15 魔導

 一応山を越えてミズタリの人里までたどり着いたのだが、俺が人に跨る道中はその姿故に国民から変な目で見られつつ、練り歩く事となる。


 それを満面の笑みで手を上げて挨拶するオシュにより、社会的ダメージを少しだけ和らげながらも王宮へたどり着く。なおその眼に耐えられず、何度か降りようとするとオシュが滅茶苦茶怒る。


 その後、彼女は運送係として今荷車を引いて市中を爆走している。その速度に市民から危ないと文句が来ることもあったが、なんやかんや彼女の操作がうまく、事故や積み荷の破損はない。


 とはいえ今後道路交通法が必要になるのだろう。オシュの山越え成功に伴い、馬の国に戻って移民の話をしようとオシュに言うと、彼女は更に仕事を早く終わらせて一人で大丈夫と言う。


 溜息も出たが、初めての一人暮らしが楽しい年ごろと考えて目を瞑ることにした。とりあえず馬の国にはポタポタ石で無事終わったとオシュと共に報告してある。


 石の後ろから歓声が聞こえたが、族長は同時に心配しているようだった。以上からおよそ一段落ついたのだが。


「ねーねー、いっしょにいこーよー。」


 ミズタリについてから恒例になったオシュ絡みだ。早朝彼女は仕事前に俺を乗せて走りたいらしい。


 全力疾走するにはちょっと狭いこの国で、俺は山越えでナビゲートを使い的確に指示をだした経験から、俺が乗っていると全力で走れるとの事でオシュ側がはまってしまい週四で来るのだ。


「今日はもうちょっと寝る…。」


「もー!じゃあまたこんどね!」


 割と粘らず引き下がってくれるのでやっぱり根はいい子なのだ。




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「ミミナシの国から人来てますよ。」


 昼近くに起きて部屋を出るとメノウにそういわれる。そこそこ服を着直して迎えると相手の人間は大層な焦り用だ。


「勇者様!なにとぞ!」


 なんなんだよ。と思いつつ話を聞くと、カネミツの先、ベクレタの町から更に海側の国に、魔物が発生して困っているとの事。


「あそこは魔導国家ジンウェルが魔物の要衝となっていますが、それが最近押されているのです。」


「なんでまた。」


「大昔の勇者の活躍でこの大陸に来る魔物はいなくなっていたのですが、ここ半年で急激に増え、被害が出ており復旧が追いつかない状態なのです。」


「いや、だがこちらもそう余裕がなくてだな。」


 犬の国の占い結果は未だ芳しくない。究生龍が一人増えたので戦力は悪くないのだが、それでも双方の国民へ被害が結構出るとの事。まだ満足できる状況ではない。


「王様、参られてもよろしいのでは。」


 すごい綺麗な声だな、でも謁見中に誰だろうかと声の先を見るとフィルだ。


「なぜまた。」


「それは後程。しかし今のすぐに向かう事はできません。数日の後に回答いたします。」


「わかりました!ありがとうございます!」


 そういって彼らは帰っていった。部屋から出るのを見計らい、フィルに話しかける。


「なんでだよ。」


「えっとね、その国が魔導技術の国だからだよー。」


 お互い一気に仕事モードが解ける。更に上からヤナまで降りてきた。


「お疲れさまっす。やっぱそうっすよね、ここ受けた方がいいっすよ。」


「いやまて、ヤナお前いつからいた。」


「うち謁見の時はいっつも居るっすよ。いきなり旦那襲われたらまずいっすから。」


 新事実。だがある意味当然か。うちの王宮、個の戦闘力高めなので兵をあまり配置してないし、俺は不意打ちに弱いから前回の矢と同じで必要か。


「んで話戻しますけど、結局のとこ犬の国の技術って魔法でも魔術でも、ここの願術でもなくて魔導なんすよ。」


 ああー、そういう事か。なんか前に魔法系の勉強したが、魔力が無いため結局わからずにも仕組みだけ聞き、何となくだがプログラムのコードの違い見たいなもんだと勝手に理解している。


 そしてうちの魔法具部門にあの銃の部品構造を確認させた所、よくわからないって話は聞いた。というのも基本構造は銃そのものなのだが、弾丸の薬莢がなぜか青く光る部分があり、銃側もハンマーみたいなのが見えない為に撃発の仕組みが良く分からない。


 更に部品がモジュールになっているのだが、どうも構造的にはただの金属の塊なのになんか動作するのだ。その金属の塊にはいくらか青い線が書かれているので、恐らく基板みたいな構造に思えるが。


「犬の技術者の誘拐も手なんですけど、警戒きつくって危険ですし、わりとジンウェルって魔導の大御所ですからね、この際国交築いて解析依頼かけてもいいんじゃないっすか。」


 ううーむ、結構利がある。ただ。


「行くなら俺だろ?」


「でしょうね、勇者ですし。」


 手頃な冒険者見繕って適当に勇者に任命して、代理たてられねえかな。




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「んでまたこのメンバーか。」


「よろしくっす!」


「おうよ!」


「僕も頑張るよ!」


 馬の国の時メンバー+馬である。


 またかあと思うが、二人は前回が短すぎるとごねた上、彼女ら以外のメンバーも微妙に用があるとの事で、しぶしぶ譲っていた。なおリノトとフィルは出不精だからが大きい。


 そして追加でオシュも行きたがっていた上、なぜかリノトがつれてってやれと押してきた。


「それじゃあ勇者様!乗って!」


 案の定オシュは鞍を背負ってこちらに向ける。


「はい、今回は無し。」


 そういって鞍を外して格納庫へしまう。


「なんでー!」


「二人はどうするんだ。」


 ヤナとアズダオ思わず苦笑い。


「なんとかきてもらう。」


「集団行動できない子は連れてけません。」


「…………わかった。」


 結構粘ったなコイツ。


「そんじゃあ俺が行くか!」


「んなわけあるか、マルチプルで行くぞ。」


 アズダオはそれはそれで文句あると言った顔をしていたが、オシュをチラ見して黙った。ここでごねたらオシュとおんなじになっちゃうもんな。




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「ううううう。」


「泣くなってオシュ。」


 ジンウェルの城門の結構離れた位置に降り立って、機体を収納する。どうも勇者に載せてもらった上、割と快適だったので負けたと思ったらしい。甲板でヤナがずっと慰めていた。


「ほら早くいくぞー!」


 アズダオは割と張り切って先に走っている。結局前にあげたTシャツは彼女の物になってしまった。今回は変身無しだが俺の服だとちゃんと変身前に気が付いて脱ぐとのリルウの証言あり。


「ほらほら、いきましょうよ。」


 すげえな、ヤナが常識人枠だもんなこれ。ちょっと子供の引率感あるぞ。


「ぼく、がんばるから。絶対あの鞍に見合う子になるからあ。」


「ああ、わかった、頼むぞ。」


 そういうとオシュは涙を拭いて歩き出した。いい子ではあるのだけども。


「へー、何あげたんすか。」


 やっとこ移動ができるとため息をつくと、横のヤナがそう言うが、その口調になんか違和感がある。


「ああ、勇者の剣の材料使ってあいつの鞍作ったんだよ、さっきのやつ。」


 結局軽合金なんてものが無いので、とりあえず知ってるうちで一番軽いやつをベースに、ドワーフの所で鞍付き鞄を作った話をする。新たに合金が出来たとの事でドワーフ側も今は武器以外にいろいろ作るようになったらしい。


 ただあの村の周りの森がいわゆる魔の森らしく、外に出れなくて売りに出せないとの事で、そいつをポータル使ってミズタリから流通させたいとの話が出てるが、まだこちらの流通網が出来切っていない。


 今度オシュの里帰りがあるのでその時族長に話をする予定だ。


「ずるいっす。」


 歩き出そうとするとヤナにぎゅっと服をつかまれる。


「え、ああ、まあな。」


 適当に流そうとするが、ヤナもちょっと涙目だった為に言いよどんでしまった。やばい、なんでこいつらミズタリの外で我儘いうのだ。


「ずるいっす。」


 それしか言わない上に、普段我儘言わないヤナがこうなると、どうすればいいかわからなくなって変に焦る。先を見るとアズダオはもうだいぶ先を歩いている。


「あー、ちょっと、ちょっと待て。」


 ぐずり始めたヤナに更に焦り、なんかねえかと格納庫をあさる。あ、これでいいか。


「ほい!これ。確か短刀よく使うよな!」


 格納庫から勇者シリーズの一つのナイフを取り出して渡す。これ切れ味高すぎて普段使いができないので、あれ以降使っていない。


「これ。」


 そういって鞘を少し抜き、刀身を見る。途端にヤナの涙は引いた。


「それじゃあいくぞ。」


「はい!」


 一応歩きながら注意点を説明したが、あんまり聞いている様子もなく、何度もあげた短刀を見直していた。




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「すげえなあ。」


 城門前までつくと大きさが良く分かる。というか結構歩いたのだ。予想よりも大きい城壁だったからか遠くに降り立ってしまったのだ。そして近づいてわかったのだがこの壁石造りじゃない、コンクリートだ。


「まあコンクリはローマからあるって話も聞いたけども。」


 あっておかしくはないのだが、どうやって作ったのだろうか。というか国に対して文明の度合いがまちまちすぎる。


「おい!早く来いよ!」


 アズダオが入り口でキレてる。それもまあ仕方ない、あいつ門番から槍を向けられているから。


 あいつの魔力はやばいらしいために、抑える訓練をリルウとしたらしいが、新天地ではしゃいでいる間に解けたらしく門番がビビッている。あ、後ろから追加で兵が来た。応援呼んだのか。


「あー、申し訳ない門番殿、こちらを。」


 まあ王同士の謁見ならばもう少し仰々しく来るもんなあ。一応今回は勇者なのか?そう思いながらもらった親書を渡す。しばらくして、


「こ、これは!しばらくお待ちを!」


 うーん、門番さん今生きた心地しないんだろうなあ。それよりもまずアズダオに後でフォローしとこう。でも通る時に門番見つつ舌打ちしたアズダオは叱っておいた。


 そして衛兵につられて門の中に入るとこれまたすごい。中は水上都市となっており、建築も豪華な上に水路で物を運んだり、土のゴーレムで橋を作ったりなど文明がミズタリの二歩先を進んでいる。


 とはいえ犬の国は更に未来と言った所。いろいろあるものだ。そして案内されるままゴンドラに乗り、水路を登る。漕ぎ手は居ないが総舵手が居る。


 他の船を見ると後ろにエンジン的なものがある。乗っている舟も形は一緒だ、こちらにもついているのだろう。仕組みはわからないが動力があるのか。唸りながらも船の作りを見ていると、女三人のうち一人は同じく興味津々、一人は短刀抱えてニコニコ、一人は超緊張してカチコチである。


 え、緊張?コイツが?そう思い話しかける。


「おいオシュ、大丈夫か。」


「え、あ、うん。」


 コイツが緊張するなんて珍しい。なんやかんやリノトが苦笑いしつつも、いつもの勢いで打ち解けたやつだ。


 というか冷静に考えると俺も王様と謁見か。ちょっと緊張、でも俺も王か。でもこれ変に話がこじれるとまずいのか、そう考え始めると俺も緊張してきてしまった。


「ま、まあ大丈夫だオシュ、俺も王だし、リノトも王女だ。いつも通りにやれば平気さ。」


 いや待ていつも通りにしたらまずいのか。


「あ、いやちょっとまて、いつも通りじゃ」


「えっと、ちがくてね。」


「え、なんだ。」


「僕、泳げない…。」


 ああ、そりゃ怖いな。そういって頭を撫でてやって落ち着かせていると、俺も一緒に落ち着いてきた。そしては変な小部屋に入り、後ろの門が閉まり、周りから水が入って上に船がせり上がる。


 警戒でアズダオが一瞬気を締めたが、船頭が無事向かっていると説明。ヤナは気づかずに、あ、やべって顔をしてやっと短刀を仕舞った。


 そして上にある扉まで水がたまると扉が開く。先へ進んでいくと、その乗っている船のまま王宮の広間みたいな所に出た。豪華な椅子が前に二つ、それぞれ少女が座っている。


「王女様です。」


「え?」


 舟でそのまま謁見すんの?そう言えば説明時に登ったら直ぐですと言ってたけど、直ぐじゃなくて直じゃねえか。これマナーとかどうなんだ。


「これはこれは。ご足労いただきご苦労様です。」


「おう、要件を言え。」


 そういって火と共に翼と尻尾を出すアズダオ。あついって、というのもあるが。


「なんでお前喧嘩腰なんだよ。」


「呼び出した癖に見降ろされるのが気に食わねえ。」


 こう龍族ってもうなんでこんな。


「あー、確かにそうっすね。」


 ヤナまで参戦。押さえる奴が居ねえ。が、確かにそうだなと思いつつも、そう言ってもられん。ここでオシュがカチコチなのはちょっと助かる。


「ふふ、では早速話をしましょうか。」


 そういってさっき話をした方とは別の方が説明する。端的に言うとこの国のはずれの岬の洞窟に、何か魔物の呼び水みたいなものがあるので、それの破壊をしてほしいとの事。


 というのもその呼び水のなにかが魔法で壊せない物らしく、それの破壊を勇者に要請したらしい。


 こちらもただ使われる訳にもいかないので、ミズタリとの国交とこちらの魔導や土木技術の移転を要請し、おおむね合意。詳細は依頼をこなした後話すと書類として残し、お互いに署名した。ここはすんなり。


「では、よろしくお願いします。」


 気疲れはあれど、とりあえずやる事は決まった。アズダオは相変わらずイライラしている。また水エレベーターまで引き返し、やっと緊張を解いてアズダオに話しかける。


「ほら、そんな怒りなさんな。」


「あいつら、一人で俺と同等ぐらいの魔力があった。あいつらでできる事だぞ。」


 その言葉を聞いて、割とこの世界のお偉いさん強いんだなあとちょっと関心するも、確かにその言葉に引っかかる事があった。




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「それじゃあ、行ってくる。」


「いってらっしゃい、気を付けてね。」


 観光ついでに食糧を買い込み、情報を集めた三日後に国を出る。そしてその流れでオシュはお留守番となった。


 というのも、宿に泊まっている間にその対象の破壊遠征隊が戻ってきたようで、多数のけが人が運びこまれてきた。もちろん作戦は失敗だそうだ。


 人数からしても百人以上は確実のためかなり大規模だ。オシュも弓が使えるが、完全な戦闘となると話は別だろう。血まみれで腕や足を失った兵士を見て、小さく悲鳴をあげた彼女はすんなりと国にとどまる事を選んでくれた。


「うちも家で引きこもってましょうか?」


 マルチプルを出して走る中、甲板でそうヤナは言う。


「何言ってんだ、お前が要だろ。」


「へへー、そうっすよね。」


 一応先遣隊からの話ではでかい水龍が居るらしく、そいつが洞窟を守っていて、洞窟の中にあるターゲットにたどり着けないらしい。


 なので俺とアズダオでそいつを引き受けて、その間にヤナがターゲットを破壊という流れだ。


「一応ポタポタ石でそちらの援護にいけるが、急な転送は使いたくない、頼んだぞ。」


「まかせてくださいっすよ~。」


 そういうヤナはまた短刀を見てにやけている。まあ、モチベーションが上がったのはいい事だな。


「そういや、龍ってんだからアズダオ、お前話せないのか?」


「あ?いや相手魔物だろ?たぶん無理だぞ。」


 考えてみればなんやかんや詳細を聞かずに来たが、ここまで来ていい加減聞く事にする。


「なあ、魔物ってそういやなんなんだ?」


「「はあ?」」


 二人にそういわれる。だが改めて説明するとなると悩むようだ。アズダオも悩むが何か思いついた模様。


「んまあ、定義、種類いろいろあるが、一貫しているのは死んだら消える奴だ。」


「あー、そうっすね、考えてみればいろいろあるっすもんね。」


 その後移動中に説明を受けるが、どうも魔力の元、マナ生命体らしく、肉体を持たないとの事で死ぬと消えるらしい。


 となるとドラゴンとかはあれ生き物なのか。続く話では、生き物と魔物で対となるらしく、こことは別の大陸に魔物の大陸があるそうで、そこからこちらに流れ着いてくるのだとか。またダンジョンなんかにいるのは大抵魔物らしい。濁ったマナから生えて来るとの事。


「昔の勇者がその大陸に遠征してからは渡ってくる魔物は納まったって話だが、なんかが起きているのかもな。」


 その話の後しばらくして、目的地付近に近づくと同時に何か見える。兵士達から聞いた通りの、少し汚い水で出来ているヤマタノオロチみたいな水龍がいる。


 水で出来ている所からもミズタリの龍神様のやばい版に見える。なるほど、何となく正体がわかった。向こうは気が付いているようだが動かない。俺はブーストを切り、戦闘前のブリーフィングを始める。


「それじゃあ俺とアズダオで水龍の無力化、ヤナはターゲットの破壊だ。」


「おう!」


「うっす!」


「緊急時はポタポタで連絡を。ただ安全を確認できない状態ではポータルは開けない。深入りするなよ、それじゃあいくぞ!」


 そういって三人で突撃した。




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「はあー、きつかったなー。」


「場所がわりいぜ、水辺だからな。」


「うちは結構楽でしたね。」


 そういって三人で帰宅中である。結局あの後三時間ぐらいでターゲットの破壊に成功。


 どんだけ水龍撃っても再生するわ、なんか半魚人みたいなのも出るわで長期戦になったが、最後は力押しとヤナの速攻でターゲットを壊すと、再生が止まって相手の消耗が始まり勝利する事ができた。


 とはいえバズーカは残弾無しとなり格納庫で補充中である。別種類のバズーカかライフルを出してもいいが、疲れるのでそのままだ。また巡航モードを使わずオートパイロットでゆっくり移動中である。


「とはいえこれで帰って報告、国交結んで終わりだ。」


「おう、どうせだからここの魚たらふく食わせてくれ。」


「あー、なんか塩食わせた変わった牛?かなんかもいるらしいぞ、そいつも食べよう。」


「いいっすねえ。でもオシュちゃん嫌がりますよ。」


「あー、あいつ馬の国に牛の部族もいて友達なんだっけ。」


 気にするなと言いたいとこだが、たぶん生前で人が猿を食うぐらいの嫌感はあるんだろうな、まあ平気な人も当然いるだろうけど。


「結構距離あるがゆっくりでいいよな?」


「かまわんよ、俺は少し寝たいな。」


「そんじゃ落ちないようにみてるっすよ。」


「おう、すまんな…。」


 炎主体のアズダオは結構きつそうな場面が多かったので寝かせてやる。それに戦闘後に昼食を食べたから眠たいのだろう。その気持ちはわかる、なぜなら俺もだからである。


 なので帰りはゆっくり安全運転なのだ。オートパイロットなので操作も必要無く、俺も寝たい所だが、このまま寝たらジンウェルの壁に衝突もありえる。今度は衝突安全システムも必要かもしれないなあ、そう思っていると反応がある。


 なんだ?と思いスキャンを行うと友軍反応、オシュだ。あのジンウェルからここまで結構距離がある。なんだろう。


「すまんアズダオ、寝るのは無しだ、オシュが来た。」


「んあ?」


 あ、もう寝てた。すまんな。少しブーストを吹かしてオシュと合流。俺は降りるのも億劫なので甲板のヤナが軽業で降りてオシュと話す。


 移動中に話す為にマイクの指向性を甲板側に向けていたので、オシュが何を言っているか聞こえて無かったが、オシュの話をヤナが聞いた途端、彼女の尻尾がぼわっと膨らんだ。


「まずいっす!さっきの水龍、あの国に直接仕掛けてきてるらしいっす!」


「んああ?」


 その話を聞き目が覚める。そういやあの国、港側に壁は無い。まずいのでは?


「くっそいいや、俺が先に出る!」


「え、大丈夫か。」


「喰ったし寝たから大丈夫だ!それに誰も乗ってなければ最高速度は俺の方が上だ!先いくぞ!」


 そういってアズダオは上着を脱いで龍化、そして龍の姿で走ると翼の後ろに魔法陣みたいなのが出て火を噴きだした。ジェットエンジン搭載してんのか。


 俺はヤナとオシュを背にのせてこちらも巡航モードで追う。


「とはいえあの王女、アズダオ並みの魔力らしいし耐えれるのでは?」


 そう息を切らせたオシュに話をしてみるが、呼吸が戻ったオシュが言うには、


「王女様は家とか物とか作るのは得意だけど、戦いはあまりうまくないんだって!」


 その一言を聞き青くなる。まずいじゃねえか、正しくピンチだ。巡航速度を改めて最高速に切り替える。


 急ぎで行くと遠目でヤマタノオロチが、二匹もいた。とりあえず一匹にアズダオが組み付いているが相手が水故か捕らえられずに転げまわっている。


「城門で二人を下ろす!二人は町人の避難と王女の保護を!」


「「わかった!」」


 二人に指示を出して俺も加勢する。一応兵士たちの状況を見ると半魚人の方を対処していた。ライフルとバズーカを、と思ったが市街地戦なので、レーザーライフルとレーザーブレードに武装を変えてこちらも応戦する。




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「状況クリア!」


「こっちも終わりだ!」


 水龍二体をそれぞれ撃破。頭数が増えていたが先ほどのように再生しなかった為に終わるのが早く、半魚人の方を少し手伝うと後は兵士が処理してくれた。人的被害は確実にあるが勝利は勝利だ。しかし、


「な、なんだ?」


 大きな音をたてて、上空に大きな紫の魔法陣が出る。そしてそこからバカでかい隕石が顔を出していた。


「なんだ、新手か?」


 そうすると通信が入る。ポタポタ石が震えている。


「もしもし!」


「やっとつながった!ヤナっす、ちょっと城門へきてもらっていいっすか!」


「わかった!」


 声色から焦り以上に怒りがあった。なんだろうと思いつつ城門へと向かうと、アズダオも龍のままついてきた。


 城門前の広場では王女二人とヤナとオシュが見える。だがオシュは中へと走って行ってしまった。急ぎ機体から降りて話しかける。


「すまない!現状はどうなっているんだ!」


「ごめんなさい、ごめんなさい。」


 王女二人は泣きながら謝っている。どういう事よ。


「空の大岩、こいつらのせいっすよ!」


「なにい?」


 キレ気味ながらもヤナは上手く話しをまとめてくれたが、どうもこの国の中心にも魔物の呼び水的な物がある上に、もし魔物が来た時用にその自爆措置としてあの隕石落としがあるらしく、水龍二匹が突っ込んできた事で自爆装置を発動させたとの事。


「ええー…。」


 隕石はまだ出きっておらず、魔法陣は先ほどよりも少し上空に上がって、隕石がでかくなっている。なお王女が二人だけでここにいるのはオシュとヤナが無理矢理引っ張ってきたかららしい。本来王女二人は王宮で一緒に吹き飛ぶものだそうだ。後ろから変な音がするとアズダオが人型に戻り上着を着ているとこだった。


「んで状況は。」


「あの星が落ちて国が吹き飛ぶらしい。」


「はあ、そいつはまた。」


 魔法陣はなおも上がり続け隕石をでかくしている。オシュはその避難誘導に行ったらしい。


「どうするっすか!」


「とりあえず、俺らも避難誘導するか?」


「何いってるんすか!ここで国交結んだりしないと、うちの国だってやばいっすよ!」


 その言葉に我に返る。そうか、この国滅ぶと国力があがらないじゃん!しかも難民受け入れするにも、うちよりでかい国をうけいれられんぞ。状況を理解し息を飲む。


「おい、アズダオ、アレ壊せるか?」


「細かけりゃ全力出せばなんとかなるが、無理だ、でかすぎる。」


「だよなあ…。」


 なんかねえかと格納庫を探す、そして武器カテゴリを変えていき見ていくと、あった。


「う、あった。」


「何?なんかあるのか。」


「ある、けども。」


 規格外兵器。機体一台分ぐらいの大型兵器を無理やり機体にくっつけて動かす武器であり、使うとしばらく機体が動作不良を起こす。


 ただ威力だけは冗談みたいに強い。遠隔操作であの隕石をスキャンしてみる。一応耐久力は規格外兵器の攻撃力以下だ。だが。


「当てれて一発、しかもどう壊れるかわからない。」


「そうか、壊せても、か。賭けだな。」


 そういうが以外な所から声があがる。


「あ、あの!私たちなら壊す所がわかります。」


 王女の一人だった。なんでも魔導の一環で測量魔法を二人が使えるとの事。


「バカ、あれは一か所だけじゃなくて、周りをよく見てあげないと細かい所がわかんないでしょ!」


 もう一人の王女が反論した。なんだ、意外と姦しいなこっち。


「そうでした…。」


 進言した方はまた暗い顔に戻る。そして姦しい方も暗い顔に戻る。周りをよく見る、周りをよく見るが。


「普段はどんな風に?」


「ふつうなら歩き回ってよ。ただこの城壁は長いから馬車の後ろで測りながら、ひび割れとかもろくなった所とかを確認しているわ。」


 馬車か。なら。


「ヤナ、オシュを呼んでくれ。やるぞ。」


「え、ええ?わかったっす。」


 そういうとヤナは城門へと走っていく。


「すまない王女様たち。もしあの隕石を砕くのならば、お二方の協力が必要だ。」


 そう言うと二人はこちらをすがるように見た。




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 そろそろ隕石も完全に出る頃か、改めてスキャンをかけるが耐久力は変わらずこちらの規格外兵器以下だ。


「オシュ、準備はいいか。」


「いいよ、がんばるよ。」


「お願いします。」


 微妙に乗り気じゃないオシュと王女フィニル。オシュの背中には鞍があり、その上にはフィニルがいる。


「ヤナは。」


「いいっすよ。」


「なんで、全くあたしが、こんな。」


 ヤナに背負われているのは姦しい方の王女フェニル。文句をぶちぶち言っている間にきつい方にされた。


「そんじゃ確認、二人で国の周りを走って、隕石を測量、データと破壊予測点をアズダオに送り、そこに俺が規格外兵器を打ち込む。アズダオは細かくなった隕石を吹き飛ばす。以上だ。」


「すげえ狂った作戦だな。」


 アズダオが文句を言う。がその声と顔はにやけている。


「すまんお前に無理のかかる作戦だ。それに確かにまともじゃない。」


「はっ、俺は褒めてるんだ、流石俺の旦那だぜってな。」


 まあそういってくれると助かる。さてやるか。


「それじゃあ開始!」


「はい!」


 そういうとオシュは走り出した。背にいるフィニルは手を隕石に向ける。そして、ヤナの方はフェニルが魔法を使う。球体のバリアみたいなやつだ。


「そんじゃあぶっ飛ばすぜ、舌噛むなよ。」


両腕を龍に変えたアズダオがその球体を持ち上げて、拳を構える。


「なんで、なんで私がこんな事をぉ。」


 フェニルは弱気になって半泣きだ。まあ王女様がやることじゃないよな。


「んまあ覚悟するっすよ、あと。」


「ふえ?」


「手ぇ抜いて測量して旦那が死んだら、即座にお前殺すので。」


「ひい!」


 ああ、ビビらせているのもあるだろうけど本気だな。これ。


「そんじゃいくぜぇ!」


 そういってアズダオは肘から火を噴き球体を殴り飛ばした。平野部分はオシュが測定、そして岩肌や港など地面が不安定だが距離が短い区間はヤナが走る。


「そんじゃあ俺は集中する。そっちも準備しろ。」


「ああ、わかった。」


 うちらの組で魔法が使える者がアズダオだけだったので通信受けになったが、もともと彼女は魔術師であり、通信の魔法はフィルにちょっと教わっただけという事で、通信の確認自体はできたが集中しないとうまくできない。


 なお王女らも本職は魔導で、この都市をつくる技術が魔導となるらしい。まあ、物に対していろいろマナとか魔力で何とかする技術が魔導らしい。要はエンチャントとかそっち。


 俺は急いで武器をローディング、測量から攻撃への移行が短期間の為に選定したのは多連装レーザードリルだ。


 コイツを両腕で抱えてそのまま突撃する。背部でジェネレータに直結してからのチャージが一番短く、威力も担保できている。


「とはいえぶっつけ本番、やりたくねえ仕事だな。」


 逃げちまえばよかったのではと思い直すが弱音を振りほどく。決めた以上やらねばならん。武装変更が終わるが、規格外兵器は起動時間が限られる上、破壊目標点が判らない今は構えるしかできない。そして集音マイクをアズダオに向けて、待つ。


「来た!」


 そうアズダオが叫んでしばらくすると、隕石の魔法陣が消えた。ここから落下が始まる。


「行くぞ!」


 そういうと俺は機体を走らせ巡航モードへ、同時に規格外兵器を起動する。滅茶苦茶なアラート音が鳴る。


「だよなあ、無理矢理改造して上に飛ぶようにしたが、上手く起動するのだろうか。そっちはどうだ?」


「ここだ!そのまま上に真っすぐだ!」


 独り言を言っているとアズダオが龍化してレーザーを放ち隕石の中心付近に痕をつける。こちらでもそこに画面上でピンを打つ。


「起動完了!俺も頼む!」


「おうらあ!」


 そういって俺は城壁を蹴り上り、追うアズダオも翼と爪で壁を登って機体の背部へ。そして上手く尻尾で俺の機体を打ち飛ばす。


「速度、間にあうか!」


 ブーストを吹かし、位置調整、真下に入った!


「ここ!」


 トリガーを引くが起動しない。チャージしきれていない!だが見直した瞬間チャージ完了!


「いっけ!」


 もう一度トリガーを引くと起動、上に向かって武器を上げて突撃、命中!だが。


「あれ?」


 壊れきってない!画面一面岩しかない。青くなる。これでは、死ぬ?ここで?


「まだ!まだだ!」


 悲鳴のような鼓舞を一人上げ、再度チャージ開始、もう一回だ、浮遊感が上昇から落下の感覚に変わった。落下の恐怖が機体から伝わる。恐怖で腕が震える。


「はやく、はやくはやく!」


 チャージ速度が早いやつで良かった。チャージ完了、もう一度!


「いってくれ!」


 懇願の叫びを上げながら武器を再起動、岩だけの画面に青空が広がる。隕石を抜けた事を確認し、カメラを切り替えて眼下を見ると火が岩を吹き飛ばしていた。だがシステムエラーから画面が良く見えない。


「くそ!」


 かなりの高度だ、このままちゃんと降りれるか?そのまま自由落下するので、ブースターを起動させるもすぐにガス欠、ジェネレータダウン、動作異常だ、落下する!


「うおおおお!」


 叫びつつ王宮を蹴り飛ばし、衝撃を吸収して着地する。あぶねえ、なんとかなったか。外を見ようと機体のハッチを開けようとするがシステムエラーで動かない。


 しばらくして無事復旧するも疲れがどっと出ており、しばらく機体内で項垂れていたが頭部をずらして芋虫のごとくはい出る。


 機体の頭の横に座ると、城壁の外から小さくではあるが歓声のような声が聞こえた。




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 数日後


「「此度は誠にありがとうございました。」」


 また謁見の間で俺らは一応膝まついている。星を貫いた後にアズダオが吹き飛ばしたが、一部吹き飛ばしきれずに町を壊すも、一番の被害は俺の落下地点であった。


「それでは、こちらからもよろしくお願いします。」


 流石に滅茶苦茶活躍したので友好的な関係が組め、町の復旧と並行して歓迎会が国総出で行われた。なお、オシュとフィニルは仲良くなり、ヤナとフェニルは腐れ縁みたいになってた。


「はあ、なんとかなったな、一応王宮にもポタポタ石おかせてもらったし。」


「まあちょいと俺がへましちまったが、良しだろうよ。」


「次いつくる?フィニルと遊ぶんだ!」


「うちもその時一緒に寄りましょうかねえ。」


 そうそれぞれ話しつつ国を離れ、帰路に就く。皆元気だが俺は宴会の疲れまであって、静かにゆっくりしたかった。

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