ?」


「うちの娘はもう出したんだ。他の所も出せば済む話だ。」


「お前!」


 俺は声を荒げ席を立つと、ムズネが抑えた。


「今回の魔物の第一発見者は山羊の部族だ。」


 その言葉を聞き、座り直す。うすら笑ったり強張ったりと表情が不安定な理由が少しだけ判った。恐らく一族と娘を天秤にかけたのだろう。


「こちらは今代の勇者殿だ。呼んできた。」


 その言葉に俺は頭を下げる。


「ずいぶん都合よく来たな。」


「娘を彼の元に出しているのでね。いろいろと融通してもらっている。さて、話をしようか。」


 そして会議を始めた。従属派は山羊の部族のみで、残る部族は皆戦うつもりであるが、既に被害は大きいようだ。


 案の定揉めるが、魔物が来るのは二日後という事で早く決断せねばならない。このまま平行線になりそうなので、俺は面倒だからと折衷案を提案する。


「もういい、とりあえず非戦闘員と、怪我の者は山羊の部族と共に離れてくれ。いくらかはミズタリで受ける。」


「ふん、他部族の者が居てはこちらも襲われてしまう。ついてくるのは構わんが、もし魔物が来たらそいつらは捨てて我々は逃げるぞ。」


 案の定の山羊の長の回答に、他部族がいきり立つも俺が抑える。


「それで構わん。一応ついて行く者にそれを伝えてくれ。後ミズタリも無尽蔵に受け入れられない。だが子供であれば転送負荷が低い為に受け入れやすい。そこらへんも考慮して選定してくれ。」


 平行線故にバッサリと切った。牛と羊の族長はこちらを見た後、憤りながらも黙った。


「ふん、精々無駄にあがく事だな。」


 そう言って山羊の長は立ち上がった。


「あとだな、そこの山羊さんよ。」


 そうただの山羊呼ばわりされた事から族長はこちらを睨みつける。


「なんだ。」


「お前の娘の敵は必ず取る。楽しみにしてろ。」


 俺がそう言うと、山羊族長は無言でうつむいた後に、唸りながら泣きだし、こちらに歩み俺の両肩に掴みかかる。


「だのむ、たのむ!あの魔物を、あいつを殺してくれえ!」


 俺は無言でつかんだ彼の手に自分の手を重ねた。爪が蹄のように独特な感触なのを感じつつ、


「ああ。」


 そう答えた。




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「我ながら大見え切ったもんだ。」


 会議を終えて、家の外で一息つく。結局山羊の長も自分の決断は間違っていなかったと自身に言い聞かせていただけなのだろう。


「勇者さま、いいの?」


 横からオシュが話しかけてきた。山羊はああも答えたが、それでも退く事を選んだ。


 とはいえ非戦闘員の退却は必要な事だし、ある意味ちょうどいい。というか、フィプルメヌの部族のうち、山羊と羊はあまり強くなく、馬と牛が強いようだ。


 確かに牛の男は体躯が大きく、力強い。獲物は斧がメインで、昔は馬ともやり合ったようだが、弓技術と移動速度で負けて馬が首長となった歴史があるそう。


「まあ、しょうがないだろ。敵前で騒ぎ足られるよりかはマシだ。」


 ここら辺は戦の素人の俺が言うのも難だが、これを仕事と捉えた場合、反対意見しか言わない士気の低い者が居ても仕事にならない。そしてその原因からも説得は厳しいだろう。完全に心折れてるし、短期間で説得できそうにもない。


「しかし襲撃時間がちょうどオシュの誕生日前とはな、クソみたいなタイミングだ。」


「うん…。」


 オシュに覇気はない。というのもオシュの行っていた学校は部族共同の物らしく、今回嫁に行った子も友人だったとの事だ。


「帰るか?」


 あまり士気の低い者を戦場に立てさせるわけにもいかない。生前では思いもしない事だったが、流石に何度か戦闘を経験したからか、すっかり俺も一人前面だ。


「うーうん、僕もやるよ。」


 その返答で彼女の戸惑いは消えていた。彼女もこの国に住む部族の一員であるという事だろう。


「それに、勇者様いるから大丈夫だよね。」


 そう語り掛ける彼女に、俺は勇者じゃないと言う事ができなかった。


「ああ。」


 やるしかないのだ。




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 翌日に一度、ミズタリに戻る。こういう時歴史ものに詳しければいろいろ術があるのだろうなあと思っていたら、ミズタリの大工が木の刺柵を届けてくれた。


 というのもフィルがあの後大工に連絡をして、持ってきてくれてたとの事。だが一晩で作ったにはあまりに多いので話を聞くと、リノトの話から犬の国との闘いの話を聞き、独自に作っていたが使わずに終わってしまった物のようだ。


 棟梁から無理はするなと言われつつ、握手をした後にみんなでひたすらに頑張って格納庫に詰める作業が始まる。きつかった。格納庫には柵×四十三の文字が。頑張った。


 再度弓や槍も格納庫に詰めてフィプルメヌに行こうとすると、向こうの部族の子供達とすれ違う。オシュが子供達を引率していた。転送質量の問題から子供達だけなのでもっと怯えるかと思ったが、オシュのおかげですんなり話が進んで助かった。だがオシュ本人は無理をしていそうではある。


 それを横目にポータル部屋に入るとげっそりしている龍二人。考え事しながら出てきた時は気づかなかった。すまんと声をかけると無言で腕を突き出した。彼女達も戦いたいが、それが今回出来ない為に文句を言わないようだ。


 少し彼女達と雑談をしていると後ろからとたとたと足音が。リノトだ。占いの結果を伝えに来たとの事。


 だが彼女の占いはミズタリの神様と協力し、マナや魔力を読んで未来を予測するという仕組みである為に、ミズタリの中の事しかわからない。そしてその中で見えたのは、ミズタリ国境付近で山羊の部族を見た事ぐらいだった。


「おぬしを占えぬ事がこんなにも辛い事とはの。」


 占いの結果の最後にそう一言付け加えた。そう、俺だけ魔力が無いのに状況を動かすほどの力があるから、俺の未来は読めないのだ。


 なんとも言えない結果だが、一応俺が死んでもミズタリは問題ない事は確定だろう。この場合彼女が居て助かるのだが、安心して死ねると言う言葉は流石に言えなかった。


 その上でリノトは期待を込めて俺を見る。俺が行かないと言う言葉を待っているように見えるが、恐らくその答えも解っているのだろう。


「それじゃあ行ってくる。」


「うむ。」


 案の定そう答えた時の彼女は悲しそうだった。




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「来るのは夜だ。」


 そう襲撃日前日にムズネは教えてくれた。ここまで律儀にやってくるのも、魔物側が完全に舐めてかかっているからだそうだ。だが魔物の情報を聞くに、まあ舐めて来るのも納得の強さとの事。


 とりあえず単体でも究生龍よりちょい強いかも+手下付きと言う事で戦力差がとんでもない。


 機体を出せれば楽勝で叩けるが、それでも細かいのがいる以上無策じゃ被害が出るだろうし、火でもついたら文字通り国が炎に包まれるとか相当きつい。


 とはいえ既に念入りにブリーフィングと準備はした。そして夜戦の為にしっかりと昼寝をして、美しい夜景の草原に皆と佇む。そしてしばらくして、その草原の光を覆うように何かが向かってきた。


「なんだ、あの量は。前の倍以上だ。」


 ムズネが声を押し殺しながら言う。確かにすげえ量だ。その中から一つ大き目の奴がくる。近くに来た魔物は既に俺よりでかい。でかめの車ぐらいの狼だ。コイツが話にあった中型か。中か?


「ヨメヲヨコセ。」


 片言で魔物は言う。作戦上、これからだまし討ちのようにしてしまうのがちょっと卑怯かと思ってしまうが、この早速感からそうも言ってられないか。


「ハヤク、ワレガモドラネバミナゴロシ。」


 その言葉に、それならここで話を突っぱねる必要もないかと、後ろのテトとヤナに目配せして頷く。そして飛び出た二人は狼の頭を切り落とし、胴を三つに切り分けた。


 俺は腕からスナイパーライフルを取り出し、何匹かの頭を撃ち抜いた後に中型の頭を撃ち抜くも、中型は死なない。どういう仕組みだ。


「オシュ。」


「わかった!」


 そう言ってオシュはミズタリの長弓に気力を込めて打ち出すと、派手な光と共に何匹か吹き飛ばした。なんだこりゃすげえなと彼女を見ると、完全に戦う者の表情だ。そして背中の鞍兼鞄から追加の矢を取った瞬間に、前の軍勢が向かってきた。


「よっしゃきたぞ!」


 そう言ってオシュの鞍に飛び乗り、一度皆で後ろに退く。


 作戦としては陣まで一度退き、持ってきた柵で進行を止めさせて本隊が弓で迎撃。陣の横から馬族で遊撃しつつ、遊撃隊に近づいたのをテトヤナが迎撃。俺とオシュは本隊で撃ちまくり、突っ込んできたのを牛の部族と共に対処する立ち位置だ。


 一応陣形が崩れて混戦になった時用に後方部隊もいるが、そちらはけが人と羊、山羊による混成部隊の為あまり出したくはない。とりあえず無事に本隊に戻れた。


「よしたどり着いた!各々、作戦通りに!」


 敵の動きが舐め腐ってるからか、そのまま柵地帯に突っ込んでくれてうまく状況が移行。


「テト、ヤナ、たのんだぞ!」


「あいよ!」

「わかったっす!」


 今回は新型の小型白石を装備している。試作品故に自分含めたミズタリ四人とムズネの五つ分しかないが、このサイズでおおよそ三キロ程度まで通信が可能との事。しかも励起の季節でマナが満ちている為か、通信が滅茶苦茶クリア。恐らく想定よりも長く通信出来るのではないだろうか。


 とりあえず素人作戦の包囲殲滅を決めたが割と調子がいい。細かい所はムズネ達が詰めてくれたからだろうか、小型はバシバシ落としている。だがそのままに終わる訳も無く。


「やべえ!こっちにきやがった!中四!」


 テトから通信。中型四体が各個撃破に回ったようだ。分散させずに集中投下か、にくいほど判断がいい。


「こっちは小型だけっす!捌いたら姉御んとこいくっす!」


「こちらからも出る!ヤナの所には牛族何人か送っとく!」


「広がり方から三名欲しいっす!」


「わかった!ムズネ、左辺に三名牛送ってくれ!オシュ!右辺に向かうぞ乗せてくれ!」


「「わかった!」」


 俺は鞍にそのまま飛び乗り右辺に向かう。狼の光る眼が励起の光を映すが、それが次々に消えていく。話では何体かすり抜けたようだが、一応後方の混成部隊も意外と士気が高い。


 山羊の部族からも志願兵が出た上に、ミズタリの槍を渡した為に錬度はともかく武装も悪くない。そして怪我の為本調子では無いものの、指揮官として牛族の長が控えている。なお牛長とはマロキンが沁みなくてよいと仲良くなった。


 敵戦力についてだが、小型はほぼほぼ普通の狼らしく、殺せば消える以外は大差ない。まあそれでもこの量は普通じゃないが。


 だが問題は中型で、機動力が高く、光る爪までついて、その上飛び道具まであるらしい。しかも機動力は小型据え置きレベルで速くて攻撃力あって飛び道具まであるやばい奴。コイツをまずどうするか。


「どりゃああああああ!」


 テトの怒号だ、通信とかぶって微かに声が聞こえる。そしてその道中で二体、馬族の遺体があった。流石に損害ゼロは無理か。その先には光る粉をまき散らし合っている白いテトと中型狼二匹が光る爪で競り合っていた。


「着いたぞ!加勢する!」


「頼む!一体は落とした!」


 よく見ると横に分解が始まっている中型が。そして横にはテトからノーマークの狼が光る爪を振りかぶっている。爪は一本なのだが、そのサイズが二メートルはある。


「うおおお!」


 アーマーの集中強化を起動し、アサルトライフルで頭を撃ちまくる。景気よくつぶれて怯んだ。


「オシュ!ちょっと飛び降りる!お前は横から弓を頼む!」


「わかった!」


 俺は鐙から足を抜き、鞍から飛んで地面付近で大腿部ブースターを起動。そのまま頭のつぶれた狼の腹の下に入って蹴り飛ばす。


「大丈夫か!」


 同時にテトは中型二体を弾き飛ばす。あれ、テトパワー勝ちしてない?


「問題ないが、お前ちゃんと核潰したか?」


「え?」


 蹴り飛ばした狼の頭はずぶずぶと再生し始めており、こちらに向き直った。


「頭は潰したぞ!」


「ダメだ、あいつら核が二つある!頭と胴両方潰さないと死なないぞ!」


「くっそ、オーバーキルぐらいで丁度いいのかこいつら。」


 だが頭の潰された狼の腹部に閃光が奔った。オシュの矢だ。中型の腹部がガバっと削れ、そのまま倒れ動かなくなった。


「えへへ、どう?」


「よくやった、オシュ!」


 こちらの戦力も十分にあると言う事か。中型も意外となんとかなるのでは。


「まずいっすよ!」


「あん、なんだ?」


「本体、大型がそっち向かってるっす!」


 くっそ、楽勝とはいかんよなあ!


「来た、目視で確認!」


「旦那は中型抑えてくれ!大型は任せろ!」


 テトが更に強く輝くと前に出た。俺は中型に銃を向けるも早すぎて当たらない。集中強化はもう少し休ませねばオーバーヒートする。


「おぅるぁあ!」


 そのままテトと本体がぶちかまし合い、サイズさで吹っ飛ぶも、爪を地面に食い込ませて割と相殺クラスまで抑え込んだ。


「貴様ら!」


 流石大型、言葉が流暢だ。だがこれだけマトがでかけりゃ当てれる。


「いくぞ!」


「逃げるぞ!」


 そう大型が言うと中型引き連れてそのまま逃げて行った。あまりにあっさりとした引き際に、少し呆然としているとオシュが来て大声をあげる。


「追うよ!」


 その一言で思い出した。伝承の話でも、勇者はなんか止めを刺さずに封印という形になったのだが、どうも逃がした、というか逃げられたのではないかという説もあったそうだ。というか、ここで逃すとまた引き連れてくるぞ、これ逃すと終わらなくなるやつか!


「わかった、いくぞ!二人も頼む!」


「「まかせろ!」っす!」


 俺はオシュに飛び乗り、テトヤナはそのまま駆けてついてきた。完全に追撃の状態になった今、その速度はとんでもなく速い。既に山越えの倍の速度だろう。


 ミズタリで無理矢理オシュに付き合わせられていなければ、もう振り落ちてたかもしれない。しかし、前に居る三匹のうち、中型一匹がいきなり踵を返した!


「んな!」


「まかせろ!」


 横のテトがそれに反応し取り付いて転げていく。


「こいつは俺が潰す!サシなら負けねえ!気にすんな!」


「わかった!頼んだぞ!」


 そうの会話の後にテトの怒号が聞こえた後、通信が切れた。範囲外か。


「旦那!前!まえ!」


「ん?」


 後ろを見ていた為にヤナの声で向き直ると中型、大型からの射撃攻撃が。反応が遅れた!集中強化を起動!攻撃の起動を読もうとするも。


「あれ。」


直ぐに集中強化を解く。オシュがよけてくれていた。


「すまんオシュ!」


「気を付けて!第二波くるよ!」


 上を向くと黒い槍みたいなのが打ち上げられているようだ。闇夜で見えず、見えずらい為にカメラを暗視モードに変えるも草原の光を拾ってそれも逆に見えづらい。


「くっそ、やりにくいな!」


 再度オシュがいなして避ける。注視して見た所、どうも弾を出しているのは中型の方が多い。速度も更に上がっている事からあれはエース機みたいなもんか。


「あの中型をどうにかするぞ!」


 オシュは走りながら弓は撃てない。なので俺が銃を撃つのだが、高速で走る上での射撃の為、上手く命中せず中型の速度は落ちない。


「くそ!どうする!」


「…任せるっす。」


 少し暗い声でヤナから通信が入る。その声からヤナを見ると、気味の悪い黒い霧が彼女を覆い、俺があげた短刀を口にくわえると四足獣の動きで駆け出し、一瞬で二回りほど加速して中型に飛びついた。


「とっておきっす。」


 飛びついたあとに咥えた短刀を中型に突き刺すと、ドギン!という変な音と共に中型の頭と胴に黒い十字が生えて、魔物は力なく転がっていった。ヤナも飛び降りたが着地は上手くできず、よろけてそのまま引き離されていった。


「ヤナ!ナイス!後は任せろ!」


「…頑張って、旦那、オシュちゃん。」


 声が暗いのが気になるが、今はそれどころではなく、前を見ると本体は更に加速して離されていった。


「おい、オシュ!速度出せないか!」


 このままだと逃げられる!


「勇者さまごめん!もう速度だせないよ!足も滑るし、風が布みたいに重い!」


 オシュの声は半泣きだ。走るのが好きで、そのフィールドで負けている上、ここは負けられない戦いだ。俺は慰める前に、何かないかと思い出す。そして出たのは直近のテトとヤナ。彼女らは爪や力を体に纏っていた。


「オシュ!気力を体に纏う事できるか!」


「たぶんできる!」


「足先に爪のように力を伸ばして地面をとらえろ!」


「わかった、できた!いけるよ!」


「次に目の前に気力を集めて風を裂け!」


「どうやるの!わかんないよ!」


「弓矢の先っちょみたいなのを前につくれー!」


「わかった!できた!いけるよ!」


 オシュの髪が白く輝き始めると、その瞬間に一回り加速が付いた。だが俺が鞍を抱えるぐらいでないと吹き飛ぶほどの風が吹く。


 何キロ出てるんだこれ、ちょっと見たくないが重力があやふやになるぐらいの速度のようだ。だが差は縮まった!射程内、ボディアーマーのサポートを最大にして銃を向ける!


「うお!」


 駄目だ、風が強すぎて照準どころじゃない!こっちにも気力でバリアをとお願いしたい所だが、ぶっつけ本番の今、細かいコントロール要求は厳しいか!


「くそ!」


 そのまま銃口は風に乗り後ろを向いてしまう。しかもオシュの鞍からギシギシと異音がする。くそ、オシュの力に耐えられてない!どうするかと一瞬悩むが、銃口が後ろに向いた事で一つ手段を思いついた。


「…オシュ。」


「なに!」


「抜くぞ!前から銃を撃ち込む!」


「わかった!」


 そこからオシュは更に一段階加速!なんかオシュの前が偶に白く水蒸気みたいなのを噴き出すが、俺は銃を収納して振り落とされないようにしがみつく!本体との距離は縮んでいく。


 白い煙に驚きつつも、その隙間から黒い物がみえた!攻撃だ、オシュは走るので手一杯だ、俺がやるしかない!集中強化起動!機体側の機能を使いロックオンで可視化し、そこから弾道予想!手薄な所が一応ある!


「オシュ!」


 そう一言言って、鞍のグリップを握り傾ける。


「わかった!」


 この阿吽の呼吸は彼女に数乗っていたからできる事だろう。恥ずかしいとか思っていたが、本当に何が役立つかわからんもんだ。


 弾道予想は少し間違っていたが、それでも全弾外れだ、だが鞍の異音は更に激しい!時間はない!


「そのまま突っ込め!」


「わかったあああ!」


 オシュはそこから二回り加速。あの状態からもっと速度が出る事に驚くが、遂にパキパキいってる鞍からそれどころではない。だがこれで前に出られると思った時に、改めて伝承を思い出す。というのも、どうも逃げる場所が決まっているそうなのだ。


「オシュ!このまま走り続けろ!何かあるかもしれん!」


「大丈夫!何となくだけど何か感じるよ!」


 そっち方面は大丈夫そうだ。そして遂に魔物を追い越し前に出た。ここしかない、無理矢理曲乗りみたいに体を後ろに向ける。


「よう、のろま。」


 そう言って俺はアサルトライフルを本体の顔面に乱射する。きちんと命中するも魔物は速度を落とさない。サイズ差がありすぎる!だが魔物はこの状況下で進行方向を変える気配は無い。


 予想通り何かこの先に何かあるのかもしれん。寧ろ弾丸を食らいつつもなお進む事から、何かしらの対抗策がある可能性すらある。


 止めなければ、もっと威力を。武装を変更し、ロケットランチャーにする。だがしかし、これを撃ったら発射時の後方爆風でオシュの頭が焼ける。悩む、が、その暇もないか。


「オシュ!俺はここで飛び降りる!後はまかせた!」


「え、あ、わ、わかった!」


 ボディアーマーのバランサー、集中強化のリミット解除!鐙から脚を抜いて鞍から跳ね飛ぶ!バキンと鞍が割れるが俺は高く飛べた。あまりの風と、空中という場所故に長く、ゆっくりと相手を狙い、ロックをかけて、撃つ。おまけでグレネードも投げ込んでおいた。


「ぎゃああぁぁぁ!」


 弾頭は頭に直撃し、爆発で前足一本を吹き飛ばした。ドップラーの効いた叫びで本体は転げて行く。一応この手の爆発物は事前調査で炎上しない事は確認済みだ。なお調子こいて機体も出したら着地と同時に炎上してえらい事になった。事前に草狩って対策しといてよかった。そして、分水嶺だ。


「うおおおおおお!」


 この速度での落馬である。お守り頼みだがどこまでいけるか。体を伸ばすとたぶんちぎれる。体をひたすらに丸め、頭を抱える。地面を一度跳ねて、滅茶苦茶に転げまわり、何度か高く跳ねて止まった。案の定、お守りは破裂したがなんとかなった。だが体全体が震えている。当たり前だが、すげえ無茶したな。


「ぐううううう…。」


 一歩、二歩と引きずるように歩いて、アーマーのボディサポートも機能し始めてゆっくりと走り出す。それをゆっくりとだが確実に加速させ、アーマー補助を使い全速力で走る。それはオシュには遠く及ばないが、震えながら立とうとする魔物は捉える事はできた!


「うおらああああああ!」


「うわあああああああ!」


 その勢いのまま、魔物の顔面に殴りこんだ。




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「ぎゃあああああああああああ!」


 俺は魔物の叫びと返り血を浴びていた。その血も光って消えるのだが、微妙に残る臭いがいい加減アーマー越しに香ってきやがる。


「なんでだ!死なねえ!」


 あれから残る足にロケットランチャーを打ち込み爆散させ、ショットガンを打ち込んで、アサルトライフルも全弾撃った。だが叫ぶだけで全然消えない!


「無駄だ!貴様に我は殺せない!」


「うるせえ!」


「ぎゃあああああああああああ!」


 ダメージは入っているようだが、死なない。弾が無くなってしまった為に何かないかとボディアーマーの装備を探ると、なんとディスクグラインダーが。そういやあったなそんなイロモノ武器と、そいつを持ち出して解体の真似事をしているが、飛び散る血肉にそろそろ気が狂いそうだ。


 しかし一瞬魔物の叫びが変わる。なんか硬めの、骨じゃないなんかがある!周りの肉を切り飛ばすと七十センチぐらいの丸い黒い何かが出てきた。コイツ核だろ!


「くっそがあーーー!」


 俺はそう叫びながら腹から出てきた核にグラインダーを当てる。だか魔物は叫ぶだけで核は綺麗に治ってしまう。


「無理だ、貴様には無理なのだ!」


「うるせえ!」


「ぎいいいいいいいいいいい!」


 クソ、まさかここで体力切れが問題になるとは。何か、壊し方か?とりあえずグラインダーを当てながら、装備を探ってみる。一応ハンドキャノンという大口径の貫通銃があったがコイツで弾を貫徹させれば壊れたりしないか?


「だ、だから!貴様には無理なのだ!」


「何で無理なんだよ。」


「我の核は二つある!そいつを同時に壊さねば、我は死なぬのだ!」


 初めて会話してみたが、どうも若干声が弱気になっている。


「だから!貴様には無理なのだ!」


「あ、勇者さま!なんか変な丸い大きい石見つけた。」


 ん?随分ちょうどいいタイミングに。


「んでどうすりゃ殺せるんだ。」


「我の核は同時に破壊せねばならぬ!それも一秒以内に同時にだ!そして核はここにはない!だから貴様の攻撃は無駄なのだ!」


 ほーん。


「あー、オシュ?弓かなんかある?」


「ごめんなさい、走る時においてきちゃった。あと短弓も鞍が壊れて…。」


「おい、貴様、何を一人話ている。」


「あー、気力の蹴りは?」


「それならいけるよ!」


「おい!黙れ貴様!」


「よし、それじゃいっせーのーせでそれ踏み壊してくれ。」


「判った!」


「やめろ!貴様!不可能だ!」


 俺はハンドキャノンを展開する。


「よしそれじゃあ、」


「「いっせーのーせ。」」


 バギン!


「馬鹿なぁーーー!」


 おおー、効いた。体の外側から消えてきた。なんか最後ギャグみたいな死に方したけど、まあ拷問して吐かせたみたいな感じだから仕方ないっちゃ仕方ないか。


「我の、我の世界、我の嫁…。」


 シューシュー言いながら消えていく中、魔物は力なくつぶやく。


「我の嫁を、奪うか…。」


 オシュとはまだ関係は無いにしても、奪いに来たのはお前だろうが。夜戦の上、リミットカットの疲労も相まって俺はキレた。


「うるせえ。オシュは俺のもんだ。」


 そう言って魔物の顔面にハンドキャノンを撃つ。同時に黙る魔物を前にして疲れからか座り込む。冷静に考えれば俺のものでもないしその言い様は良くないが、疲れていてそれどころでもなかった。


 血の匂いから逃れたくて、ヘルメットを収納すると吹く風は心地いが、血以外の気味悪い匂いまで嗅ぐ事になってしまった。


「勇者さま…。」


 しばらくぼーっとしていると、普段より小声でオシュが来た。ああ、こいつも流石に疲れたか。そのままゆっくりと歩いて来て、俺の隣に座った。


「あー、終わったなあ。」


「…うん。」


 喜ぶ元気もないし、腹まで減ってきた。あ、そうだ。俺は格納庫を起動しておにぎりを取り出す。


「ほれ、おにぎり。喰うか?」


「…うん。」


 だが食べるにはいろいろきつい場所なので、二人で立ち上がり魔物を背に風上へ向かう。臭いが気にならない事を確認して座り込み、おにぎりを一つ一つ取る。おにぎりは焼きおにぎりだ。最近やっと味噌が開発できたので味噌焼きおにぎりである。うまい、が。


「誕生日にこれは味気ないなあ。」


「…うん。」


 オシュも流石に元気が無い。そりゃあそうだろうなあ。あ、朝日だ。


「朝になっちまった。」


「あ、じゃあ僕、成人したんだね。」


 どうもこっちは朝日が昇ってからその日スタートらしい。生前と違うが、個人的にはこっちのが納得感ある。


 誕生日を祝うってのは年取ってくると煩わしくなってくる事だが、もともとは、

「一年間の生存に成功しておめでとう」という意味らしい。


 目の前のオシュは今文字通り、生き残り、勝ち取ったと言えるだろう。


「おお、オシュ。成人おめでとう。」


「…うん。」


 やっぱちょっと元気ない。改めて見てみると骨組みがプラプラしている鞍が。コイツも直さないと。そうか、鞍壊れてるから元気ないのか。


「オシュすまんな、鞍は一度持ち帰って直すからちょっと貸してくれないか。」


「…うん。」


 リアクションは変わらず薄い。うーん、改めて誕生日パーティーでもしてあげた方がいいんだろうなあ。


「にしてもめんどくせえもん封印したなあ、先代勇者。」


 改めて愚痴るが、たぶん通信機も無しだったろうから同時破壊が出来なくて封印したんだろうな。ある意味で今回一番の武器は通信機だったと言う事か。対犬の国用だったんだけどな。


「…あ、そっか。」


「なんだ?」


「勇者さま、伝説の勇者様が倒せなかった魔物倒したんだ。」


「ん、まあ、オシュも一緒に倒したろうよ。」


「…うん。」


 そう言うとまたオシュは黙ってしまった。ちょっと眠気を感じたあたりで馬の部族がこちらに来てくれて、背中に載せてもらって帰った。




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 その後はいろいろ大変だった。伝説の魔物を倒した事で、滅茶苦茶ムズネから媚びられた。


 冗談で、じゃあフィプルメヌの王になろうかと言ったら、是非とも!と本気で言われたので頭下げまくって逃げてきた。


 更に他の部族の長もコネクションを欲しがって娘を嫁に!と言って来たのでウキウキで対面したところ、大体生前の小六から中一。


 ちょっと、ちょっと若いので後程に、と断った。冗談で牛の族長の嫁さんならと考えたが、先のムズネの件で本気にされそうなので言わなかった。


 一応娘さん達も将来有望そうなのだが、断った後、振り向いた先のテトとヤナが爪を仕舞っていたのを見てこの判断は間違っていないと思ってる。


 んでオシュの誕生日から一月後。


「おーいオシュ~。」


 がっちゃがっちゃと足音を立てながらオシュを探す。足音は先代勇者のお古の鎧だ。


 誕生日が滅茶苦茶だったので、改めて祝おうと鞍を直したりいろいろしてたら一月経った。んでオシュが一番やりたい事と言えば勇者の鎧着た俺を乗せる事だろう。約束してから結局実行してなかった。


 というのもこの鎧、一人で着れないので今回メノウに手伝ってもらってやっと着れた。流石に恥ずかしいからで無視するのも、色々あった手前かわいそうなので今日は恥ずかしがらずに乗ろう。


「あ、いた。おーい。」


 そうガチャガチャいわしながらオシュに駆け寄る。応急処置した鞍も片手にあるから意味は解るだろう、ひと月経ってしまったが。しかしオシュは俺を見た瞬間、驚いて小走りで逃げ出した。


「え!」


 嘘だろ、あいつ寄ってくる事はあれど逃げる事一度もなかったのに。ショックを受けつつなんか冗談かなと思うも、逃走が続き地味に悲しくなってくる。


「まってくれえ。」


 鎧を着ているのもあるが、俺がオシュに足で勝てる事は絶対にない。だがなんというか、一定距離を保っているのだ。俺が息を切らしているとちょっと先で待っている。


「ありゃ、どうしたんすか。」


 するとヤナが通りかかった時にオシュはヤナの後ろに隠れた。その行為に滅茶苦茶ショックを受けてほんとに泣きそう。というかヤナも背が高いけど、オシュ滅茶苦茶でかいから隠れられてない。


「オシュ、なんで逃げるんだよー。」


「へ?どうしたんすか。」


 ヤナはそう言うと後ろのオシュに話を聞く。普段から彼女の声は大きいのにひそひそ声なのでちょっと真剣に悩み始める。だがその話を聞いた途端、ヤナが大笑いし始めた。


「え、なんなん。」


「いやあ、オシュちゃん、旦那の事好きになっちゃったんですって!」


 うん?と疑問符が頭に浮かぶもオシュはぼこぼことヤナを叩き始めている。体躯がでかいから威力が高そう。それに不満を感じたのか、ヤナは無理矢理オシュを引きずってこっちに来た。


「はい!まあデートでもしてやってあげるっすよ!」


「はあ…。」


 真っ赤になったオシュを残してヤナは去っていった。残された俺はどうしたもんかと頭をひねるも、とりあえずいつも通りで話しかける。


「あー、乗せる?」


 俺を乗せるか?という意味なのだが、ちょっと言葉がおかしくなりつつも聞いてみる。今度は逃げず彼女は小声でぼそっと言った。よく聞こえないので耳を近づける。


「いつものよろいがいい、です…。」


 なんかぎくしゃくしてやり辛くなってしまった。そんじゃあと鎧脱ごうとしたら、一人で脱げれずに手伝ってもらっているうちに、いつもの感じに戻った。

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