14 掟

「アズダオだ!よろしく頼む!」


 会議室の中、大声で挨拶をする新究生龍アズダオ。会議室の面々はうーんと嫌な顔をしつつ、なんか納得した。するのか。


「まあ、これからよろしく頼む。」


 一応俺も挨拶。


「頼む!」


 そうアズダオは言い直す。余談だが、前に市中の女キツネさんとちょっといい感じになった事があるのだが、その時は皆に袋叩きにされた。


 何かやはり選定基準があるんだろうな。近況報告などの会議も終わり、アズダオと席を片付ける。


「なあ。」


「ん?」


 すごい真顔で話しかけられる。何かいきなり深刻な悩みでもあるのだろうか。


「俺、滅茶苦茶巨乳すぎないか…?」


 まあ、それはそう。




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 結局の所、あれから少し生活してみたが、こいつもコイツでいろいろ問題があった。


 まず最初の頃は基本パン一。男の時はそうだったと抵抗するが、リルウとリノトが二人がかりで抑えつけ、服を着させてその習慣をつけさせた。


 なおリルウは龍化前後で服脱げないなと思ったら、彼女は自身の魔術で作っているらしい。変身の為にアズダオも服の魔術を同時に練習させられてた。


 またいきなり変わった体つきにも悩んでおり、歩幅が変わった為によくこける上、階段でも下が見えないと愚痴られるので二人でリルウに相談しに行く。リルウ曰く、


「滅茶苦茶男らしい体つきだったので、女性化した関係で逆に滅茶苦茶女らしい体つきになったのでは。」


 との事。更に言えば今までの筋肉が全部胸と尻にいったのではと言っていた。


 それを聞きアズダオは鍛えすぎたと項垂れていた。本当にそれか?その話の後にリノトが来た。


「お守り、壊れたんじゃろ。」


 そういって不機嫌に手を差し出す。それで俺は思い出して、爆ぜたのか変形したお守りを渡す。


「ああ、すまない。助かったよ。だがよく壊れたってわかったな。」


 アーマーは変形したが、中身がわりと無事だったのはこれのおかげだろう。とはいえ俺はこのお守りの事を誰にも話した覚えがなかった。


「そりゃあお主を守ると同時に、他の女と新たな縁が出来んようと作ったのに、新しい女持ち帰っていりゃあの。」


 呪いもちょっと入ってんじゃねえか。こいつらほんと親子なんだなあ。後ろからメノウ覗いてるな。二人で作ったって言ってたもんな。




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「今の問題は物流ですね。」


 一月後の会議でそう議題があがる。


「道と住居は大分整備されたのですが、それに対して通る人も、物もそんなに。馬も少なく高級品ですし。」


「ふーむ。」


 土木関係でとりあえず闇雲に整備はしたが、そっちの成長率が高いにしても他が追いついてなかったようだ。生活圏が広がったが個々の移動能力が低い。


「私たちの製紙技術で紙も安価になったけどねー、手紙とかの文化もあまり広がらないねー。」


 そうフィルが続ける。戦時用の連絡伝達手段として郵便局的なのを作って見たが、民間レベルでの浸透は無い。


 隣国の人の国は独自の製紙技術と流通網が発達しているが、ミミ付きはミミ付きの種族同士で固まるからか、コミュニティが小さくなり気味のようだ。


 そして小さいこの国では言伝で良いようで、便利なはずだが今まで通りで社会が走っている。


 また一応国力増強目的で純人の国とも国交を始めているが、以前輸送コストが高い。


「鳥族との国交を結びますか?」


 最初に行った町では確かに背中に鳥の翼が生えた人種がいた。あの国は純人の国との戦争の際に前線となった結果、他種族が入り乱れている稀有な国らしい。彼らの仕事はそういう感じなのか。


「いや、そりゃ無理だな。」


 するとアズダオが声を上げる。


「確かに、そうですね。」


 リルウも続いた。


「なぜ?」


「うちら龍族と鳥族は生活圏が同じでな、、昔に衝突して大体うちらが勝っている。」


「なので我々二人が居る場所に来る鳥族は居ませんよ、宿敵ですから。」


 ああー、そうなの。まあ二人を追い出す訳にはいかんし。だけど二人を輸送に使う訳にもいかない。


「となると、隣国の馬の国になりますか。」


 そういってメノウは地図を広げて指を指す。山の向こうのその先には草原が広がる大きな馬の国、フィブルメヌがあるそうだ。


「それじゃあ行ってみるか。」


 そしてその後の同行者選定が白熱した。




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「いや、すげえっすねアレ。」


 そうヤナはケタケタ笑う。今回の同行者はヤナとアズダオ。一応移動はアズダオの背に乗ってやってきた。だがリルウは背に載せて飛ぶのに慣れたが、初めてのアズダオはやっぱりへたくそだったのでジェットコースターになった。


「いや俺はあんま好きじゃないな…。」


「なんでそんな事言うんだよ!」


 だってこのジェットコースター安全装置どころか椅子すらねえんだぞ。そして不満そうに俺からのTシャツを受け取るアズダオ。


 まだ服は魔術で上手く作れないらしい上に、着る服を忘れたとの事で、俺から格納庫にある生前来てたTシャツを渡す。


 やっぱり胸周りぴちぴちである。男もんだぞそれ。


「んでこっからは徒歩っすか?」


 山を越えて草原のど真ん中で降り立つ。結局の所また龍が出たとの騒ぎになるのを抑える為に国境付近で降りた。


「さすがに俺が嫌だ。マルチプルで行くぞ。」


「オッケーっす、あ、やば。」


 ヤナがそういうと短刀を取り出した。そして俺が後ろに押される。同時にアズダオが前に出ると角に炎が揺らめいて、叫んだ。すると空に火が付く。


「なんだ!」


「ひゅう、流石っすね、矢が撃たれてたっす。」


 気づかなんだ、あっぶな!


 アズダオを見ると臨戦態勢だがそのまま突っ込む感じはない。確か究生龍の雄は頭領でもあると言っていたから、そこらへん見極めが出来るのか。だが矢を射られていい気はしない。


「耳ふさげ。」


 アズダオはそう我らに語りかえる。ヤナと共に耳をふさぐとアズダオが吠えた。


「くっそ、この体だとでかい声が出ねえ!」


 そうは言うがでかかったぞ。すると前から手を上げる人が来た。一応俺も手を上げてそちらに向かった。


 そして近づいて行くと相手はでかい。馬に乗っているようだ、と思ったが馬の顔よりも先に人の体が見える。


 あ!これケンタウロスか!すげえ、でもつなぎ目は上から服着てるから見えねえな。興奮をよそに話しかけられる。


「すまない、こちらに龍が降り立ったと報告が来てな。」


 見られていたのか。


「ああ、すまない私達だ。龍が友にいるもので。」


「なんと、それは。申し訳ない。話であればどうも究生龍だと事だったので。」


 あいつら恐れられすぎじゃない?


「して、要件は。」


「私はミズタリの王なのだが、馬がほしくてな、それで協力を頼みたいのだが。」


 そういうと少し相手は悩む。


「すまないが族長を呼んできても良いか?」


 一瞬気まずい顔をしたのでたぶん隣国の王に弓撃ったのに気づいたな。しかしここでキレたら話が進まねえ。


 とはいえ常識を考えれば、いきなりポンと王様出て来るわけもねえから半信半疑か。そういってケンタウロスは駆けて行き、後ろから二人がこちらに来た。


「どうだ。」


「一応族長とやらが来るってさ。」


「意外と話早そうっすね。」


 すると前から十人ほど走ってきた、皆ケンタウロスだ。両端の四人は弓を構えている。そして真ん中から髭と服装が豪華な男が出てきた。


「私が族長のムズネだ、お前がミズタリの王か。」


「ああ。初めまして、よろしく。」


 一応名乗り、馬がほしいと話す。すると案の序、嫌な顔をされる。


「それは我が一族を買う、と言う事か。」


 そうだよなあ、実際の所そういう話になっちゃうんだよなあこれ。でも俺は個人的に奴隷はあんまり好きではないし、ミズタリの国も奴隷は居ない。なんかそういう方針らしいが、俺はそれに好感を憶えている。


「いや、出来ればそうはしたくない。出稼ぎという形でとりたい。」


 そう答えるとふむとムズネは顎に手を当てる。そして眉を顰め俺の顔に近づいて見る。


「な、なんだ?」


「お前、まさか勇者か?」


 え、何。転生者だけど勇者ではないと思うが。


「だが、勇者なら勇者の剣を持っているはずか。」


 そう納得されて思い出した。そうだ、俺剣作って忘れてた。


「あ、あるぞ、ちょっとまて。」


 急いで格納庫を起動して腕を突っ込み、剣を取り出す。その姿に横の四人はこちらに矢を向け、こっちの後ろの二人が構えた。やめろ。


「コイツだ。」


「ふむ、こ、これは!」


 柄の部分を見た後に少し剣を抜くと向こうも本物と判ったようだ。


「確かにこれは本物、そしてそうだ、お前の顔は流れ者が持っていた新聞で見た。お前が当代の勇者か!」


 おおー、通じた。意外なネームバリューがあるもんだ。


「それならば邪険に扱う訳にはいかないな。乗れ。集落に行くぞ。」


 そういってムズネは背を向けた。乗れ?のれってこの馬部分か。俺乗馬経験ないし、そもそも鞍も鐙もない。


「む、すまないな、手をかそう。」


といって他のケンタウロスに持ち上げられ載せられた。なお後ろ二人は何やかんやうまく乗ってる。


「では行くぞ。」


 そのまま俺は股間を痛めつつ走るムズネの背で耐えた。そして結構な距離を走ったのちに白い建物にたどり着く。あー、コテージだっけ、ゲルだっけ?広がる草原からも遊牧民っぽいな。


「それでは勇者どの、こちらに。」


 ムズネから下ろしてもらうとムズネはその内のでかい一つに入っていく。皆も降りたので後ろに続く。


「いやはや、まさか勇者殿とお会いできるとは。弓を引いてしまい申し訳ない。」


「いえいえ、しょうがない事ですよ。」


 そういうと横でアズダオがむっとする。


「して、ご用件は。」


「あ、はい。」


 それから物流改善の話を説明する。一通り話し終るが、ムズネの反応は芳しくない。


「ふーむ、当代の勇者殿の頼み、無碍に扱いたくはないのだが。」


「難しいですか。」


「ミズタリとはそもそも山に囲まれた国故にここから向かうのは難しいかと。」


「一応その問題は空輸で。」


 とも思ったが彼らの下半身は馬で龍に乗っけるのも、機体に乗っけるのも難しい。たとえ無理にやっても数が数人しか乗らないだろう。


「我々は草原の一族。我が先祖が勇者を背にして魔物を打ち取った伝説がありますが、その時も祖先は山を越えれず旅について行く事ができなかったのです。」


 あー、その下半身は草原では強いが山間部や不整地だとそのまま枷になっちゃうのか。


「そうですか…。」


 うーむと二人で悩むといきなり後ろから大声がする。


「ねえ父さん!勇者様がきたってホント!」


 入り口を見ると馬ミミが生えた女性が飛び込んできた。


「こら、オシュ!客人の前だぞ!」


「え、それじゃこの人たちが勇者様?あ!勇者の剣だ!あなたがそうなの!」


 そういってぐいぐい来る女性、でかい。背が二メーター以上ある。だが、足が普通に人の足で二足歩行だ。


「ん、彼女は?」


「こちらは我が娘のオシュです。申し訳ない。」


 そう顔を覆うムズネ。でも下半身全然違うよ。養子とか?


「僕ね、勇者様を乗せて走るの夢だったの!乗ってもらっていい?」


「オシュ!後にしなさい!」


 そう言われるとほかのケンタウロスに連れられて外に引っ張られていった。


「元気な娘さんですね、養子か何かですか。」


 そう苦笑いしながら言う。すると怪訝な顔をされる。


「いえ、オシュは私の娘です。」


「え、でも大分、その下半身が。」


「ああ、彼女は新世代の馬族ですね。最近ぽつぽつと、足が二足の子が生まれるのです。新たな時代に人は変わると予言にありましたので、それでかと。」


 ええ、そんな言葉は生前にもあった気するけど構造が違うじゃん。と思ったが前にヤナが犬の国でとった写真も完全な犬の顔と犬ミミが混ざっていた。


 最初の国でもケンタウロスタイプもいたが、馬のなかでも種類が更に変わるのか。


「ふむ、話をしていると遅くなってしまったようですね、本日はこちらにお泊りください。」


 外を見るともう夕方だった。一応野宿セットもあるが甘える事にした。


「ありがとうございます。」


「いえいえ、こちらも当代の勇者殿に会えるとは。それではまた。」


 そう話を終えて外に出ると先ほどの女の子が横から出てきた。


「ねえ、勇者様!今日ここ泊まるの?」


「あ、ああ。」


「じゃあ一度のって!お願い!」


「ええ。」


 助け船を欲して後ろを見ると、二人は微妙な顔をしていた。


「はあー、モテるっすね~。」


「あー、結構腹立つもんなんだな、こりゃ。」


 一人は笑ってて、もう一人はジト目でこっちをにらんでくる。


「じゃあはい!」


 そう言われて、体を持ち上げられ、おんぶされる。


「え、あれ?」


「しゅっぱーつ!」


 成人となり初めておんぶされて、彼女はそのまま走り出した。おんぶでダッシュだが乗り心地?は悪くない。思ったよりも揺れない。


「僕ね、いつか勇者様乗せるために練習したんだ!」


 そういって草原をかける。確かにこの衝撃の少なさは一朝一夕ではできないだろ。


「これで僕も一緒に戦いにいけるかな!」


「え、ううーむ。」


 気の良いことを言うべきなのだろうが、ちょっと悩んでしまう。


 というのも今回持っている剣をまあ、本当に勇者だと思うやつが出た時に渡すとしても、流石におんぶのこの状態で剣を振るうのは無理だろう。あ、それならば。


「君が勇者の剣もつかい?」


「僕勇者じゃないからもてないよ!そこは勇者様がもつの!」


 そうむくれながら走る。こだわりがあるのか。まあそしたら俺が完全デッドウェイトだもんな。


「ま、まあ今日は家にかえろう。また明日ね。」


「うー、わかった。」


 そういって爆走して家に戻る。地面に降りるとなんか感覚がふわふわしてた。





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 翌日にまた族長と話をしようとすると、族長の家からオシュが飛び出してきた。


「おはよう!走ろう!」


「いや、ちょっと話が。」


「こらオシュ!学校に行きなさい!」


「えー、でも。」


「ああ、今日一日はいるから。」


「うー、わかった!」


 そういうとオシュは荷物を背負い集落の外へと駆けて行った。


「元気ですね。」


「すいません。昨日の晩もあの後ずっと話しておりまして…。」


 なんか予想が付く。


「ではすいませんが、昨日の話を続きを。」


「わかりました。」


 ムズネはそう回答するがその表情は芳しくない。あまり意見は変わっていないようだ。結局話は平行線であった。


「我々にはミズタリとの国境を越えられないのです。」


「ではその国境の道を我々で作りましょうか?」


 そう言うとムズネは唸る。


「たとえそれが出来たとしても、昔の伝説ではあの山を越える力が無いと一緒にはいけないと言われたのです。できれば整備もやめていただきたい。」


 ううーむ、ちょっと保守的すぎないかとも思うが、これも文化だ。あまり頭ごなしで言いたくない。


「それに最近、犬の国からの先遣隊のような者が目撃されているのです。今はまだ大きな問題はないのですが。」


「何!」


 ここでそんな重大な話が聞けるとは。その後に犬の国の情報交換行った。だが移民に対しては否定的だ。


「ただいま!」


 昼食をいただいた後にオシュが帰ってきた。


「じゃあ勇者さま!乗って!」


「いや、あー、うーん。」


 ちょっと良くない考えをする。横目で族長を見ると嫌そうな顔をされた。まあそうだろう。ここでオシュを誘えば高確率でついてくる。だけどそれはなんというか、だまして連れ帰るみたいなものだ。


「すまんな、まだムズネさんと話があるんだ。」


「えー!また夜?」


「あー、でも明日戻るつもりだし、ちょっと今晩は無理かな。」


「じゃあ僕も一緒に行く!」


 やってしまった。ムズネを見ると頭を抱えている。


「オシュ!何を言っている。」


「だって勇者様と一緒にいきたい!お父さんだって勇者様背中に載せるの夢だったんでしょ!」


「む、むう。」


 この娘強いな。


「今日は昨日剣振れないって言ってたから鞍もってきたんだよ!」


 そういって背中を見せる。でもそれ馬用、だけど無理矢理背負ってる形だ。


「ほらのって!」


 そういってまた俺は積載されるが、ほぼ水平の状態で足をわきに抱えられてそのまま走られる。無理矢理腹筋で体を起こすがさっき飯を食ったばかりなので気持ち悪くなる。


「ちょっと、ちょっとまって!」


「どう?昨日より乗りやすくない?」


 そういうが本当に吐きそうになる。そしてこのままだとオシュの後頭部直撃になる。断腸の思いだが。


「すまん!」


 体をねじって無理矢理落馬し、転がった手前余計胃を掻きまわされ吐く。あぶねえ。


 ちょっといてえが石も無く、お守りパワーで目立ったダメージは無い。オシュを見るとこちらを向いて青い顔をしている。後ろからはムズネが走ってくる。


「バカ者!」


 そういってムズネがオシュを叩いた。オシュは泣きながら平謝りである。


「ごめんなさい。」


「いや、まあ一応無事なのでそこまでおこらんでも。」


「馬族は認めた者しか乗せぬにしても、乗せた者を軽々しく扱うとは何事か!」


 なんか説教の内容を聞いているとあんまり人は載せないけど、乗せたんなら丁重に扱えという教えがあるらしい。これも文化か。


「まったく、ほら帰るぞ!勇者殿も申し訳ない。」


「ああ、いえ。」


「ごめんなさい、ごめんなさい。」


 あのクソ元気だったオシュが、鞍を抱えながらめそめそ泣いてムズネの後をついて行く。先ほどまでのクソ元気からの落差でなんというか、かわいそうになってしまった。


「オシュ、うちの国くるか。見学だけでも。」


「で、でも。」


「ほら、うちドラゴン居るからさ、そいつの背中に乗ればオシュ一人ぐらいは。」


「それは嫌、です。」


「ええ?」


 そういうとオシュは俺を抱え、ムズネの背に置いた。そして親子二人は歩き出す。


 歩きながら話をすると、伝説で勇者を背にした祖先は、この国の者は自力であの山を越えられない限りは国外に出ない、と取り決めているらしい。


 先の純人との戦争によって、義憤に駆られ別ルートで国外に出た者もいるらしいが、勇者と共闘した直系の子孫がその取り決めを破る事は出来ず、なおかつ乗られる者として、自らの足で進む事を誇りとしているらしい。


「なので難しいのです。確かに抜け道はありますが、出来れば我々としてもその方法はとってほしくない。」


 そうムズネは語った。オシュは泣き止み鼻をすすってる。


「でも、僕夢だった。」


「ああ、確かにな。お前は二足になったおかげで実はあの山を越えられるしれないと思っている。だがそれでもやはり、行った者は怪我をして戻るか、帰って来なかった事もあった。」


「…うん。」


「そういう事で、すまない勇者殿。この国からの者は出せぬ。そして無理に連れて行くのはできればやめてほしい。」


 そう話すと集落の入り口ちょい手前ぐらいに来ていた。そしてそれを聞くと同時に問題の根幹も理解することができた。


「つまり逆に言えば、あの国境の山を越えれれば連れてっていいんだな?」


「うん?何、話を聞いていたのか?」


「聴いた上でだ。もし、そうさな。オシュと、その上に誰か乗って、あの山越えれればそれでいいか?」


「…まあ確かに、そうだ。その通りだ。」


「僕勇者さま以外載せたくない。」


 こいつ結構わがままだな。その日の夜はヤナとアズダオに話をして、今後の流れを相談する。ヤナは笑いながらだったがアズダオはため息ばかりだった。それでも二人の了承を得た。




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「それじゃあちょいと戻りますが、少し協力願います。」


「ふむ、わかった。一応我々はあと二月ここに居るつもりだがまたいつでも来てくれ。」


「いえいえ、たぶん直ぐ来ます。そしてこの石をちょっと置いててほしいんですよ。できれば広めの家に。」


「なんだ?これは。」


 そして渡すは白い石、ポタポタ石だ。


「まあ、百聞は一見に如かず。アズダオ頼む。」


「あいよ!」


 魔法と魔術は技術体系が違うが根っこは一緒なのでこれは起動できるらしい。変な音をたててゲートが開く。


「あっぶねえ、力かけ過ぎた。ぶっ壊れてないよな?」


 怖いこと言うなこの龍。


「な、なんだこれは!」


「この先はミズタリになっております。また向こうから開く事もできますが、その際には周辺に人がいないかどうか、確認いたしますので一応使用方法をこちらに。」


 そういうとヤナが説明書を渡す。


「ちょっとこちらでいろいろ用意してその後にまた来ますよ。あとこの鞍、もらってっていいですか?」


 そういって昨日オシュがつけていた鞍を見せる。するとムズネが首を振る。


「コイツをもっていってくれ。」


 そしてムズネは真新しい鞍を渡してきた。


「これは?」


「昨日のは俺の友人を乗せていた鞍だ。だから恐らくその鞍は友人が座りやすいようになっている為に、貴方には座りにくい。そして今倉庫から出せる一番良い鞍がこれだ。」


「それは、わかりました。」


「すまない、族長としては反対ばかりだが、俺個人としても祖先の宿題を終わらせたいんだ。」


「ありがとう。そうだ、オシュ、この穴を行けばミズタリだが一度一緒にいくか?」


「…ううんいい。勇者様といっしょにいくよ。」


「そうか、わかった。」


「早くしてくれー、開けてる間も力つかってんだよ。」


 そう言われるので三人で入る。このポータルを使えば物流に革命がとも思えるが、これは輸送質量に対して魔力消費が上がるという事で、扱える者が少ない上に燃費まで悪いので、流通には使えないという結論だった。そしてミズタリに戻ると。


「んで、どうするんだよ。」


「とりあえずなんとかやってみるわ。」


「はあー、もうちょい一緒に、でも三人じゃどのみちかあ。」


「抜け駆けできんすもんね。」


 そういってため息のアズダオと笑うヤナ。すまんなあと謝る俺が恒常化してしまった。




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 次の日俺は機体を出して空を飛ぶ。一応一人だ。そして懐かしの湖へと降り立った。


「確かここら辺だよな。」


 そういって湖畔に降り立ち、見える赤い家を目指す。すると。


「な、なにもんじゃあ!貴様あ!」


 ドワーフファランクスのお迎えである。そうか、俺の機体普通に考えれば飛ぶとは思わんもんな。だがこちらを見て陣形は緩んだ。思い出したようだ。


「すまん、俺だ。」


 機体から出ると一拍間が置かれて。


「おまえかあ!いい加減にせんかあ!」


 怒られた。すまんな。ほんと。そのまま皆で集落へと戻り話をする。


「んで今回は何が目的じゃ。新たな剣か?」


 そういうと俺は格納庫を起動し、空間から鞍を取り出す。改めてビビるガゼット。


「人が人を背負える鞍というか、アタッチメントを作ってほしい。」


 説明ミスったかもしれん。


「…意味がわからん。」


 でもたぶんミスってなくても意味が解らないだろうなあ。時間をかけて頑張って説明するとなんとかわかってくれた。しかし。


「うちは馬具屋じゃねえぞ。」


 そうでしょうね。


「あの、紫の結晶あるだろう。」


「ん、ああ。まだたんまり残ってるぜ。」


「あれは軽い上に強いだろう。だからあれで馬の背中見たいな形の、人が背負う物を作ってほしいんだ。」


「なんだそりゃ、拷問かなんかか。」


 まあ普通はそうだろう。だが状況が普通じゃないんだよな。


「必要なんだ。はっきり言うと、作ってもらった剣よりも国の為になるんだ、頼む。」


 そう言って頭を下げる。ガゼットはめちゃくちゃ大きなため息をつくと。


「しょうがねえなー、上客だ、やってやるよ。」


「すまない!ありがとう。」


 そして開発が始まった。だがまず最初に龍の血が必要との事で空き家にポタポタ石を置かせてもらって二人から取ってくる。


 今回は二種類あるぞ!と言ったらドン引きしていた。また今回は靭性が重要との事と、背負う形の参考として俺の格納庫にあった、背中がメッシュの登山用鞄も見せた。


 ガゼットは神妙な顔つきで見るが、しばらくして皆話し合い、はしゃぐ姿はやはり職人なんだなと痛感させられる。


 また女性陣もなぜか水にぬれた髪でこちらにきて、どうも湖底にある新たな金属を発見したらしく、そちらも合金にして使用、またこの周りの森の魔獣から皮を取る為狩りも行った。


 装着者を呼び寄せられないので、魔獣の革ベルトを調整してうまく背負えるようにする。一応試しに俺がしょってみて感覚を確認。


「どうだ。いいか悪いかは俺もわからんが。」


「うーん、胸がきついな。」


「加重は背中より胸で受けた方が楽だぞ。それに調整は効くからまあいいだろう。」


「いや使うの女性なんだよな。」


「まあ大丈夫じゃないか?」


 そんな事を言っているとガゼットが嫁さんにぶん殴られて、俺も混ぜらされて二人で説教を受ける。


 結局そこの調節関係はドワーフの女性陣が誂え直す事になった。今回は剣よりも時間がかかり三週間かかった。


「ったく無事できたからいいが変な仕事持ってきやがってよお。」


「すまんな、それじゃあ今回の作業料は米で払うよ。」


「ミズタリの米っていや高級品だからな、いっぱいよこせ。」


「それじゃあ、出来ればこの空き家も売ってくれ、ここからまたくるよ。」


「けっ、何から何までめんどくせえやつだ。長老に言っとくぜ!んじゃあなんかあったら戻って来い!」


「ああ、それじゃあな!」


 そういってポータルからミズタリに戻る。ゲートはポタポタの通信でこちらから依頼をかけて、フィルが向こうから開けてくれた。


「意外と武器以外を作るってのも、いいもんだな。」


「私らもいろいろ作ってみましょうかね。」


 そう背中からガゼット夫婦の言葉が聞こえるとポータルが閉じた。




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 一日ミズタリで準備をして、次の日に馬族の集落へとワープする。フィルは疲れるとぶつくさ言っているが滅茶苦茶便利だなこれ。


「お、おお。本当に来たのか。」


 外へ出るといくつか建物が減っていた。先行して移動している所もあるそうだ。


「して、準備は?」


「これだ。」


 そういって格納庫から馬具を取り出す。なんというか、サメの背びれのでかいものがついたベルト付きの鞄だ。一応角度補正の為に鞍には滑車もつけてある。


「…なんだこれは。」


「かっこわるーい。」


 出てきた俺に気が付いたオシュも来た。相変わらず君正直ね。


「んまあ、そうは言うがな!これ材料すごいんだぞ!」


 二人ともよくわからないと言った顔。なので俺は勇者の剣を取り出して、その刀身を馬具の隣に並べる。


 一瞬意味が解らないという顔をしていたが、刀身を見て二人とも同時に理解したようだ。


「ま、まさか!」


「そうだよ、この刀身と同じ金属つかってんだ!」


 結局のところ、あの結晶と龍血と湖底の金属を混ぜて合金化した事で、本当にファンタジーな金属が出来たのだ。


 そうだとしても生前であればフルチタンでできたフレームの人用の鞍だ。この場と、この状況でなければ誰も価値を見出せないだろうが。


 そしてそれを話してっからのオシュの眼は、ほんとに星でも出るんじゃないかというぐらい輝いていた。


「え、これを、どうするの。」


「オシュ、お前がしょって、俺が乗って、山越えるぞ。」


 その一言ですげえ喜んで騒ぐだろうなあと思ったが、予想と違い、その顔には鋭い目つきと覚悟が宿る。


「うん、わかった。」


 その表情を見たムズネは小さく笑う。


「娘を頼みます。」


「あ、ああ。わかった。」


 その解答にこれは利害以上に重い決意と歴史があるのだなと感じた。その後二人で頑張ってオシュに鞍をつける。


 一応やり方は教わっていたが意外と調整点が多い為に手間取った。


「はい!どうぞ!」


セットできた時のオシュの喜びようは見てとれた。そして彼女はしゃがみ、意図を汲んで俺は乗り、腰ベルトにつるされる鐙に足を通すと彼女は立った。


「なにこれ!全然重さないよ!」


 ピョンピョンと飛び跳ねていきなりロデオになる俺。鞍前のフレームをつかんで耐える。そして作るのに手一杯で乗馬の練習してないのをここで思い出す。


 なおこの鞍の下の空間は普通に鞄となっており、ここにフィルから荷物が軽くなる魔法具を仕込んでもらっている為に、いろいろごまかしがきいている。


 後俺は分けあってボディアーマーを展開してある。


「それ勇者様の鎧?かっこわるー。」


「向こうついたら昔の勇者の鎧あるから着てやるよ。」


「ほんと!絶対だよ!」


 そうはしゃぐオシュ。


「それでは、よろしくお願いします。」


「わかりました、それじゃあいくか。」


「うん!じゃあね、お父さん!」


 そういって走り出すオシュ。前の鞍とは違って、まじですんごい速くて顔にくる風で前が見えないのでヘルメットを展開。


 そして能力でとったルートプログラムを起動してナビゲートを行う。ミズタリから飛んできた為に3Dの地形マップがあるので、そことの組み合わせだ。ちなみにあまりに速度感が速いので地面からの距離を用いて速度をおおよそ出した所、今すでに時速百十キロ。


 ナビゲート用にボディアーマーを出したが、落馬対策でも必要だったかもしれない。また会話がうまくできないだろうと予想し、今回は試作品の小型白石通信機をお互いの口元耳元につけてある。


「ちょっと速すぎないか?」


「全然つかれないよ、もっと飛ばす?」


 俺が怖いので維持をお願いした。結果的に山を越える事はできた。しかも崖みたいな所は降りて二人で歩こうとすると、乗ってなきゃダメと怒られながらだ。すべてを彼女の脚だけで越える事ができたのだ。

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