10 演習

 ニャルグから結局機体使わず戻って三日間寝込んだ。ヤナさんは二本爪で攻撃力こそテトより低いが速度が非常に早い。そして行きの速度はテトもちょっと加減していたようで、帰りは普通に千切られた。そして二人に待ってもらっていた。


 二人は嫌味なく笑っていたが負けっぱなしなので悔しい。のもあったが、それがどうでもよくなるくらい疲れていたのだ。そして今、目覚ましで目を覚ます。


「…うん?」


 ビービー鳴る目覚まし。電子音である。ホテルの備え付けのやつを思い出したが、ある訳がない。腕時計のアラームも違う。しかも聞きなれない音だ。


「なん、なんだ。」


周りを探るが何もなく、しかも音がどの場所でも一定の音量だ。


「ええ、まさか。」


 格納庫の選択画面を見るとでっかく中央にCallの文字。とりあえず押してみる。


「ああああ!やっとつながった!今どんな状態ですか!」


 テレビ電話だった。見覚えあるけど誰だっけこの人。状態はと言えば…。


「王様やってます。」


「えええ?」


 あ、そうか彼女女神さまか。




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 そこから近況報告。あの後サポートに入ろうとずっと探していたのだそう。サポート態勢なんてあったのか。


「でも無事で何よりです。それじゃあバックログちょっと見ますね。」


「はあ。」


 疲れと寝ぼけでなすがままである。女神様はバーとなんか映像を見てる。早すぎてよくわからんが、彼女は赤くなったり青くなった顔を覆って指の隙間から見てたりしてる。まさか。


「結構、いろいろあったんですね。」


 顔を赤らめつつそう言われた。ちょっと恥ずかしいが、もう無視することにした。


「でも死と隣り合わせですね、分岐一つ間違えれば死ぬ所がいっぱいです。」


「例えば。」


「最初一日目でそのー、テトさんとあのー。」


「いい、わかった。そこね。」


「これ断ってたら殺されてました。」


「はあ!」


 流石に目が覚めた。


「対価を受け取らないと言う事で敵の手先と判断されるみたいですね。」


 その後もあの一言の答え、ちょっと買い物でなどで死ぬポイントがしこたまある事を教わった。無意識に地雷原を踊ってた事を知り、ちょっと胃が重くなる。


「でも無事でよかったです!」


「あ、ああ。ありがとう。」


 月並みにそう返すと横のドアがいきなり開く。


「やっと起きたかお前さん!まずいぞ!」


「うええ?」


 リノトが入ってきた。朝なのにもう疲れてきた。




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「まったく!急いでいると言うに!」


「いや、お前がうるさかっただけだろう。」


「なにお!」


 そういってぷりぷり怒るリノトの後ろをついて行く。なお怒っている内容は寝てたからでなく転生能力で女性と話をしていた事で三十分ほど説教されたのだ。違うといっても全然話を聞かなかった。


「んで急ぎの用ってなんだよ。」


「開戦が早まって二年後が半年後になったんじゃ。」


 今度は血の気が引いた。


「なにい!」


「今全員集まっておる、なんとかせねばならん!」


 未来を変えられるとは言うが逆に前倒しになったってことか、予想してなかった。


「お、だんな~、さっそくやばいっすねー。」


 ヤナが会議室の外で待っていた。一緒に入っていくともう皆と仲良くなっていた。コミュ強か。


「とりあえず集まってもらったのは昨日の話じゃ!」


「お母さまなぜ怒ってるんです?」


 メノウが議題前に質問を投げかける。


「コイツ転生能力で別の女と話をしてたんじゃ!」


 その声でその場全員が俺を睨む。ヤナも笑ってるが一瞬危険な気配が出た。早くない?結局誤解解きで三十分要したが、これだけ嫁いて増えるの切れるのにちょっと憤りを感じたがそれどころでもなかった。


 んで会議を初めて各々意見を出し合ったが、結局俺の意見が採用された。


「それじゃあわらわは使者を手配する。」


「ニャルグにゃうちが行ってくるっすねー。」


「それじゃあ場所の確保を大工さんたちに相談するよ。はあ、せっかくダーリン帰ってきたのに…。」


「私は結界の練習しておきます!」


「うちは大工と一緒に会場準備する。フィル、一緒に行くよ。」


 そういって会議で決まった軍事演習の準備を開始する。一緒に会場の用意と準備で急ピッチだ。


 とりあえず軍事演習をして牽制しようという話が通った。生前のニュースだと結構これに反応する国がいろいろあったし、相手だって戦力や状況がわからん以上出たとこ勝負はしたくないだろうし。それにミズタリの最大戦力の二つ、俺の機体とリルウの手合わせでもやれば流石に少し引くんじゃないかという事になった。


「それじゃあリルウ、たのむぞ。」


「はい!今度は本気でいきますね!」


 違う問題も発生しそうだった。




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一月後


 公務を止めて急ピッチで進め、なんとか滞りなく場所と会場が出来た。


「本日は及びいただき光栄です。」


「あ、はい。本日は遠い所からご足労いただきありがとうございます。」


 一応王なので挨拶をという事で顔を合わせた。犬の国のリーゼドヴェルの偉い方だそう。演習前でテンパって名前覚えられなかったが、紳士服を着た頭ドーベルマンだったので国名とかぶってたので思い出した。そして次に見た顔が。


「おう、また会ったな。」


「遠い所から、」


「下らん会話はしねえ主義だ。」


 相変わらずなテトの親父さんだ。側近の人も来ていたが、ガークはいなかった。というかいい加減名前覚えねえと。ガークは覚えているのに。


「しっかし、どうしてお前みたいなのが。」


 とはいえガークをノした手前、若干扱いがまともになっているようだ。


「おうクソ親父、うちの旦那が俺より強いってのが今日判るぜ。」


 そういってテトが首を突っ込んでくる。


「お前、俺は賓客だぞ。国の品位に関わるような言葉を口にするな。」


 そう親父さんは言うとテトはすごすご引っ込んだ。その物言いは正しい物だし、その言い方に嫌味っぽさは無い。なんやかんや、認めたという事なのかとも思った。言い方は相変わらずだが。


「それじゃあ行きましょう。」


 声の方を向くとリルウが微笑んでいた。そうだ、今はそれどころではないのだった。


「それではこちらに。」


 リノトが二人とその従者を案内してくれた。俺はリルウについて行き、お互いの立ち位置に向かい別れた。




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 ところどころに草が見える程度の荒地。リルウは先に、およそ三百メートルか、目視だとかなり遠い。合図はかなり離れた観客席から花火を上げると決まっている。一応位置についてからすぐにでも機体を展開できるように準備をしている。


 そしてオーケーだ、直ぐに出せる。そう思って観客席を見るが開始合図はまだだ。この半端な長さが嫌になる。リルウは相変わらず動きは無い。とはいえ遠くてよく見えてないだけでもある。まだ始まらない。そんな待たされる時間故に開始前の話を思い出す。


「なあリルウ、とりあえず演習と言う事でどういうふうに戦うか決めよう。」


「いえ、本気でやりましょう、この際。私はとどめを刺さないつもりではありますが、全力で来てください。」


「ええ、いやなんで。」


「お願いします。」


 ああも深々と頭を下げるリルウは見た事がなかった。


ひゅー、ドン!


 上がった!問答無用!


「展開!」


焦りと緊張で気合い故にでかい声が出てしまう。目の前のリルウも龍化、そして白くなる。


「コイツが本気か!」


 念のためスキャンをかける。


リルウ   耐久値 15000(5000)  魔力値2000


 やはりリノトよりも強い!速攻!バズーカとライフルを撃つと炎のブレスが迎え撃つ。


「くっそ!」


あんまり変に回避すると観客席に飛ぶ事になるので、あまり大きく角度は取れない。しかも青く光る槍が曲線の起動を描き迫る。


「なんだこりゃ!」


ブースターを噴かせて横に飛ぶも着弾!衝撃と警告音が鳴り響く。


「くっそ、やるな!」


 平地のここでは遮蔽も無く術がない。ならば使いたくはなかったが、あの武器を使うか。


「巡航状態起動!」


 巡航状態に移行し距離を取る。更にブースターを追加で吹かして追尾弾を一つ避けるが二つ目が着弾、姿勢制御にエラーが起きて巡航状態が強制的に解除される。


 リルウを見ると背中の上に今まで飛んできた物のでかい版が浮いている。


「あれが本命か。」


 だが距離は開けた。これならば。使いたくはなかったが言ってもいられん。


「武器直接換装!」


 手持ちのライフルとバズーカをパージ、そして大型武器を手元に直接転送させる。この二丁はハンガーにのらない上、重量負荷が高い為に機動力が著しく落ちる。転送した武器は大型機関砲と大型榴弾だ。とりあえず効果範囲と音が派手な武器二種類だが本来は賑やかし用で当てるつもりは無かった。大型武器を展開すると高威力故の射撃反動を安定化させる為に構え動作に移行し、脚部についた盾が展開する。


 また換装時の隙を減らす為に音声認識でいくばくかの動作高速化を行っている。ほんとに僅かな速度だが、戦闘中では意外と効果がある。


「いくぞ!」


 この時リルウの背中の青い槍はかなりの大きさで迷う余裕はもうなかった。両トリガーをがっちり引く。爆音で連続発射される機関砲と連続射出される大型榴弾。一応ロックされているが榴弾と機関砲の硝煙でよく見えない。


 改めて偵察機を射出し、シルエットを見るとリルウは溜めていた槍が銃弾で砕かれて榴弾の爆風に包まれる。だが爆風の隙間から少し見えた限りでは半球の光が見えた。翼とバリアみたいなもので防御しているようだ。


 榴弾の二セット目の自動装填を機関砲を撃ちながら完了すると、再度轟音と共に榴弾を射出する。だがここで冷静になり二セット目は流石にやりすぎたか?と迷うも一拍置いて煙を裂く光で画面が真っ白になる。強烈な衝撃と警告音!


「なんだ、まずい!」


 でかい衝撃とエラーメッセージに驚き反射的に大型武器を捨ててブースターを噴かせ横っ飛び。歪む映像から光る何かが煙を吹き飛ばす。画面が元に戻ると光る極太ビームが伸び、それが消えると白龍が翼を広げている。画面に写る機体のエラーレポートを見ると脚の盾が吹き飛んでいた。


「あぶねぇ、だが助かったか。」


 大型武器を捨てた事でそのままハンガーのレーザーブレードとレーザーライフルに換装。機体重量が軽くなったので急加速で接近しつつ武装からレーザーライフルをチャージ、射撃。


「どうだ?」


 先ほどの攻撃の恐怖でその射撃は当てる事以外は何も考えていなかった。弾は直撃、そしてぎゃあという龍の声で我に返り、相手がリルウである事を思い出す。


 火を吐く余裕もなかったのか容易に接敵するもレーザーブレードを振るうべきか迷う。だがリルウはこちらの意を介さず爪を青く光らせて切り裂いてきた。


「うおお!」


 装甲が抜けてこちらのHUDの耐久値がガリガリ下がる。そのままこちらに飛び掛かり組み伏せられそうになるもブースターを吹かして後ろに跳び、ついでに機体で蹴りとばす。しかしそれは爪で弾き飛ばされる。脚の盾が壊れたせいで衝撃力が足りない!


「くっそ!」


 距離はとれたが蹴りに合わせられた攻撃で姿勢制御にエラーが入る。大急ぎでブースターで後ろに跳び、とりあえずレーザーライフルを低出力で連射し牽制、するとジェネレータに負担がかかり残量警告がはいる。


 そして機動戦と連射により砂がまた舞い上がり、お互いを見失う。だがこちらはスキャンモードに切り替え位置を確認し横っ腹に回り込む。そして念のためブレードの出力を意図的に下げる。同時にジェネレータを休ませたので再度飛び込みブレードを!と前に踏み込む。


 だが砂煙を突き抜けるとそこに龍は居ず、女性が倒れていた。


「まずい!」


 俺は急いで空に向けてレーザーを連射する。そして急いで機体から文字通り転げ落ちてリルウに向かった。


「すまない!大丈夫か!」


 リルウは土汚れと出血と火傷が見える。クソ、彼女の言葉を鵜呑みにするべきじゃあなかった。


「あ、」


「意識はあるな!」


「ありがとうございます。」


 この期に及んで何いってんだと思い急ぎ機体に乗って彼女を抱え、裏の救護スペースに飛び込んだ。





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「なんとかなったぞ!」


 数日後にリノトがカッカッカと笑う。


「改めて占ったが開戦は三年後に延期された!まあしかし、当たり前じゃろうなあ。」


「神話の戦でしたからね…。」


 メノウがしみじみ言う。あの後リルウは普通に治った。なんというかこの世界、傷は結構な重症でも治るようだが、それでも今回の一件で俺は戦うのが嫌になってしまった。


「ふふふ、すごかったですよ。」


 そう笑うリルウ。ちなみにリルウは今回一番負担が大きいと言う事で周りと交渉した結果、三日間俺付きっ切り生活で手を打ったそうだ。


「はあ、でも俺はもう、次お前と戦う事になったら俺の負けでいいよ…。」


 本気で、という事を鵜呑みにしたが自分で傷つけた事で彼女がどれだけ大事かよくわかった。だがそれと反比例するようにリルウは俺にべったりになっている。


「前の戦いではもしかしたら旦那様は私に勝てるかもしれないという程度でありましたが、今回の一戦で確実にあなたは私よりも強いです。これで私は本当に貴方の妻になる事ができました。」


 厄介な習性だなあと思いつつ、周りの視線を見る。思う所はあるようだが、今回は皆我慢しているようだ。そして周りを見てふと気づく。


「あれ、ヤナは?」


 そういえばあの演習からヤナを見ていない。


「ああ、あいつは犬の使節団に混ざって潜入しに行ったぞ。」


 なんと。彼女は軽薄な感じだがすごいきっちり仕事をこなすな。とはいえ敵地に一人と少し心配になった瞬間に無理矢理首を向けられる。


「いって!」


「今は別の女性の事は考えないでください!」


 リルウである。横目で周りを見ると納得と呆れの半々だった。

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