13 赤龍

「これは転生者殿。」


「おお、ラプルか。」


 エルフの花粉症患者がこちらに移り住んでしばらくたった。最初は文化の違いでもめ事はあったのだが、フィルが収めてこちらの常識を学ばせたりして、最近は上手くやっているようだ。


「一応一般魔法具がいくつか売れるようになり、そちらの方は問題なさそうですね。」


「そうか、量産も出来そうか?」


「はい。軍用魔法具の開発資金に廻せそうです。最初は軍用などと思いましたが、我々もこの国の方達を知ってしまうと踏ん切りもつきますね。」


 もともとは魔法具の軍事転用を皆嫌がっていたが、フィルが一部エルフにこの国の未来の話をすると納得し、そちらの開発も行っている。だがそれまでは生活用魔法具を売って生計を立てる事になった。


「そういえばラプルってフィルと似てるよな。」


 性差が出る前はそう思わなかったが、顔だちとしぐさが似ている事に気が付く。


「ああ、フィル様は私の親戚ですよ、確か何代前だったかな。」


 へえ、そうなんだと思うと同時に視線に気づく。後ろの部屋からフィルが顔だけ出して睨んでいる。はあ。


「あいつもなー!年の事気にしなければ最高に綺麗でいい嫁なんだけどなー!」


 年の事毎度気にしすぎなんだよ。という事で彼女に気づかぬふりをして大声で言う。ラプルはその声に驚いている。


「え、ええ。」


 驚きながらも無難に頷く彼女の後ろで、赤い顔したフィルがゆっくり引っ込んでいった。これで気にしなくなればいいのだが。


「そういえばあのフィル様の開発した第一軍用魔法具ですか。」


「ん、ああ、ポタポタ石?」


「あれは何か名前の由来があるのですか?」


「ああ、それはな。」


 生前にお菓子でおばあちゃんのぽ、っと言おうとして再度後ろのドアを見る。顔は出てないが赤いエルフミミがはみ出ている。


「俺のセンスだ。」


「センス悪いですよ。」


 そういって笑い合い別れた。後に格納庫から女神様に聞いたが、致死率10パーセントのイベントを回避したと教えてくれた。




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「旦那様。」


「あれ、リルウか。」


 リルウが話しかけてきた。そういえば彼女は普段何をやっているのかよくわからない。


 ただテトが稽古つけてもらったと言っていたり、夕食の調理当番をフィルと一緒にやって、その度に滅茶苦茶まずい飯を食べさせられるが、日中廊下で見るのは久しぶりだ。


「あの、今からご一緒によろしいでしょうか。」


「え、ああまあ、いいけど。」


 最近は土木工事を切り上げて、軍用魔法具の打ち合わせばかりだった。基本的にどんなものがほしいか、何ができるかを話して、とりあえず通信機などの開発をお願いした。


 自分も何が必要かよくわかっていないので、生前の聞きかじった程度の軍事関係の話を無理やり思い出しての事だ。今それがひと段落しているので時間がある。


「では、私に乗って行きましょう。」


「ああわかった。」


 そういって庭へ出て、龍化した彼女の背にのる。急な話だったがこの感じから気分転換の息抜きかな、最近は会議室や研究室とかで部屋にこもり切りだったし。


 リルウも人を背にして飛ぶ事がうまくなったのか、あまり寒さや風のきつさを感じずに飛ぶので眠くなり、そのまま寝てしまった。




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「着きましたよ。」


「え、あ、すまない、寝てしまった。」


「お疲れでしたね。」


 そう微笑むリルウ、膝枕だ。彼女に任せて眠ってしまった。悪いなあと横を見ると。


「どこここ。」


 草木一つない山稜の荒野だ。黒い土と岩がそこらへんにあり、それしかない。普通この流れは穏やかな草原だろう。


「ここは火山地帯ですよ。」


 見た通りだった。なんでまた。そう言おうとすると彼女の後ろの岩が爆音と共に爆ぜる。


「え、ええ?」


「来ましたね。」


 そして砂煙を一瞬で吹き飛ばし、中から色黒い男が現れた。赤い髪赤い角、そして龍の翼と尻尾が生えた大男だ。


「やっと来たか。」


 そう男がこちらに向けて言う。どちら様だろうか。


「彼はアズダオ、我々究生龍の首領です。」


「何が首領だ。貴様が逃げなければお前だっただろう。」


「は、はあ。」


 そういえば究生龍って一番強いのが雄になるんだって言ってたな。


「もう我々の世代に卵は産ませた。俺が負けても種は絶えない。そして俺も修行し強くなった。」


 そういって男はリルウに向かい構える。


「俺はお前が目標だった。どこかに身を隠していたようだが、先々月に本気のお前の力を感じてやっと居場所が判った。」


 先々月ってなると軍事演習の時か。


「さあ戦ってくれ。そして俺はお前に勝つ。当代最強の誇りにかけて。」


 男の背から炎が噴き出る。見るからに火属性だな。リルウを見ると。


「それはできません。私の旦那様はこちらのお方です。私は彼に全力を出して負けました。」


 そう答えた。


「なにい!」


 男の火勢が強くなる。あっつい。


「旦那様、故郷の男が私をさらいに来てしまいました。助けてくださいませ。」


「んええぇ?」


 寝起き一発で急展開すぎるだろ。


「このような雑魚ごときにお前が負けるなどと、冗談がすぎるぞ!」


「ですが私が全力を出した事は事実でしょう。」


「ならば、貴様。手合わせ願おうか。」


 おわあああ、矛先向いた。


「ああ、私を巡って争いが…。」


 こいつ絶対楽しんでいるだろ!最近はエルフの小説流行ってるんだってなあ、少女漫画みたいなの!


「参る!」


 参るな!高速でボディアーマーを展開!一応リルウを突き飛ばし横っ飛びすると炎の渦が横を奔る。


「くっそあぶねえ!なあ待て、争う理由はないだろう!」


「自分の女を奪おうとする相手に向かって、第一声がそれか?」


 その一言にかちんとくる。そうか、そうだな。それは腹立つな。


 遠目のリルウがうんうんと頷いている。それも違う方向から腹立つが。


「やるぞ。」


 そういって男は構えながら指を回す。


「しょうがねえな。」


 ヘルメットを展開し銃を向け、同時に裏でマルチプルの展開準備を開始する。


 男はまた拳を振りかぶる。同時に回避行動を行い、プリセットの集中モードへ移行。アサルトライフルを腕から出し連射する。着弾した。出血も見える。だが。


「効いてる感じはしねえな。」


 男はまるで怯む様子はない。そしてそのまま降りぬくと拳から炎を噴き出した。体全身を包む大きさだ。


「無理だ。」


 集中を切り回避行動。大腿部のブースターを噴かせてスライディング、岩陰に隠れて武装セットを切り替える。


「ふむ、確かに弱くはないようだ。」


 セット完了。岩陰から声のする方に顔を出すと、すでに男は飛び込んでいた。その時彼の登場シーンを思い出す。岩は遮蔽物にならない。


「ふん!」


 咄嗟の回避行動。普通なら当たったかもしれない。だがこの回避行動、初動に無敵時間がある。相手も俺も当たったと思った為に、疑問からかお互いが一瞬止まった。ゲームの仕様に助けられた。


「くっそ。」


 腰についているグレネードを投げ込む。うまく相手の足元に転がった。


「遊んでいるのか?」


 グレネードが何かわかっていないようだ、距離を取ると爆発。直撃だ。しかし残る煙の中心から男が飛び出した。


「なかなか痛いな。」


 目の前の男は拳を構えてそうつぶやく。まずい、油断した。胸の前に赤い残像が走ると俺は吹き飛んだ。


 滅茶苦茶に転がり、上下が判らない。呼吸ができない。転げ止まって、胸を見る。アーマーは変形しているが変形部が光っている。


 自動修復機能が動いているようだが、それ以前に中身がどうなっているか判らない。息が物理的に詰まる。すると急に腹部辺りの圧力がかかり咽る。


 そういやこれゲームだと心臓マッサージ機能とかついていたっけ?呼吸が戻った。


「ご、っがっは!」


 オートでヘルメットが収納され、詰まっていたものを吐き出す。少し血がにじんでいる。


 勢いからしても思ったより軽傷だ。恐らくメノウのお守りが守ってくれたのだろう、ポケット辺りから何かが破裂した感覚があった。


 相手を見ると走ってこちらに向かってくる。最初のやり取りからか、まだ俺の闘志は消えていない。


 腕は振るえているがそれでも銃を構えると、前に人が立ちはだかる。


「なんの真似だ。」


 男が足を止める。リルウが背を向けて俺の前に手を広げて立っている。


「申し訳ありません、旦那様。本来はこれは私の戦い。私が代わります。」


「貴様!」


 龍の男はキレている。それもそうだろう、勝手に頼み、勝手に横やりを入れる。あまりにも勝手な話だ、そしてそれは。


「邪魔するなリルウ、どけ。」


 俺も同じだ。


「え?」


 そう振り向く彼女を震える手で押しのけて、男の前に立つ。


「ふむ、そうか。一応貴様も戦士か。」


 脚はガクガクだがそれも止まる。アーマー側のボディサポートだ。ため息を一つ吐く。


「違うな。」


 そしてヘルメットを展開する。


「王だ!」


 そう叫ぶと前の男は拳を振りかぶる。そして俺は集中強化を起動。相手のフォームから上段からの振り下ろしだ。


 メットがあっても耐えれるかは不明だ、ゆっくり見えるそれを最小の動きでかわす。


 既に手足の震えもサポートなしで止まっていた。避けて構え、顔を狙うが位置が高い。目の前の鳩尾に狙いを替え、全力で殴る。


 すると俺と同じように相手も吹き飛んだ。マルチプル展開はまだだ。だがそれでも龍化してないうちはアーマーで勝負だ。ただの意地だが。


「行くぞ。」


 大腿部のブースターを噴かせ、スライディングで吹き飛ぶ男を追う。そして軽機関銃を構えて撃つ。集中強化を燃費の為に切り、マルチプル側のFCSをボディアーマーに適応させて、全弾ではないが命中させている。


 男は空中で翼を大きくして体をねじり宙で止まる。俺はそのまま追い越して武器を変更しロケットランチャーを撃つ。男は避けようとしたが、浮いて止まった時にロックはかけた。追尾し、着弾。


「ぐう!」


 効いている。特に理由は無いが勘でグレネードをEMPに変更し足元へ転がす。そして武器をスナイパーライフルへ。


「まだだ!」


 また男は砂塵を吹き飛ばすがその瞬間にEMPが起動。これは電子機器用だがフラッシュバンも兼ねている。その閃光と本当に出る電撃の仕様に一瞬怯んだ。


「そこ!」


 こちら側のスコープは光を偏光させて視界を確保してある。集中強化を使い、胸のど真ん中に打ち込む。着弾。顔を抑える手が下がった。


 急いで給弾、なんでこんな未来装備なのに銃はボルトアクションの単発式なのだろうか。ゲームの仕様に文句を思いつつ頭部が空いたので狙いを定めて、もう一発。


「がああああ!」


 命中。が、それと同時に地面が小さく爆ぜる。改めてスコープを除くと頭の角が欠けている。クソ、防がれた。


「確かに強い!本気で行くぞ!」


 はん、その姿はやっぱり手加減って事か。別に構わない。


「じゃあ本気でやろうか!」


 ロケットランチャーの時に既に展開準備はできていた。相手の龍化に合わせてマルチプル展開。


 男は龍となり、雄たけびを上げる。俺は宙に浮き機体に包まれて、銃を構える。俺も雄たけびみたいなのほしいな。機体を展開した為にそんな事を考えられる程度に余裕が出来る。


「「行くぞ!」」


 同時に叫ぶが相手がブレスを吐く前にバカバカとこちらの銃を叩きこむ。案の定炎が来るが横っ飛びで避ける。こうなれば楽だ。


「まだだあああああ!」


 龍の声でそう叫んだと同時に赤い龍が青く光りはじめ、こちらに突っ込んできた。驚いてしまい変に手を動かしたからか武装を左右両方変更してしまう。


「やば。」


 武装換装には少し時間がかかる。ハンガーがゆっくりと回るうちに目の前だ。


「おらあ!」


 とりあえずの蹴りをぶちかますが後ろに引き気味で蹴った為、威力が低い。


 しかし距離はとれた。そしてレーザーライフルとブレードが手に届く。


 驚いて変更してしまったが、どちらかと言えばこちらは近接用の武器なので悪くないかもしれない。レーザーライフルを連射する。


「何?」


 着弾はしているが何か様子がおかしい。再度突っ込んでくるのでレーザーブレードで切り払うが怯む様子はない。


「そうか、サーマル武器耐性か!」


 そもそも見るからに火属性と思ったがその通りだったのだろう。属性防御とか一応あったのか!そして龍に組み付かれる。すると耐久値がみるみる落ちる。


「まずい!」


 蹴り飛ばすにも勢いがつけれず引きはがせない!不注意一つで死に際だ。


 まずい、何か、何かないか!HUDを見て機体の熱状況を見ると機体の全体図が出る。正面から熱が広がっているようだ。


 このままだと操縦席にも熱が来る。だがその機体図を見て思いついた。表示を切って一人称に変えると龍が大口を開けていた。


「なんとかなれ!」


 そういって脚部の盾を無理矢理展開すると、うまく龍の顎に当たり一瞬怯んで引きはがせた。


 そしてレーザーライフルを龍の顔面にたたきつけ、レーザーブレードの柄で殴りつけて、更に蹴り飛ばすが、無理矢理動かした為に足の盾が壊れたので、威力が出ず押しただけだ。


 だが引きはがせた為に両手の武器を改めて投げつけ、空いた手で引き剥がして距離をとり、ハンガーから銃をとる。


「これで終わりだ。」


 銃二丁を連射する。が、バズーカ側は着弾前に爆発して威力が出ていない。


 だがライフルはちゃんと着弾しているようで徐々に、光が弱くなっていき、消えた。


「まだやるか?」


 倒れる龍の前でバズーカ側の武器をライフルに変更する。ハンガーにライフルを追加で転送した。


 これで弾数は十分。頭痛がする為に能力使用も限界近いが俺の勝ちだ。


 目の前の龍は血を吐き出すとともに光って縮み、人型となる。男は仁王立ちしているが足はガクガクと震えており、なんとか立っているといった所だ。


 俺は頭痛のままに機体から降りて、ボディアーマーから銃を展開させて機体と共に銃口を向ける。


「俺の、負けだ。」


「だろうな。」


 その言葉を聞き銃を下ろした。強かった。何よりも気迫が強かった。


「それでは、さらばだ。」


 そう男が言うと両手が赤熱していた。不意打ちに反応が遅れた。


「何!」


 そして光る両こぶしは。


「はあ!」


 自らの胸を突き刺し、男の体が一瞬で燃え上がった。


「なぜ!」


 一瞬状況が理解できなかったが、勢いづく炎に向かってそう叫ぶも、火勢が強く近づけない。


 何故と叫んでしまったが、確かにこの男の性格ならば、そして戦う前に準備をしていた彼ならば、この終わりも想定内だったのだろう。


 燃え上がって直ぐに雨が降り始めた。しかしそれでも男の体は燃え続ける。俺は能力を解除した。


 頭は痛むがそれでも俺は、燃え続ける彼を立ち尽くして見ていた。せめて、この炎が燃え尽きるまでは見届けようと思った。


 気が付くとリルウが横に来て無言で俯いていた。それは半刻ほどだっただろうか、雨が止み、しばらくして灰だけが残った。灰はなぜか多く、男の体積よりも積もっていた。


「すまんな。」


 やりよう次第では友になれたかもしれない。そんな無念をかみしめて膝ま突き、一つ灰を握る。


ズボ!


「うお!」


 すると灰の中から手が生えた。


ズボ!


 もう一本生えた。そしてその手が周りの灰を振り払い、中心から吹き飛んだ。


「何、なに?」


 そういって向き直ると背が小さめで、龍の角とその背と不釣り合いなほどの巨乳の女の子が仁王立ちしている。全裸で。


「いやあ、負けたぜ!つーことで今日から俺はお前の嫁だ!名前はアズダオだ!よろしく頼む!」


「うええ?」


 少ししてこいつらの習性を思い出して頭を抱える。そして頭痛と倦怠感でそのまま倒れてしまった。

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