第13話 痛み

「ホシミー、どうやらブクロ君は人から犬になったようだね」


小生は言葉が出てこなかった。こんな広大な沖縄本土を作った人間が、犬になってしまった?なぜだ?決まっている、そう望んだからだ。ではなぜ「犬になりたい」とブクロ氏は望んだのか?そもそもそんな人間だった?そうゆう性癖があるとどこかで聞いたことはある。犬になりたいという願望を持つ人間もいる。それは理解できるが、その屈曲した願望を持つ人間とブクロ氏とが結びつかない。犬になりたいと望む人間はいるが、ブクロ氏はそんな人間ではない。


「じゃあわかるだろ!」と小生の中の小生が騒ぎ出す。


「犬になりたくてなったんじゃない」「そうだ!」「仕方なく犬になった?」「ったりまえだ!」「どうしてだ?」「知るか!やむを得ない事情ってやつだろ!」「なにかがブクロ氏に起こってやむを得ない事情で犬にならざるを得なかった?」「それが答えだ!」「いや、何かが足りない」「だな、足りねえな」「沖縄本土を創造し、グラに出会い、そして犬になって巨悪に指輪を渡した漢」「それがブクロ氏だ!最高にメンド臭い人間だ!」「なにかが、わかる気がする」「きっと答えにもう辿り着けるぞ!」


「星見君」


と呼ばれて顔を上げた。巨悪がそこにいた。


「皆寝ちゃったよ」


「そうか」


「わたしたちも寝よ」


「うむ、ところで巨悪よ、ブクロ氏の求愛はずっとあったのか?」


「気づいてなかった?わたし何度も断ったけど、彼あきらめないからちょっとしつこかった・・」


「本当に愛していたのだな」


「そうだね・・うれしかったけど、わたしはやっぱり怖かったかな」


「空気の読めない男だったからな」


「アハハ!星見君に言われると彼もショックだろうね」


何が面白いのか理解できないが、巨悪は笑い続けている。


「アハハ!アハハ!お腹痛くなっちゃった!!アハハハアハ!!!」


「痛いか?」


「アハハ!ごめんね!アハハハハ!!!」

痛い?なぜ痛いのだろう?俺たちは殺され、魂となってここにいる。


「そこだ!」「なにがだ?」「そこが分かれば、すべてがわかる!」「ここなのか?」「そうだ!」「考える」


小生たちは殺されたはずだ。そしてなぜかここにいる。痛さを感じる。そして犬になっていく。全員か?皆、犬になっていくのか?小生も?まったくイメージできない。なぜ、犬になるのだ?犬になりたかったから?ブクロ氏が?そんなはずはないだろう。いくらなんでも、犬になりたいという人間はいない。いないのか?


そんなこともないだろう


小生はここで天啓を得る。頭が冴えまくっているようだ。脳内のシナプスが光速で情報を動かしている。そして真理にヒットする。


ブクロ氏は犬になりたかった。それも巨悪の犬に。そんな愛の形もあるのだろう。


小生は立ち上がり、お腹を抱えてわらっている巨悪の足の前にひざまずき、足の甲にキスをした。


「ひゃ!」


と巨悪はとびのいた。


「な!な!な!なにするの!」


「巨悪よ、少し我慢してくれ」


そのまま巨悪のすね、もも、手の甲、うでにキスをする。そして首。


「や・・・や・・・」


と巨悪は固まっている。その唇をふさいだ。


1秒か2秒、そのままだった。顔を話すと巨悪はぼろぼろと大粒の涙をながしていた。


「な・・・んで・・」


「巨悪よ」


「いいいいいいいいいい・・・・いきなりりり」


「すべてがわかったのだ」


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