3 増員

「路銀が、つきました。」


 レヴュゲの町の宿で、なんかメノウがテトに一言いうと口をあんぐりさせていた。


 その後に俺にかけた言葉がこれだった。これには俺も納得のあんぐりである。


「この町に支援者はいません、ですが純人であるあなたがいるので冒険者ギルドでお金を稼ぐ事ができます。」


 冒険者ギルドの一言であんぐりから復活する。すげえ異世界ものっぽい!けど我々は冒険者ではなく逃亡者である。いけるの?


「冒険者ギルドにて討伐等で名を上げると極めて危険なので、薬草採取等の小さい仕事でお金を稼ぎましょう。」


 たぶん俺に獣耳がついてたらしゅんと垂れていただろう。夢が無い。だが前回の山越えで恐怖を味わった手前、そのほうが良いかとも思えてきた。


「一応、お金は直ぐに無くなるわけではないですがとりあえず行ってみましょう。とはいえ宿代もあと三日ほどしかありませんので。」


 レヴュゲについてまだ二日ほどでこれである。なんでだよ、と聞いてみると俺が一人増えたので宿代は五割増しだからだそう。ちょっと追及しづらい。


「あなたはまだ満足に話せないと思いますので手続きは私たちでやります。我々は獣人ですが貴方が近くに居れば問題ないでしょう。」


 そう言う二人にはあの奴隷の首輪が付いている。結局こちらは獣人の町とは逆で人の所有物となれば他と揉めないという事だそう。


 しかし結局俺はこの国の人間ではない為に手続きは彼女達二人で行うという事から、自身が後ろに引っ込んでるだけの圧倒的ヒモ男感を理解し今心に来ている。



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 次の日冒険者ギルドとやらに三人で行く。行く前にもう一度言語転送をお願いして、案の定頬を膨らませた朝だった。


 緊張しながら門を開くも、やっぱり何もできず二人が手続きをこなしてくれた。身元がばれないかと思ったが、幸か不幸か冒険者登録というのがすごい雑なのだ。まあ、そういう社会的立ち位置の仕事なのだろうな。


 話を聞くと討伐の仕事やダンジョン攻略が人気らしく、冒険者も一攫千金派と騎士に当用派がいるようで、なんというか正社員当用ありの派遣社員の異世界版という考えがよぎってしまう。結局保険とかないから大変だもんなあ。そうしみじみ思い少し生前が恋しくなってしまった。


「イイノモッテキタ!」


「これどうでしょうか。」


 そういって二人は求人票を持ってくる。二人もこの場所が新鮮なのか笑顔だが俺はその紙をみて圧倒的ハ○ワ感を見出す。


 いまいちはしゃぐ事ができないが物を見ると結局文字もあんまり読めない。それにメノウは気が付き教えてくれるがなんか子供に教え聞かすみたいな感じになり周囲の目が生暖かくなる。この辛さは転生もので必要なのだろうか。


「とりあえず薬草の採取、害獣討伐、あと材木の伐採ですね。」


 一応文字も二割ほど読めるようになってるので教えてもらえればいくらか読める。数字もわかっているのでどれが報酬が多いかも計算できる。


「オレ、コレ!」


 そう言うテトは害獣討伐を選ぶ。なんでも討伐したらその対象を持ち帰れるそう。まあ、食べたいんだろうな君は。


「私はこれです!」


 メノウは薬草。もともと知識があり、こちらも自分の分を取りたいらしい。傷薬とかあった方がいいのではとの事。まあそうだけど、たぶんこれだろうなあ。


「材木じゃないか、ここは。」


 二人とも嫌そうな顔をする。だが単純に理由がある。


「俺の機体、ゴーレム使えばいっぱい切れるしいっぱい運べるじゃない?」


 その一言で二人はしぶしぶながら納得し、それに決定した。ちょっと悪い事した気がしなくもない。




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 次の日の早朝、集合場所に集まった後に地図を渡される。


 ここからこのあたりという区切りがあるそうで、奥に行きすぎるのはなんか危ないらしい。しかも、とりあえず切ってこいと投げっぱなしだった。


 結局冒険者になってまで木を伐りに来るのは訳アリで、本気で切りに来る奴はいないとの事。良くて剣の試し切りや何やかんやのついでにやる者が大半だそうで期待されていない。


 つまり監視の無い、投げっぱなしという事でとっても好条件である。


「監視つかないのならガンガンいけるな。」


 そもそも監視の事を何も考えて無かったので助かった。いっぱい切れて運べるじゃん、だけで仕事を選んだのは流石に雑すぎたかもしれん。


 まずは周りをテトが確認。


「ヨシ!」


 ミミもぴこぴこ動かして確認した後に指差すヨシの一言で、一瞬生前のあるネタが頭をよぎるが、それを語り分かち合える人はここに居なかった。要らぬ孤独感を感じつつ機体を展開。一応偵察機を使用し改めて周りを確認。スキャン、ヨシ!二人を乗っけて森へ飛ぶ。


 ついた先でレーザーブレードの試し切りをしようと思ったが、これ熱で溶断するものだから火災とか平気かなと迷っていると、テトがあのドラゴンを斬った光る線を出してばたばた木を切り倒し始めた。


 メノウが倒木に巻き込まれるかもしれないので一度止め、俺が機体で木を支えながら切る事にした。が、テトが数本切ってコツをつかんだのか更にバカバカ切り倒す。それを手持無沙汰なメノウがもう一度止める。枝葉を切り落とす作業も行う必要があるとの事でその話もするなど、思ったよりも作業がはかどらない。


 俺も一度機体を降りて話し合い、切断テト、運搬と切断補助俺、枝葉片付けがメノウと役割分担が出来てからは早く、ガンガン丸太を作りお昼休憩。指示された材木置き場も目立たぬ場所であるが、念のためテトに先に見てもらい、隙を見て丸太を抱えて置いて行く。


 案の定、依頼者の予想以上の量を持ち込めた。これで結構な金額が手に入ると思いきや、なんと依頼者側の持ち合わせがないという。とりあえずもらえるだけもらい、あとで残りをという話となった。


「踏み倒されるかもしれませんのでギルドにはしっかり話しましょう。」


 テトが依頼者に脅しをかけた後の帰宅中にメノウとそんな話をした。そして依頼元にちょっと申し訳ない事をしたと思った。




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「これをやりましょう!」


 そういってメノウはノリノリでまた求人票を持ってきた。


 というのも前回の一件でこちらの納品が多すぎて依頼者の工面が未だつかず、この町にくぎ付けとなってしまった。依頼元に再度直接乗り込んでみるもまだ用意できないから簡便してくれとの事。テトが光る線、光る爪と教わったがそれを出す横でなだめつつ交渉、目途はあるので数日待ってくれとの着地。向こうもそんなにあくどい感じではない上、こちらも揉めて目立つ訳にもいかず仕方なしに待つ事に。そんなんで時間が出来てしまった。


 俺は安全も兼ねて宿でだらだらとしたいのだが、メノウは前の薬草採取がどうしてもやりたいらしい。なんでもこの地方のレアものだそう。テトも面倒くさそうだがメノウの説得に割と早く折れていた。それじゃあギルド通さずそのまま取りに行くかと話をするも、この依頼書が無いと町の外へ出る時に揉める事があるのだとか。


 結局やる事となり皆でギルドへと行き、メノウが受付にお願いして依頼を受けて来る。そしてギルドを離れる時に小奇麗な男達に話かけられた。


「ウギィンド。」


 何?となるが二人も同じ言葉を返す。きつい。


 どうも意味はハロー的なやつか、これからの生活大丈夫かなと思いつつ相手を見ると、帯剣してる上にちょっとした鎧も来ている。恐らく冒険者だろう。話に入れないのでのっそり後ろに控えると、しばらくして彼らは離れていく。メノウとテトは手と尻尾を振っていた。


「この薬草はこの地図の所よりもあの山の麓が穴場と教えてくれました!」


 メノウはウキウキである。テトを見ると少し悩みつつもはしゃぐメノウを見てため息一つついて目を瞑る。いつもと逆の立場に年相応の二人を見て笑みがこぼれつつ、その日は採取の準備をして宿に帰った。




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 次の日、目的地は結構な距離があるので街はずれまで歩いて機体を展開、移動する。メノウ曰く、いっぱいとってとりあえず俺の格納庫に保管しよう!との事。


 格納庫が青臭くなりそうでちょっと嫌だが、テトがちゃんと大き目の革袋を用意してくれていた。材木の金で買ったそうだ。お金があると便利だなあとしみじみ思う。そんなこんなでついた先は綺麗な原っぱの丘で、この草の下に隠れて薬草があるらしい。


 機体を展開しっぱなしだと疲れるのでとりあえずしまう。転生初日に妙に疲れたのはたぶん出しっぱなしだったからだろう。一度しまうと再展開が遅くなるが、まあ帰る頃にはすぐ出せるようになっているだろう。


 そして三人で採取を初め、採取対象を人数分見つけるとそれを手がかりに手分けして探し始める。生前含めて久方ぶりの土いじりに複雑な感情を抱きつつ探すが、思ったよりも見つからない。穴場という話だが珍しい薬草であるとの事なので、そもそもの生息数が少ないのかと一人納得する。少し前の所に生えている薬草を見つけて取ると、その目の前に大きな石があり、その上に角の生えた一人の女性が佇んている。目が合うと話しかけられた。


「ウギィンド。」


「うぎぃんど!」


 昨日の今なのでちゃんと言える俺えらい。だが続く言葉がまるで解らず。


「うお、どうすっかな、まったくわからん。」


「ケ?古代語ですか?」


 二人を探そうと思った矢先に流暢な日本語でしゃべり始めた。すると遠くにいた二人も気づいたのか寄ってきたが、次の瞬間テトが飛び出して知らぬ言葉を叫び光る爪だした!


「え、おい待て、どうした!」


 テトは俺の首根っこをふんづかまえて投げ飛ばした。転がった後に顔を上げてメノウを見ると顔が真っ青である。なんだ?


「ニゲロ!」


「そうはいきません。申し訳ありませんが、そうですね、手合わせ願います。」


 そう言うと女は衝撃波と共に翼と尻尾を出した。それは前見たドラゴンっぽい。メノウが俺の手を引いて逃げ出し、大声で言う。


「あれは究生龍です!町を消し飛ばす災害級の生物です!」


 その言葉を理解し踏みとどまる。


「おいテト助けに行くぞ!」


「彼女は…。」


 足止めか。テトの立場からして当然なのだろうが、メノウ自身の判断でこの状況に陥った事からその顔はわかりやすく絶望している。そして切っ掛けが話しかけられた俺な上に、後悔しないと決めたここでの生き方としてそうもいかん。


「援護しに行ってくれ!俺はここで機体を展開する!」


 その言葉にメノウの顔が晴れ、彼女は走り出した。そうだよなぁ、友達見捨てるってそんな生き方できねえよ。それに誰だってしたくない。


 だが、先ほど機体を収納した事と木を切る時に両手を開けていた為に武装も無かったので展開に思ったより時間がかかる。二度目の爆風が走った時、俺は機体を仕舞った後悔で涙がにじむも体を宙に浮かせて展開完了!武装は一丁だけライフルを先に出し、残りは移動中に展開だ。ブーストを最大で吹かして突っ込む。


 少し先ではのどかな原っぱが焼け野原になっている。FCSに反応、ロック確認、だが未だ素早く動き耐えるテトが見えた以上、流れ弾を恐れて手前の地面に向けて三発だけ撃つ。


 ブーストを切り地面を抉りつつ周辺を見る。テトがメノウの方へ飛ぶとそのまま地面を転がり倒れる。それにメノウが向かい抱きかかえた。


「メノウ!下がれ!」


 前方の女に銃を向ける。だがここで俺はすぐ引き金を引けなかった。敵とはいえ相手は人型、そして喋れるし、喋った。相手を殺す覚悟を持てていない。だが目の前の女は変わらぬ表情でこちらを見ている。


「それは。ならば、出来そうですね。」


 機体の集音マイクで一応聞き取れる程度の声の後に、女は後ろに跳び正しくドラゴンへと変化した。前回のドラゴンより一回り大きい上に手と翼が独立している。大きさはこちらの機体よりもすこし大きい程度か。


 そしてこちらに飛びかかってきた。


 うあ、と反射的に下がりそうになるが、逃げる二人が小さくカメラに映る。それで決意を思い出し、前に跳んで足で蹴りつける!


ガキィン!


 お、これゲームと効果音一緒じゃん、という考えが高速で通り過ぎた後に叫ぶ。


「メノウ逃げろ!俺が抑える!」


 勢いは乗らなかったが蹴り飛ばし距離が出来たので銃を撃つ。右腕の銃も転送完了の文字が見えた。ハンガーを起動するも前が火で埋め尽くされる。


「ブレスか!」


 前のドラゴンとはくらべものにならない範囲のブレスに画面が埋めつくされるが、横に飛ぶもすぐに対応され炎で見えない。コックピットまで熱は来ていないがHUDの耐久値は下がり始めている。どこまで耐えれるのだろうか。そしてメノウたちがブレスに巻き込まれていないかという焦りと、熱による銃の暴発もあり得るのではという焦りが重なる。


「クソ!」


 ブースターを吹かして後方に跳び距離をとって回り切ったハンガーから銃を握り火の先へと雑に連射する。だがロックがかかっていない事に気づき、弾を当てられない状況に焦りつつも咄嗟に判断して偵察機を出してみる。


 すると画面上で炎が透けて龍のシルエットが映りロックがかかった。急いでまた横に飛び両指を引き絞ってライフルとバズーカの連射を行う。再度後ろに跳ぶと火が止まった。画面上にシルエットは映るが煙でよく見えないので銃を構えつつ近づくと、傷だらけのドラゴンが見える。しかも明らかに弱っている。うん?と思いスキャンモードに移行。


究生龍 耐久値 5000(0) 基礎攻撃力1200


 あれ、思ったより強くないのか?これならいける。再度照準を合わせると横から何かが飛び出てドラゴンの前に立つ。


「マッテ!トメテ!」


 テトだ。


 理由は不明だが依然としてドラゴンはこちらを睨んでいる。脅威は去っていない。だが撃てば彼女も巻き込む事となる。銃口を向け、ロックオンをしながら立ち止まる。メノウはテトに飛びついてどかせようとしている。なんだ、どうなっている。


 テトがメノウに大声で説明していると後ろのドラゴンは光り、また人型へと戻った。そして人?を撃った事実で俺の腕に恐怖が奔る。そして元ドラゴンはよろめきつつ、両手を挙げた。


「なんなんだ。」


 何がどうなっているか判らないが、テトとメノウは取り乱している為に降りて様子を見に向かう。一応遠隔操作で銃は撃てるが、トリガーのレスポンスが著しく落ちる。急に動かれたらアウトだ。


 だが元龍に駆け寄るテトを見て覚悟を決めて走り向かう。俺は恐怖と罪悪感で感情がぐちゃぐちゃになっている。途中でメノウが駆け寄ってきた。


「あの、なんというか、その、害意はないそうなんです。」


 頭に?が飛び交うが心配なのでメノウと共にテトの元へ走る。テトは傷はあれど大丈夫そうだ。そして元龍の女がこちらを見た瞬間にはっきりと言った。


「結婚してください。」


 一瞬脳が理解を拒み、なんかこっちの言葉の同音異義語かとメノウを見ると、彼女も神妙な顔をしていた。




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 その後にテトと女の傷の手当てをメノウと共に行いつつ話を聞く。


「テトはなんで止めろっていったんだ?」


 そういうとメノウが気を利かせて翻訳してくれてる。なんかこれもいい加減続くが悪いな。


「ええと、どうも最初に戦った際に明らかに手加減をしていて、殺すつもりが無かったからだそうです。」


 うーむ、戦う女の感ってとこなのか?改めて女の方を見る。顔は整っているが、輝く青い瞳だけはしっかり爬虫類のそれだった。


「申し訳ありません。必要な事だったのです。あなた様。」


 美人に言い寄られてるんだろうけど、訳わからないと怖いんだなあとしみじみ思う。


「そうですね、まずお話ししますとわたくしエヴォルドラゴン、通称究生龍の一族となります。」


「うん。」


 それは話を聞いた。というか横文字の固有名詞初だな。


「わたくしの一族はその代で最も強き者が男となり、ほかの同族が女となり子を成します。そしてその強さと血筋を残していくのです。」


 はあー。変わった生態。


「となるとその男が嫌で逃げて来たって事?」


「いえ、わたくしが当代での最も強き者となりました。」


 え、こいつが一番強いの?


「じゃなんで、」


「ですが!私は心も、体も、女性が良いのです!」


「ええ?」


「しかしこのままでは男役にされてしまいますし、されども私は本能から自身より強い男性が良いのです!そこであなたが現れました。」


 ええ、なにこれ異世界くんだりまで来てその手の問題に巻き込まれたって事?


「ですのでお願いします。ぜひとも私をもらってくださいませ。」


 ううーんと悩みつつも相手を改めて見ると、やっぱり美人。体も人の状態なら角はあれど鱗とかも無い。いやこれなら。しかし変な気配がして二人を見ると、こっちをガン見である。どっちかというとメノウよりテトのが目力つよい。まあ、したもんなあ。


「いや、だけど俺はそんなに、あの機体が強いだけであって俺は強くないよ。」


 というのも、前回ドラゴンの巣を越えた後、機体を川で洗うついでに機能を拡張して遠隔操作で自身をスキャンしたのだ。結果、


耐久値 85(0) 基礎攻撃力5


 耐久値は置いといて戦闘力は5だったのだ。


「軍勢を率いる王でもそれはその王の力です!それでも私は認めるつもりでした!」


 ああー。そうなんだ。


 悩みつつも考えてみればうまい話。いやー、どうしよっかなー。言い訳と期待交じりで二人を見直すとテトは相変わらずの眼でこちらを睨んでいるが、メノウは表情が変わり考え込んでいた。そして何か閃いたようだ。こちらに向き直る。


「今まで通りあなたが一緒に来てくれるなら、私はいいですよ。」


 その一言にテトが高速でメノウに向き直った。


「わかりました!お願いします!」


 女性も返す言葉を挟ませないよう即答である。テトがメノウに詰め寄ってしばらく話をすると、すごい嫌そうな顔をした後に納得した。何言ったんだ。


「わたくしリルウと申します!よろしくお願いします!」


 追加で嫁が出来た。ある意味では異世界転生の流れを順当に踏んでいる。




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 手当も終わり、そんなこんなでもう帰ろうとなる。


 俺は機体を動かそうとしたが、俺がバテているのかうまく動かせない。仕方ないと機体を収納してほうほうの体で歩いて帰る事となるが一人だけルンルンで超元気なやつがいる。リルウだ。


 あの戦闘たぶん本気じゃないな。俺は偶にふらつく程度に疲労があるが、男の意地で我慢して歩くと目の前から一団が来る。よく見ると相手は武装しており更に抜剣している。避けようとするも真っすぐこちらに来た。そして剣をこちらに向けて大声を上げてきた。案の定何言ってるか判らないがあの下卑た目つき、野盗か。メノウに近づき一応聞く。


「武器を捨てろと叫んでいます。」


 やっぱり、と改めて向き直るとリルウだけ歩く速度を変えずにそのまま一団に向かい、二本指を立てた手をスッと振るった。すると野盗の手足が血と共に切りおとされる。そして逆の手を払うと一団は横に吹き飛ばされ、リルウはそのまま通りすぎて行った。


「まて、まってリルウ!」


「え?どうしました?」


 どこへ行くのとか何やったのとか何でやったのとか、聞きたい事はいろいろあるがどれから聞いていいかで声が詰まる。まさか野盗でも警告するのにノータイム迎撃は野盗より容赦ねえじゃねえかうちら。しかも綺麗に全員手足を一本ずつ切り落としている。


「あ、でも、邪魔ですし。」


 何となくこちらの意図を理解したようだけどそういう感じなんだ。だがよく見ると野盗に見覚えがある。そうだ、あのギルドで最後話しかけてきた奴らだ、装備も同じだ。


「え、あの、やはり首をはねた方が良かったですか?」


 リルウは違う理解の仕方を始めた。待ってと言おうとしたらテトが光の爪を出して一人を抑え込んで、というかちょっと切って大声で尋問してる。


「メノウ!」


 そう叫んでまた判らない言葉をつづけるとメノウの顔が青くなる。


「どうした?」


「彼らはここで龍討伐で弱った人を襲い、金品と人を売っていたそうです。」


 そういう事か。だからあの脈絡のない話しかけにつながったのか。確かに言うほど薬草が多くも無かった。こんなもんなのかと納得してたがそもそもが嘘なのか。なんでも木材の伐採で我々に金がたんまり入ったのが界隈で有名になったようでその金目当てだそうだ。まだ入ってねえよ。


「く、首おとしますか?」


 リルウはおどおどしながら聞いてくる。そうじゃねえんだ、いや、いいのか?


「んまあ、とりあえず止血するか?」


 たぶん悪人だろうがいきなり殺すのもなんだし。


「わかりました。」


 そういうとリルウは辺りを光らせて、光が止まると彼らの傷はふさがっていた。手足はとれたままで。それを見て強盗共は絶叫する。なんだ?と思うとミミーズ達は滅茶苦茶引いていた。


「え、何どうしたの?」


「あ、いえ、町で魔法治療を施せば手足を繋げる事が出来たのですが、この魔術のおかげで今のままでふさがりました。もう彼らは完全に手足を失う事になったんです。」


 ええ、改めて異世界なんだと思うと同時に、情報が多くてそろそろ思考を放棄しそうだ。横を見るとテトの傷もついでに全快、そして、落ちてる手足の切り口がちょっと骨と肉が増えた上でキレイに皮膚でふさがっている。うええ。


「すいません、回復魔法はあまり得意ではないものでして…。」


 必死に思考を再開して打開策を練る。とりあえず我々は目立つ事は出来ないので捨て置くかとそのまま進むが野盗共に泣きつかれる。溜息をつくがあまり人道に反する事もしたくない。とりあえず武装解除をさせ、格納庫に装備をほおる。


 ついでに格納庫になんか道具ないかとみると、テトからもらった革袋がまだ残っている。引っ張り出して頭にかぶせて、回復ついでに俺も疲労が取れていたのでもう一度機体を展開するとすぐに出た。甲板にこいつらを放り投げてもらって町にばれないと思うぎりぎりまで運び、それ以降は肩を組ませて二人二脚で無理矢理歩かせる。ため息つきつつ門番にお願いして自首させる流れとなった。


 一応機体の上で女三人が死ぬほど脅していたのを三人称視点で見たので、たぶん他言はしないだろうと思う事にした。そもそも町一つよりリルウの方が強いとの事で町に泣きつくこともないはずだと唸りながら願う。


 そして引き渡し終って初めて、採った薬草を入れた袋を置いてきた事を思い出し、ため息を三人で改めてつく。


「もういいや、宿に帰ろう。依頼のキャンセルはまた今度だ。」


 そういって宿に戻り、目が覚めると六日も経っていた。


 というのもあの後リルウが名誉挽回という事で俺に言語転送をすると、一撃で大量に転送したのか俺が昏倒したらしい。目覚めた後の三人はリルウがヒエラルキーの一番下にいた。


 その間に材木の金も無事出たのだが、それに伴い町中で大分有名になり始めていたのではじけ飛ぶように四人で町を出た。

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