17 焼肉
「すまない、すまない。」
帰還した夜に微妙な空気となるが、リノトのため息の後にさらにヤナが来た。
ヤナは松葉づえっぽいものと手、足、腹、片目に包帯を巻いた姿だった。それに驚き声をかけ、彼女の状態を周りに聞きながら彼女を支えては部屋まで行った。
曰く俺の帰還の同日昼頃に帰ってきたのだが、その状態は凄惨なもので、片目はつぶれ、腕が折れ、腹に穴が開き、足が裂けていたそうだ。その姿でミズタリの町まで来て担ぎ込まれたとの事。俺はベッドに彼女を寝かせると謝りながら椅子で寝てしまった。
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「んあ。」
椅子でバランスを崩した落下感覚で目が覚めると日が出ていた。その様子を見ていたのかヤナはクスクス笑っている。
「いたたた。」
そして腹の傷にきたようだ。
「大丈夫か!」
「ああ、もう。朝からそんな大声嫌っす。」
そう言うと彼女は困り顔でこちらを向く。その痛々しい姿を見てられずに何か術をと考えると、リルウが一瞬で回復をさせていた事を思い出す。
「そうだ!ちょっと待ってろ!」
そう言って椅子から立って扉へ向かうと同時にその扉が開いた。
「あ、旦那様。」
メノウだった。
「ああ、すまん。リルウは?あいつに回復かけてもらおう。」
そう言うとメノウは一瞬考え、あー、と理解して気まずそうに声をあげた。
「ええとですね、それはちょっと。」
「でもあいつなら一瞬で回復できるだろう!」
そう言うと思わぬ場所から声が上がった。
「え、ダメっす。」
え?とヤナの方に振り向くと、正面に居たメノウもため息をついた。
「そうですね、ダメですよ。」
「ええ、なんでだ!」
驚きと戸惑いで焦るが。ヤナとメノウ、二人がクスクスと笑う。
「一瞬で回復なんてダメっすよ。」
「なんでだよ。」
「傷痕が残ってしまうんですよ。」
そう言ってメノウは椅子を持ち上げてヤナの近くへ置き、彼女の包帯を外す。
「あら、目が。」
そう言うので俺ものぞきに行くと、つぶれたという目が青色になっていた。包帯を巻いていなかった目は変わらずに黄色であるのに。メノウは近くにあった鏡を手に取り、ヤナに渡す。
「ありゃ、これうちの子供の頃の瞳っすね。」
「大丈夫なのか?」
「え、ええ。普通に見えるっすよ。」
「なら平気ですね。恐らくその瞳の色は元に戻ると思いますよ。」
その一言に俺は安堵して、空いたもう一つの椅子へと座りこんだ。
「とはいえ、早く治してもらったらどうだ。痛みに耐えるお前を見てられん。」
そういうとヤナはきょとんとした顔をした後いつも通りに笑い出した。
「いやあ、それは嫌っすよ。だって傷痕残ったら見られるの嫌じゃないっすか。」
「そうか、俺は気にしないがな。」
そういうとヤナは少しもにょった後に痛みを訴えた。
「ほら、旦那様、大丈夫ですから少し出てってください。」
そういってメノウに苦笑されながら部屋から押し出されてしまった。そして廊下でため息をついて数歩歩くと、よく眠れていなかったのか急に俺も眠くなり、ふらふらしながらも自室の布団に倒れこんだ。
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「んあ。」
寝起きで目が覚めると見慣れぬ顔が目の前にあった。同じく寝ている。えーと、確か。
「ガルムか。」
「んん、おはよう。」
そう目が覚めると挨拶してきた。あれ、俺昨日寝る前にどうしたっけか。そう思いながらちょっと焦って起きる。
「俺昨日なんかしたか?」
「いや、僕が一緒に居たかったから寝に来ただけだよ。」
「そ、そうか。」
少し気が楽になる。ヤナの手前流石に早速すぎる。それを無意識でやったとしたら男としてクソすぎる。
服を着替えるとガルムも飛び起きてついて来た。RPGみたいに列なって歩く。廊下に出るとテトとアズダオが話しながら歩いていた。そしてこちらに気づくと。
「「お前早速過ぎるだろ。」」
そう見事にハモった。
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しばらくして全体会議。今回ヤナはお休みである。というか秘密にした。あいつ意地でもきそうなので。
「という事で恐らくこちらが天狼人とやらだ。名は。」
「ガルムだ。よろしく頼むよ。」
そうひょうひょうと答える。周りから視線が集まるがどこ吹く風だ。意外と今までにないタイプだな。
「ええと。」
それで俺がとりあえず何かを話そうとすると、滅茶苦茶状況が特殊かつ色々な展開があった事に気が付いた。
「どうするか。」
真顔でそう言った俺にみんなが二度見した。そこから話を整理し、いろいろガルムに尋問する前に服を着替えさせていた。
あれ薄汚れていたものなあ。新しい服を来たガルムはその着ている物に目をキラキラさせて上機嫌になった。その後に会議を再開。昼食をはさんで終わったのは夜。以下が議事録となる。
ガルムは天狼人?
はい
こちらに協力してくれるか。
ちょっと迷っている。
向こうに戻りたいか
迷っているが一度だけ戻りたい。でも向こうに居たいわけじゃない。
向こうの情報を教えてくれないか。
それは協力する。知っている情報は提供する。
何故協力するのか
あそこから連れ出してくれたから。
なぜあそこにいた
あそこに居続けるよう指示と暗示がかけられていた。
どういう生活をしていた
研究の結果生まれ、男性型もいたが攻撃性が強い為に子供の頃処分された。あそこでの生活は戦闘訓練と魔導の研究や負荷実験が主。
そして会議の最後にメノウが手を上げる。皆疲れて集中を欠いているようだ。一番元気なのはハブられた事に気が付いて怒りながら昼に割り込んできたヤナだろう。
「質問です。」
「はい。」
「旦那様の事どう思ってますか。」
その質問に俺だけは何どうでもいい事聞いてんだと思ったが、場の空気が一瞬で変わった。
「それは、あそこに捕らわれた私を連れ出してくれた王子様だからね。」
そう言って横に座る俺の腕に手を回す。えっと思うと同時に皆ため息。だが状況からすると王子様と王様のニアミス以外はおおよそその通りではある。
「まあ、お守りは破れておった。そういう事じゃ。」
リノトが言うと皆改めてため息をついた。なんか転生の能力に、とてもモテる機能とかついてるのかなと後で能力の確認をしようと考えたが、それ以上にどこ吹く風で上機嫌のガルムは強いなコイツと思った。そして会議後に調べてみるとそんな能力は無かった。となると転生のお通しでついてくるのかもしれない。
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結局会議の次の日にリノトとメノウで占いを行ったが、どうも上手く未来が読めないようだ。話を聞くに偶に運命の分岐点があり、その場合は未来が良く見えないというか、重なってしまってよくわからなくなるそうだ。
俺は逸る気持ちの矛先が急に無くなった事で、仕事に戻る事も出来ず王宮の軒先でぼーっとしていた。
「よう、暇か。」
そう話しかけてきたのはテトだ。
「ん、ああ、まあな。」
「んじゃあ、ほら。散歩いこうぜ散歩。」
「あー、おう。」
少し迷うも何もやる事が出来ない手前、ついて行く事にした。そういえば会議の時からなんか静かだなと思うとオシュが居ない。犬の国に行く前に馬の国に戻したが、未だ帰っていないようだ。戦えるようになりたいとも言っていたから、その修行の時間が長引いているのだろうか。
「しかし久しぶりだな。全くヤナのやつ心配させやがって。見た時は逆立ったぜ。」
「ああ、まあ生きててよかったよ。」
なお逆立ったは猫の国の言葉らしい。彼女は偶に使う。
「ちなみに知ってるか?あいつ昔もヘマした時あったけど、そん時は適当に自前で傷縫って直していたんだぜ。上手くやったようだが傷少し残ってんだ。それが今回開口一番傷は残らないように頼むって言って気絶したんだぜあいつ。」
「はあー。」
テトは笑いながら話すが、俺はもう心配を通り越して感心してしまった。とはいえ今後はヤナをスパイで出すのはやめようと思った。とりあえず不意打ち防御のボディガードが適当かなあと考えながら、テトについて行くと町中に出た。見ると四足の馬の国の人がいそいそと荷物を運んでいた。
「おお、そうかオシュの代わりか。」
「ん、ああ。そうだな。一応オシュもまだ修行の身らしい。その間にと一人送ってくれたんだが、オシュの運搬量がすごかったらしくてその後三人送ってもらって、その上で少し量減らしてもらったんだってさ。」
「ええ、あんま無理させるなよ。」
「うーん、だけど馬側が意地になっている部分もあるから、あんまり強く言えなくてな。」
そう言って話ながらぶらつくと町は以前よりも物が増えて活気もあった。俺の努力もちゃんと成果があって、結構発展しているのだなとしみじみ思う。久しぶりに見たご神体饅頭は頭部ディティールが上がっていた。それを素通りすると正午前であるが腹が減ってきた。
「飯はどこで食べる?」
「ああ、飯はうちの家で食べようぜ。」
家と言われて少し疑問に思ったが、なんでも王宮以外にテトは山の近くに家を持っているらしい。それ結構いいなと思いながらついて行く。そして正午にはテトの家についた。
「おう、連れてきたぞ!」
そうテトが言うとトタトタと奥から足音がしてアズダオが出てきた。
「おうよ。んじゃあ用意するわ。肉頼む。」
「ああ、んじゃあ旦那は待っててくれ。」
「あ、ああ。」
どうもここで焼き肉という事になっていたようだ。外の切り株みたいな椅子を案内されるとそこに座る。すると奥から大人三人分ぐらいのサイズのイノシシをテトが抱えてきた。
「おーっし、肉はいくらでもあるからなー。」
イノシシは首を切られてぴくりとも動かない。なおこれ、牙と同時に角も生えており、ヘラクレスオオカブトみたいになっている。その角をつんつんつついているとアズダオが声を上げた。
「なんだよ、お前捌いてないのかよ。」
「あー、いいだろうが。」
「いや、お前なあ。」
アズダオがそうため息つくとこちらに顎で指示をだす。ふうと俺もため息をついて機体を出して、イノシシの前足を機体両手で持って吊り下げる状態にする。
「おお、これならやりやすいな。」
そう言って光る爪を出すテトをアズダオが止める。
「ちょっと待て、処理するから。」
そう言うとアズダオはSF映画のスキャン見たいな光線を両手から出しイノシシに浴びせる。
「なにそれ?」
「ああ、下処理だ。寄生虫とかそこらへん焼き殺すんだよ、これで生でも食える。」
「はあー。」
いろいろあるもんだと感心する。
「別に生でもいけるだろうよ。」
そう言ってあきれるテト。溜息をつくアズダオ。アズダオも生派じゃないのか。
「バカ、胃液が強力なお前は平気かもしれんがそれでも気を付けとけよ。気が弱ってたりすると駄目らしいぞ、フィルがそう言ってた。」
「あー、ストレスか。」
「すとれす?」
あんまり言葉を教えるとまたこの世界でもストレスという言葉を頻繁に聞く羽目になりそうなので、適当に流した。
「大体そんなん平気だろうよ。」
「何言ってんだ、ヤナ帰ってきた時お前滅茶苦茶狼狽えてただろ。」
「お前だって龍で出ようとしてただろうが!」
ギャーギャー喧嘩し始めたのでそれを止め、とりあえず内臓と皮を取ろうと話をして、テトとアズダオが作業している後ろで、俺は意外と仲の良い二人を見て安心していた。
その後テトが光る爪を出して、慣れた手つきで捌き始めた。なお内臓はアズダオが一発で焼却処理、剥いだ革も一応なんか処理して血と肉を取っていた。
なおその時にテトが内臓焼くのを止めようとして揉める時初めて、テトが狩りをした奴をこちらに渡すとき、先に内臓を食ってから喰いやすい方の肉を渡していた事を知る。なんで食ってから渡すんだとずっと思っていたが、あれ親切心だったのか。
そして三時くらいの時間となって、やっと準備が出来た。
「ほいよ、米買ってきたぞ。」。
「それじゃあ焼こうぜ。」
テトに言われて自転車で町へ行き、竹で出来たケースに入ったもち米を買ってきた。そして俺はたまにはいいかと格納庫から焼き肉のたれを取り出す。
「なんだその瓶。」
「これ付けて食おう。」
「ふーん、まあいいが。」
そう言うと切った肉に串をうつ。既に相当でかい。そいつに対してアズダオが両手で肉を挟むようにさすると一発で肉が焼けた。
「肉焼き名人だな。」
「だろう!」
どや顔で答える彼女と一緒に笑いつつ、皆で木の皿にタレを開けて、焼いた肉を付けて肉を食い、米を食う。
タレも二人の反応からお気に召したようだ。米はアツアツではないが悪くない。どうも保存用なのか粘りが強い品種のようだ。
「そんじゃあ酒もだ!」
そういってアズダオはテトの家に戻り酒を持ってきた。一応コイツは日本酒の清酒で、どぶろくしかなかったこの国に、俺が灰を入れると綺麗になるらしいよと話をした所、試行錯誤を経て最近できた物だ。だがテトは嫌な顔をする。
「うち酒嫌いなんだよ…。」
「なんだよ、まだダメかよ!」
はっはっはと笑うアズダオ。俺は酒は好きでも嫌いでもないが、まだ技術が未熟なここの酒は結構きついので苦手である。
「そういやなんでこの組み合わせなんだ。」
「え、そりゃあ、まあ。」
「あ、いや、それもそうか。」
キャラが似ているもんな、いろいろと。それにこんな粗雑な宴会は他の女性陣は嫌がりそうだ。
「ヤナも連れてきたかったがなあ。」
「いや、あいつは意外と騒がしいの嫌いだぞ。」
「へえー。」
そんな話から、
「アズダオ最近小物集めしてんだぜ。」
「お前だって刺繍始めただろうが!」
そんな話をしながら飯を食っていた。そんなこんなで肉を食い、米を喰い、酒も結局飲むことになって、機体のライトの下で宴会をやっていた。
ライトに虫が集まってきた所をアズダオが結界でぶっ飛ばして騒ぎ直すというひと悶着もあったが。
「あー、喰ったな、寝るか。」
「なんか今日、何もやらんかったな。」
「いや、いいんだよたまには。それで。」
「それも、そうか。」
そう言って機体を仕舞い、あと片付けを三人で雑にしつつ、三人でテトの家で寝た。
なんというか、生前の大学生のような事をこんな所でこんな感じで出来るとは思わなかった。それも相まって心がとても癒えた気がした。
翌日はアズダオの結界で一部魔法具が動かなくなったとかで三人で説教を受けた。それを含めても楽しかった。
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