1 補給

 流石に機体に乗ったまま町に突っ込んだらそのまま開戦だろう。


 なので飛行中に町が見えた時、降り立つ場所を考え始めているとテトが機体を叩いて下を指さしたので、その地点の平野にゆっくりと降り立った。そこから徒歩で歩く事にしたが思ったよりも遠い。空中だったから距離感が狂ったのだろうか。


 そう思っていたが二人にとってはちょうどよかったらしく平野にぽつぽつとある、恐らく農家の家を尋ねると大そうな歓迎を受けていた。メノウに外で待つように言われて門の横で立っていると、二人は何かマントと鞄のような物を背負って戻ってきた。一応男なので荷物を持つと言ったがやんわりと断られる。


 だが格納庫を使わずに背負って歩くには結構な距離だったので、ため息を一つ付きながら助かったかもしれないと思った。そして夕暮れ時にやっと城門の近くに着いた。そこでメノウに話しかけられる。


「ごめんなさい、これをつけてください。」


 そう言われ渡された物を見る。うーん、たぶん、ベルトだ。しかも短いの。手首には長すぎる、首輪じゃん。


「なにこれ。」


「すいません、詳しくは今は。お願いします。」


 その意味がいまいちわからないがとりあえずつける。するとなんか頭の中に嫌な感じがあったがすぐなくなった。なんだったんだろうあの感覚。


「では行きます。」


 そういうと二人はさっき受け取ったマントのフードをかぶり、城門へ行く。城門では二メートル近い大男二人が槍を持ち佇んでいた。二人がそれと話し、荷物から何か木の板を出している。しばらくすると二人はこちらを向いて手を小さく回すような動きをした。


 うん?とその行動の意味を理解してなかったが、回す速度が速くなっている事からこっちに来いの意味だと察して向かう。呆れる以外はジェスチャーが違うんだなと納得しつつ大男を見ると、ちょっと変わった形のネコミミがついてた。君もか。



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 町の中に入り、おお、と声を漏らす。


 前の町とはうって変わって、普通の耳をしたものは一人もおらず全員耳がでかかったり、翼まで生えてるものまでいた。すげえ、ほんと異世界だ。だが周囲を見ているとメノウに服を引っ張られ、口の前に人差し指を横にして、んー、と言われる。あー、静かにとかそんなっぽい。


 とりあえず彼女らの真似をして俺もフードをかぶったが、たぶんじろじろ見られていた。赤いジャケットは目立つよなあ。二人について行くと何かが書いてある看板の中に入り、店主らしき人と話をし、更には俺を紹介してた。とりあえず頭を下げておくが何を言っているかが一切わからん。


 そして案内されるままに狭い階段を登り、扉を開けるとベッドが二つある部屋があった。奥の扉を開けると、更にベッドが置いてある。1対2の部屋割りって感じだ。二人が店主に頭を下げてドアが閉められると、俺はドカっと近くの椅子に座った。


「まじでつかれた。」


 ああー、転生三日目にてやっと拠点確保だ。喜びたい所だが疲れで椅子に縫い付けられてる。

 二人を見ると少し話をした後にメノウが個室、テトが二人部屋に残った。男女別でなくそんな部屋割りなん?と思いつつも、テトはベッドに飛び込んでそのまま寝始めた。


 その早さにええと思ったが、俺も見習って椅子を引きはがしベッドに飛び込んだ。



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 次の日の食後、さすがに出歩く気力もない為三人で話をする。その為いろいろと聞く事が出来た。どうも二人、特にメノウの方はある組織から狙われており逃亡中の身であるそう。何したのと聞くが教えてくれなかった。


 その他言葉について聞いた所、古代語はかなり高い教養を持つものでないと基本話せないものらしく、一般での使用はほぼないが、なんとメノウは魔法による転送でここら辺一帯の言語を教えられるとの事。ここで俺は疲れが残りながらも滅茶苦茶ガッツポーズ。


 更に首輪の事も聞いてみるがどうもコレ、奴隷の証らしい。ええ、と思ったがどうも昔に獣人と人の間で戦争があったらしく、獣人の国では人が奴隷に、人の国では獣人が奴隷にされているそうで、それを解るようにしているルールがコレだそうだ。


 奴隷かよ、うええと思い首輪を取ろうとするがなんかうまく外れない。メノウが慌ててあなたは奴隷として扱わないと言い、下手にその首輪が無い方が獣人ともめると言われるが、それでもなんか嫌なので外そうとしてもなんかつるつる滑って取れない。


 するとテトがドレイハズセナイと言った。一拍置き意味を理解し、俺はあからさまに嫌な顔をメノウに向ける。するとメノウのキツネミミがしゅんとしている様を見て、ため息と共にとりあえず受け入れる事にした。


 午後にはメノウの魔法とやらで言語を教えてもらう事になった。なんというか彼女も悪い事をしたという思いはあるそうで懇願される形だった。やり方はされるがままに、目をつぶりながら二人で額を合わせる。結構いい匂い。そしてメノウが何か小さく呪文のような物をつぶやいてると意識が抜けて何か変な感覚が来た。と思ったら、まずいと思いメノウを突き飛ばして吐いた。


 が、床を汚したくないので頑張って口に収めて無理矢理飲み込んで咽た。その様子を横で見ていたメノウがこちらに語り掛ける。


「オヴァデュエユジリ、大丈夫ガユル。」


「何?」


 なんか中途半端に言葉がわかった。話を聞くと魔法に適正の無い者だと転送で拒否反応が出るらしいのでゆっくり分けてやるという話になった。なお気が付くとテトが居なかったがその日の夕方に食べ物買ってきていた。食事は肉ばかりだが申し訳程度にパンっぽい物もある。


 とりあえず食べてみると味はかなり薄味。ううーん、味気ない。もしかしてペットに塩分はあまり良くないって話があったが、彼女達にも多量の塩分は毒なのだろうか。


 ある程度食べてしばらくすると日が暮れてきた。するとメノウが変な木の棒を持ち、擦って火をつけて、滴型の花瓶みたいな物の先端に延びている紐に火をつけた。すると少し明るめな火が付く。


 そうか、蝋燭かこれ。全てが目新しい物の中、火を見つめているともう一度だけ言語転送をやらせてほしいとメノウは言う。


 嫌だが、結局やった。たぶん薄暗かったから嫌な顔は見られなかったと思う。もちろん秒で口は膨らんだ。



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メノウ

 まさかまだ生きる事が出来るとは。そしてまさかこんな強力な協力者と巡り合えるとは。


 この国だと顔が割れるからとミミナシの国へ行ったら逆に目立った上に懸賞金目的で捕まえられたのは盲点だった。今はもう信用できる者なんているのかと思うほどだ。今泊めてもらっている宿の主人に売られたら?通りすがりに見られたら?考えるだけで叫びそう。


 でもたぶん、叫んだら本当に居場所がばれて死ぬ。信用できるのは昔からの親友テトだけ。そして問題は助けてもらった彼。彼は目的も、素性も何もわからない。古代語を話す所から伝説の英雄に連なる者かとも思ったが、扱う力が記されていた内容とまるで違う。


 だがそれよりも何よりも彼が何者なのかを知らなければ。あの人が送ってきた刺客の可能性だって十分にある。なので奴隷の首輪に読心の術をつけた。簡易で荒いものだけれどそれでも彼は解らなかったから、たぶん彼は魔力がまるでないのだろう。


 そして心。子供の頃にふと何を考えているのかと心を読んだら、嫉妬と恨みに塗れていた事から私は他人が恐ろしくなってしまった。だがその考えはなんら間違っていない。その術で処刑を読み故郷から逃げる事が出来たのだから。さて今回のは簡易故に心を読み取るには儀式を用意する必要がある。彼は買い物に行ってもらった。位置もおよそ解るし問題は無い。


「なあメノウ、少し聞いていいか?」


 これからやろうと準備をしている所で急にテトに話しかけられて、思わずびっくりしてしまう。


「ええ、何?」


「古代語でちょっと聞きたい事があってな。」


 テトが古代語なんて珍しい。


「ええと、『カワイイ』と『キレイ』ってどういう意味なんだ?」


 なんか随分と変わった単語を聞くのね。


「え、ええ。『カワイイ』は可愛い、愛らしいとかで『キレイ』は綺麗、美しいなどで用いられるわ。」


 その事を伝えるとテトはわかりやすいほどに目と耳を大きくした後にそっぽを向いてしまった。


「そ、そうか、わかった。ありがとう。」


 彼女のわかりやすい所は私には美徳だ。彼女はそう言うとそそくさと部屋を出て行ってしまった。だがなんというか勉強で聞いたという感じではない事に少し疑問だけれど、今は読心を早くしよう。


 ちょうどいい人払いもできたし。この術を使っている時、テトは悲しそうな顔をするからあまり彼女の前で使いたく無い。支援者からもらった道具で陣を敷き、その前で意識を集中する。言語を教えた事で彼の波長も解っている。ここだ。



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「おおー、すげえ。」


 見知らぬ土地でお買い物。それもスマホも地図もない初めてのお使いである。


 宿でいつものジャケットは目立つからという事で上着を借りたが革製で重い。これより軽くて良い服は格納庫にあるにはあるが、いずれもこの世界と様式が違う為に大体目立つ。道に迷わぬようにとわかりやすい大通りを通っていくと商店街のような場所に出る。店も屋台も沢山だ。


 とはいえお金は限られているらしく、適当な買い食いとかは控えておこう。


「苦労しているんだろうなあ、あの二人。」


 正直、言葉を全て教えてもらえれば二人から離れて自活はできるのだろうが、教えてもらった恩は返したいし、二人とも美人だし。普通の耳の人間は今日改めて探すと見つける事ができたが、やはり少数の為目立つ前にすんなりと帰るべきであろう。


 しかし節約の為に値段調査で一通り見て周る。あの言語転送で数字が来てて助かった。今回は干し肉と果物とパン?だそう。干し肉は無駄に種類があって良くわからない。結構同じような物でも値段は違う。まあ、高いやつはいいやつなんだろう。


 果物は緑色の丸いやつとの事でイメージとしてはリンゴっぽい。とはいえ変な先入観で変な物買う事もあるだろうし、一応どんなもんか探してみるか。


 パンについては肉とは逆で形が違うだけで中身は一緒みたいな感じだった。たぶん肉食な彼らからするとそんな重要じゃないんだろうな。


 結局喰わないとわからないと言う事で、買う予定の物が全部揃っていてそれなりに安い店を見つけたのでそこで全部そろえてしまう。


 店員はもちろんでかいミミが生えてて不愛想だ。まあ俺奴隷だしね、少なくとも見た目は。そして頑張って指さしと数字と首の動きだけで物を購入すると、渡されたお金半分ほどで鞄がいっぱいになってしまった。


 鞄のサイズも小さくは無いが渡されたお金も結構多かったようだ。格納庫を使えばもっと買えるが、そんなの赤い服より目立つ。大人しくここは帰ろう、と思ったら道中に生肉を売っている店があった。


 値段もそんなに高くない。まあ干し肉だけというのも味気ないし、少し料理でもしてみるか。宿に火を借りれば焼く事ぐらいできるでしょう。


 肉と一緒に調味料も買う。が、彼女らそういえばキツネとネコ。香辛料の類は平気なのか?けどまあ、体毛や皮膚の感じはほぼほぼ人間だし、ある程度いけるのではないか。


 とりあえずあまり刺激が少ない感じのやつを買ってみる。なお味は予想である。米とかもあればいいんだが、今回は見つからなかった。とりあえず買ったパンっぽいのと一緒に食べよう。辛い旅路だ、せめて食事くらいおいしく食べれればよいのだが。


 宿へは迷う事なく、絡まれる事なく無事に戻れた。ふう、初めてのお使い成功である。宿に上着を返し、狭い階段を登る。登る最中にドアの開く音がする。見るとテトがこちらに向かって歩いてきた。


「おう。」


 一応声をかける。気づいたテトがこちらを見ると、なんか目を見開いた後にそっぽを向かれた。なんだ機嫌が悪いのかと、彼女を見つつすれ違うと腰辺りをバンバンと二回叩かれた。強めで。


「いった、何?」


 テトを見るとなんかぼそぼそっと言ったあと速足で階段を下りて行った。本当になんなんだろうか。ただ顔の血色は良かった気がする。不思議に思いながら部屋に入ると、今度はメノウが抱き着いてきた。


「え、何?」


「ごめんなさい、ごめんなさい。」


 なんか泣きながら謝られている。どうしようか迷ったが、とりあえず買った生肉を片手で抱えてそれっぽく抱きしめてみた。



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「すいません、すべてお話しします。」


 泣き止んだメノウはまだ鼻をすんすん言わせながら椅子の上で話す。とりあえず買ってきた物は机に置いておく。


「私はここから遠く離れた国の王の娘です。訳あって母国から追われています。」


 なにい?急な展開で割と驚いたが、あー、そっか転生ものだもんなとその方向から納得が容易だった。


「他国が攻めてきたとか?」


「いえ、母が私を処刑をしようとしてきたので親友のテトと共に逃げて参りました。」


「ああ、ごめん。」


「いえ…。」


 思った以上に話が重い。


「それじゃあ、安全な所へ行くって感じ?」


「いえ、これから母国へ戻ろうと思います。」


 ええ。


「いや、なんでまた。」


「女王である母は軍拡を進め他国へ攻め入ろうとしています。それを止めに行きます。」


 いや、難しいだろう。


「私とテトだけでは無理でしょう。ですがあのゴーレムがあればそれも覆せます。どうかお願いします。協力していただけませんか。」


 うわー。そう来たか。


「ちなみに断ったら?」


「私たちだけでも行きます。」


 あー、俺を始末するとかいう方向ではないのか。いやー、あー、クソ、無理だな見捨てるの。確実に後悔するし、何より見捨てる事を俺がしたくない。どのみち今は種族が違う地で言葉もわからんし。


「はあ、わかったよ。とはいえ出来る事しかしないからな。」


「ありがとうございます!」


 これ茨の道だよなあ。

 だがまあ転生で体が若返った今、ここで変に老獪な答えは出せそうにない。


「メノウ。」


 声に気が付き後ろを見るとテトが立っており、テトはメノウに何か話をしている。彼女の名前以外は相変わらず言葉が判らないがしゃべっているとメノウの耳が垂れてきた。顔つきからしてもしょんぼりといったところか。そして意を決したようにこちらに振り返る。


「あ、あの、ごめんなさい。あなたが何者なのかを見る為にその首輪で心を読ませていただきました。」


「え!」


 やべえ、何考えてたっけ、エロい事は考えてた時間あったっけか。


「ごめんなさい、追われる身故にあなたをそのまま信じる訳にはいかなかったのです。」


 よかった、そっち方面は平気っぽい。

 とはいえふざけんなと思えど、命を狙われてる身ではしょうがないのではとも思い始める。メノウは小走りで寄ってくる。


「ごめんなさい、直ぐ解呪します。ごめんなさい。」


 そういう彼女はひどく申し訳なさそうに、そして少し怯えながら謝る。

 俺はため息をした後にやっぱいい匂いするなと思いながら許す事を決めた。俺激チョロである。メノウは教わった言葉とは違う言語を小さく唱えると首輪から小さな衝撃が走る。同時に違和感は消えた。思わず首輪を触ってみるとちゃんと触れる。試しに取ってみると普通にとれた。


「あ、あの、一応町中ではそれをつけてくださいね、もめ事になるのは本当の事なので。」


 うーむと一悩みするが今日の所感からいくらか刺さる視線はあったので、おとなしく付け直す。何よりも失くしそうだ。新手のネクタイとして割り切るか、あれも社会の首輪みたいなもんだし。


「まあ、それじゃあ今後の話をする前に食事でもするか、お金が余って生の肉を買ってきたからちょっと台所借りて来る。」


「エ、エエ、ヤク?ナマガイイ。」


 え、とテトの声に驚くと同時に、


「そうですね、ちゃんと焼きましょう。」


 メノウが少し切れ気味でかぶせてきた。生好きすぎないかこの子。


 その日の夜は宿から台所を借りれたが、どうもコンロの火加減が薪の為アナログすぎるわ、フライパンっぽいのも借りたが取っ手まで鉄のフライパンのおかげで持つのに一苦労だわ、厚いヘラぐらいしか無い為ひっくり返す事が手間だった。


 一応そこそこうまく焼けて、買ってきた調味料も変わった臭いがするが悪くない。何よりパンと妙に合う。これも合うように作られているんだろうなあと、格納庫から取り出した箸と折りたたみナイフで食べる俺をガン見する二人。


 ああ、それも気になるよねと思いながらも、考えてみたらフォークの代わりに箸で押さえてナイフで切るのは生前でも普通じゃないか。しょうがないじゃんフォークが格納庫にないんだ、スプーンはあるけど。メノウは宿から借りた変わった形のトングとハサミ、テトは丸かじりだ。この肉ちょっと硬いけどよく食いちぎれるな。なおテトは焼いた肉を結構うまそうに食べる。なんというか生よりも食いつきがいい気もする。生食のこだわりはなんだったんだ。


 まあ異文化交流もいいものだと思い食べながら今後の話をしてみると、なんと明後日にこの宿から出て次の町へ行くと聞く。余裕が思ったよりもない。



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 メノウは宿の受付で何かを話した後お金を払い出てきた。


 言葉の中に知る単語の馬車があったので、そこについて話したようだが首を横に振っていたので断ったと言った所か。


「行きましょう、後でまたお願いします。」


 メノウはそう言って三人で宿を出た。俺も別れ際に頭を下げる。


 昨日の話では追手や賞金稼ぎに見つからぬよう、国境を反復しつつ地図でいう北へ向かうとのこと。なので今回は人の国へ行く。行先を聞くとレヴュゲと言うそう。言いにくい。城門から出てしばらく歩いた後に、道から逸れて草原の先を行く。そして、


「それでは、お願いします。」


「わかった。」


 俺は機体を展開する。が、思ったよりも距離を歩いたからか少し疲れてしまい展開が遅い。


 初日の一回は一瞬で出せたのだけども。展開速度は体調で差が出るのは確定だなこれは。ただ時間がかかるおかげでカシャカシャと少しづつ機体が出て来るのはかっこよく、コレはコレでと悦に浸っている間に全部出し終った。また、体の周りに展開させて最初から乗った状態で出すよりも、今回の様に体の外に降りた状態で出す方が負担が少ないようだ。


「良し、それでじゃあ乗って。」


 そういって俺は機体の腕を遠隔で動かしてコックピットに入る。テトは飛び乗り、メノウは機体を伝って増設甲板に乗る。


 さて行くか、と思うが方向が判らない。三人称を映すと二人で話あっている。しばらくするとテトが懲りずに頭に飛び乗り指を指す。方向からして街道と並行な模様。指示通りそのまま進むと街道に近づき始めたらしくテトが頭を叩くので何度か離れ直す。


 しかし清々しいほどの草原地帯である為に、意外と目印が無いここは変に方向がずれたりしないだろうか。そもそも目的地も彼女ら二人にまかせっきりであまりよく解っていない。なんか術はないかと宿の中でとったオートパイロットを起動して、機体システムを確認する。


 いくつか調べるとコンパスと三次元マップが出た。更にいろいろ調べると高度補正、射撃偏差の値がいじれるようだ。ゲーム本家以上のセッティング項目にすげえと思ったが移動中にこれをいじると怖い事になりそうなのでそのまま閉じる。


 念のため速度を下げて進みつつマップを改めて見るが進む方向がそもそも真っ黒。行った場所は三次元マップが出てるので帰りは楽だが新天地には役に立たなそうだ。というかコンパスもこの世界だと正しく動くのだろうか。一抹の不安を抱えながらシステムを閉じて速度を上げる。


 しばらくしてテトがまた機体の頭を叩き、街道とは全く別の方向を指示した。草原しかない為目印になる物が無いこの場所を進むのは不安が募るが、指さす角度から遠くに見える高い山が恐らく目標なのだろう。


 道以上に自身の判断に迷いつつも、前に進んだ。

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