19 決戦

「んおおおおお。」


 胃が痛い。更に服もきつい。後ろにはリルウとテトとメノウ。久々の初期面子だ。一応犬の国の服、おおよそ生前のスーツを少し古めかしくした物を急きょ取り寄せて、犬の国との旧国境の町エンリンに来た。


 ここには犬の国の要塞のような城があり、今回、和平交渉の場でもある。


「お前そんな緊張すんなよ。」


「そうは言ってもだな…。」


 試着もしてない服は合わなくきつく、一応礼儀とご機嫌取りで着てきたが、要らぬストレスを作っているだけかもしれない。




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 結局あの会議の次の日に、正式な宣戦布告を犬の国の使者が伝えに来た。一応理由は要人の誘拐との事。


 これに関してはそのままガルムだろう。あの研究所でいろいろガッツリ見られた事がやり玉にあげられた。一応ガルムを引き留める為とはいえ、流石に迂闊だった。


 何よりもポータル開いた時にがっつり顔を見られている上で、純人側の新聞で星を貫いた時にしっかりと顔写真を載せてしまった為、簡単に身元が判明してしまったのだろう。はしゃぎ過ぎた。


 とはいえ向こうのやり口が結構おぞましい上に、じゃあごめんなさいと彼女を返す事もできない。ガルムの扱いも彼女が当たり前と感じているだけで、話の節々から禄でもない扱いなのは聞き取れた。


 急ぎでリノトとメノウに占いをお願いしたが、まだ分岐点であると言う手前、緊急で会議と準備を重ねるが最終判断は俺に任された。一応計画を立てて、指針としてまず一番最優先の和平交渉に来た次第である。


「もう亡ぼしませんか。」


「ううーん、いやそれは。」


 リルウが久々のドラゴン発言をするが、この流れではちょっと迷ってしまう。王になったとはいえ、この決断ができない所がいまいち一般人から抜けきれない所だろう。


 とはいえ戦力的に制圧は可能であると過去の占いで出ている為に、最終手段として視野に入れている。だが、こんなご時世とはいえ人を殺したくない上に、変に禍根を残すと、どのタイミングで揉めるかわからない。可能な限り平和で行きたい。だがそれも腑抜けた我儘なのかもしれない。


「まあ、ここで交渉決裂となればやるしかないな。」


「そうですね。」


 そう答えるメノウは目が据わっている。


「それじゃあ、行くか。」


 そう言ってメノウと共に城へと向かう。もちろん、下にはボディアーマー入りだ。なので服がきついのだが。




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 外交儀礼的なのをメノウに教わった通りに行い席に着く。生前のルールも知らんが握手の後にお互い後ろを向くってのがあったが、これは生前はないよなあ。とはいえ笑顔も交わしつつ進行していったので、少し緊張がほぐれてきたと思ったら。


「こちらが和平条件です。」


 犬側の将軍が条件を提示してきた。


 メノウがその書面を一通り読むと耳の先がプルっと一瞬震えた。俺も書面を見る。


 中身は変に細かく書いてある為に非常に読み辛い文面であるが、それでも判った事は、属国として扱う、超重税と解りやすい内容で、更にリノトを嫁によこせと書いてあった事。


 処刑でならばまだ解るがなんだこれ。俺はため息を一つ付き、書類を机に置く。


「それでは、署名を。」


 目の前の将軍は前に演習を見に来た者であった。彼は犬の顔で器用にニコリと笑い、万年筆を渡してきた。おお、これはいい物だな。どうせだし土産としてもらおうか。俺はそのペンを受け取り、書類を変わりに渡す。


「受けられません。」


 一応こちらもにこやかに解答してみた。そして将軍、名前は忘れたけどそいつは唸る前の犬の顔になる。


「よろしいのですか?」


「ええ。それでは。」


 そう言ってメノウの腕を引き踵を返すと、複数の軍人から槍を向けられる。


「その解答で無事帰れるとでも?」


「ふーむ。」


 まあ、そうだよな。だけどこの場で銃無しで槍ってのもまた舐められてるのだろう。


「そうですね、出来れば私は争いの無い交渉をしたいのですが。」


「それは我らも同じですよ。しかし、我々は大国、ミズタリごときを対等に扱う理由は無いもので。」


「はは、そうですか。」


 俺は将軍の方へ振り向き直り、メノウを引き寄せる。そして手元に隠していたスイッチを押した。




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「はあー、旦那とメノウ大丈夫かねえ。」


「あらテトさん。心配ですか?」


「リルウは心配じゃないのかよ。」


「私は旦那様を信頼してますから。」


「んじゃその足のゆすりはなんだよ。」


「流行りの運動です。」


「まあ、そういうことにしておくか。しっかし、あれどういう仕組みなんだ?」


「ううーん、旦那様の能力なのでしょうが、魔力も何も感じませんので私にもまるで分りません。」


「はあー、どういう仕組みで浮いているんだろうなあ。旦那のゴーレム。アレが城に落ちたら開戦でいいんだよな。」


「ええ。旦那様は落ちない事を望んでいましたが。」


「あ。」


「え?」


「落ちた。」




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 轟音と共にマルチプルが落ちてきた。というか、落とした。他ゲーの機能のアンロックだ、割高だったぜ。


「なんだ!これは!」


 そう驚いているうちに俺はマルチプルに飛び乗り、背中にメノウを乗せて機体にのりこむ。そしてスピーカーをオン。


「すまないが和平交渉は決裂、宣戦布告を受け取らせてもらう。」


「何を!」


 そう言う将軍を銃の横なぎで吹き飛ばす。旋回して槍を向けてきた兵士たちに向けてライフルとバズーカを乱射する。


「ぎゃ!」


 あ、やべえバズーカで一人巻き込んだ。威嚇のつもりだったのだが、異世界初殺人となってしまった。だが、もう怯まない。


「外出るぞ!メノウ!」


「はい!」


 そう言って三人称視点に切り替える。そして背中のメノウが気合いを入れると髪が白くなり、背中に四つの光る尾が出る。


 どうもリノトとの修行で手に入れた力、白化というらしい。こうなると彼女は耐久値合計が五千まで行く。皆、備えてきたのだ。この日の為に。


「はあ!」


 そして光る尾を将軍に飛ばすと彼を串刺しにした。素早く尾を戻すと改めて答える。


「行きましょう。」


 決意と殺意が張り付いた彼女の顔を見て、早く元に戻ってほしいと思いつつ城を飛び出した。そして壁を壊し、飛び出した城に向けて両手の銃を乱射し、そのまま壊していく。


 あまり殺さぬように外壁を多めに吹き飛ばす。そして忘れていた一番大事な事を思い出し、白石を取り出して叫ぶ。


「交渉決裂!開戦だ!作戦通りに!」


 そのまま俺はリルウ達と合流、ポタポタ石でガルムとメノウを交換する。二人の入れ替わりの際に、メノウがガルムを呼び留めてポータルの上で握手をして別れたのは印象的だった。


 その後に破壊した城の上まで機体で登り、巡航モードに移行して国の中心へ突撃。作戦は急ごしらえだが前と同じ。我等攻撃組が敵を無力化し、そのまま頭を取る。用はミズタリに来た時にやった事と同じ内容である。メンバーは以下の通り。


攻撃 俺 テト リルウ ヤナ ガルム 


防衛 リノト フィル メノウ アズダオ オシュ


 そして何よりも速攻だ。というのもあの後の会議はそのまま攻略作戦会議となり、作戦を練る流れで五本の矢の解析を急いだ所、対国砲という物の存在を確認。どうも強力な魔導爆弾を射出する大砲らしく、ミズタリサイズなら国一つ吹き飛ぶ威力らしい。


 なのでさっそくそいつの無力化という事でヤナを先行して向かわせた。というよりも向かった。俺は反対したのだが、抑える俺をすり抜けてそのままヤナは向かって行ってしまった。


「旦那!ヤナから返信が来た!五番ポイントに向かってくれ!俺が合流する!」


「わかった!」


 機体の背中のテトが叫んだ。この砲撃システムの無力化にテトとヤナが当たる事になった。すると魔力の光を帯びた弾が機体の横を通り過ぎる。歩兵からの射撃だ。


「来ました、それでは私はここで。」


 兵士を抑えるのはリルウが当たる。対多数戦では彼女が最強格だ。


「それでは。」


「死ぬなよ!」


「ふふ、はい!」


 そう言ってリルウは機体から飛び降り龍となって口から火を噴いた。初めて見る色の炎であるが、あのようなただの凶暴な龍である彼女は見たくないものだ。


「ポイントはあそこだ!」


 指差す方へ向かい、塹壕の入り口のような場所でテトを下ろす。するとヤナが入り口から出てきて、一拍置いて銃撃も噴き出てきた。


「姉御すまないっす!見つかっちまったっす!」


「構わねえ!その方がやりやすいぜ!」


 そう言って気が立ったテトは五対目の爪を出し、体毛が白く変わる。猫の国で伝わる白虎状態だと言う。もう総力戦だ。


「爪を盾にするぞ!ヤナ、お前も爪貸せ!」


「姉御相変わらずすごいっすねえ。」


「おいガルム!とっとと終わらせてこい!」


「あ、ああ!」


 そう言って二人は銃撃から真正面に突っ込んでいった。背中に残すはガルム一人。


「それじゃあ、本丸に突っ込むぞ。」


「わかったよ。」


 そう言って機体を旋回させて丘を登り、再度巡航モードへ。進む先の中心都市からは人々が逃げ出している。一応速攻という事で突っ込んだが民間人が居る状態での市街地戦となるのか。改めて人を殺す事に迷いと辛さで胃がもたれるが、三人称視点のガルムを見て耐える。


 そして国会議事堂みたいな場所へと行く。潜入時に各地を回った為に3Dマッピングがあるので迷う事はなかった。


 国会議事堂と言ったが形状はどちらかというとアメリカのペンタゴン的な形状で、二階建ての上で屋根部分に更に建物がついているのが特徴だ。だが、そこは潜入時に到達できていない為にどうなっているのかわからない。


 俺は偵察機を出した上でスキャンをして、人が少な目の所に銃を一発づつ打ち込む。


「ガルム、ちょっと耳ふさいでろ。」


「ああ、わかった。」


 三人称でガルムが耳を抑える様子を確認すると、スピーカーの設定を最大にする。


『ウォーロー!出て来い!交渉は決裂した!いつでも殺せるが最後に一つ提案してやる!』


 思った以上の爆音が出たのかガルムは少し震えていた。一応本当に銃を撃てるように構えておく。すると建物から声がする。


『屋上に来てほしい、話をしよう!』


 よし、乗ったか。俺は壁を蹴り跳び、屋上に乗る。すると変な形の屋上が平たくなってきた。


「なんだあれ。」


「わからない。」


 そのまま建物を蹴り跳び屋上へ向かう。すると何人かの兵士と共にパワードスーツを着込んだ男が真ん中に居た。俺はその前に機体を停めて、マルチプルからガルムと共に降り、機体と共に銃を構える。


「こんにちは、ミズタリの王よ。」


「ああ、こんにちは、ウォーロー。」


 そう銃を向け合って話をする。


「それで話とは?金か?」


「決闘交代を提案する。」


「何?」


 そう、そのままぶっ殺してもいいのだが、ヤナが持ち帰った資料をフィルが読み進めて行った所、現在は機能していない古い法律、というか掟で種族のトップを決闘で打倒した者がそのまま入れ替えでトップになるというものがあるそうだ。


 恐らく転生者が来る前のものだと言っていた。今回このままトップを殺したら恐らく全面戦争になる。戦力的にこちらが勝てるが、それでもあまり人を殺したくない。なのでこの形骸の掟で乗っ取ろうという魂胆だ。


「あっはっはっは!何を言うかと思えばそんな古い物を。第一それは我々犬族の中での掟だぞ?お前は適用されないさ。」


「だろうな、だからやるのはコイツさ。」


 そう言って俺は銃を構えながらガルムの背を押す。


「父さん。」


 その声と共に雨が降り始める。そしてウォーローの顔が歪む。この決闘交代、権利がある物はトップから三親等までと書かれていたそうだ。


 そもそも今回の宣戦布告には国民の誘拐が元となっている。という事は実験対象扱いの彼女を国民として認めているという事になる。そしてプロパガンダで広めた神の親という言葉も正しく、遺伝子を使った親子である以上正当であり、その証拠まで確保してある上、そもそも周知を向こうがしているはずだ。


 その意味に気が付きウォーローの表情は硬くなる。それと同時に俺は機体から遠隔操作で発砲する。


「今すぐこの事をラジオで放送しろ!国民に伝えるんだ!」


 俺自信も改めて発砲すると、周りの護衛はウォーローを見る。彼は小さく頷くと護衛は下への階段を下りて行った。


「協力感謝する。」


「構わないさ、だが、大丈夫なのか?ミズタリは。」


「何言ってる。対国砲も抑えているし進軍も防いでいるぞ。」


「じゃあ、あれはなんだ?」


 そう指さされた方を見ると、さっき見た対国砲があった。町中にあったのか!だが前回来た時にはなかったぞ!


「くそ!」


 俺は急いで機体に戻り飛び乗る。


「まて!」


 するとウォーローが大声で引き留めてきた。


「なんだ!」


「まだあるぞ!」


 そういうと地震と共に周りから俺の機体のようなメタルゴーレムが五体もせり出てきた。


「んな!」


「さて、神、いや、娘よ。決闘だ。景気のいいゴングを鳴らそう。」


 そうウォーローは語り掛ける。焦る、それと同時に爆音が。対国砲が火を噴いた!


「うあああああ!」


「さあ、始めようか!」


 その事実に打ちひしがれるも俺は光る軌跡から目を離せない。そしてその軌跡の先が急に爆ぜた。


「うん?」


「なんだ?」


 その爆ぜた先から何か飛んでくる。青白く光る、龍だ。


『おめえら!俺も混ぜろ!』


 そう竜言が聞こえる。アズダオだ!助かった!


「ガルム!そいつは任せた!俺は周りのゴーレムを叩く!」


「わかった!」


 俺は急いで乗り込み、戦闘システムを起動!アズダオはそのまま対国砲にとびかかった!


「行くよ、父さん。」


 その声を背に建物から機体ごと飛んだ。




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「うおおおおお。」


 俺は王宮の布団の上でゴロゴロしていた。あの後アズダオが砲台をぶっ飛ばし、俺がメタルゴーレムをぶっ飛ばし、ガルムが親父さんをぶっ飛ばした。


 やっと、やっと終わった。一応あの後ガルムと共にフィルを送り出してガルムを据えた上で国家間の交渉を開始。


 そしてウォーローも生きていたので無理矢理鹵獲、回収。いろいろと尋問した。


 結局妙にキツネの国に突っかかる事を聞き出した所、なんと目的の大半がリノトだった事が判明。


 リノトに惚れて、彼女を奪う為に今までやってきたとの事。恐らく虐殺する未来はリノトを手に入れた後、言う事を聞かせる為に虐殺する展開ではという事だ。


 あまりに馬鹿な話であったが、一人の妄執がここまで国を狂わせるとなると、力を持つという事は恐ろしい事だとも感じた。一応彼の処分はまだ決まっていないが、リノトが身柄を受け取り処分を決めると言っていた。


「久々にだらけれるぅ~。」


 そう言いながら俺は布団の上で回転を加速させる。大仕事が終わって、死者は出たが割と少な目なので成功した方だろう。何よりもいろいろなストレスからの解放が強い。今までで一番大きな問題が解決できたのだ。


「あ、でも腹減った。」


 だがどんな時でも腹が減る。俺は起きて、食堂へと向かう。すると道中の玄関の所で思わぬ人と会う。


「あれ?ガルム?」


 しかも横にはフィルもいる。


「やあ、おはよう。」


 ガルムはさわやか、フィルの表情は暗い。一応昔のルール使って無理矢理トップを返る内容上、絶対揉めるからとフィルを付けた訳だがなんでここに居るのか。


「なんでここにいるの。」


「罷免された!」


「はあ?」


 というのも独裁者が倒されてガルムがトップだとやり始めたが、この件で体制側の足並みが崩れた事で、もともとの転生者が残した民主主義を復活させようと選挙が起こったそうだ。


 そしてガルムも普通にそれを受けて見事ドベで落選したという。まあこのままだとうちの国の傀儡みたいになる事を見越したのだろう。そのつもりはなかったのだけど。しかしそこらへん無駄に公平な我々は下手だった。


「なのでまた国のトップが決まったら、和平結ぶ形になったよ!」


 キレ気味でフィルがそう続けた。


「はああー。」


 一仕事増えてしまった。が、まあこれは受け入れるべき苦労なのだろうなあ。

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