22 呪い

 輝くオシュが机に佇む。その髪色は一部が白くなっている。これが修行の成果なのだろう。そして彼女は机の上の光る木の実の最後の一粒を口に入れ、同時に一筋の涙を流す。


「やった!オシュちゃんがんばった!」


「最後まで食べれて偉いの!」


 横のフィルとリノトがほめている。あのクソまず光る木の実をダダこねながらも食わせられている内に、本気モードとなったのか白くなってた。君本気モードの初出がマズ飯対応なんだけどいいの?


 でもそのまま気を失いかけてるから下手な強敵より脅威あるのか。まあ、あの味はなあ…。


 結局皆が食べ終わって数日後、和平会議を開いた。一応政治はフィルとリノトに任せている為に当初の予定通りお飾りのノリで行った所、開戦からの判断が内外に評価されたらしく、イタチとタヌキの国の方からいくつか追加で判断を求められる。


 それも事前にある程度話を決めてあるもんだと思っていたら、しっかりここで出たとこ勝負だった。本当に何も考えて無い状態で会議に突っ込んだ為に、その返答と内容はガタガタだったが、一応その判断も功罪あったようでプラマイゼロとの事。しかしそれ以上に犬の国がやり手だったようで、いくらか変な仕事も押し付けられてしまった。




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「この馬鹿者が!」


「「ごめんなさーい!」」


 王宮をぶらついているとリノトの怒鳴り声が。この前の会談の事で俺が怒られたかと身構えるも辺りに人はいない。なんだなんだと声の元へ行くと、リノトが三人を叱っていた。相手はメノウ、テト、ガルムだ。


「どうしたんだ。」


「メノウ達が奴隷の首輪つけて取れなくなったんじゃ!」


「ええ?」


 三人を見るとメノウはめそめそ、テトしょんぼり、ガルムは無表情直立である。そしてその内の二つの首輪を見て思い出す。


「あ、それ使ってた首輪か、懐かしいなあ。」


「そうです、その、懐かしくってつい。」


 首輪つけ合いながら国境超えてた頃が懐かしいな。そう思ってちょっとメノウの首輪を触ろうとすると、つるつるして触れない。


「あれ?」


「取れなくなっちまったんだよ…。」


 そうテトが言うと共に彼女も首輪を触ろうとして指をツルツルさせていた。というかコレ、装着者も取れるようにしてなかったっけ。


「なんで取れないんだ。」


「おぬしらが変な使い方するから壊れたんじゃ!」


「それでお母さまにお願いしたんですが、お母さまも取れないらしくって…。」


 はあー、まあ、百歩譲ってそれは理解するとして、


「じゃあ、ガルムはなんでなんだよ。」


 彼女の首には革ベルトでできた首輪ではなく、鉄でできたすごいゴツイ首輪が付いている。たしかこれ犬の国のやばい首輪じゃなかったっけ。


「回答します。二人の会話に入りたいと思い、余っていた首輪をつけた所こうなりました。」


 あー、この首輪つけるとこうなるのか。というのもこの首輪、先週の和平会議の後に、植民地になっていたイタチとタヌキの国から奴隷解放の要求が犬の方に来たのだが、この強化首輪の解除鍵はミズタリに壊されて解放できなくなったとか言い出したのだ。


 張り倒してやろうと思ったが結局その場では有耶無耶となり、とりあえずサンプルで強化首輪を一つもらってきたのだ。でもつけるか普通。


「大体なんで奴隷の首輪なんぞつけるんじゃ!」


「それは…。」


「その…。」


「回答します。二人の話では首輪をつけると夜の「「わーーー!」」」


 その解答でリノトが俺をにらむ。変な飛び火の仕方した。


「大体この国では奴隷は禁止じゃ!」


「そういえばそうだが、なんでそうしてるんだ?」


「…シンジュが元奴隷だからじゃ。」


 なんと。話を聞くと両親に売られたシンジュをリノトの親が買い戻し、そこからシンジュが忠誠を誓ったのが馴れ初めで、リノトが呪術を習い奴隷の首輪を解呪して結婚した後に奴隷を禁止にしたのだと言う。


 なかなかのロマンス、今度シンジュ来たら揶揄ってやろう。


「それをおぬし!娘になんでこんな首輪を!」


 リノトは結構真面目に切れてるが運用理由がなあ。


「いや、ミズタリに来るまでに追跡されないように、獣人の国と純人の国を往復しながら進む為にお互いでつけ合ってたんだよ。」


 実際結構お世話になっている。それを説明するとリノトの怒りは目に見えてしぼみ、ミミまで垂れてきた。リノトのしょんぼり初めて見たな。


「それは、すまぬ。」


「まあいいや、とりあえず取ろうよ。」


「いや、無理じゃ。奴隷の首輪は呪術の結晶、わらわも呪術は専門ではない。願術に組み込んだとて付け焼刃じゃ。」


「え、じゃあとれないの?」


「困ります。」


 全く困ってない声でガルムが続いた。というか最悪二人はよしとしてもガルムのコレはまずいかもしれん。


「じゃが一つだけ手はある。マスターキーじゃ。」


「え、そんなものあるのか。」


「いや、無い。だが近しい者が居るはずじゃ。」


「なんだそれ?」


「この奴隷の首輪を作っている黒エルフの里へ行けば、あるいは。」


 あー、製造元にお願いするってことね。


「場所はどこなんですか、お母さま。」


「南の純人の国の先、絶界の砂漠の中じゃ。昔は渡り用の森があったが、もうなくなったと聞いている。」


「絶界ですか…。」


「絶界って何?」


「マナの無い場所です。そこでは魔力も気力も体に貯めた分しか使えません。」


 はー、いろいろあるのね。そう言えば前女神さまにマナって何と聞いたんだが、回答が四次元目のエネルギーですとか言ってたな。時間じゃねえのかと思っていたが、無い場所もあるんだなあ。


「その為に陸の孤島じゃ。」


「んじゃあ、飛んでいくか?」


 そうぽそっと言うと。


「そうじゃな!」「そうですね!」「そうだな!」「はい。」


 リアクションの勢いに驚いたが、この時はいい暇つぶしになるかなぐらいに考えていた。




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「あつい…」


「もう少し我慢してくれ。」


 マルチプルで巡航し、山を越えて砂漠に入る。一応陽射し避けに半端に屋根っぽい物をつけて、陽射しの変化に対応するために角度を変えれるように改造すると、疑似ウィングとなったのか、ゆっくりと上昇下降が出来るようになって今更ながら上昇できない問題に一石を投じる事が出来た。この件が終わったら少し研究してみようかな。


「あ、たぶんあれがそうじゃないでしょうか。」


 メノウが指さす先を一人称でズームしてみると列の用な形で木の化石みたいなものが転がっている。昔はこの渡り用に森があった為にここを辿り進む事が出来たが、それも枯れてしまい黒エルフの集落へ行く事が出来ないそうだ。


「それじゃあこれを伝って行けばいいんだな。」


「はい、お願いします。」


 今回の件でクーラーを機体内に増設したが、外はそこそこ暑そうだ。一応風だけはあるはずだが。とはいえひたすら飛び続ける今は暇である。三人称に切り替えて、オートパイロットにする。画面ではテトがガルムを見ている。


「なあ、ガルム、それどんな感じなんだ?」


「回答します。感覚が鈍い感じで自由がききません。」


 うわあ、きつそう。


「ちなみにリノトさんの時になんでも答えていたけど、聞いたら答えるのか?」


「拒否権を設定されていません。どうぞ。」


「性感帯は?」


「胸です。」


 ここで俺とメノウは噴出した。そして正直に解答するガルムに爆笑するテト。


「お前聞くもんじゃないぞ。」


 流石に注意する。


「あー、でも旦那も聞きたいんじゃないか?」


 思わずうなる。だけどなんかちょっとそのやり方は好きじゃないかも。


「い、いや、俺は、やめとく。」


「はあ、まあいいや、ちょっと親睦会として聞いてみるわ。」


 テトのその解答でメノウの表情も柔らかく変わる。聞きたい事があるようだ。だが俺はちょっと聞くのはやめとこうと、後ろのマイクを切って巡航速度をあげた。


 ひたすら飛び続けると何かが見える。なんだろう、茶色い化石?結構大きい、丸い街並みが砂漠の点線の先にあった。


「おうみんな、目的地付近だ。近くに降りるぞ。準備しろ。」


 前ばかり見てたので気が付かなかったが、メノウとテトはなんか打ち解けた感じで笑いあっている。しかしガルムは変わらず無表情だ。


「というか生活感が無い。もしかすると無人かもしれない。」


 その俺の一言で皆の笑顔が無くなる。改めて一人称に変えてズームで見てみるが、動く何かも無く、更には城門も無い。誰も見当たらないのであれば砂漠を歩くのも億劫なので、マルチプルで町のすぐ横までつけてしまおう。一応降下中に索敵器を展開してスキャンをするも反応は無かった。


 皆をおろしてマルチプルを収納する。手荒い歓迎すらもない。滅んでしまったのだろうか。


「とりあえず行ってみよう。」


「わかりました。」


 なぜかガルムが先行して町というか、遺跡に向かっていく。一応迷子にならない用に固まっていく。というのも、絶界ではマナ伝達が使えないという事で白石での通信も行えない。迷ってはぐれるとまずい。だが探索はすぐ終わった。


「こっちだ。」


 突如左側から声をかけられる。振り向くと肌の黒いエルフミミの女性がいた。第一住民発見である。


「暑かったろう、どうやって来たかはしらんが入りな。」


 そう言って黒エルフは建物の奥に消えていった。見た限り性差が付いた後のエルフの肌が黒い版だ。髪は名残なのか金髪だった。振り向き皆を見る。テトは光る爪を片手分だした。


「一応最低限戦えるぜ。」


 その解答から、やはり戦闘の想定は必要かと俺もボディアーマーを展開する。テトは爪を直ぐにしまった。というのも爪の能力も出しっぱなしだとここでは使えなくなってしまうそうだ。


 その解答からここでの最大戦力は俺か。気を引き締めてメットを展開し、ついて行く。


「さあ、御客人…、な、なんだいその恰好は。」


 警戒して行くと逆に脅してしまったようだ。俺はメットを収納すると、前の黒エルフ安心したようにため息を吐く。着いた場所は地下の様で、周りはなんというか、木で出来た洞穴見たいだ。暗く光る宝石が薄暗く辺りを照らすが魔法具なのだろうか。


「要件はその後ろの奴隷の売却かい?」


 んな、と憤ったが変に揉める訳にもいかない。


「いや、彼女達の首輪を取ってほしいんだ。」


 そう言うと黒エルフは一瞬きょとんとした顔をして、ため息を吐く。


「はあ、なんだい。それじゃあ金は持ってきてるんだろうね。」


「ああ、こちらに。食糧や水もあるぞ。」


「なんだいそりゃ豪華だね、まあいいやちょいと見せな。」


 そう言うので三人を送る。皆戸惑い気味だが安心させるために頷く。いざとなればすぐに攻撃出来るよう準備をする。


「ああ、そんな殺気だたないでくれよ、んじゃあ見るよ。」


 そう言ってメノウとテトの首輪に触る。


「なんだい、あんたらコレに変な事したね。主人が誰もいない状態になってるじゃないか。これじゃあ奴隷どころかただの不自由じゃないか。」


 そう言われると俺含め三人しょんぼりする。まあ、変な使い方してたもんなあ。


「まあ、これなら楽に取れるよ。主人の設定書きこんでとってやりゃあいいだけだ。本当にとっていいんだね?」


「ああ、頼む。」


「んじゃあ、ちょっといじるよ、動くんじゃないよ。」


 そう言って黒エルフは暗い中首輪をいじり始める。ふう、よかった。なんとかなりそうだ。


「しっかし、時代は変わったねえ。」


「え、何がだ?」


 なんか急に黒エルフに話しかけられる。床屋じゃないんだから。


「あ、あの。」


「奴隷は静かに。」


 そう黒エルフが言うと皆ぴたりと止まった。なんか強制力かけれるのか。そういえば黒エルフは呪術師と聞いたな。


「昔は奴隷って言ったら純人だけだった。それが今じゃ全く逆の立場でくるんだねえ。」


「え、そうなのか?」


「なんだいあんた。知らないのかい。」


「あ、ああ。無学なものでな。」


「そうか、じゃあ歴史のお話しだ。昔は奴隷って言ったら純人なんだよ。」


「なんでなんだ。」


「それはね、どんな種族の者とも子供が出来るからさ。」


 え、なんか思ったよりも暗い歴史かこれ。


「他種の獣人同士では子供はできない。だが同種で固まると今度は血が濃くなって奇形が生まれる。そこで純人さ。純人と獣人で子供を作ると必ず生まれる子は獣人だ。それも遜色なくね。」


 獣人の方が優性遺伝ってことなのか?それとハーフにもならないのか。


「一応純人側の特徴も出るが必ず獣人だ。だから資産として狩られて、ここに送られて奴隷にされていたのさ。」


「そんな歴史だったのか。」


「解呪やめるかい?」


「いや、続けてくれ。」


「そうかい。」


 そう言って彼女はまた手を動かし始める。そして首輪を見ながらまた話し始めた。


「それでこのままだと純人が居なくなるってんで純人が集まって国作って。なんか連携がうまいとやらでどんどん攻め落として、逆に獣人を奴隷にしてったんだ。」


 そう言うとバチっという音がしてメノウの首輪が光った。


「よし完了。これでとれるよ。まあ会話の邪魔だから取るのは後だ。ほれ猫、こっち来な。」


 黒エルフがそう言うと無表情でテトが椅子に座り背を向ける。


「ああ、こっちも同じだ。全く、ほかの呪術までつけやがって。まあ、それで獣人側も焦って集まったが押され気味で、そんな戦争してたらいきなり魔物が湧きだして、それどころじゃなくなったってのが前の戦争さ。まあその頃はあたしも子供だったがね。」


 ふーむ、そういう経緯だったのか。そしてテトの首輪は直ぐに光って音が鳴った。


「よし、できた。同じ状態だったから楽だ。そしてまあ、問題はこれさね…。なんなんだいこれは。あたしは見たことが無い。」


「そいつは犬の国が作った強化首輪だそうだ。しかも解呪方法が分からんか、用意されていないのかもしれない。」


「はあ、うちらも奴隷の首輪なんて醜い物を作っていたけど、それを上回る醜い物なんてあるんだねえ。」


 そう言ってテトを席から立たせて、ガルムを座らせる。構造的に解呪は首の後ろではなく前のようで正面に回って何かいじり始めた。


「なんだい、こりゃあ。随分荒いねえ。粗雑というか、呪いのくせに無関心というか。気味が悪い。」


 そう言いながらカチャカチャと金属音が鳴る。そしてテトとメノウを見ると目が虚ろだ。先に首輪を取ろうと席を立つ。


「あ、すまない、今主人をあたしにしてるからあんたには取れないよ。まあ、報酬もあるからね。」


 俺はそう言われて座り直す。


「お、そうか、ここか。」


 黒エルフはそう言うとカチンと子気味の良い金属音を首輪から出して、ガルムの首輪がごとりと落ちた。


「ふう。終わったよ。しっかし変な首輪だねえ。」


「うううううううう!」


 首輪が取れたガルムはいきなり泣いて唸るとテトを叩き始めた。


「何であんないろいろきくんだぁ!」


 一応本気ではないにしろポコポコとテトを叩いてる。


「おい、ガルムやめろって。」


 そう彼女を止めるとこちらを見て真っ赤になる。


「あなたは、どこまで聞いたの?」


 そのすがるような目にちょっと目線を反らすも、一応正直に言う。


「胸のとこまで。」


「よかったぁ…。」


 このリアクションとなると結構な事聞いたなテトの奴。


「はあ、ほらほら、二人の首輪を取るからどいたどいた。」


 そう言って黒エルフは二人の首輪を取った。あれ、報酬まだだけど。


「あー、いくら払えばいいんだ。」


「まあ、気持ちだけよこしてくれよ。なんというか、純人と獣人が仲良くしてるのを見て興が削がれた。」


「ふいー、やっと動ける。怖えな呪術。だが助かった、ありがとう。」


「ほら、ふつうはこういうもんだよ全く。だが子供の頃から怨嗟の声しか聴いてなかったからね、礼なんて言われたのは久しぶりだ。」


 そう言って黒エルフは椅子に深く座る。


「んじゃあ、報酬だが。」


「ああ、だがどうせだから外の話を聞かせてくれないかい。その分まけるよ。」


 その一言を聞き、彼女の目を見る。改めて見ると顔だちは薄暗い中で解るほどに整っている。そしてその眼は寂しさで埋まっている。


「ふーむ。」


「なんだい?」


 そう一悩みして、ガルムを見る。ガルムは俺の視線に気が付いて、ミミがピンと立つ。それを理解した俺は改めて黒エルフに話しかける。


「なあ、あんた、やっぱり奴隷は嫌いか?」


 俺のその一言に、黒エルフの顔は大きく歪む。


「なんだい、奴隷を作らせる気か。」


 その一言は既に殺気を含んでいる。だがその一瞬の激昂で彼女の奴隷に対する思いがよくわかった。


「いや、違う。その白狼の首輪を阿呆な国が阿呆ほど作って取れなくなっていてな。そいつを取れるやつを探している。」


 俺は殺気に怯まず言い、驚く彼女に言葉を続けた。


「今ならその呪術でたくさんの人を救えるんだ。報酬は相当に出せる。協力してくれないか。」


 その言葉を聞いた彼女はまさしく鳩が豆鉄砲を食らった感じといった所だ。


「ガルム、向こうで拠点作るのはどれくらいかかる?」


「ミズタリに戻って、話をして建物借りてで二週間欲しい。恐らく犬の国も決起されたら困るからある程度協力してくれるはずだよ。」


「うん?というとなんだ、本当に解呪法が無いのか?俺はてっきりこっちの当てつけかと思っていたぞ。」


「鍵は作ってあったんだけど、無くなったり混ざったり、魔力が風化して使えなくなったりしてるそうだよ。」


 馬鹿かあいつら。


「まあ、そう言う事で黒エルフ殿、ここでちょっと英雄になってくれないか?」


 そう少しかしこまってカッコつけて誘ってみる。そして黒エルフはそれを鼻で笑う。


「ふん、この絶界を越えて、なおかつこの呪われた黒エルフのあたしを英雄にだって?馬鹿いうんじゃない。やれるものならやって見な。だますんなら呪い殺してやる。」


「おっし、んじゃ交渉成立だな、いくぞー。」


 そう言ってそのまま連れ去るように彼女を案内し、道具も沢山持ってく必要があるとゴネ始めたので格納庫に言われるまま突っ込み、マルチプルでひとっ飛び。ミズタリに戻った後、ガルムと共に先に犬の国に送り出してしばらくすると、解呪成功の連絡がガルムから届く。おっしゃ、無茶ぶり一個消化だな。




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 あれから施設も無事用意できて順調に解呪を続けてるとの事。ただいくつか道具も欲しいとの事で、俺の格納庫に仕舞った物を渡しに行く事にした。だがフィルに黒エルフの事を話すと、黒エルフなんて信用するんじゃない!とキレ始めた。


 俺もちょっと心配になってきたのでついでに視察をしようと時間を取る。


「そんじゃあメノウ、ちょっといってくるわ。」


「え、旦那様、待ってください。何で行くつもりですか?」


「マルチプル。」


「また開戦疑われますよ。」


 え?と思うと考えてみればマルチプルでそのまま首都突っ込んだ事を思い出す。そうか、犬の国だと俺の機体究生龍とおんなじ立場になったのか。


「じゃあ、ポタポタ石で。」


「あそこは大きい魔力使用も禁止ですよ。」


 ええ、なにそれ。こっから片道二百キロぐらいあるのに。これは、まさか自転車で。


ばし!


「いって!」


 強めに肩を叩かれる。振り返るとニコニコのオシュが居た。結局オシュに載せられていく事に。一応オシュの笑顔のあいさつ付きだが、犬の国の国民のひそひそ声が環境音だった。しかもミズタリの王ってばれていた。


 一応川沿いにあるという話をガルムから聞いていたので向かったが、迷ってしまい、白石で話をしつつその療養所みたいな所へたどり着く。


 近づくと外でガルムが迎えてくれた。遅れた為に本日分は残り二組だとの事。お土産におにぎり持ってきたが、終わってから渡すとしよう。でもどうせだし後ろからこっそり仕事ぶりを見よう。


 無表情の、恐らくイタチの獣人が椅子に座り、その横には家族と思しき人がいる。黒エルフが首輪をいじると、少ししてがちんと音を鳴らして首輪が床に落ちる。良かった順調そ


「うわあああああああああ!直った!取れた!」


「あんたぁ!よかった、よかったよお!」


「おとうさん!」


 後ろの家族が男に抱き着く。なんだこれすごいな。


「ありがとう!もう無理だと思っていた!本当にあなたは恩人だ!ありがとう!」


 そう男と共に家族も礼を言い、部屋から出て行った。そして入れ替わるようにまた無表情のタヌキの獣人が入ってくる。黒エルフはまた首輪をいじるとがちんと音をたてて首輪が落ちる。するとタヌキの表情がゆっくりとつぶれて行き、


「お、うおお、おうおおお…。」


 さめざめと泣き始めた。そして嗚咽交じりだが、ありがとう、あなたは女神だと言いながら、ガルムに支えられて外に出されていった。なんだ、二件だけだが迫真すぎるだろ。


「あー、お疲れさま。差し入れ持ってきたぞ。」


 そういって俺は格納庫からおにぎりを出す。まあ、ミズタリの米は高級品だし、そんな悪いもんじゃないだろう。


 そして黒エルフがこちらに気が付き俺の顔を見ると、強く目をつぶり抱き着いて泣き始めた。


「え、なん、なんなん。」


「あたしは、今までこんな人から礼を言われた事なんてないんだ。誰も苦しめず、呪うだけの私が人を救える。そして皆感謝してくれて。ありがとう。ここに連れてきてくれて。」


 泣きながらも彼女はなんとか絞り出すようにそう言った。とりあえず差し入れは横にあった机の上に置いた。周りを見るといろいろ迫真だったからか、オシュが出てこれず後ろで見ていて、もらい泣きもしていた。




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 そんなんでまだまだ解呪は必要だが、黒エルフのザルカは犬の国で順調に解呪を進めてくれている。これでミズタリの面子も保たれたもんだ。一応奴隷全員の解呪は無理だろうからあと二週間ほどで終わりにしようかと、そんな話をミズタリの全体会議で話ていると突然扉が開いた。


「え、なんだ?」


「すまないが失礼するよ!」


 入ってきたのはザルカだった。


「え、あの。どうしました?」


 メノウがビビリながら聞く。


「すまないがあんた、あたしも嫁にしてくれ!」


「へえ?」


 俺にめっちゃ指しながらそういう。


「え!やだよ!黒エルフなんて!」


 フィルが声を上げる。


「うるさいよ白豚が!ぶっ殺して干物にしてやろうか!」


「なんで干物にするの。」


 突然のフルスロットル突撃で関係ない事を聞いてしまう。


「高く売れるのさ。」


 なんだその界隈怖い。


「てめえ!いきなり来てふざけんな!」


 アズダオが切れる。


「おっと駄目さ!」


「んが!」


 ザルカがそう言って腕を振り下ろすと、アズダオは机に突っ伏した。


「一回こっきりだがこの部屋の周りに呪術で陣を敷いてある!抵抗はできないよ!」


 んええ?この面子無力化されるの?


「あ、あのー、なんでまた?」


 何というか、恐る恐る聞いてみる。


「あんたはあの地獄から連れ出して、こんな素晴らしい場所に連れてきてくれた!もう愛しているのさ、あたしのすべてを捧げるよ。娶ってくれ。駄目なら殺してくれ!」


 なんだこの突進力。


「お、お主あのお守り持って行かんかったのか?」


 リノトが俺に困り顔で聞く。


「あんな稚拙な呪術、あたしには効かないさ!」


 リノトと俺は二人して複数回瞬きを繰り返し、目線を外した。俺は改めてザルカを見る。


「あー、そうだな、一応前向きに検討するから。とりあえずあの集落に返す方向はやめとくよ。」


「最高だ!愛してるよ!」


「あ、だが。」


 ここで一つだけ状況を理解して強く言う。


「次他の嫁に手を出したら絶界に放り投げるから二度とするな。」


 その語気にザルカは目に見えて恐れが映る。


「あ、ああ。わかったよ。だからあたしを嫌わないでくれ、あんた。」


 そう言って俺は命令し呪術を解かせ、彼女は会議室から出て行った。残されたみんなは一瞬俺を睨むも、これ俺が悪いの?っていう俺のしょんぼり顔と共に、今回全く俺が悪くない事を理解し、ため息で会議は締めくくられた。アサルトヤンデレってジャンルあったっけか。

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