2 山越え
望む山は鋭く高く、横には広く青い。
そして多分、そこそこ山との距離が遠いはずだけど何か飛んでる生き物が見える。たぶんあのサイズは人の十倍はあるのでは。あ、火を噴いた。
「沢山のドラゴンが居ますね。」
うわあ、やっぱりドラゴンなのか。でもあのサイズあんなごろごろいて平気なの?
「ここを越えればレヴュゲの裏に出れます。国境警備の裏をかくのでこの色竜の巣を通っていきます。」
昨日の夜説明されたがもう少し早く教えてほしかった。そうすれば格納庫での組み換えがもっと練れたのではと心で愚痴る。とはいえ装備も少なく取れる選択肢も少ない今は、あまり変わらなかったのだろうが。
横を見るとテトは見た事無いほど真剣な顔で毛が逆立ってる。まあこの様子からドラゴンが弱いって事は無いんだろうな。
「それでは行きましょう。国境越えです。」
身を隠して住む町の方が気が楽とはなあ。
町を出て三日目に国境の山、ホウボス山についた。
ここは色竜という、色に特徴のあるドラゴンの巣となっている。まあいわゆるレッドドラゴンとかブルードラゴンとかだ。海外のお菓子みたいな色のドラゴンがちょいちょい見える。
このドラゴンは縄張り意識が強く、縄張りからあまり出ないが入ってくるのには容赦がないとの事。そのため罪人の処刑で放り込む事もあるとか。そして何より、戦闘力は高いらしい。だが飛ぶのが下手らしく、この機体であれば振り切れるだろうとの事。
なので前の日に近くの低山で登山をして、そこから巡航状態で越える事となった。普通に国境ルートで、という話もしたがその場合見つかると敵は国になるとの事。国か竜かを選ぶ事となり、選ばれたのは竜でした。
いきなり命を賭ける事となり、彼女達を選んだ道の茨の太さに憂鬱になるも覚悟を決める。昨晩二人に夜の哨戒をしてもらいつつ、俺は機体の組み換えを行った。といってもバズーカ二丁の一つを単発ライフルに変えて、レーザーライフルとレーザーブレードを乗せた、ザ、初心者がよく作る機体である。
というのも相手の防御耐性、というかなんかそこらへんあるのかわからんので現時点で使えるパーツを乗っけたもんである。
「よし、とりあえず突っ込む前に試射だけするぞ。」
「わかりました。それでは私たちもちょっと準備運動しますね。」
そう話して俺は機体に乗り込んだ。
コックピットを複座、ないしもっと広く取れれば彼女達を入れられたのだろうが、どうもその改造だけはできないようだ。そして宿でいろいろと俺の能力を調べていたが、もともとこのゲームには弾代や修理費なども戦闘後の報酬から差っ引かれるという仕組みがあり、そこらへん報酬の無いこの状況ってどうなってるのかと調べたら、ちゃんとミッションという項目がありそこから出ていた。
んでそのミッションなのだが、なんと移動距離何メートルとか町の発見とかの方式に変更されていた。これも時代なのかと思いつつ項目を見ていくと、稼ぎ頭は転生後何日間生存と何キロメートル移動であった。ログボと飛行機のマイレージかな?そしてそのポイントを使用しパーツの購入や機能拡張が出来る仕組みになっていたのだ。
拡張内容には他のゲームのアンロックもある為に貯めるか使うか結構迷い処であるが、先もわからぬ今は直近の生存を重視、その上で無駄遣いはやめている。でもやっぱりポイントほしいなと昨日の機体組み替え後にミッションを探してみると、何人殺したという項目がある事に少し青ざめたりもした。
とりあえず今は銃を試射して正常に動作する事を確認し、距離、連射間隔、弾速を確認した。一応戦闘ではFCSによるロックオンで機体腕部を自動操作させて銃口を合わせる方式がメインだが、それを無視して自分の腕とリンクさせて動かせるようにもしてある。ここら辺は人型機体に乗る上で俺としては絶対必要なロマンだ。
また武装変更時に出る爆音エアー駆動にもちゃんと対策を施し、ポイントを使って排気部にサイレンサーをつけて音を小さくした。本来ゲームにない機能であるが付けれて良かった。その為かポイントが結構割高であったが。しかしうちのミミーズ達が爆音の度に耳を抑えるのがかわいそうなので仕方ないのである。
試射と武器変更の具合を確認し終えたので、銃のセーフティー替わりでスキャンモードに切り替える。こうすると動力が一部遮断されるため動力負荷が下がる代わりに銃が撃てなくなる。まあスマホのタスクキルみたいなものだ、これも一応ゲームの仕様ではあるが。そして彼女らの様子を見るとテトは腕の素振りを、メノウは立ったまま瞑想のような事をしていた。気合いが入っているなと思っていると、勝手に二人にスキャンが入る。
スキャン完了
テト 耐久値150(500) 斬撃攻撃力300
メノウ 耐久値80(200) 魔力250
おおすげえ、こんなの出るのか。でも括弧の数字ってなんなんだ。
とはいえヘルプもないので悩んでいると二人の準備も終わったのかこちらに乗り込んできた。テトが機体の首元を二回叩く。最近作ったルールで準備良しと教えてきたので、視点を三人称に切り替えて山へ向き直る。
「行くぞ。」
その声に二人がうなずくのが見えたので、ブーストを起動し、巡航状態へ移行。スキャンモードであれば省エネの為全速力でも息切れせずに飛び続けられる。しかし武装や腕部動力が切れているので戦闘が出来ない。なので不意打ちを警戒して索敵をしながら進む。
越える山は一帯で一番高い山なので、こちらの高度からでは山の稜線横をすり抜けるルートとなる。あくまで目的は山越えなのだ、戦闘は避けたい。麓付近に来たので投擲型の偵察機を射出する。すると反応有り。距離はあるが一匹のドラゴンが偵察機に掛かった。スキャンを開始し、データが出る。
グリーンドラゴン 耐久値1200(0) 基礎攻撃力500
危ない、色が緑のため見えていなかった。だがハイライトされている今は画面上で確認できる。
ドラゴンと聞いていたが、体躯からワイバーンのように見える。木々に隠れて岩肌に張り付いているようだ。相手は気づいているようだが、見極めているのかこちらを見てぴたりと止まっている。いきなり巣に飛び込んで撃つという行為に罪悪感が湧くが、ここを越える以上他に手は無い。距離がまだあるので真っすぐ進み、射程内。戦闘モードに切り替えて、ロック。
「撃つ!」
とりあえず右手のバズーカを撃つ。すると真っすぐ相手に飛んでいき、着弾。
HUDにはHITの文字。当たっている。敵は?白い煙で見えないが山風かすぐ晴れた。
「うわ。」
爆ぜて肉塊になっていた。あれ、雑魚くない?というか、そうなるとこちらに写るHUD、
機体耐久値35000
これも数値通りであると言うならば。それに確かこのバズーカ一発威力1500だった。となると、無双か?こういう所は正しく異世界転生なんだなあ。ちょっと調子に乗ろうとした瞬間にこの音で他が気づいたようで山からドラゴンが無数にはじけ飛ぶ。
数に驚くがそれでも装甲的に耐えれるな、とスキャンモードに切り替えて、改めて三人称視点でのテトとメノウが目に入る。まずい、彼女らは丸見えだ。そして失った場合、俺は言葉もわからず生活の術がわかっていないこの世界で一人だ。一気に青くなる思考の中でメノウが両手を挙げた。すると何か、光の膜のような物を甲板に出した。なんか見間違えかと思うが凝視するとスキャンが入る。
テト 耐久値150(650) 斬撃攻撃力150
メノウ 耐久値80(350) 魔力50
なんとなしに見て恐らくバリアだ。突入前の話し合いで大丈夫だと連呼していたのがこれか。たぶんなんか知らない単語を言っていたからバリアの言葉を古代語でしらなかったのだろう。だが、その耐久値もドラゴンの基礎攻撃力から考えると直撃したらメノウは一撃、テトでも二撃だ。無いよりかはマシ程度だろう。
目の前のドラゴンに視線を戻す。なるべく足を止めぬよう、飛び続けなければならない。マルチロックはゲームの仕様上現装備で出来ないし、マニュアル射撃をするにしてもそんな技量が俺に無い。火器操作をFCSにゆだねて戦闘モードへ、操縦桿の引き金を引き絞り撃ちまくる。話の通りドラゴンは機動力が低いようで撃てば当たる状態だった。パッと見で十二体ほど落としたが、急に横から赤いのが出てきて火を噴かれた。
「つかまれ!」
咄嗟の事に焦りブースターを吹かしすぎて動力が一時ダウン、まずい、巡航モードが切れた。もう一度巡航モードにするには機体を安定させないといけない。だがここは山間部上空、あるのは近くの大きな岩。
「くそ!」
とりあえず機体の脚で岩を蹴り飛ぶ。だがそれ以上は速度が出せず、更に複数体が追いつく。
「駄目だ!」
とりあえず進行方向に背を向けて撃ちまくる。その上でブーストを一時的に吹かして無理矢理速度を出すが、巡航状態よりも平均速度は遅いのか一体が肩にまとわりついた。
「まずい!」
終わったと思ったが、バリアが急にはがされて光る線がドラゴンを裂く。竜の叫びに機体越しの俺までビビるが咄嗟にFCSを切りマニュアル操作で腕を振るってドラゴンを銃で殴り落とし、落ちた所を何発か撃つ。その後にブースターを吹かしながら数匹落とすと、もう追ってこなかった。
見えなくなっても恐怖からか必死にブーストを吹かしていると、機体は徐々に高度を下げて草原に着陸する。念の為に銃を構えつつ索敵器を展開して敵反応を確認、荒い息と震える腕のまま敵が居なくなった事を確認し、機体の中からはい出る。
「大丈夫か!」
その問にテトは嘔吐で答えた。
「ご、ごめんなさい。あの、緩急ついた飛行に変わってからちょっと、きつくて。」
そう言って頑張っていたメノウも吐いた。
とりあえずと俺は格納庫を起動し中から水を取り出すが、その間に二人は転げ落ちるように甲板から降りた。追う様に俺も降りて水を渡すとテトは飲むより先に返り血の着いた腕を洗った。
「ドラゴンの血は毒になりますので、洗った後に回復をかけます。」
とりあえず状況はなんとかなったようだ。
危なかった、と同時にうまく突破が出来なかった事の罪悪感が湧き出て来る。
「すまない、こちらのミスだ。」
そういうとメノウが困りその様子を疑問に思ったのかテトがメノウに聞く。するとテトが吠えた。が何言ってるかがわからない。
「ナンデ!」
判ったのはその言葉だけだ。メノウが落ち着かせた後に、説明してくれた。
「このルートを取ると決めた以上、我々は貴方に命を預けると決めています。なのであなたの失敗も我々の物です。何より、こんな無理難題を突破してくれた上で頭を下げられるのも困ります。でもまあ、守られる側の心労をテトが理解するには良い機会かもしれませんね。」
そう言って彼女はまたこの国の言葉でテトに話しかける。するとテトはわかりやすくミミごとしょんぼりした。ありがたい言葉であるがそれに甘えていいものか迷いつつも目線を反らす。すると返り血とゲロが垂れる機体が目に入る。
洗いたいな。そうだ、まだ旅は終わっていないのだ。改めて彼女らを見直すと、テトが舌を出して変な顔をしている。さっき腕の所舌でなめてたけど間違ってドラゴンの血をなめただろそれ。メノウが水を持って大慌てで介抱している。
そう、危機が去ったとて終わっていないのだ、いろいろと。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます