4 仕組み

 獣人側の町に着く。確かオルドヴェイルとか言っていた。名前がかっこいいので覚えていた。


 今回は無理なルートではなくただの山越えだったので時間が掛かっただけである。


 そして町の入り口の検問に行くと滅茶苦茶あわただしい。


「どうかしましたか。」


 リルウの言語転送で死にかけたものの、こうやって話せるのは普通に便利だ。


「近くに究生龍が降りたんだ!今町の防備と避難を推し進めている!」


 すまん、俺らです。俺が不調で移動の代打をリルウに頼んだ結果、高度をとった為に町を通り過ぎてしまい、一応離れた所に降りたが駄目だったようだ。


 再度三人を見るとリルウが縮こまってる。災害級なのに。




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 町は避難や防御の準備を行う為に見渡す店や宿は軒並み閉まっていた。だが念入りに探すと一件宿が開いていたので入ってみる。


「町の危機だが、それを守る冒険者たちをないがしろにはできねぇ!」


 宿の主人はそんな事を言う熱血主人だったので、しばらくタダで泊めてくれるとの事。あまりのマッチポンプにお金払うよと何度も言ったが、頑として譲らなかった。一応宿の主人に聞いて開いている両替商を教えてもらい、レヴュゲで稼いだ金を一部両替した。


 あまり獣人側の国でテトとメノウを表に出すのもまずい為、リルウと俺で行った。両替が終わった後で受付の人は決意と羨望のまなざしで頑張ってと言われてしまった。


 その後にいくらか店を回ったが、やはり軒並み閉まっているも空いてる店が辛うじてあったのでそこで食糧を買って戻った。


「駄目だ、ほとんど閉まってる。一応食糧は買ってきたぞ。」


「こちらでも見て回ったが思った以上だな、しかしよく訓練されている。」


 そう答えたのはテトだ。今まで片言元気娘になっていたが、言葉を理解できる今はどちらかというと武人タイプだ。見る目が変わってしまう。


「まあしょうがない、しかし人がこんなにも恐れる相手によく立ち向かえたな。」


「なに、あの場合はそれしかなかった。それにギルドで龍討伐の依頼書に目を通したのだが、今回出来ない依頼だと流し見で済ませてしまってね。場所が同じ事に気が付けば未然に防げたんだ。」


 今となれば笑い話だが会話の横でリルウがしょんぼりしている。俺を昏倒させてからいいとこ無しなのでかわいそうである。そして改めてテトを見るが、やはりビキニ上下だ。


「というか、その恰好でどうやって耐えたんだ?守るものが無いだろう。」


「ん?この服か?何言ってるこれは強いぞ。」


 どういう仕組み?そう思ってるとメノウが声をあげる。


「そちらはテトの種族の秘宝の一つです。限界までルーンを刻み込んだ服なので非常に強力な物です。恐らく私の服よりも高価だと思います。」


 話を聞くに服に文字を刻みこむ事で汚れが付きにくかったり自浄作用が付与出来たり衝撃の防御が出来たりといろいろな機能を付与できるそうだ。その中での最上級の一品らしい。だがしかし、


「なんでビキニなの?」


「ビキニ?」


 あ、そうかビキニ岩礁がこっちにゃないのか、とりあえず何とか説明をしたが、実際の所、人側は普通の服なのだが獣人側は変に露出が多いのだ。女性はもちろん男性も短パンオンリーが基本である。なおブーメランパンツが未だいない所は救いではある。


「そんなもの決まっている。鍛えて強い体こそ至高の物だ。それにうちとメノウ、お前から見てどっちが魅力的だ?」


 え、そう聞かれてメノウを見る。メノウも若干和装感があるがデザイン的に露出は結構多めだ。だがかたや水着。


「テトかな。」


「だろう!」


 肌面積で負けた。メノウのもちょっとぎりぎりな所はあるので好きな人はメノウかもしれんが俺は直の方が好きだ。メノウを見るとショックを受けてる。


「私も買おうかな…。」


 是非にと言いそうになるがテトレベルの物は売ってないし、売ってても手持ちの金ごときじゃ買えないそう。それそんなすごいもんなのか。ていうかそこまで手間暇かけてその恰好なのか、こだわりすごいな。


「うーん、というか、俺もそのルーンの服ほしいなあ。」


 そう一言いうと二人の眼が見開きこっちを見る。


「まってください。一つもないんですか?」


「ないよそんな技術。」


 その一言でミミーズの尻尾がブワっと大きくなる。


「すぐ、すぐ買いに行きましょう!特殊な服でしたから特別な何かが施してあるものと思っていました!」


 その焦り様から話をよく聞くと、こちらの服には大なり小なりそういう機能があるそうで、俺はいわゆる戦場に丸腰で来たやつとなっていた。


 とはいえ、言葉が話せて初めて解る物もあるものだ。


「リルウ、ありがとな。」


「あ、はい!」


 昏倒したとはいえ助かったので礼を言う。リルウの目の光からちょっと自信を取り戻したようだ。




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 結局五日後に究生龍は発見できずとの事で町は元に戻った。人が増えたので改めてテトとメノウはお留守番となりリルウと買い物へ行く事になった。


「それじゃ、よろしくお願いします。」


「ったく、早くもどれよ。」


 見送る二人。テトの機嫌は悪い。


「とりあえず食糧とルーンか。一応タリスマンタイプで。」


「はい!」


 リルウとメノウは上機嫌である。というのも、五日間でいろいろあったのだ。メノウは明日死ぬかもしれないからと、リルウは嫁だからと言う事で。


 おかげでテトがめっぽう不機嫌である。事前に龍の血って毒あるって聞いた為にビビッてリルウに聞いてしまったが、どうもストレスがかかると毒になりやすいという話で事後も無事である。


 なし崩しでテトとは転生初日でしたが、彼女の様子から意外と仕方なくではないという事にちょっとにやにやしてしまう。とはいえご立腹なので一応なんかプレゼント買うか。キレて光る爪を出されると普通に死ぬので冷静に考えると結構危険なのだ。


 そしてそんな彼女がいる室内に一緒に閉じ込められているのがきつ過ぎるので気分転換の外出は非常にありがたい。


「とりあえず食糧か。」


「いえ、ルーンからにしましょう。」


 前回食糧買った場所が近いので先にそちらに向かおうとするが、ルーンが先との事。そんな重要か。


「とりあえず一番安いのでいいか?」


「略奪すればお金はよいのでは?」


「いいわけないだろ。」


 リルウは相変わらずである。こいつ女の子に憧れる点以外は凶暴な龍まんまなんだよな。そして俺の返答を聞いてまた自信が無くなっている模様。たぶん何が悪いのかわかってないんだよな。


 ふとこのまま俺との関係が嫌になったりして暴れたりするのかなと思った瞬間、生身だと瞬殺される事を理解し脂汗が噴き出す。これは恐らく対策したほうがいいな。


「なあ、俺の事好きか?」


「え、はい!夫婦ですから。」


 返答は明るい。そこは大切なのだろう。そもそも今のところ三人とも美人なので水面に写る状況は男として最高だが、水底では刃が荒れ狂ってる。


「俺は優しいお嫁さんが好きだから、略奪しない人が好きだなあ。」


「はい!」


 なるほど、こうすればいいのか。リルウの瞳が普段以上に光を反射しキラキラしている。なお通行人が何人か振り返ってこっちを見てた。会話が不穏すぎるもんなあ。


 それに一応、リルウは角だけ出して獣人のように見せ、俺は奴隷の首輪をつけている。奴隷側が会話の主導権を握っているのも変なので余計不自然だろう。前の町でもそうだったし。


「おー、ここかルーン屋。」


「そうですね、一応こちらに値段があります。」


「う、結構高いし幅があるな。」


 宿でルーンの勉強を教わったが、特定の文字列に魔力を与えると特定の機能を発揮するとの事。


 俺自身に魔力ないけど効果あるのかと質問したが、文字の刺繍に魔力を宿らせる方式や大気中から魔力を吸収して機能するタイプもあるという。テトのは自身の力を反映させるタイプであるとの事で、そのタイプは今回買ってはいけないとの事。


 そして効果以外にも種類がいろいろあり、タリスマンタイプが一番安く、刺繍タイプが後付けできるが効果と値段もそこそこで、糸を分けて模様として織るものが最上位だが変更が効きにくく高級品。テトのはこれで、更に上質な材料で出来ている上にみっちりルーンが書かれている為、高性能で多機能だが高いし作れる者が限られてるそう。


「効果の程度がいまいち不明だし、値段も考えてやっぱりタリスマンタイプでいいか。」


「タリスマンですと忘れたり、つけている場所で効果がまちまちなのですが。」


「でも刺繍はなあ。」


 刺繍は服の材質と近しい物が良いとの事だが、俺の服は乾きやすさからほぼ化繊で、着ている上着も防水透湿のものなので刺繍なぞしようものなら水漏れする。


「とりあえずタリスマンにするよ。」


「ではこれですね。」


そういってリルウが一つ取ると、パンと割れた。


「あ。」


「あれ?」


 結局一個分追加料金を払う事になった。割れたのは試しにリルウが魔力を込めたらあっさり割れたとの事。なので性能からしてもそんなにいい物では無いそうな。


 今回はいくつか買ったタリスマンを一袋にまとめてセットにして持ち歩く事にした。そして一個余分にテト用のを買った。店頭で一応説明を聞くと心臓の近くだと効果が高いとか。安物とはいえ俺は新しい物に意気揚々としていると、リルウはまた悲しそうな顔をしているので、慰めついでで一緒に昼食を食べる。


「すいません。」


「んまあしょうがないさ、力が違うからなあ。」


 とはいえ俺の言語転送といい、強すぎるのも大変なんだなとしみじみ思う。そして食事のお金を払おうとすると手に衝撃がはしり、子供が走り去っていく。やばい盗まれたと思った瞬間にリルウが子供の腕をつかみ、握り潰した。


「があああああ!」


 子供が出しちゃいけない声が響き、リルウが財布を取ってこちらに渡す。


「危ないですよ。」


「いやお前!」


 そう思い周りを見ると、ちょっとこちらを見た後に興味なさげに皆会話などに戻っていった。そして店主はすいませんねえと言いつつ子供を蹴り飛ばしてどけた。それは、それは無いだろう。


「駄目だろ、子供だぞ!」


「でも浮浪者で泥棒ですよ?」


「お客さん何を気にしてるんですか。」


 そういってみな普通にふるまっている。これは、これが普通で俺が異常なのか。


「すまん、治してやってくれないかリルウ。」


「え、でも。」


「頼む。」


 なんというか、ある意味この瞬間が最も異世界だと感じた瞬間かもしれない。考えてみれば現代は人の命は大切だと教えられるも、中世では別に人の命よりも高価なものはいっぱいある。


 というより、現代でも人の命より高価なものは沢山あるのだろう。でも、それは一種の美徳として皆言わないだけだ。だがそれでもこれはあまりにも。


「ううーん、わかりました。」


 そういってリルウは子供の腕をスッと治す。切り落として無いからかちゃんと治った。そして子供に向き直るとこちらに手をだした。


「なんだ?」


 そう聞くと一言。


「金。」


「あ?」


「かねー!」


 そういって子供が叫ぶとリルウがビンタの素振りを子供の眼前でスかす。すると子供が突風で吹き飛ばされ声を上げてそのまま逃げた。


「ああいうのは親切にするとそのままつけあがるんですよ。」


「すまない、ありがとう。」


 そういうリルウは少し呆れながらも笑顔だった。また悪目立ちをしながらもそそくさとお金を払いその場を離れる。


 この世界では俺が間違っているのだろう、だがそれでもこれを認めるとまずいと一人耐え悩みながらも食糧を買い宿に戻る。


 部屋に入るとメノウとテトはなんか上機嫌だった。なんと思考を読む術が首輪に残っていたとか。わざと消し忘れてないかと、しょっちゅう携帯を覗き見る彼女みたいで声を荒げたが、あなたの考えは間違っていないしその心持は大切ですと言われて、この時ばかりは少し救われた気がした。




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 その後に今後進むルートを皆で確認する。


 ここからいわゆる北方向が目的地となるらしいが、空路は微妙だそうだ。というのも国境がここら一体で一番の高山な上に火山があるそうで、火山性の毒竜が一帯にいるそうだ。突破はできなくはないが距離が長い為に手間になるとの事。


 そして陸路だとなんとエルフの森を突っ切るのだそう。おお、異世界っぽい!とはしゃぐにも先日の一件でちょっと素直に喜べない。エルフって大体性格悪い設定だし。というかエルフの森突っ切るのは大丈夫なのかと聞くと、俺の思った通りで一般人が取れるルートではないとの事。また毒竜対策で特殊な対空砲のようなものも持っているらしく、森上空も厳しいそう。つまる所、ここは国交的に来た方向以外はどんずまりの場所なのだそうだ。


「しかしどうするんだ、そのまま行くのか?」


「ここのはずれに我々の協力者がいます。そちらにエルフ用の通行手形を依頼するつもりです。」


 ああ、一応あてはあるのか。安心して今後のルートを確認してその日は終わり、次の日にその協力者に会いに行く事となった。


 次の日の早朝に、部屋の荷物を片付けて宿に金を払い出ていく。一度戻るのでは?と二人に聞くも二人とも言葉を濁した。


 そのままついて行くと郊外のなかなかの豪邸に着き、おおと声を漏らしながら進むが、ここでも俺は門前払いだった。理由は奴隷だからである。


 ううーむ、考えてみれば俺らの関係性が異常なのかと思いつつ、言葉が喋れても、というか喋れるようになった事で分かたれる理由を理解して孤独感が広がったとも感じる。一人門の前で転がってる状態なので、スマホも充電の当てがない今は闇雲に使えず時間を潰す術がない。せめて機体構成や能力の確認でもするかと格納庫を開こうとすると、横から男に話しかけられる。


「よう、あんたはあいつらの奴隷か?」


「え、あ、ああ。そうだけど。」


「はは、すげえな。あんた。」


 フレンドリーに話しかけてきた男は俺とおそろいの首輪をつけている。と言う事はここの協力者の奴隷なのだろう。男は小奇麗であるが顔に疲労が見える。


「というかどこで買われたんだよ。」


「ん、まあなんか四つぐらい遠くの国でな。」


 適当に話を合わせる。


「つうか、あいつら予言のミズタリ国を亡ぼす子だろう?」


「え、ああ、なんかそれで国から追われたんだろう?外れるって考えは無いのかね。」


 いきなり初耳の情報に戸惑うもなんとか取り繕う。ミズタリ。そういう国名なのか。というか初めて聞く内容に変な世田話だなと改めて思う。だが考えてみれば俺は彼女らを何も知らないし聞いていなかった。


「何言ってんだ、物を知らねえなぁ。ミズタリの女王といったら決して外さぬ予言者じゃねえか。そんな人が国を亡ぼすって予言出したんだからそりゃしょうがねえだろう。」


「何?決して外さない?」


「ああ、どんな小さな事でもだ。それで国を大きくしてったんだからあそこは。」


 まて、外さない?となるとメノウは、我々は国を滅ぼしに向かっていると言う事か?そう悩むと背中かから大きな音をたててドアが開く。テトが蹴りあけたようだ。その後ろにメノウが、しんがりにリルウが居る。


「おいとっとと出るぞ!」


 尻尾からして明らかにテトは気が立っている。訳が判らないが奴隷の男に頭を下げて三人について行く。


 帰る道中に理由を聞くと協力者はエルフの通行手形の替りとしてメノウとの一晩を要求してきたそうで、テトとリルウが二人で脅して奪ってきたのだそう。


 メノウの表情は沈んでいる。そして俺はこういう事もあるからとあの時に求められた事を知り、彼女を抱きしめるとメノウは顔をうずめてきた。


 とはいえ暴れた手前長居はできない。すぐに森へむかう事となった。

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