おもむき装甲転生 趣味を重視した為にいまいち無双しきれない異世界冒険
中立武〇
開始
「あなたは、死にました。」
気が付くと白く輝く場所で綺麗な女性が椅子の上に佇んでいた。体の不快感は一切ない。手の甲を見ると皺もない。若返っているようだ。
「ここは…?」
目の前の女性に問いかける。
「私は転生の女神。あなたは転生の機会を得たのです。」
「そうですか…。」
流行りのやつか。まさか本当にあるとは。
「では、希望を聞きましょう。」
「いえ結構です。今までの人生で満足しているので。」
「えっ。」
そこで会話が途切れてしまった。女神様とやらはえらく狼狽えてる。
「いや、嫌いです?転生。無双とか好きじゃないですか?」
「いやまあ好きではあるしやりたいのもあるんですけど、大体やりたい事って思ったよりも少ないんですよね。なんか昔会社辞めて無職で好きな事やるぞって気合い入れても、思いの他すぐやりたい事やりつくしちゃって手持無沙汰になるのと同じ感じがして。目標でもあれば別なんでしょうが。」
目の前の女神様は焦りながら光る画面を空中に出して指を動かして何か探している。服装はファンタジー感すごいけどやってる事は結構SF。
「あの、でも後悔とかやりたかった事とかは!」
「すべてをやり切る事はできませんからね、ある程度は踏ん切りをつけないと。そして、その上で私は満足しています。」
女神さまはなんか手をパタパタとさせた後に、
「おねがいじまずぅ!てんぜいじてくだざいー!」
泣き出してしまった。今度はこっちが手をパタパタさせた後に近寄って落ちつかせるために背中をさする。なんでも彼女は新人さんで今回が初仕事だという。それで詳しくは話せないが俺を転生させないといけないらしいのだ。なんでだ。
「だからおねがいじまず…。」
「うーん。」
そうはいっても。腹が減ってない時にどんな物でもごちそうしてやるから食いたいもん言え、みたいな話でスッと出ないもんだ。
「なんがないですか。こう、やり残したものとか。」
「ううーん。」
あると言えばあるがそうなると数が多いし、それでも興味あるかなぐらいのもんだし…。
「世界観とかも選べますよ!好きなゲームとかなかったんですか!」
ああ、歳とったらゲームもやるのが固まってきてしまってたな。そういえばあのゲームの新作が…。
「あ。」
「あ?」
「あ、」
「あ。」
「あったぞおおおおお!」
「んひっ。」
そうだあのゲームいい加減続編出ねえなと思ったら、やっと出る話が来た所で死んじまったじゃねえか!くっそあれだきゃやりたかった!
「ちなみに生き返るのは無理ですか!」
「む、無理ですぅ…。」
「がああ!」
というかそう考え出すと他にも好きだったゲームで続編無しで終わりとか結構あるんだよな。あああ、思い出すと悔いが出てくる!改めて女神さまに振り向くとビビリながら手をパタパタさせてた。
「ならば俺の好きなゲームのやつで転生頼みます!」
「わ、わかましたぁ!ええっと、あれでもこんな厳しい世界でいいんですか?」
思考を読めるのかタイトルを光る画面に出してきた。こういうのはきっちりすごいんだな。
「あ、そっかあれポストアポカリプスか。世界観はファンタジー好きなんでそっちベースで能力だけこれでお願いします!」
「あ、はい、わかりました!ありがとうございます!じゃ、じゃあ先輩のこの世界で、ええと、もし今ならサービスでいろいろ能力を追加でつけれますよ!」
「ありがとうございます!じゃあ後、やっぱり言葉で言うの難しいんでこんな感じの修正と拡張をお願いします!あと、別のゲームも追加できる感じで!」
「はーい、ありがとうございます!」
平気で頭の中読んで対応してくれてるけどありがたいなコレ。
「セットアップおっけーです!それじゃあ準備いいですか!」
「オッケーです!そんじゃお願いします!」
「転生開始!」
こうして俺は光に消えていった。
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「はあー、よかった~。」
初仕事失敗しなくてよかった~。ちょっとサービスしちゃったけど大丈夫だよね?
「あら、終わった?」
「先輩!はい、終わりました!」
「ふふ、元気ね。じゃあちょっと内容見せてくれる?」
「はい!こちらです!」
「ええと、あら、この世界にしたの、ここかなり厳しい世界よ?能力的にも無敵みたいなものじゃないし、転生後もちゃんとサポートしないとまずいわね。ちゃんと辿れるように紐づけはした?」
「え?ヒモ?」
「え?」
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「ここは…。」
木漏れ日が顔に掛かり目が覚める。青臭い草の匂い。起き上がって辺りを見る。森だ。
「いったいここはどこだろう。」
服装を見ると昔旅行をしていた時の物だった。旅慣れてるやつは大体この防水透湿ジャケットに落ち着くと思っている。遭難対策なのか赤なのが目立つが、まあ少し動いてみるか。
「どこなんだよ!」
そんな新鮮さは大体一時間前だ。まるでよくわからない森をずっと歩いている。途中で獣道を見つけてから少し歩きやすくなったが、まじでここどこだ。
「あ!そうだ。」
能力をもらっていた事を思い出す。
女神様にお願いしたのは昔好きだったゲームの内容を能力として落とし込んだ物だ。ベースにしたのは一番好きだったシリーズの最新作(数年前)で、人型兵器を組み立てて戦い依頼をこなすという物である。
それを能力として使いやすく変換してもらい、サービスという事である程度好き勝手に改造できるような機能拡張も依頼した。更に他作品のタイトルもお願いしたが、これらは直ぐには使えず条件を満たすと使用可能という設定である。曰く、その方が最終的にお得で使える能力が多くなるそうだ。という事でとりあえず機体を出す!
「…うん?」
どうやって出すんだこれ。
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「うおおお、なんとか森抜けれた…。」
何度か粘ってみたが結局機体は出せなかった。
出し方もよくわかっていないが、もしかすると周りが森なので出したら木とかが干渉して機体が出せないのかもしれない。そう思い直したのが二時間前で今は日が暮れてきてる。
旅してた恰好そのままで腕時計までついているので、ちょいちょい時間を見つつ進んだが、昼三時ぐらいで日が暮れ始めてんぞ。
そもそもここ一日が二十四時間なのか?夕暮れの風の中、文字通り宛もなく草原を進むと人が行進して歩いていた。
街道だ!道があるってことは町もあるだろたぶん!そして俺は何も知らない土地でたった一人である手前、人恋しかった。
「おおーい!」
声をかけるが聞こえてない。しょうがない、走って近づいて話をしよう、と思ったけれど。
「うっ。」
見つけたその一団は槍とか持って鎧とかを着ている人達が何かを引きつれるように練り歩いているようだ。なんだ、これちょっと話しかけるの怖いな。もうちょいよく見えないか。そう思うと何か少し変わった感覚があった。
あ、これあれだ、能力だ。はっと頭に力を入れると頭上に機体の頭だけ生えた。
「ええ…。」
シュールだがそれは俺の眼とリンクしている。
ズームと光補正をかける。連れられているのは女、しかもネコミミビキニで色黒気味だがめっちゃ美人だ。
そういうの大好きだよ最高じゃねえかと思いたいのだができなかった。だって顔や体に土汚れや痣がついてて表情が絶望してるから。
「ううううーん…。」
美人だし助ける、か?だがあれは罪人なのかもしれない。周りの兵士は柄が悪い者が多く見えるが真面目に就いている者もいる。とりあえずここは見なかった事に、と思うが。
見捨てた場合の彼女の扱いは明るいものではないだろう。そして見てしまった今、見捨てる選択は必ず後悔する。
そして助けて何か悔いが残ったとしても、行動をした方が後悔の量は少ないとも言う。後悔する為にわざわざ転生したのか?それは馬鹿だろう。
どのみち一度転生を断れる程度には生きたのだ。まずは話を聞いてみるか。ここで助けた彼女に殺されるような、そんな死に方になるとしても。
「やるか。」
あの時はああするしかなかったと言い続けるのは嫌なんだ。自分の答えは解っているのに。そう決めた瞬間にまた変な感覚が来た。これで全部出せるっぽい。距離もあるし向こうは気づいてない。それじゃあ。
「行くぞ!」
そういうと体が浮き上がり機械の胸部装甲、腕と脚が生える。目の前の画面には俺の機体の背中が見える。こだわりの三人称視点だ。他のオブジェクトへの引っかかりが一人称より少なく便利。
言ってみれば車のバックモニターの全身版だもの。それにちゃんと一人称と切り替え可能だ。操作はゲームのコントローラじゃ恰好悪いので体とリンクしている感じの操縦桿にしてある。それでは、
「ブースト!」
浮遊感は無いが画面にブーストの文字。システムをスキャンモードに、対象にピンを打って距離を見る。目標二百メートル!そして機体が出たもんだからノリノリで突っ込んでいるが、画面を見ると武器を持っていない!
一瞬焦るが、いきなり人を殺したくはないし、今回はある意味ちょうどいいか。そして土を引きずりながら進む音で向こうが気づいた!
動き回る人を見るも、遠近感もあいまって人と機体のサイズ差がいまいちわからない。やべえ、ひき殺すって事も十分ありえるな。
速度を落とす、ブーストを切ると土を抉り立ててブレーキ!兵士たちはビビッて散っていく。機体を歩かせながら一人称に視点を切り替えて女性を見ると、こちらを絶望と困惑の顔で見上げていた。
「助けるぞ!」
そう言って機体の手で彼女を抱え、再度ブーストを吹かす。勇敢にも向かってきた兵士が風圧で吹き飛んだが死にはしないはず、まあたぶん大丈夫だろう。
手の中の女性は抵抗もせずにおとなしい。急いで場所を離れてまた来た方の森の中に突っ込む。木々が変に引っかかってゲームみたいにはいかず体勢が崩れそうなのである程度森の奥まで入ったら、ブースターを切って止まる。
そしてゆっくりと彼女を下ろし、俺自身も機体から降りて手かせをほどく。
「大丈夫か!」
「*******。」
「うん?」
「#$##$***#”」
なんだこれ、言葉がまじでわからん!
「は、はろー?」
「&?」
向こうも何言ってんだって顔してる!言語系は転生もので標準搭載じゃないのかよ!
ああ、女神さま新人だからってそういう?
「ええーと、ほら言葉とか!なんかこう、だいじょうぶ?」
「asdhurfnla。」
ああー、なんかさっきより聞ける言葉になったけど意味はまるでわからん。
「くっそ、どうすりゃいいんだ。」
「ゴダイゴ?」
え?何ゴダイゴ?あんまり詳しくないし一応名前は知ってるにしても。
「ゴダイゴってなんなん。」
「ゴダイゴ、ワカル?」
!これ言葉か!ゴダイゴ、まさか古代語とかそんなんか!
「わかる!それわかる!」
「ワレ、チイサク、ワカル。」
かなり怪しいがなんとか意思疎通できた!女神様は先輩が、とかいってたから昔ここに日本人きたのか、助かった!
そうすると目の前のネコミミは手を握ってきた。
「タスケテ!」
「お、おう助けたぞ!」
「タスケテ!」
なに、なんか訴えようとしてる?
「トモダチ、タスケテ!」
あ、理解した、助けてほしい人が居るのか、ううむ、それ以前に俺は現状を確認したいんだが。
「トモダチ、シヌ、トモダチ、ゴダイゴ、ウマイ!」
う、利点がある。古代語ならばそう一般人がしゃべるものではないと予想すると、助ける意味はある。
だがそれ以上に暗さに目が慣れてきた今、彼女の胸の谷間に目が行った。そして見てるのを気が付かれた。
「あ、いや。」
そう言うと少し彼女は悩んだ挙句、俺の手を放し自ら胸を出した。
「え、いやその!」
そう言ってちょっと目を反らして彼女の顔を見る。その眼は決意に満ちていた。
そうか、今の彼女には彼女自身以外何もない。頼む上で、その交渉が出来るのであれば体を差し出してでもという事か。じっと俺が彼女を見ていると流石に恥ずかしくなったのか目を背けた。
ここまで来たら俺はその友達も助けるつもりではあった。俺が本来やるべき事は彼女に紳士的に服を着せるべきなのだろうけども、後悔なく生きようという気持ちを思い出し彼女の両肩を引き寄せた。
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次の日の朝、また草の青臭さに包まれ目を覚ます。辺りを見回すと俺の機体と森以外何もなかった。
あれは夢だったのだろうか。起き上がり機体の後ろを見ると木々がなぎ倒されている。ここに入る時引っかかった時の物だ。たぶん夢ではない。
だが彼女は、と見回すと見つからない。仕方なしに立ち上がると背中からドサッという音がする。
「タベモノ。」
鳥の喰いかけが地面にあった。木の上を見ると彼女の顔には血が少しついている。
「タベル。」
ええ、生でいくのぉ?きょろきょろ見回すが彼女はじっと見つめて来る。いや、寄生虫とかそこらへんどうなの。迷った挙句目に入った俺の機体、のブースター。
俺の機体はずんぐりむっくりな形状のため、ブースターが割と低い位置にある。一応遠隔でも思念で動かせられるか試すと、簡単な操作ならできる模様。
羽とかを雑に毟って木の枝に突き刺してブースターを起動、焼いてみる。火に突っ込んでそこそこ焼けたのでかじりつく。
半生。
味もねえ上に危ない食感にもう少し焼こうとすると、解りやすくため息をつきながら手の平を上に挙げているネコミミ。
言葉違うのに呆れるジェスチャー共通かよぉ。ちょっとだけ追加であぶって再度食ったが、上手く焼けないのでやめておいた。残りはネコミミが食べた。
「イク!」
その声に頷いて口を拭い機体に乗り込もうとするが、ふと考える。
「戦う?」
転生以降片言言葉しか会話が無いので移った感があるが、逆にこの方が通じたようで無言で頷く彼女。少し考えて機体に乗り込む、改造しよう。
ええと、昨日の感覚を思い出して、これか、格納庫と組み立てを起動。とりあえず彼女を機体に載せれるようにしよう。
胸部パーツの後ろ辺りに追加装甲として甲板と手すりを増設。本来の組み立て機能にないものであるが割と思った通りの物ができた。
次に火器は目についた銃をそれぞれ左右一丁づつ。久しぶりでうろ覚えの為、どんな武器か忘れてしまっているが。
だが友達を持っていくなら手を開ける必要を思い出し、選んだ装備を外して肩部回転式ハンガーに移動させ、一応捕まっていた時の作業用にレーザーブレード、そして左を素手の状態にする。
あ、でも、レーザーだと余波で友達焼いてしまうかもしれん。やっぱ両腕素手で銃だけマウントしておこうかな。
そんな感じで優柔不断を発揮していると彼女が尻尾をふりふりして空と昨日来た方向を繰り返し見ていた。それに気づいて作業を切り上げようと思った途端に彼女は飛ぶように駆け出した。
え?と呆気に取られていると、まさか時間がヤバいのかと理解し、急いで組み立てを閉じて彼女の行った方向に向けてブーストを吹かす。初期設定の三人称視点だともう見えないぐらいの距離に居たので身体能力の違いを今知る。
「すげえなあの人。」
だが平地についた途端に彼女の速度が落ちた様で、追いついた俺は一人称視点に切り替えて並走し、彼女を手で拾う。
そして視点を三人称に戻して背中の甲板に移す。やっぱこの視点は機体周りを見れて便利だわ。
だが彼女は甲板ではなく機体の頭の上によじ登って指をさしている。そこ危ねえぞと言いたいが気持ちは解る。
機体負荷の低いスキャンモードに切り替えて走り続けると彼女が機体頭部を叩いた。叩いた音は聞こえないが触覚オンの為にへんな感覚がある。
ブースターを止めて指さす方を見る。何やら人だかりがあるが良く見えないので一人称に切り替えてズームをかける。
ピントが合うと現状が良く分かった。
人だかりの先に、上を向いた矢印の形をした板に、でかめのネコミミをつけている女性が磔にされている。横には槍持った人と、下には薪の山。あれはやべえ、処刑直前じゃん!
たぶん救出対象はあの磔の子だろう、なぜならほかの人は全員普通の耳だからだ。
「行くぞ!」
そういって焦った俺は視点を戻してブースターを最大出力へ。すると頭に乗っていた彼女が転げ落ちて甲板の手すりに引っかかった。ごめん。
まずは人だかりを何とかしよう。切り替えを実行し、ゲームのプリセットによる武器切り替え動作に移行。右手にあるレーザーブレードをハンガーにかけると爆発音の様な駆動音と共にハンガーが回転し、肩の武器が手元に来る。
合理性は低いし切り替え速度も遅いが、たまらねえぜこの感覚!なお爆発音で甲板に転がったネコミミはびっくりして耳を手で押えてた。更にごめん。
音と動作的にエアー駆動っぽいから排気部にサイレンサーかなんかつけれないかな。切り替えた武器はいわゆるバズーカだった。そしてたぶん人ごみに打ち込んだら大量殺戮待ったなし。だけどこのまま突っ込んでも何人かひき殺してしまう。
なので地面辺りを狙って打ち込む!戦闘モード起動!
ガヒョウ!バガン!
発射音は思いのほか大きくはなかったが、着弾地点の地面はでかく爆ぜて処刑場近くに土砂が降り注ぐ。よかった、打ち込んだらコレ磔の子まで吹き飛ぶかもしれん。
だがこの一発で向こうは阿鼻叫喚。
そりゃあそうだろうなあ。視線が集まった辺りで人の居ない所にもう一発打ち込むとさすがに磔の子以外は全員逃げた。
というか磔の子も半泣きで必死に逃げようともがいていた。そりゃそうだよね、貴方にもごめん。
一人称視点に切り替えて彼女の手前でブースターを切り止まる。そして彼女を目の前にしてどうやって解放するかで手が止まる。
さっきの射撃からして威力がでかいのでブレードを使うとこの子ごと焼いてしまうかもしれん。なので片手で磔を引っこ抜くとして持ち手に悩んでいると背中に居た彼女が跳んで磔の近くに降りる。
え?と思ってると彼女の腕の少し横に光の線が浮かぶ。何あれと思ってると彼女が腕を振った。すると磔の根元が切断される。何その能力。更に力も強くその磔を女性ごと肩で抱えてこちらに歩いてきた。
驚きつつも空いてる機体の手を差し出すと彼女は磔を手に置いたのでゆっくりと握る。改めて人を握る事でいろいろ気が付き、潰したりしないよね?とビビリながら優しく抱えると、ネコミミは背中に飛び乗った。
旋回して衝撃がこないよう念の為ゆっくりブースターの開度を上げる。少し戻ってきていた人々は再び蜘蛛の子を散らすように逃げていく。悠々と脱出して走りながら一息つく。
とりあえずこれでファーストミッションは成功か。原作と違って壊せばいいってもんじゃないのが気を遣う。
逃げる先もわからないので来た道を戻って昨日の場所を目指す。帰りでは緊張からの疲れでオートパイロットとかあったらほしいなと思いつつ進む。
疲れた。だが目標は達成した。
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行く宛も無い為に昨日の場所に戻りゆっくりと機体の手を開く。改めて見るとなんというか、磔にされてた子は少し服装が和風テイスト入っており、耳は気持ち大きく尻尾が太目。キツネかコレ?
縄で手足が巻かれているので解こうと磔を傾けた状態で降ろして機体の腕を固定する。するとネコミミの方がまた降りてきて光りを浮かび上がらせて腕を振るう。
粉々になる磔。
うおー、昨日やった身だけどこええー。二人は何か話しているが言葉は理解できない。一応降りて顔を見せるか。機体頭部をスライドさせて這い上がり彼女へと向かう。
「こんにちは。」
たぶん古代語上手いとの事だから通じる、よな?
「*******!」
ネコミミの方が話してくれているが聞き取れない。あのまるで聞き取れない方が第一言語か…。
「ア、ウェア、こんにちは?」
うおおおおお!発音までしっかり!超流暢!これでいろいろ聞ける!
「あの、ええと!大丈夫ですか!」
「あ、あの、はい。」
喰い気味で言い寄った為にネコミミの方に睨まれる。ああ、すまない。まずは自己紹介からか。とりあえず自分の名を名乗ると、キツネの方が微笑んでくれた。
「私はメノウと申します。」
おおー、メノウさんかあ。しゃべれるついでに昨日助けた方の子の名前も聞く。
「彼女の名前はテトです。」
英語の教科書みたいな紹介を聞く事になるのか異世界。というか名前かわいいな。
「テト、ヨロシク。」
そういうとテトは少し照れて、顔を背けた。一息つくといろいろと聞きたい事が出て来るが、一気に来すぎて喉で突っかかる。
するとメノウのお腹が鳴る。たぶんしばらく食べて無いのだろう。テトを見ると少し頷いて木々に飛んだ。忍者かよ。
とりあえず彼女を木の根に座らせる。ふと腕時計を見るとおよそ一四時。そして時間ではなく腕時計自体を見て考える。
腕時計があるし、服装は旅してた時の服。なら、まさかと思うが他の物もあるのか?格納庫を起動して少し探ってみる。
このゲームはカスタムの自由度が売りだがその分沢山のパーツが格納庫に保管される。そしてこの機能って転生物のアイテムボックス的にも使えないかとちょっと思っていた。
そう思いつつ脳内で探してみるが集中力が切れ気味だ。思考だけだとなんかうまくいかないな、そう思うと格納庫画面が半透明で目の前に浮かんで出た。
俺はびっくり、メノウもびっくり。これ他人にも見えてるのね。画面を触ってみるとちょっと抵抗のあるフィルムのような押し感があり、操作はスマホ的。
はえーと感心しつつ、女神さまのやってたやつの流用なんだろなあと納得し指をなぞる。すると組み立ての外の画面に雑品という欄があった。
そこにアクセスするとなんかいろいろ入ってる。見るとテントと食料ボックスという文字が。
あ!と声を出すとまたメノウがびっくりする。たぶん体が弱っている時に、知り合いは席を外して見知らぬ男は訳わからん事してるから怖いんだろうなと思い、安心させるためにも急いでそれらを選択する。
食糧ボックスはそこから更にパソコンのフォルダのように枝分かれしており、その中に乾パンがあったので選択。が、何も起きない。
ふと右上を見ると取り出すの文字が出ていた。わかりづれぇ!でもこれ複数選択可能、というかネット通販のカートみたいな感じなので画面を戻ってテントも選択し、おまけに寝袋も選択。ざっと目に入った感じからして生前旅してた時の装備がそのままあった。
というか木刀とかカメラとか、なんか生前に思い入れのあるものが入っているようだ。時間が出来たら見てみよう。取り出すを押すと文字がグレーアウト。うん?と思うと画面とは別に右側に黒い穴が生えた。やっぱり驚く俺とメノウ。
とりあえず手を突っ込んでみると手に当たるものがあったので取り出してみる。懐かしのテントと寝袋(冬用)!あとよくある乾パンが出てきた。でも乾パンはあんまり思い入れがないと思うけどなんでだろうな。
ものを取り出してメノウを見ると完全に怯えていた。まあ巨大ロボから降りた男が空中から物を取り出すというか生成してるんだから絵面がやばいな。とりあえず安心させるために乾パンを開けて二つ取る。一個を自分が咥え、もう一つを渡す。
「どうぞ。」
そう言ってまず食べてみる。普通に知ってる味でおいしい。というか、異空間から出てきたコレはほんとに食える確証があるのか確認すべきだったと思いながらも、不意に来た生前の味にちょっと感動する。
メノウも小さな乾パンを両手で持ち、一齧り。もぐもぐと動く口と共に目が輝き、キツネミミがピンと立ってきた。わかりやすくてかわいい。
乾パンの缶を彼女の近くに置き、二、三個つまんでテントを立てる。人生の後半はテントなんてめっきり使わなかったが、まじ懐かしいなあこれ。
とりあえず弱ってる時は温めて休むのが一番だろう。テントを広げると草の間に意外と折れた枝もあるなと気が付いて、さっきの手順でグランドシートと折りたたみマットレスも引っ張り出しとく。
状態はタグとかはついていないが恐らく全て新品だ。テントは長い付き合いになるだろうし丁寧に使おう。
グランドシートを広げて立てたテントをその上に置き、杭を打って中にマットと寝袋を広げる。メノウの方へ戻ると乾パンの缶半分ほど食べていた。
よほどお腹がすいてたのだろう。水なしでよく食べれるなあと思ったと同時にのどの渇きを自覚する。一応格納庫を見るとやはり水もある。が、
水2リットルペットボトル×1
コーラ1.5リットルペットボトル×1
コーラあんのか。だが雑品を見るに種類は沢山あるが、すべて一つである事が見て取れた。とはいえ今出し惜しみはやめようと両方取り出す。
二人はコーラが飲めるか不安なので水を。とりあえず蓋を開けて、と思ったが水の回し飲みは先の生活が分からない今はあまり良くないと思いコップを出そうとする。が、無い。
確かに思い入れのあるコップは無いなと思い、ならばとコッヘルを取り出して大きい方に水を入れてメノウに渡す。すると喰らいつくように水を飲み、喉を鳴らして飲む途中で急に咽た。それを見て不憫に思いながらも背中をさする。
俺は小さい方にコーラを入れて、いつもの味にまたも小さな感動を覚えつつ、飲んだ後にもういくつか乾パンを食べた。
彼女をテントに案内しようと改めて見ると土や煤が衣服についている。このまま彼女を入れると寝袋が汚れるが、この際仕方ない。と思ったがまさかと思い格納庫を再度見るとちゃんと寝袋インナーまで入っていた。
これは旅先で作ってもらった一点ものである。窮屈になるがこの際仕方ないか。そいつを広げて寝袋の中にセットする。
「ここにくるまって寝てください。あったかいですよ。」
若干の戸惑いが残る表情のメノウが小さく頭を下げテントに入ろうとした時、大きく木が揺れた。
「メノウ!」
テトがまた鳥を捕ってきた。なんでこいつは半分ぐらい食ってから渡すんだ。
でもそうか、ケモ耳族(仮)は、やはり肉とか生で喰うもんなんだろう、キツネもそうだし。とメノウを見るとすごい嫌そうな顔してた。
そのまま喰うのお前だけなんじゃないのか?そしてテトとメノウが少し話した後に、残念そうにテトは鳥を全部食った。
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一晩明けて目が覚める。
あの後は結局テントに三人で寝るのは狭いので改めて雑品を見ると歴代の野宿セットが入っていた。とりあえず寝袋は夏用秋用と後二つあったので一つをテトに渡すとこちらに戻して首を振り、また木の上に飛んだ。
メノウがいるテントに入るのもまずいと思い、昔使い込んだ方のテントを引っ張り出して空気式のマットレスを使いそちらで寝た。
膨らませている最中に男の俺が見回りをするべきかと思ったが、明らかに手慣れた上で既に見つからないテトに任せる事にした。
だがそれでも二日野宿でさすがに疲労と眠気を自覚する朝だった。テトは元気いっぱい、そしてメノウも大分血色がよくなった。
「おはよう。」
「アー、オハヨウ!」
「おはようございます。」
やはりメノウは言葉が流暢だ。いろいろ聞かせてもらおう。だがいざ聞こうとすると質問が出ない。何から聞くべきか、この考えがまとまらないのは疲労が原因だろうか。出来ればちゃんとした場所で拠点を作るべきか。
「ええと、出来れば町で休みたいのですが、近くに町はありますか?」
「え、あ、はい。ですが…。」
「あーそうか。」
最寄りの町は昨日の処刑場がある所だろうな。
「そうですね、安全な町はありますか?」
「ええと、すいません、わかりません。」
それもそうか、そもそも地図なしで闇雲に森へ飛び込んだ時点でこの場所がどこかも解らないか。
「アレ!」
テトが森の奥を指をさしている。
「カヴィエ、そうです、あちらに、四日ほど歩けば安全になります。」
かヴぃえってなんだ、たぶん相槌に近かったけど。四日歩くってのはかなりきつい、が、今なら。
「じゃあ、片付けた後に案内をお願いします。」
そういって機体をノックする。すると暗かったメノウの顔がパッと明るくなった。こいつの機動力であれば一日とかからないだろう。
というかこいつってのもあれだな、今度名前つけるか。希望が見えたのかメノウは積極的に片付けに協力してくれた。格納庫へ収納の際は改めてビビッていたが。
また昨日の残りの乾パンを皆で分け合うと底の方に飴が入っていたので皆に渡すと甘いのが珍しいのか驚きつつ食べてくれた。片付けが終わり機体に乗り込んで機体の背中に二人を乗せる。
前回テトが吹っ飛びかけたので昨日の夜に甲板の手すりを増築したが、疲労からか変な位置に手すりがついてしまった。
リセットできたので助かったが、どうもここら辺は集中力がいる作業のようで色々できる分結構デリケートだ。
下手すると部品が関節に干渉するかもしれないので改造は最低限にした。三人称視点で二人の搭乗を確認しブースト移動をしようとするが、木々に引っかかる等で急に止まったら甲板の二人は放り出されてしまう。
んじゃあロボらしく空を飛んでと行きたいが、この機体、ゲームの仕様通り垂直上昇が出来ない。
平地では脚で跳ねる(脚部次第だが今は機体一台分)しかないという不便さなのだ。思えばこの機体、というかゲームチョイスは趣味に振り過ぎであった。
一応機体を安定させた後に巡航状態に移行すれば高度を下げずに飛び続けられるのだ。そうすれば木々の上を飛ぶ事はできる。となると高い所へ行く必要がある。
「すいません、少し高い場所を探します。」
機体に乗り込んだ後に気づいたもんだから二人に語り掛ける。が、ノーリアクション。ここで初めて声が届いてない事を知る。なんか設定あるだろ、マイクか。感度を上げると二人の会話が良く聞こえた。そうかスピーカーの方か。
「もしもし?」
二人の耳がぴくっと高く上がった。たぶんオッケーだ。
「空を飛ぶために高い所へ行かないといけません。少し探します。」
そう言うと二人は話をし、二人で斜め後ろに指をさした。
「ありがとうございます。」
まさかのちょっとした登山が始まったが一時間半程度で良い位置につけた。
飛ぶことを二人に語り掛けて、方向をまたテトに指さしてもらい、その方向に向けて巡航状態に移行。三人称視点のため相変わらず二人が良く見える。テトははしゃいで、メノウは楽しさと怖さ半々といった感じだ。
そして眼下一面に広がる森の上を飛ぶ今この時は、転生して良かったと強く思う体験だ。
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