第11話 順番と犬

「グラがあの女スパイではないというのなら、じゃあいったい誰なのだ?」

「それはワタシにもワカリマセーン」

「マイよ、グラはどうやってここに来た?」

「ワタシが来た時にはすでに彼女はこの家にいました」

「来た時、というのは?」

「セイイチローと同じネ、2週間前に気がついたらあの部室にいマシタ」

「ふむ、では巨悪に聞いてみよう」

「じゃ、ワタシ呼んできマース」


マイトナーが1階に下りていき、巨悪が部屋に入ってきた。

「話ってなーに?」

「うむ、巨悪よ、そこに座ってくれ」


巨悪を椅子に座らせる。正面から巨悪を観察するとなぜか興奮してしまう。大きな瞳、ちいさな頭部、曲線の身で構成された体のライン、ちらり見える鎖骨、黒いセーターで隠された隠しきれない肉体美。


視線をはずして巨悪に聞いた。

「巨悪よ、グラはいつから、どうやってここに来たのだ?」

「グラちゃん?最初っからここにいたよー」

「どうゆうことだ?この家は貴様の実家ではないのか?」

「うん、実家だよ、だから妹がいたの」

「妹がいたのか?」

「うん、だけど妹はグラちゃんとは似ても似つかない女の子で、頭が良くて自立心も強かったから、中学校から家を出て全寮制の学校に通ってたんだよね、だから私はあんまり妹と接点がなくて『ああ、この世界での妹はこんな感じなのかな?』って思ったんだよね」

「だが、妹ではなかった」

「そうだねー、やっぱり別人だなーって気づいたけど、追い出すわけにはいかないし、ってか最初っからここにいたんだから、ここは彼女の家でもあるんだよねー」

「・・・・・巨悪よ」

「なあに?」

「ミーティングを行うぞ」


***


1Fのリビングに全員が集まった。

巨悪、キリ、マイ、小生、

そしてグラ。


「どうした?」とキリがいう。「なにか発表?」と巨悪。「大丈夫デスヨー」とマイがグラを抱きしめている。グラはいまにも小生にとびかかりそうだ。


「あつまってもらったのは全員の意識を統一したいからだ」と小生は始めた。全員の視線がこちらを向いている。「ここにはおそらくブクロ氏以外の人間がすべて集まっている」「これから来るかもシレマセンヨー」とマイ。「そうなったらこの家だけじゃあ狭くなっちゃうねー」と巨悪。「どうかなー、沖縄全土を探したわけじゃないぞ」とキリ。


「これからの討論で重要なのは、ここにいる人間の意識によってこの世界が変わってしまうということだ、それらの観測結果は諸君も理解していると思う、まず最初にブクロ氏がここにやってきて沖縄世界を作った、そして巨悪がこの家を、キリは何も作らなかった」


「どっかにあるよ、ナノスケールの世界が」


「それは観測できないから無視する、小生が校舎を、そしてマイは自らの姿をなりたい姿に変えた、これらは人間の意識によってこの世界が変化する証左である」


「不思議だよねー」


「問題なのはグラだ、この少女は当初我々を殺害した女スパイだと考えられていた、なぜだ?」


「消去法・・」とキリ。


「そうだ、消去法だ、ここにいるのは西岡研内部の人間だけであり、それ以外の人間はあの女スパイしか考えられない、だがどうして女スパイはこのような少女の姿をしているのだ?」


「メイビー、彼女がそう望んダカラ?」


「その可能性も否定できないが、おそらく、マイ、君の考えがヒントになった、皆に話してくれ」


・・・マイにバトンを渡す、全員がマイを見る。


「・・グラの前でそれを話すのは・・ソーリー」


「では小生が話そう、マイの見立てによるとグラは自閉症かそれに近い病を持っている」


「ASD、自閉症は病じゃないヨ」


「我々は精神病の知識は乏しい、だが問題はそこじゃない、マイよ、自閉症をもつ人間にスパイ活動は可能か?」


「人による・・あのスパイは情報収集というより強襲部隊の人間っぽかったデス」


「では問いを変えよう、マイよ、グラにJ-PARKの警備を突破して、我々を殺害できると思うか?」


「・・・Impossible・・」


ギュ、とマイがグラを抱きしめる。


「ではキリよ、この『川』の世界にやってくる条件を教えてくれ」


「おそらく、死にかけている人間だけがここにやってこれる、検証はしていないけどね」


「では結論だ、この世界には『川』の近くで死にかけた人間がやってきている、それも順番通りにだ、最初にブクロ氏、次に巨悪、そしてキリ、マイ、小生の順番だ、グラはブクロ氏がいないからいつ来たのか観測できていない、女スパイは確かに死にかけているかもしれないが、順番で言うなら小生の後にやってくるはずだ、少なくともグラではない、ではグラはだれなのか?もうわかるだろう、おそらく女スパイはJ-PARKの人間を殺害してやってきた、誰を殺害した?簡単だ、襲撃に最も邪魔になるのは警備員さんだろう、グラはJ-PARKの警備員に違いない」


「・・・ASDの傾向を持っている人でも、その特性を生かした仕事をすることがデキマス」


「自閉症の傾向をもっている警備員さんは最初にこの世界にやってきて、なにも変えなかった、いやもしかしたら重力や時間や空気を作ったのかもしれない、願った世界に変化するこの世界の特性を作ったのは彼女かもしれない、真相は彼女のみが知る、グラよ、教えてくれ、この世界を作ったのはキミか?」


「犬!!!」


とグラが叫んだ。

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