6 選択

 フィルの叫びを後にしながら森を出てしばらくするとまた人の町に着く。


 名前はドラントって名前。これも覚えやすい。だが道中でメノウの国、ミズタリが隣国であるという事で緊張が俺と他二人にある事は見て取れた。何より、俺も聞かなければならない。メノウの真意を。


 国を亡ぼす為に俺を連れてきたのであるならば、俺は止めたい。だが、殺そうとしてきた者達を無条件で許せというのは俺が言っていい言葉ではないだろう。


 何より異世界に来てから、まだ人を殺していない俺はただ逃げているだけなのだろうか。そんな変な義務感を考えていると町の関所についた。


「ここはうちら二人で行こう、メノウは下がっていてくれ。」


 そう言うテトはリルウの方を向き指をくるくるさせる。久しぶりに見たなそのジェスチャー。


「ああ、わかった。」


「わかりました。」


 そういって俺とメノウは同時に答えた。


「じゃあいくぞリルウ。」


「はい。」


 そういうリルウの角は見えない。なんか魔術で見えなくしているらしい。これのおかげで彼女だけ純人でも獣人でも両方首輪無しで行ける。ちょうど首輪は二つしかない手前助かる。というのもこの首輪も本来は奴隷である事を保証するものなので、自由に付け替えできるこれはその法に反しておりばれたら非常にまずいものだ。考えてみると転生してからずっと法を犯している気がする。




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「やっと終わった…。」


「すいません…。」


 関所で二時間ほど粘った。やばかった。


 というのも、俺が言葉を喋れても手続きの仕組みが解ってないという事で引っ込む事となり、リルウが主人役、テトが従者役と言う事でやったが、リルウも同じく本当はよくわかっていない為にパにくってそのまま魔術で関所をぶっ飛ばそうとしたのをテトがひっぱたいて抑えたとの事。


 魔力が無いため俺は気が付かなかったが、一緒に居たメノウがミミビン立ちで彼女らの方を青い顔で向いてたのを見て事の重さが解る。そのまま宿をいくつか周り、決めた宿で食事を済ませて部屋に入る。


「まあとりあえず寝よう。今日は。」


 そう言って枕元に白い石を置く。この白い石はフィルからもらったもので、いわゆる通信機だそうだ。ただ動力が魔力なので定期的に充電をメノウにお願いしなければならない。


 ならメノウが持てばとなるが、旦那君用との事で俺が持ってくれとの事。メノウはその言葉に表情が固まったので頼みたくはないのだが、リルウにお願いするとぶっ壊しそうなのでメノウになる。


「まさか携帯枕元に置いとくをここでやるとはなぁ…。」


 通信に対応する石は対の一つのみなので携帯とは違うが。なお未だ連絡は無い。





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「メノウ、話がある。というかみんなもだ。」


 宿の朝食を食べ終えて部屋で集まっている時に話をする。結局状況に流されてここまで来たが、そろそろ自分の身の振りを決めなければならない。


「はい。」


「ああ。」


「わかりました。」


 それぞれがそう答え、俺に目を向ける。改めて注目を浴びた事でなんか緊張する。


「ええと、なんだっけ。」


 そして言う事を忘れる。というか、言いたい事が多くて思考がロックしたというか。ううーむ。だがそれをみんな待ってくれている。


「そう、まず、メノウ。あなたは国に戻ったらどうするんだ?」


 テトが回答しようとするが、メノウが抑えた。


「母を、女王を下ろします。」


 んおお、やはりそうなるのか。


「殺すのか?」


「いえ、出来れば殺さずに。あなたと、リルウが居れば恐らくそのまま退位を要求できると思います。」


 そうか、災害級のドラゴンとそれに歯が立つこの機体ならば、その脅威が解ればそのまま無血で下せるかもしれない。しかし。


「俺が協力しなかったら?」


 そのつもりは無いが、言われるままになる訳にはいかない。人の国である今は状況的に主導権を握っている為にちょうどよかった。その言葉にテトが怒りの眼を向けるが、またもメノウが手で遮る。その手の後ろでテトの顔は少し悲しそうだった。


「報酬ですか?」


「いや、どうするつもりなのか見極めたい。」


 そのままメノウが王位を取って好き放題する事だってできる。彼女はそうじゃないと思うが、俺の知らぬ恨み辛みがあるかもしれない。


「今、ミズタリの国は女王の占いによる王政となっています。それを法に基づいた国にするつもりです。」


 ふむ、国の成り立ちから結構特殊なようだが、恐らく王女の言う言葉がそのまま法なのだろう。確かに絶対に当たる占いベースと考えれば、やりようによっては悪くないのかもしれない。


「そして、女王を下ろし、新たに王を立てます。」


 となるとメノウが女王になるという訳ではないのか。やはり彼女の感じからしても権力に執着は無いという見立ては間違っていない。


「何か有力な貴族でもいるのか?」


「え?あなたです。」


「あなた?」


「はい。あなたです。」


 メノウの後ろでテトがうんうんと頷いている。ばっと後ろを見る。誰もいない。自分を指さしてみる。ミミーズ二人が頷く。


「俺?」


「はい。私の夫として、あなたが王となります。」


「なんで!」


「え、でも私たち、」


 ああ、そうか。せめて死ぬ前にと言うからしたけど、そうか、責任取ってって事か。


「何よりもミズタリの建国は貴方のような転生者によるものです。なので国民も納得すると思います。」


 んおおおお、いや、転生物と考えれば妥当な展開なのか、そうか。


「だが、俺は国家運営なんてできないぞ。」


「宛があります。」


「向こうの協力者か?」


「いえ、フィルです。」


 そうか、あいつエルフの国取り仕切っていたから政治が出来るのか。というか、メノウのやつそれ目的でこちらに来る事許したのか。


「お願いします。だ、旦那様。」


 ちょっと照れながら言うのがカワイイけども胃が重い。ふとリルウを見るとあんまりわかっていないような顔。


「リルウはどう思う?」


「私は妻らしく、旦那様に従いますよ。」


 そうニコニコ回答した。あんまわかってない説もあるが、恐らく本当に俺意外はどうでもよいのだろう。


「ちょ、ちょっと考えさせてくれ。」


 そう言って俺はその場から逃げた。メノウとテトの顔は怖くて見れなかった。





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 とりあえず外に出たがどうしたものか。


 一人になる場所が宿に無いので出てきてしまったが、見知らぬカフェ的なものに一人で入るのもそれはそれで緊張する。建物の影で格納庫を開いて自分の財布を取り出す。その財布には日本円と米ドルも入っていたが、既にそれらは抜きこちらの通貨に入れ替えている。


 一応お金は背負ってきた鞄にほぼ入っているが、いくらか格納庫の方に移させてもらったのだ。とはいえ、このまま皆の元を飛び出すには心もとない資金だろう。言葉はわかるようになったとはいえ、法律や文化はよくわからないこの場で一人飛び出すのも無駄にリスクが高いし、そもそも王になる以上にうまい話なんて基本的に無い。


 だけど王様とやらになったら今までのような冒険なんてできないのでは。何より責任が絶対出るし。とはいえなんやかんや今までうまくいっているだけで、別れた後に指名手配もあり得るし、一から冒険者ってのもあれだし。


 となると俺は何を求めている?そういえば女神様と転生前の話し合いの時、転生してもやりたい事がないと続かない、やりたい事があるのであればと言ったのだけれど、そうか、俺自身が今その通りになってしまったのか。


 確かに機体を駆っている時は目的を達しているが、リルウと戦った時もだが戦う事を求めている訳ではないのか。適当に歩きつつ考えていると露店通りに出たのか匂いにつられてそちらに向かう。


「これ一つ頼む。」


「あいよ!」


 そう言って焼き鳥っぽい赤い物を買う。最初の獣人の町でも肉が妙に赤かったからなんか色をつけているのだろうか。更にこれは串を指してないで木の枝で器用に挟んでいる。食べるとしっかり味がつけてあってうまい。が、その形状から歩きながら喰うには少しトリッキーな感じだ。


 先を見ると噴水があり、とぼとぼ歩いてその縁石で一人喰う。味付けは好みでごはんと一緒に食ってもいい感じだろう、ごはんは無いが。やはり人、こちらで言う純人の町の方が塩が強くて味が好みではある。


「はあーあ。」


 悩みが解決するわけでもなく喰い終る。というかごみのポイ捨てをしたくないのでごみ箱を探すも無い所からむしろ問題が増えてしまった。


 とりあえず隠れて噴水で木の枝と手を洗いポケットにしまう。これは真面目なのか不真面目なのかわからんな。そしてまあ、やる事無いならとりあえず王様やって、適当に頃合い見て引退するか。まあ合間に冒険できれば、最悪機体動かせればそこそこ幸せなのかもしれない。


「やるか。」


 インターネットが使えないここじゃ知識も中途半端だが、とりあえずやるだけやってみよう。どのみちミズタリで戦争が起きたりしてあの二人が死に目に会ってるのを無視出来るほど器用には生きれない。


 結局の所、進む道は一つしかなかったのだ。


「戻ろ。」


 王になったらやっぱこう、どんどん決断しなきゃいけない以上、判断一つにこんな時間かけてもられないんだろうなあと思うと同時に、まずそもそも思わぬ反撃で王になれるかもわからない。


 まずは国を盗るという問題を解決せねば。そう決意しつつ宿に戻るも、部屋の扉の前で皆に優柔不断とかで嫌な顔されるかな、と一悩みするがため息と共に扉を開ける。すると部屋の机を囲み女性陣は仲良く談笑していた。


「ああ、すまん。戻ったよ。」


 なんていえばいいかわからずとりあえず声をかけた。


「あ、お帰りなさい!」


 そう言ってメノウが小走りでこちらに来る。テトも頭の後ろに手を組んで歩いてきた。なんと言うか、二人とも上機嫌である。


「よしそれじゃ、国盗りの話でもするぞ。」


 そういってテトは俺を引っ張った。


「まて、俺の回答は。」


「そんなの顔見ればわかりますよ。それに王になる事を、力と責任を持つ事をこんなにも悩む人にこそ王になってもらいたいですから。」


「まあ、あの時に即答した方が男らしかったですけどね。」


 そう言って微笑みながらリルウが引いた椅子に座る。そのまま国盗りの話となった。




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「ではこの作戦でいきましょう。」


 そうメノウはまとめた。


 とは言ってもやる事は単純、三人を背中に乗っけて王宮につっこんでリルウと共にホールドアップをかけるというものだ。女王との対面での交渉はメノウが、その護衛はテトがやるとの事。


 俺は失敗した時の撤退時の方向や手段などをもっと詰めようと話をしたが、みんな楽勝気分であり話にならなかった。

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