21 長寿

「やっと帰った…。」


 シンジュは一日で帰ると聞いていたが結局三日延長した。やっと皆に言う事が出来るが、その三日間で俺の疲れを心配する声が多くあがり、いつもより皆が優しいので結局言い出せなくなってしまった。


 それと同時に和平会議も延長となったと聞いたが、理由を聞いても教えてくれなかった。まさか理由は俺だったりするのだろうか。いつか復讐がてらにシンジュの事を話してやろう、今話したらますます休ませられそうで言えないけど。


 そうして何もせず一日が過ぎ、気疲れは置いといて体の疲れは取れてるので、どうしようかなと早朝に考えているとノックも無しにまた扉が空く。


「旦那様、一緒に行きましょう!」


 なんだよと言う前に疑問が先に来て体が止まる。リルウとフィルという組み合わせで外出を誘うという珍しい物を見たからだ。




-----------------------------------------------------------------------------------




「ここだよー。」


「です!」


「はあー。」


 そういってついて行った先はエルフの森。ポタポタ石で移動して、こっちの神樹様のさらに奥に行くと密林が広がっている。密林ってすごいのね、みっちみちに植物が詰まってて隙間が無いんだ。


「んで今回は何しに。」


「今の季節だけになる木の実です!」


「こんなかんじのだよー。」


 手書きのピラ紙を渡される。何というか、形は大体カカオみたいなの。


「なんなのこれ。」


「これを食べると寿命が延びるんです!」


「そうだよー、季節もののレアものだよー。」


 密林の奥からはぎゃあぎゃあと何かの声と、ちょっとした地響きが鳴る。


「めんどくさいしよくない?」


「ダメです!」


「絶対にダメー。」


 曰くここで説明されて初めて判明する。この二人は偶にそろって料理をするのだ。そしてそいつが大概まずい。食わされるのは俺、メノウ、テト。最近はヤナとオシュも巻き込まれてて、リノトも食べるようになってきていた。


 んであまりにまずいので残そうとすると割とマジでキレられる。なので半泣きで喰うのだが、意味が解らぬ上に一応まずいとも言った。


 だが悲しそうな顔をするも、いいから食べてと言ってくるのだ。あまり強制しない二人がここまで言うのはこれしかない。料理が好きでも、もうちょっと何とかならないかと思っていたのだが、なんと割と明確な理由があったのだ。


「私たちの寿命は基本的に無いに近い物です。」


「だけどダーリンあと百年も生きないでしょ?」


「んまあそれはそうだけども。」


「だから、あのごはんで私たち並に生きれるようにしてたの。」


「はあ!」


 なんと食事により長寿というよりも肉体改造に近い事をしてたらしい。そして今回の木の実を食べれば寿命が飛躍的に伸びるとか。


「初耳だぞ!」


「え!はなしてないの?」


「え?フィルさんが話すはずでは?」


 なんと皆には話しているが俺にだけ話が止まっていたという事だ。だからメノウとかテトとか真顔でもくもくと食べていたのか…。


「でも後十数種類で終わりなんだ、そうすればずっと一緒になれるよー。」


「そうです!」


 なんだろう、ずっと一緒が人知を超えてる単位なのやだなあと思いつつも、無碍にもできないし周りも同意している以上避けて通るのもなあ。


「んまあ、いいや。やるか。」


 葛藤よりも思考を放棄したに近い。まあ寿命が増えるのは良い事でしょう。ちょっと怖いけど。


「大丈夫ですよ、自殺はできますので。」


「ちゃんとそこは平気だよー。」


 これは明るい家族計画なのだろうか。そして相対する密林。始まるのかグルメ冒険。


「ちなみに旨いの?」


「すんごい苦くてえぐみが強いらしいよ。」


「良薬口に苦しですね。」


 美味しくもない冒険なのか。




-----------------------------------------------------------------------------------




 一応そこからブリーフィング。ただエルフの古文書で在りかは記されているそうだが、植生が変わりまくってて密林となっているそう。


 ここは太古の昔は果樹園であり、一応その時の道があるらしい。距離的にはそう遠くないっぽいので歩いて行けるとの事。


「んじゃあ歩いて行くか。」


「え、ええ。はい。」


「飛んでいこーとは思わないの?」


「たぶん、飛んでいけないから俺を呼んだんだろう。」


「さっすがー。」


 改めて話をするに木の実は上空から見えないらしく、飛んで直行が出来ないそう。更にこの密林の樹木を燃やすと毒になる煙が出るそう。


 どうも今回のターゲットを守る為に昔植えた植物が元気に育ってこの有様だとか。


 しかも昔はその木の実を魔力強化の為に常食したが、今は平和となり無理に食べる必要もなくなった為、利用価値が消えほっとかれた為にこの状況となった。


 何より問題なのは、この量の毒木を燃やすと風向きから煙がエルフの里に直撃して大体滅びるらしい。里だけは前に訪れた時のあの花粉避けで生き残るかも?というレベル。なので上から行って燃やして取るだとえらい事になるそうで。


「一応少量でしたら燃やせるのですが、その毒木も油を含んでいる為にうまくやりませんと。更に魔力が高すぎるこの地のおかげでその植物は魔反発火も起こすので、火以外の魔法でも火種になってしまうんです。」


 魔反発火は高魔力環境下に起こる反応で、魔力同士の摩擦?みたいなので火が出るらしい。しかもその種火は魔力やマナも燃して燃えるとの事。


 なので俺メインで切り開き、リルウがその後手伝って、フィルが周辺警戒と道案内との事。俺は少し考えて格納庫を起動。手持ちのポイントを使用して機体の倍率変更をアンロック。腕と銃だけを部分的に実体化させて、大きさを調整してそこそこの大きさのアームを纏うようにする。感じとしては究生龍の使う部分龍化のメカ版だ。


「ちょっと試射するから、発火した時の消火を頼めないか。」


「わかりました。」


 そして防護服ついでにボディアーマーも展開。試しに何発かライフルを撃ち、発火の有無を確認。更に倍率の調整を行った後に、砕けた木々もろもろをリルウと共に横にどける。それを繰り返す事で、倍率の最適化が出来たので本格的に作業開始。何発か撃つとうまく壊れたのか木の枝の天井が大きく落ちた。すると、


「うげ。」


「「ひいい!」」


 蟲とか蛇とか蛭とかが山ほど出る。あまり叫ばないでくれ、俺も得意じゃないのだ。というか叫ばれると恐怖が呼び出されるのか、余計目の前のものが怖くなる。


 なお逃亡生活でも虫はそこそこいたが、その時リルウが怯む様子はなかった。なのに今怯むのは、いざとなったらぶっ飛ばせばよい、という選択肢が潰されたからだそう。だけどこの量はぶっ飛ばせてもきつい案件だぞ…。


「まじ密閉のボディアーマー大正義だな。」


 一応隔絶されているので恐怖感は少し和らぐが、今までにないタイプの難関に及び腰だ。フィルの指示通りに進むと銃を撃った衝撃からか不意に頭上の木々が大きく揺れた。頭から何かが降り注ぐ。


「きゃああああああ!」


 その声からやばいミスったと二人の方を振り返ると、リルウの腕を食い破って中に入っていっている一メートル台のミミズみたいなのがうねっていた。


「うおおおおお!」


 思った以上の緊急事態。ダッシュで寄って急いでリルウの腕を握り侵入経路を遮断、そんでミミズを引き抜く。見た目ミミズなのだが、明らかにじゃりじゃりといった硬質な感触の元引き抜けた。


「大丈夫か!」


「え、ええ、大丈夫です。」


 そう言いながら彼女は腕に回復をかける。だがその時怯んだ為に道を外れたのか沼地に片足を突っ込んでいた。その足を引き抜くと泥まみれ。だが彼女はそれも魔法で吹き飛ばし一瞬で綺麗になる。


「ん?」


 その時なんか彼女の脚にいくつか赤い点が見えた。だがその時は光の加減かと流した。


「というかお前らもうちょっと着込め、薄着過ぎる。」


 二人は結構薄着で基本布一枚、腕、足だしである。生前でも藪の中にこの格好で突っ込んだら恐ろしい事になるだろう。


「いえ、それなのですが、魔法で防護膜を張っています。」


「あんまり強いのは発火しちゃうから使えないけど、それでも結構なやつだよお。でもなんかここの虫、それを中和して抜けてきちゃうみたい。初めて見るけどちょっとまずいね。」


「うーむ、準備不足かもしれないな、一度戻るか?」


「ダメだよ、和平会議も近いんだから。急がないとまずいよー。」


 そうなんだよな、なんでこの時期にやるんだと休憩がてら聞いてみるが、前回不意の開戦によって色々重なってしまったとの事。更に二人にとっては和平よりもこっちの方が大事らしい。


「しかたない、物理的な防護、それこそ硬化とか風とかでなるべく防御してくれ。」


 そして二人の了承を背に作業を再開する。とはいえ油を含むという事でレーザーブレードで焼き払う事も出来ず、速度は相変わらずだ。機体を全出ししてそれこそ無理に突っ込むか?と迷っていると、後ろからフィルの悲鳴が。


「ちょっと!まずいよ!」


「なんだ!」


 振り返り二人を見るとリルウのふくらはぎが鼓動のように収縮している。そしてその中に変な筋が走るのを見た。


「まずい!さっきの沼でもやられてたんだ!」


「すいません、回復します。」


 そう言って脚に手を添えるリルウ。なんか疑問に思った上で、嫌な予感がした。迷いつつ声をあげようとしている間に彼女は回復魔法をつかった。その瞬間彼女のふくらはぎが爆発的に膨らんだ。


「きゃああああああ!」


 一瞬考えたが、そうか回復魔法ってこれ寄生虫の方も回復した形か!まずいぞ!どうする!


「フィル、リルウの足凍らせられるか!」


「ええ?わかった!」


 フィルはリルウの脚を一瞬で凍らせると脚のうごめきは緩くなった。虫って事で冷やしてみたが一応間違ってなかったか!


「で、でもどうしよう!回復で治せないとどうすればいいかわからないよ!」


「とりあえず王宮へ戻るぞ!」


 そう言って俺はリルウを担ぎポータルを開いてもらう。そしてポータル部屋に彼女を寝かせて、一瞬考え、思い出す。


「すまん!アズダオを探してくれ!」


 リルウにそう言うと俺も探しに部屋を飛び出そうとする。しかしその時落ちた木片に気が付いた。


 そうだ、俺も木々をかぶった状態だ、もしあそこの強烈な虫を国に持ち込むとなると、国がどうなるかわからない。


 検疫ってこういう事か、大変だな。仕方なしにフィルに白石での連絡をお願いして、王宮の人達にアズダオを探してもらい連れてきてもらった。


「なんだよ。」


 めんどくさそうに来るアズダオ、そして満身創痍の我々を見る。


「なんだよそれ!」


「すまんアズダオ!あの寄生虫殺すやつやってくれ!前焼肉したときの!」


「え、ええ?ああ、わかった。」


 そう言ってまたレーザーのようなものを出してもらう。するとリルウの脚のうごめきは完全に止まる。


「すまんがフィルと俺にもそれをかけてくれ。そしたらフィルは脚の解凍を頼む。」


「わかったよ!」


「おう、わかった。んじゃあ動くなよ。」


 そして俺とフィルもレーザーをかけられ、俺はボディアーマーを収納、フィルはリルウの脚の解凍を始めるとアズダオもそれを手伝った。念のため解凍した後に確認もしたが脚のうごめきは無かった。


 一安心するが、脚のふくらみからどうも寄生虫の体が残っている模様。なのでアズダオに相談し、先のレーザーを強化して念入りに寄生虫を焼いて炭化させ、その後に回復をかけると嘘のようにきれいに治った。一息つき、その日と次の日は休む事とした。




-----------------------------------------------------------------------------------




「旦那様、続きです!」


「やるよー。」


「えええ?」


 三日目の今日は二人が完全復活しておりやる気十分。だがあんな危険で不快な場所二度と行きたくない。


「やめようぜ、危ないよ。」


「だめだよー!あの木の実逃したら食べる項目が五十品種ぐらいふえちゃうんだから!」


「全部集められるかどうか…。」


 行きたくないし行かせたくもないために、俺は非常に苦い顔をしつつ二人を見ると服装が違う。


「一応防護服を作ったんだ、エルフの魔法具で虫に強い専門家に見てもらったから、見た目より強いはずだよ。」


 溜息をつきつつ、それ以上にあんな目にあってもくじけぬ心に関心する。


「しょうがない、わかった。じゃあもう一回やってみるか。」


 そう諦めて二人について行く。だが前回の事から防疫の話をし、あれがミズタリに入る可能性を考えて、別の場所を経由させるかと話をした。


 一応フィルもこちらのエルフからいろいろ話を聞いたらしく、あそこほど魔力が強い所はそうそうないから、こっちに来ても虫が生きられないんじゃないかとの事。


 予想であるが安全なのはせめてもの救いか、そう思いつつ王宮のポータル室に入ると中にはむすっとした顔のアズダオがいた。


「おせーぞ!」


 そうか。彼女が居ればその場で治せるか。


「ああ、すまんな。」


「あの、アズダオ。本当に来るのですか?」


 そう心配そうにアズダオに言うリルウ。


「はっ、お前があんな弱るなんざ見た事ねえからな、一度勉強がてら見とかねえと!」


 動機が不純。まあアズダオはリルウに散々辛酸なめさせられてると聞くが。改めて彼女の顔を見ると目を背けたので、一応心配もしていると理解した。


「ですが…。まあ、いいです。よろしくお願いします。」


「おう!」


 その後にポータルを開き、四人で入る。森の前でアズダオはこのエルフの服きちいし気持ちわりいとぶちぶち文句を言う。相変わらず服着たがらないけどマジで脱いじゃ駄目だぞ。


 そしてその横でアズダオを見つつ考え込むリルウ。先ほどからなんなんだろうか。そして皆で森へと向かい、前回みたいに上から降る木々の対策として念入りに上も吹っ飛ばし、先へ進むと最奥へ着く。


「うげ、もうちょっと治ってきてないか?」


「うわあ、すごい生命力だねえ。」


「さすがですね、それでは、やりましょうか。」


 そういうとリルウは瓦礫排除の龍腕を出す。そういや道中アズダオ静かだなと彼女を見ると。


「……。」


 なんか黙りこくっている。


「よしそれじゃあいくぞー!」


 そういって俺は機体の腕を出し発砲、リルウも龍腕に風をまとわせ吹き飛ばす。残る大量の蟲。だが流石に前回散々見た手前、結構皆慣れてきて


「キャアアアアアアアアアアアアアア!」


 すげえ大声が上がる。なんだと思い振り向くと、叫んでいたのはアズダオだった。


「むしぃ!やだああああ!」


 彼女を見ると炎を纏った龍腕を振りかぶってる。体制からもあれ、振り下ろそうと。


「まずい!」


 咄嗟に機体腕を収納し、集中強化を発動!ボディアーマーのブーストで急接近し、龍腕の根元にサマーソルト!


 ガン!という音の後上空に上がる火柱。あぶねえ、あの規模に火が入ったらエルフの里が。


「アズダオ!お前!」


「うええええん。」


 え、何この反応。


「く、くそ。とりあえず一度外出るぞ!」


「ああ、やっぱり。」


 へたり込むアズダオを担ぐ横で、そうぼそっと言うリルウの声を俺は聞き逃さなかった。皆で入り口に戻り、アズダオを座らせる。アズダオはまだ泣いていた。


「うあああああん。」


「アズダオ、大丈夫?」


「おお、なんなんだよ。どうしたんだ。」


「やはり噂は本当だったんですね。」


 そういうリルウ。


「なんなんだよ、噂って。」


「アズダオの虫嫌いです。」


 ええ、そんなのあるの。


「昔アズダオが男の頃に龍の状態で毎日修行をして、その際洞穴で寝ていたのですが、体も洗わずにいたので鱗が岩のようになって、岩を食べるドウケツカブリに散々たかられたという話があったのです。」


 洞穴カブリって何と思ったが、ゴキブリってごきかぶりっていう話を思い出し、予想するのをやめた。


「なので噂はあったのです。本人が否定していましたので今回連れてきたのですが。」


 うーむ、そもそも動機も不純だったし罰があたったかなあと思うも、まんま見た目の子供のようにわんわん泣くアズダオがちょっと可愛そうになる。


 そしてアズダオの違和感に気が付き、よく見るとアズダオの角がふにゃりと垂れて下を向いていた。何その角そんな風になるの。


「ここなら大丈夫だからねー。」


 そう慰めるフィル。完全に子供をあやす感じだ。


「ぐすっ、うん…。」


 お、ちょっと落ちついてきた。


「もうちょっと休んだらもう一回いこうねー。」


「やだああああああ!」


 鬼かお前。


「もういいでしょおおおお、寿命のばすのやめようよおお。」


 泣きながらも言うアズダオ。


「みんな普通に生きるのでいいでしょおおお!」


 半泣きの子供が非常に全うな事を言っている絵図らにシュールさを感じる。


「でもアズダオ、やはりみんな一緒にいたいじゃないですか。」


「よくないよおおお、むりやりはだめだよおお。」


 まあ、無理矢理でもないが確かに寿命をいじるのは結構リスクあるよな。


「だんなだって、あとどれくらい生きるのお。」


「大体まあ、七十年とかかな。」


「ななひゃくねん?それじゃあ、みじかいよお。」


「違うちがう、七十年。」


「なな、じゅう?」


「七十。」


「それじゃあ短いよおおお!」


 そういうとアズダオはまた泣き出した。


「なんでそんなにみじかいのおおおお!それじゃあとらなきゃだめじゃんかあああ!」


 そう言ってまたうわあああんと泣き出した。本当にうわあああんと言う声に面白いと思う暇もなく、仕方なしに角もふにゃふにゃのアズダオの頭を撫でる。指が突っかからないので撫でやすい。しばらく撫でつつけるとアズダオも落ち着いてきた。


「アズちゃん頑張れる?」


 そう聞くフィル。


「うん…。がんばる。」


 そう答えるアズダオ。角を見るとちょこっと上に向いてきた。


「それじゃあ行きましょうか、アズダオ。」


「うるさいなあ、わかったよ。」


 お、反抗心で更に上に上がった。


「んじゃあ、いくかあ。あとアズダオ、火で森を燃やすとエルフの里が亡びる。もうするなよ。」


「…わかった。」


 あ、やべ角が下がった。ちょっと考えて言葉を言わないとまずいな。




-----------------------------------------------------------------------------------




 その後はアズダオに気を使いつつ壊しながら進んでいく。頭上からの落下も気を付ける為に丁寧に壊すので速度が遅いがそれでも辿りついた。


「これか!」


 解りやすく光り輝いている。道中で何個かぶっ飛ばしてしまったが、漏れ出る光を辿りつつ、銃を使わず機体の手で邪魔な木枝を毟っていくと無傷の物が出てきた。


「うおおお、これかあ!」


 苦労を重ねたその木の実をむしると、その大きさに比べてとてつもなく重い!しかも取ってもその輝きは失われない。


「すごいな、どうせだからちょっと数取っていくか!」


「もう帰ろうよお。」


 弱気でびくつくアズダオも角は大分上に上がってきている。アズダオはフィルになだめられて、俺とリルウで数を取り格納庫に突っ込む。以外と長かった冒険もやっと終わった。だが帰りの道中にフィルが倒れた。


「何!どうした!」


「ごめん、なんか急にちょっと、つかれちゃって。」


 まずいと思ったが様子を見るに何となくわかった。


「風邪でしょうか?」


「いや、たぶんこれも寄生虫だ。アズダオ、頼む。」


「わ、わかった。」


 そう言ってまたレーザーをかけるアズダオ、するとすぐに回復するフィル。


「あ、あれ?ほんとだ、治った。」


「すごいです、旦那様。」


「やっぱりか、あぶねえ…。」


 多分フィルの方は内容的にマラリアに近い物だろう。この環境ならたぶんいるだろうなと踏んでいた。防護服の隙間から蚊か、それに近い物が入ったのだろう。症状の速さは異世界速度であるが。


「で、でも、何にもかんじなかったよ?」


 アズダオが言うにはこの寄生虫除去は体内の異物に反応して焼き殺すというものらしい。なのである程度中に入っているものが解るそうだが。


「これは目に見えないくらいの小さなサイズの寄生虫だ。血管の…といっても説明難しいし、予想でしかないものだけども。」


 そもそもマラリアっぽいけど他のものかもしれないしな。


「ええ、そんな虫もいるのぉ?」


 やばい、また角が下がってきた。ふにゃふにゃアズダオはどこまで無理かけていいかわからん。ただ終わりが見えてきた今は、余裕からかちょっと可愛いかもしれんと思い始める。


「はあ、でもよかったぁ。ダーリンいてくれなきゃ本当に死んじゃうところだったねえ。」


 フィルがそういいつつ森を出ると、目の前には終わりが見えぬほどの大蛇が。


「おお?」


「あー!、まずいここのヌシだ!文献にも注意しろってかいてあったけど、流石に騒ぎすぎちゃったみたい!」


くっそ!臨戦態勢!と思ったら、リルウとアズダオが前に出た。


「ここの?」


「ヌシ?」


 おお、なんか二人共静かだけど変な迫力があるぞ、アズダオの角もよく見てみるとすっかり元通りだ。


「ただデカいだけのてめえごときが!」


「こんな力のだけのただの蛇が!」


 二人の腕が同時に龍化した。


「「おどりゃこんのクソ森のヌシがあああああ!」」


そして二人で器用に殴り飛ばして上に打ち上げて。


「「死ねえええええええええええ!」」


 炎と魔力のブレスで跡形もなく消し炭にした。まあ、今回散々だったものなあ。


「帰るぞ!」

「帰りましょう!」


 俺とフィルは同時にハイと答えて、ポタポタ石近くで汚れを払い、アズダオにレーザーをかけた後にフィルにポータルを開いてもらった。王宮に無事戻り、念のためまたレーザーをかけてもらって一息つく。


「それじゃあ、木の実でごはんつくるね!」


 そういって渡した木の実を笑顔で持っていく二人。これで飯が上手ければまだ許せるんだけどなあ。


「おい、旦那。」


 ふと服の裾を引っ張られるとそこにはうつむくアズダオ。


「今日の、その、虫の事、ほかの奴に言うなよ…。」


 そういわれて思い出すと、すべて終わった今ではあの時のアズダオはそれはそれでかわいかったから、スマホでムービーでも取っとくべきだったと思い直す。でもまあ、今回のMVPだ。あまりからかうのもかわいそうか。


「ああ、わかったよ。」


 そう言って頭を撫でると、一瞬受け入れた後に気が付いたようで手をどけられた。


「いいな!絶対言うなよ!」


 そういって体躯に似合わぬどすどすとした歩き方で出て行った。だがその約束に何か違和感があったが微かすぎてその時は気が付かなかった。


 そしてその後、結局木の実はまずいながらも食べて、アズダオの虫嫌いもばれた。ばれた理由はテトが虫を食っていたのをアズダオにあげた時だった。


 そうだ、ニャルグの屋台でデカい虫の串焼き売ってたのを忘れていた。猫って虫喰うもんなあと感心していたんだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る