9 猫の国

 王宮に戻った後、リノトに工事とかやってみたいと相談すると町にお抱えの宮大工が居ると紹介してもらった。


 土木工事の話をするの宮大工なのか?とも思いつつも、そうかここ王宮だか神社だかだしと納得しその事務所の場所を聞き向かおうとすると、逆に大工側が来る事となった。


 悪いなあと思ったが自分が王様なのでなんら間違ってなかった。


 話をしてみると宮大工と言いつつも出来なくは無く、伝手を辿れば家や橋も出来るとの事でちゃんとネットワークがあるらしい。


 なのでこちらの機体の話しをすると半信半疑で苦笑いしていた。王様の戯れに映ってんなと思いつつ、試しに一件手持ちの仕事は無いかと聞き、不整地の馴らしがあるとの事で同行して整地をやると、機体を出した所から目を丸くしっぱなしだった。


 そしてある程度馴らすと、後はこっちでやると息を撒いていた。そこからは急に忙しくなった。


 水路の増設や谷に通す橋の足場になったり、邪魔な岩の破壊等、思った以上に活躍の場があった。


 だがそれ以上に気づいた事は大工たちの能力が普通に高い。なので基本的にしてほしい事を指示してもらい、その通りやれば後は勝手にやってくれるのだ。


 餅は餅屋だなあと感心する。その後テトも首を突っ込んできて一緒に木を前と同じように斬ったりもした。メノウも混ざろうとしたがリノトに止められて巫女の修行に引っ張り込まれていた。


「よっし、ひと段落だ。」


 今季最後の工事は工数から半日ぐらいだろうと見積もっていたが、思いのほか早く片付いた為にすぐ上がれたのでそのまま帰る。


 割と工事に係りきりであったが、内政関係はリノトとフィルで回しきれているとの事でひと段落。


 これ今後は公共工事って事で色々と試みはありなんじゃないのか?仕事も増えるから求人だせるし、宮大工にもいろいろ工事業者を変えてやれって指示だしたし。何より自分で仕事の緩急つけれるのって素晴らしい。


 先ほどフィルと会い、もっと内政もやってと文句を言ってきたが、前の仕事よりもこちらの方が人員も多くリノトもいるので指示の通りが良いのでちょっと楽とも言っていた。詳しく話を聞くと、はっきりとは言わないが一緒に仕事したいだけというのを理解するとちょっと可愛い。


 とはいえ疲れてはいるのでこの休みでは家でゴロゴロするかなと布団に転がるとノックも無しに扉が開く。


「里帰り一緒にいくぞ!」


 テトだった。




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 話を聞くと親に呼び出されたとの事だがリノトまで話しに入ってきた。どうも、


テトが猫の国ニャルグ(虎爪族がトップの国)から出向でミズタリに。

              ↓

メノウと一緒にテトも亡命、ニャルグまで敵対するわけにいかないので秘密&戒厳令

              ↓

戒厳令解除ついでにどうなってんだ連絡+結婚相手いるから帰って来い


 との事。一応国の仲は良いのだが、犬の国との戦争はあまり積極的ではない上にまだ向こうはその件を感知しておらず、テトの一件がこじれると敵国が増えるかもという事でミズタリ的にも上手く収めたいらしい。だがそれ以上に、


「何よりうちはもう旦那いるんだよ!」


そう言うテトは鼻息荒くキレ散らかしてる。というか最初に会った時になし崩しで出来た関係だが、今となってはそれがお互い大事な思い出まである。


 それを横槍出されるのはさすがに俺も不快だ。その表情にテトも気づいたのかわからんがちょっとうれしそうだった。


「だが、国家間の問題だから変につけ返すと敵が増えるのじゃ。」


 ううーむ、それは。


「大丈夫だ、うちに案がある。それに忘れもんがあるんだ、ちょうどいい。」


 そういってテトは笑うがやっぱり目は笑ってない。


「んじゃ行くか、日程は置いといて、どの山から飛べばいい?」


「いや、あのゴーレムは今回禁止だ。生身で山越えするぞ。」


「ええ?」


 なんかいろいろとめんどくさい気がする。


 結局ニャルグの首都に着いたのはその一月後だ。道中死ぬかと思ったが、とりあえず機体ではなくボディアーマーの方で無理矢理山を越えた。


 テトが山の木々をポンポン飛び移るので見様見真似で頑張ったが何度か木に勢いのまま激突した。だがこのゲームのシステムで、一時的に集中力を上げて周りが遅く見えるようになるという機能を駆使し、なんとか追いつくぐらいにはなった。


 テトはその速度じゃまだまだだとニッコニコで言っていた。口と顔が合っていないのが相変わらずだ。それで国の端から馬車で首都へ。


「やーっとゴロングルへついたか。」


 首都はゴロングルと言うそう。というか、


「なんか全体的に名前が可愛くない?国名からさ。」


「どこがだよ!」


 そうかなあ、そうかなあ。首都の方も緑が多く、森の中に遺跡の用に家々が建っており、木々も熱帯地域のようで更に小さな丘や山が多い。一つ隣の国なのに随分違うな。


 その後に馬車から降りて、宿を探そうと思ったらテトがどんどん前に行くのでとりあえずついて行く。少数だがテトと俺に目線が来る。あ、そうか今俺首輪つけてない。


「首輪つけたほうがいいか?」


「何いってんだ!余計に話ややこしくなるだろ!」


 ううーん、そういえばもう今は王だしな、状況の変化に俺が付いていけてないな。でも目立つのやだなあ。そういってすごすごとテトの後をついて行くと、でかい建物にたどり着き、そこの門番に止められる。


「何者だ。」


 筋骨隆々。短パン上裸虎ミミおじさんか。最初の町から久しぶりに見たがこちらの方が何倍も強そうだ。


「テトだ。親父に呼ばれて会いに来た。」


 そういうとテトは光る爪を出す。え、いきなり臨戦態勢?


「な、テト様!わかりました。取り次ぎます。」


 そう言って左っかわの門番が走って中に入る。テトは舌打ちをしつつ爪を仕舞う。残った方は背筋が伸びていた。とっても猫背だったのに。


「こちらに!」


 そう言って呼ばれるとテトは強引に俺の腕を組みながら入っていく。ついて行くと門番が俺を止めようとするのをテトがにらみつけて止める。その後すごすごとついて行くが、猫の国なのに人間の俺がレンタルキャット状態である。ゆるく曲がる石造りの階段を登り進むと、でかい椅子に座るでかい男の後ろに出る。男は椅子の先の窓から何かを見ていた。


「来たか。」


 そう言って大男は立ち上がりこちらを向く。獅子の鬣をたなびかせ、顔と体中が傷だらけだ。だが最初に見た後ろ姿には傷は一つもなかった。なお例によって上裸短パンだ。っていうか。


「ライオンじゃん。」


「あ?」


 思わず黙る。ミミはよく見ると虎であった。思わず言葉が漏れたが一睨みですくみ上る。


「そいつはなんだ。」


「うちの旦那だ。」


「なにい!」


 睨む圧が更に強くなる。そうか、冷静に考えるとこれ国の事と同時にお義父さんへの挨拶になるのか、ちょっと油断してた。


「お前、こんなよわっそうなやつとか!気でも狂ったか!」


「知るかクソ親父。それよりうちも用があって来ただけだ。」


「お前の用なぞ知った事か!」


 あ、すごいクソ親感出てきたぞ。


「うるせえ黙れ、お前の爪もらいに来たんだよ、今回。」


 その言葉を聞くとまた空気が変わった。さっきまでは俺に怒りの眼がぶつけられていたが、今度は殺気をはらんだ視線がテトに向けられていた。


「お前、女の身で本気でいってんのか?」


 その声には怒りもなかったが故に逆に怖かった。


「本気で言ってんだ雑魚が。」


 テトちゃんめっちゃ煽る。オロオロしていると窓の外から歓声が。


「おう、やはり勝ったか。外を見てみろ。あいつがお前の婚約者だ。」


 そういってテトを顎で動かす。舌打ちしつつ窓に向かうテトを俺はそっと追い、無駄に足音を立てないようについて行く。外は闘技場だった。血まみれの人の横で一人の男が腕を上げている。横には光る爪が三本づつ浮かんでいる。


「名前はガーク、強いぞ。」


「てめえよりかは弱いだろ。」


「当たり前だ。」


 そう言って一触即発な状況のまま話が続いた。オロオロしながらも横で話を聞いていたが、争いは舌戦のみで話が進む。最終的にテトを巡っての決闘で俺対ガーク、その後にテト対親父さんの試合が三日後に組まれた。


 あわあわしてただけの俺に親父さんは滅茶苦茶舌打ちしてくるが、親子の舌戦もなかなかで、すぐ死ぬぞこんな雑魚と言われるがテトがお前じゃ旦那に勝てねえよと笑って返してた。


 ちなみに聞くと、決闘は降参もあるが基本デスマッチである。話の後にテトは建物から出て適当な宿に行くと普通に超高級部屋に案内された。未だ俺はレンタルキャット状態である。猫の国で俺だけ猫じゃないのに。


「んで、結局なんなんだ。」


 開口一番俺は聞く。何なんだというのも本当になんだかわからないからである。だがテトは怒りが少し納まったのか、やっとここで説明してくれた。


「俺の武器は光る爪だろ?」


「え、ああ。」


「あれは一本、二本、三本と努力で増えていくんだが、四本目が特殊でね、他者から奪うんだ。」


「へえ。」


「んで奪う相手ってのが他の四本爪からなんだ。そして親父が四本爪なのさ。そんで奪い方なんだがこっぴどく痛めつけりゃ奪えるのさ。殺す必要はないんだが、暗殺みたいなのだと駄目なんだ、負けを認めさせるってのが重要なんだ。」


「それが取りに来たものってことか?」


「そうだ。それとこんなふざけた事言ってきたあいつをぶん殴れる、一石二鳥なんだ。旦那と一緒で親父も一夫多妻だったが、うちのかあさんにはあんまり扱いよくなくてよ、うちにも昔っからこうさ。そして見返そうと努力して女の身でありながら三本爪までなったが、あいつの厄介払いでミズタリに行かされたんだ。メノウと知り合えたから結果としてはその方が良かったがな。」


「そうか。」


「一応リルウに稽古をつけてもらっちゃいるが、今メノウはリノトさんに修行つけられている。あれが終わるとメノウは相当に強くなる。そう考えてみるとお前の嫁の中で一番弱いのはうちだろ?だから少しでも強くなろうと思ってよ。」


 そう乾いた笑いを向けるテト。だがその言葉は今日の親父さんよりも不快になる。


「何言ってんだ、テトは小規模戦と機動戦が出来る唯一の人間だろう。メノウがどうなるかはわからないがお前の強みは確実にあるし、お前を弱いと思った事は一度もないぞ。もしそれが弱かったらそれは指示を出したやつが弱いと言う事だ。」


 そう言うとミミごとはっとしてこちらに向き笑顔になり、


「やっぱお前の嫁になってよかったあ。」


 そういってしだれかかってきた。



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 決闘当日、俺は超緊張していた。一応昨日、顔合わせをしたが相手はプライドこそ高いが変に見下す事はない。だが、


「この雑魚がテト様の夫だと?」


 能力差を見抜いて変ではなく正しく見下していた。しかもテトに敬意もある。悪人ではなさそう。言いようはアレだが悪いやつじゃないんだね。俺戦闘力5だから正論なんだものなあ。


「ちなみにゴーレムは禁止ね。だけど道中の鎧は平気だ。」


 なんというか、決闘は本来素手だが虎爪族は光る爪があるので人は武器ありらしい。けど基本勝った試しは無いそう。昔の剣闘士よろしく奴隷の純人を戦わせる事はよくあるらしい。だがそれにしてもうちの機体はさすがに物言いがつきそうとの事。


「ってことで行ってきな!勝てるよ!」


 そう言って背中を叩かれるが痛く無い。なぜならもうボディアーマーは展開してあるからだ。テトはセコンドっぽい位置にいるがこの闘技場は結構広い。小学校の校庭ぐらいある。ガークが入ると歓声が、俺が入るとなんかガーガー言われる。うん?と考えて気づく。これこっちのブーイングか。


「早く来い!」


 そう言われまた手をくるくるされる。そのジェスチャーは国共通なんだなあと感心しながら小走りで向かう。


「これより決闘を行う。」


 その言葉の後いろいろ言ってたが定型文の模様。逆に文化に興味が出てきてちょっと緊張がほぐれてくると、


「双方、言葉を。」


「はえ?」


 急に話しかけられた。びっくりしているとガークが先に声を上げた。


「虎爪族の誇りにかけて、相手には血に沈んでもらう。」


 そう俺に語り掛けた。その言葉に嫌味は無いがガークの眼は見下している故に少し濁りがある。だがこの言葉を聞き、俺はむしろ変に手加減とか全力を出さない事は失礼ではないかと感じた。


「ならば俺も全力で戦わせてもらう。眼前に最善をつくそう。」


 ちょっとカッコつけて言ってみたが審判含めた二人に鼻で笑われた。なんだこいつら、恥ずかしいよりもちゃんと腹がたった。


「では開始位置へ!」


 そういわれるので開始位置へ行く。開始位置は結構壁よりで離れる形だ。お互い向かい合う。


「それでは!」


 その声でアーマーのヘルメットを展開。後頭部から生えるのだこれは。観客は驚いたが、ガークは微動だにせず爪を展開して飛び出す構えだ。


「開始!」


 ガッシャンという割れるような音が鳴る。開始の合図だ。とりあえずゲームの仕様通り、前転のローリングをして集中力強化を起動。これを起動すると任意でゾーンに入るという設定だが、ようは周りがゆっくりになるアレだ。ガークはもう真ん中に居た審判を追い越してこちらに飛んでいる。はっや、だが。


「真っすぐじゃあね。」


 脚も地面から離れている。これじゃあカモ撃ちだ。腕の部分からアサルトライフルを展開、狙って撃つ。弾は当たり、血が出る。だがこちらに向かう勢いは止まらない。まずい、このままだと光る爪がそのまま来る。


「確かっと。」


 武装を変更するとライフルがカシャカシャ変形し、ショットガンになる。ポンプアクション式なので連射はきかないがとりあえず二発撃ちこんでみると体勢が崩れて光る爪が消えた。だがまだこっちに突っ込んでくる。


「ならば殴るか。」


 そのまま前に飛び出し胸の辺りを殴りにかかる。殴るフォームは手間なので設定しておらず、ゲーム準拠のプリセットだ。


「やべ、ゲージ使い過ぎたか。」


 ヘルメット内のHUDでアーマーのエネルギーゲージが底をつきそうなので拳が当たると同時に集中機能を切る。すると骨を砕く生生しい感触がアーマー越しで伝わると共にガークが吹っ飛んだ。


「やっべ、だが。」


 デスマッチだ。吹っ飛び壁にたたきつけられうつ伏せに倒れるもまだ生きている。今度は武器を切り替え軽機関銃に。少し距離が離れても油断はしない。何よりも光る爪を食らうと俺が無事で済むか判らないのだ。戦闘に集中しているからか周りの声は一切聞こえない。相手は未だ倒れて動かないが銃を向ける。すると震えながら、ガークは腕を上げた!何かの予備動作かもしれない。サイトを合わせて撃つと何発かあたり腕がちぎれ飛ぶ。


「勝負あり!勝負あり!」


 審判が叫びあのガッシャンが二度鳴る。ええ?と周りを見ると観客はドン引きしていた。


 これはもしかして、やりすぎたか?勝負前とは違う焦りが出て来る。やべえと思い太もも横のブースターを起動させスライディング状態でガークに最速で近づく。なぜか観客席から悲鳴が上がる。メットを分解収納して倒れるガークに耳を向ける。声をかけるも無言であるが一応笛みたいな呼吸音はある。


「まだ生きてる!」


 そういうと慌てた審判に引きはがされて救護班が駆けつける。というかあのダッシュでどうも止めを刺しに来たのだと思われたそう。その後闘技場の真ん中まで連れていかれて勝者として審判に腕を上げられた。


 支えている審判の手はしっかり震えていた。歓声も無くやってしまったと、とぼとぼ歩いて戻るとテトが笑って迎える。


「すごいやったな。」


「いや、これはやってしまっただろう…。」


 ここまでやって後腐れないほどの悪人ではないのでガチへこみである。無事かな、腕繋がるかな。


「はあぁ、全く強いかどうかわかんないな、うちの旦那は。」


「もっと堂々としてたほうがいいのだろうか。」


「うーん、それも好みだが今も嫌いじゃないさ。後うちが戦う前にちょっとパフォーマンスするからついてきてくれよ。あの頭にかぶるやつはつけちゃダメだぞ。」


 そういってテトが笑いかけてくれる。いつも通りの笑顔に気が楽になった。その後に今回のメイン、テト対親父さん戦だ。先ほどと一緒の流れだが、戦闘前に一言いう所でテトが指くるくるをした。そして親父さんと二人で相対する。


「てめえよくもやってくれたな。」


 開口一番親父さんはこっちにめっちゃ切れてる。テトはにやにやしている。あの傷で笑うのってちょっと怖いかもしれん。


「では将軍様一言。」


 審判が親父さんに声をかける。将軍。将軍かあ。


「これは爪をかけた戦いだ!俺の娘とはいえ女の貴様が受け継ぐ事は歴史上からも一切ない!馬鹿な判断をしたと地を這い悔いるがいい!」


 おおー、言うなあ。というか結構男尊女卑だなここ、まあ軍事関係となるとやっぱ男優位なのは致し方ないのかもしれんが。


「ではテト様、一言。」


 お、何を言うのかなと同時にこれ俺いるのかなと思っているとテトが俺の頭に手をかけると引き寄せて頬を舐めた。え?っと思うとそのままディープキス。現状に戸惑っているとそのまま足を絡めて抱き着いてめちゃめちゃキスしたり舐めたり頭を擦りつけてりしてくる。親父さんの前で。男三人呆気に取られているとテトは満足した感じでため息をつき、


「とっとと爪よこせよ、うちはいそがしいんだよ。」


 そう言って開始位置に肩を組まれつつ二人で向かった。すると審判が焦りながらも


「それでは位置へ!」


 と叫ぶ。観客も無言で俺も無言。そしてめっちゃ恥ずかしくなってきたのと同時にテトを見ると真っ赤になってうつむいた。お前も恥ずかしいんじゃん!


「お、おい大丈夫か。」


 そう声をかけるとそれに気が付き、にかっと笑う。


「なーに余裕さ!どのみちリルウに散々稽古つけてもらったんだ。しっかり挑発したし、あんな雑魚には負けねえよ。」


 そっちも確かに大丈夫か案件であるが。そういって俺は闘技場の柵の外の選手観戦室に出ると、見える所の観客からはすげえ目で見られている。


 それに目を背けていると決闘は始まり、見えない速度で攻防が行われていて判らんかったが割と楽勝に親父さんをぶっ飛ばして光る爪がサクッと四本に増えてた。


 闘技場では悲鳴みたいな歓声とさっきよりも真っ赤になったテトが頷き気味に手を上げられていた。思い出したなアレ。



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「うっしじゃあ帰るか!」


 こうしてテトのとんでもねえ里帰りが終わった。あの後はもう町中で声かけられっぱなしだった。なんかいろいろ言われるかと思ったがこの国は強さがすべてらしく強いのでヨシ!との事。国も国民も大丈夫かなあ。


「まあ手合わせした感じ親父もまだ衰えちゃいないから大丈夫だろ。」


 テトはいつも通りだが時折顔が赤くなる。あの時の事を思い出すのだろう。


「んじゃあ帰りは飛んで帰るか。」


「いや、国境近くの山までは馬車でいくぞ。」


 ええと思いつつも言う通り進む。すると道中ニャルグの人たちから話を聞く。


 さっそく親父さんに決闘が組まれたらしいが難なく撃破、ガークは療養中だが腕はつながり戦線復帰可能との事。よかった。


 その話以外でも我々は完全に有名人で、道中話しかけられ続けながら馬車を乗り継ぎ国の端まで来て一泊。そこで適当に二人で肉の串焼きを買い食いしていると。


「姉御。」


 いきなり背中から声をかけれる。まるで気配を感じなかったがテトはわかっていたようだ。


「おう、ヤナ、きたか。」


 振り向くと長身の色黒黒髪美人が立っていた。ネコミミも黒い、がちょっと模様ある。これは、クロヒョウか?そう見てるとテトがその女性と肩を組む。


「ひっさしぶりだなあ!」


「いや見ましたよー。すっごかったっすよ~。」


 なんか軽い感じである。一人判らず突っ立ってる俺。


「あ、どうもぉ、旦那さんっすねー。ヤナです~。この国で諜報部やってるっすー。」


「あ、どうも。」


 反射的に軽めに会釈。


「あー、ここら辺に住んでるの?」


 ご友人かな?テトに聞いてみる。


「ああ、そんで今回引き抜きだ。ミズタリに来てもらうんだ。」


 ええ?


「いやーこの国女の扱い悪いもんですからねー、やんなっちゃうんすよー。だからあの姉御のキスやばかったなー。」


「お、おう。」


 速攻顔真っ赤。やらなかった方が良かったんじゃないの。


「なんでよろしくっす。」


「え?でもまあ、なんで。」


「いや、いるだろう諜報部。犬の国探らないとまずいだろ。」


 なんとも全うな理由。そうかこの里帰り、その引き抜きも兼ねてるのか。


「あ、うちにも手ぇだしていいっすからね~。」


 そういってヤナさんは手をひらひらとこちらを仰ぐ。少しして意味を理解し、テトを見るが、まあしょうがないかみたいな顔して納得していた。とはいえ、もう嫁は足りてるから手を出す事は無いだろうと、この時は軽く考えていた。

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