5 〇活
協力者に会ってそのまま町を出た。荷物をまとめて格納庫に入れたのはこの対策だったのだろう。
しかしメノウの顔色はすぐに良くなったのが救いであった。ある程度町から離れると機体を展開して街道側面を走る。画面に映る機体の背中の三人は意外と仲が良い。不仲に比べればずっといいが、今回の話に入っていけなかった手前、疎外感も感じる。とはいえ国を亡ぼすという話が頭から離れなく、考えがまとまる前に森についてしまった。
道に戻るも狭く、俺の機体では大きすぎるので三人を下ろして機体をしまう。
「ここか、検問とかはあるのか?」
「さあ、わからん。その前にぶった切ったからな。」
「え、殺したのか。」
「殺しゃしないさ、会合の席をさ。」
流石にテトもそこまでではないか。というか殺すと流石に追手が来るだろう。
「机ごとですけどね…。」
そういってメノウは苦笑する。ああ、本当に斬るには斬ったのか。
「まあこうなる事は初めてじゃあないさ、しょっちゅうってわけでもないが。」
それならば初期の疑心暗鬼は当たり前か、やはり苦労しているのだな。そんな話をしながら進むが建物らしい建物は無い。話じゃあ徒歩で半日程度との事だったが。変に森を汚したり壊したりしてお決まりの対立とかしないでいける距離かなと思った瞬間、目の前の道に矢が震える。
反射的な行動、身を構える前にリルウを見ると攻撃態勢。やばい。
「リルウ待て!」
リルウはちゃんと止まった。初動反撃は困るが矢を撃った以上警告とはいえ攻撃だ。これに反撃は割とアリとも思えるが、通行手形がある以上揉めたくはない。
「すいません、この先の国へ行きたいだけです!森を通してくださいませんか。通行手形はあります!」
そうメノウが言うとエルフが降りてきた。初エルフだ!っと思うがなんか、耳長で美形なんだけどなんだろう、男か女か良く分からんのがきた。
「失礼、証を。」
そのエルフにテトが手形を渡す。エルフが降りてきた方向をたどり、樹上を見るとほかのエルフが弓を引きこちらに構えている。いつでも撃てる状況か。なんというか、排他的なのは設定通りっぽいなあ。
「これはあなた方の証ではないですね?どこで手に入れましたか?」
その言葉にテトを見る。分かりやすく焦っている。なんだよぉ、使えるかの確認とってねぇのかよお。これはリルウ突撃まであるかと悩む。
「とはいえ申し訳ない、我々はあなた方に用があるのでついてきていただけないか。」
なんだろうと思いつつもそのエルフの手を見ると少し震えてる。なんで、とも思うが心当たりはそこそこある。
「とりあえず行ってみよう。強行突破はしたくない。」
そう俺が言うとメノウも同意してくれた。
「わかりました。」
「では、こちらに。」
そういうそのエルフは少し緊張がほぐれた様子。やっぱリルウばれてんのかな。だがメノウの関係でこうなる場合もある。一応ひそひそ声でメノウに話しかける。
「なんかエルフに知り合いとかいるの?」
「いえ、国交もないはずなので検討もつきません。というか国交がない故にここを通る判断をしたのですが…。」
となるとリルウしかないのか。
進む先にはエルフの集落が。樹上や木の中に家を作る、その横にちょこっと畑など、かねがねオーソドックスなエルフ感のエルフだ。だが、エルフの超美人が全然いない。確かに美形なのだが、なんだか大人と子供の見分けはつくも全員男か女か判らん感じなのだ。
まあ既にこっち美人三人いるし?もう十分だし?そう思いつつ納得させる。ふと視線を感じそちらを向くとメノウが睨んでる。お前、また思考読んでないかと思った瞬間そっぽを向いた。この首輪つけている時は考えないようにするか、というか今は獣人の国でないからと首輪をとった。
「こちらにかけて待ってくれ。」
そう勧められたのは広間の椅子。屋根もあり、なんというか歓迎なのか何なのか、いまいちわからない。すると後ろからついてきていたもう一人が横についた。監視役だろうか。この人もなんか男か女かわからん。
「すまない、なんの用か教えてもらえないか?」
返答は無言である。やりづらい。
「ようこそおいでくださいました。」
その声に振り向くと、滅茶苦茶美人が出てきた。おお、これだよこれ。
「こちらはこの国の責任者であるフィル様だ。」
すごい、白髪なのに髪とか肌とか滅茶苦茶キレイ。肌もすごい白い。
「よろしくお願いします。」
「すごいですね、プラチナエルフですか。」
そういうリルウ。専門用語だ、なんなんそれと期待露わに彼女を見ると笑顔で俺の意図を汲んでくれた。
「プラチナエルフは力をもった強力なエルフが長い期間生きると白化して白くなる個体です。確かごひゃく」
トン!と何かが飛んだ。矢のようなそれは白エルフの手に軌跡が繋がる。そしてそれは溶けるように消えて地面に綺麗な穴が開く。
「あら…。」
「すいません、お話しが長くなりそうでしたので。」
こっわ。両方笑顔やんけ。
「それでご用件は。」
焦りながら話を本題に向ける。そうだな、この流れだとなんか討伐して来いとかその辺りか?
「婚活です。」
うん?こんかつ。横に居るテトに話しかける。
「こんかつって何?」
また専門用語か?
「さあ、わからん…、あ、婚活?まさか。」
なんか理解したっぽいがなんだろうか。
「ちなみに用は我々のうち誰にあるのですか?」
「もちろんあなたです。」
そういって俺に手を向けられる。左右を見回す、改めて手を見る。俺だな。
「え、おれ?」
「はい!」
「いえ、お待ちください。我々は。」
そうメノウが声を上げて立ち上がると今度は従者が矢を向けてくる。やべえと声を上げる。
「まて!ちょっと、話をしよう状況確認だけ!」
「まだお嫁さんほしいんですか!」
メノウが俺にキレる。そうじゃねえんだ、リルウ押えないとまずいだろうが。てか嫁って何、まさかこんかつって婚活か?ほんとにそうなの?
「ちょっと話だけさせてくれ。状況がまじで読めん。」
とりあえず話を。生前話は結論から話せって言ってたけどこの世界生き急ぎすぎだろうよ。
「ではあなた様はこちらに。女性の方はあちらの家へ。」
そういってそれぞれ案内される。
異世界で一人になるのは久しぶりな気がして少し心細いが、いざとなれば暴れて逃げる事も視野に入れるべきか、とおもったが別室に連れてかれた彼女達の安全、いや逆にリルウが暴れたら何人殺すか判らない。俺が今考えべき事は逃げる事か我々の被害か相手の被害か判らなくなってしまった。なぜ異世界まできて胃を痛めにゃならんのだ。
「ではこちらにどうぞ。」
従者に案内された場所はそれなりの広さの部屋で、机と椅子、そして明らかにでかいベッドが横にある。
「すまない、経緯を教えてくれないか。」
「婚活です。」
「だからそこを詳しく。」
「フィル様では不満ですか?」
「そうでなくて意味がわからんのだ。そっちだっていきなり人間から食い物もらって喜べるのか。」
そういうと少し納得したのか話てくれた。
「まず、フィル様は醜女です。」
「どういう意味?」
「不細工です。」
あれでか?滅茶苦茶美人で胸尻最高だったぞ、エルフの薄着でガン見するの我慢したぐらいだし。
「というのもあなたには判らないかもしれません。我々の中では、という事です。」
「はい?」
続く説明を聞くと、どうもエルフは木々からの派生で生まれたという事で、その美しさの概念は花であり、花は雌雄併せ持つ点から男らしさや女らしさが無い中性さこそ美人の証との事で、女性らしさや男性らしさがある者は醜いとされるらしい。
その中でフィルは子供の頃から今のような性差があり差別されてきたが、その上で努力をして魔法技能や政治を学びこの国のトップに立ったのだ。だがそれでも結婚に憧れがあるようで独り身である事と任期満了が近い事もあり職権も乱用気味だが婚活を行っているとのこと。
「でも俺もそれなりに男だけど。」
「彼女はブス専でもあります。」
容赦ねえなこの部下。
「ですが彼女はこの国の為に心血を注いでくださいました。明らかな職権乱用ですが、それでも彼女が幸せになってほしいという気持ちは我々にもあります。」
そういう彼?彼女?の顔は真剣だ。うーん、これもある種のルッキズムとやらの被害者って事なのだろうか。
「だが我々は旅の者だ。ここに居着く予定は、」
そう言いかけて少し止まる。ここでずっと住むのもありなのでは?逃亡生活が終わるのでは?でもそれを選んだらメノウ達は。
リルウはここに残る事に賛成するかもしれない。だがメノウは先を行くだろう。そしてテトも。それは別れ以上に彼女らを見捨てる事となる。思い直すと俺は今まで状況に流されているだけだった。だが俺は。
「無いからこの先に進むぞ。」
この選択できる場面で俺は改めてメノウ達と共に行こうと思った。国を亡ぼすという話だが、それを回避することも考えつつ彼女達をほっとけないと思った。
「当たり前です、ここに居られるとまたフィル様が再選してしまうし、何より究生龍をこの国に留めたくありません。」
「あ、はい。」
リルウばれてんじゃん。というかここに定住はできんのか。
「だがなんで俺なんだ。」
「あなたの話は人の町で滅茶苦茶に木を伐りまくったと話があがっており、一部他のエルフの森の木も切った事から注意喚起として話が上がっていました。その上で強大な魔力を押えて究生龍と行動を共にし、我々の前で龍を抑えるなど手なずけているという事から今回白羽の矢が立ちました。その強さからある意味でとても安全で、任せられるからです。」
それを聞き、いろいろとばれてる事以上に異世界転生の実績しっかり残してるんだなあとしみじみ感じる。
「ですのでフィル様をよろしくお願いします。」
「お待たせしました!」
そういってドアが開かれるとさっきよりも更に露出を激しくしたフィルが入ってきた。うお!っと俺は目を引くが、さっきまで説明してくれていたエルフはそれを見てすごい嫌そうな顔をしていた。すげえ正直だなこの人。
「そ、それでは失礼します。」
滅茶苦茶挙動不審に急いで出るエルフ。んまあそういや年も上なんだものなあ。
「ふふふ、何考えてるの?」
そういって笑顔でこちらに駆け寄り少し手を光らせて俺の頭に触れた。
「歳の事考えてる。」
うおおおお!目が笑ってねえ!まずい!
「だ、だが俺は年齢が高くとも見た目が綺麗であればなんでもいい、むしろプラスだと思ってます!」
頭から手は離れない。まずい、これもまさか思考を読まれている?でも、今言った事は本当の事だ。美人だったら歳とか割と。何より異世界だしままあるでしょ。それに綺麗で大人の落ち着きがあるってすごいいいと思うんだ。そう必死にポジティブに考えつつ彼女をみると、滅茶苦茶笑顔。
「そっか、よかった!」
生存成功!というか異世界女性しょっちゅう人の頭の中読み過ぎだろ。携帯どころかフリーの掲示板かよ。
「じゃああなたの年齢は?」
頭から手は離された。これでたぶん思考は読まれないだろう。
年齢か、年齢?俺いくつだそもそも。この世界に来た時スタートなら一歳でもないが、元の歳から継続させるにも肉体が若くなってるから別ものか。たぶんこの体の感じは大体二十代か。
「二十くらいかな。」
「そ、そうなの!」
そういうと彼女の顔はみるみる赤くなり、腕を引っ張られてベッドに投げ込まれた。
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数日後、みんな解放されて森を出る時は明らかに三人の表情が険しかった。腕に抱き着いてるフィルだけ滅茶苦茶笑顔である。
なんとかなったと思いつつ、なんとかせねばと考えながら五人で集落を出ようとすると従者の人が見送りに来てくれた。
「それじゃあ、幸せになるね!」
ちょっとキャラがめんどくさいなと思いつつ従者の方を見るとフィルの元へ歩き、彼女の肩をつかむ。
「え、何、どうしたの?」
「集落を出るのは半年後です。残務と引継ぎが終わっていません。」
その瞬間の彼女の顔はまさに絶望であり、なんというか生前の残業を帰り際に言われた俺の様でちょっと親近感がわいた。
だが別れた後の道中でメノウにエルフで二十歳ってどれくらいと聞くと、大体見た目は人の六歳位だという。やっぱあのエルフやべえんじゃねえのか。
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