第3話 だんらんと答え合わせ
「・・・殺しただと?」
と小生はカナに聞く。カナはコクリとうなずく。
「殺したとはアレか、生命活動を停止させたのか?お前のご両親を?どうして?どうやって?なぜ?深い理由があったのか?」俺はカナの両肩をつかみ質問した。
「ちょちょ、質問が多いよ!」
金髪の女、キリが俺の肩をつかむ。
カナはにっこりと微笑み「大丈夫だよ」という。
「そう、理由があって私が殺したんだ、だいたい2年前ぐらいかな?その時の世界はもっといまと違う景色だったんだけど、なぜか私の家はこんな感じでしっかりと存在していて、そこには私の両親もいたんだよね、わけがわかんなかった、お父さんはやっぱりお父さんで、お母さんはあいかわらずお母さんだった、だから殺したの、ヒ素をね、ごはんにパッパッて、動機は二人があいかわらずだったから」
「・・・この家で?」
「そう、お庭に穴を掘って埋めたよ」
「なあ、こいつはまだ来たばっかりだから、少しずつ話していかないと混乱するだろ?」
「大丈夫だ、最初っから完璧に当方は通常モードだ」
「・・・さすがだね」とキリは呆れた。
「ただいまー」
と2人が帰ってきた。「お、転生者、今夜はすきやきだよー」と小柄な茶髪女が言う。その女に向かって「マイ、グラと一緒にごはんの支度もおねがい」とカナが言う。グラと言われた小柄な女は「・・めんどい」と言いつつ家の中に入っていった。
「当方も手伝わせてくれ」と俺は言う。
「え、でも大丈夫?」
「大丈夫だ、まだ理解は出来ていないが、事実は観測できた」
「じゃ、すき焼きのナベだしてー」
小柄なキリに頼まれて台所に入り、高いところにあるIHのヒーターと鍋を取り出した。それをダイニングテーブルにセットする、小皿やはしを5つ、たまごも取り出してボウルにいくつか乗せる、その間にマイが手際よく豆腐や春菊を切り、キリが鍋に割り下を入れる、カナがしらたきを下茹でし、グラが肉を投入した。
「最初に肉を入れるのが常識けんどねー」とキリが言う。
「直径30㎝のナベじゃ投入回数は複数になるから」とマイ。
「ごめんねーウチってそもそも3人家族だったから」とカナ。
「うぃ、肉・・」とグラ。
そんなわけで奇妙な宴は始まった。ダイニングからは庭が良く見えた。小高い丘になっている部分がある。俺は「あそこに埋めたのか?」と卵を割りながら言った。「そうだよ」とカナは答えた。
「ヒ素はどうやって手に入れた?」
「ここにあるよ」とカナはキッチンに行き、砂糖、塩が並んでいるビンから1つをとって持ってきた。そこには「ヒ素」とラベルされている。猛毒とは思えない取り扱い方法だ。
「ちょ、そんなものここにもってくるな」
「ちゃんとフタしてるから安全だよ」
「でもあぶねーだろ」
「ホシミーってビビリだねー」
「・・・毒・・嫌い・・・」
ワイワイとだんらん、の空気が流れる。小生も生まれてこのかた、家族だんらんというものを知らない。似ているのは西岡研の宴会ぐらいだ・・・と、考えたところで脳がゆれる。インスピレーションが下りてくる。「ああ、そうか」と気づく。なぜ気づかなかったのだろう。冷静に観測していれば、ここに来る前に真理に到達できていたではないか。
「?なにが?」とキリがきょとんとした顔。
「今のホシミーって言い方で確認できた」
「わかった?」
「ああ、お前は角だ」
キリは金髪をくりくりさわりながら微笑む。
「ということは、カナは里美か」
里美、すなわち巨悪を10歳ぐらい若くしたらカナになる。
「普通に本名だけどね」
「じゃ、マイ、と、グラは・・・」
俺は観測する。2人に似ている女性を俺は知らない。
「Keep at it!」とキリがふざけた感じでファイティングポーズをとる。
「え?マイトナー?」
「Got it!」と肩パンチ。
「少女になってんじゃん」
「なりたかったのー」とシナをつくる元白人男性。元の姿を想像すると拒絶反応で嚥下反射しそうになる。
「まあ、マイトナーって心は女性だったしね」とキリ。
「え、そうだったのか?」
「ふふっ・・」と微笑むマイトナー=マイ。その微笑み方はたしかにマイトナーがよくしていた表情だ。
「キリって名前は?」
「Ms.キューリーから」と元角がいう。こいつはもともと性別行方不明だったから違和感はない。
「最後、じゃ、グラは誰だと思う?」とカナが言う。
「まったく予測ができない」
「あの時の記憶はある?」
「最後の日か・・・・ある」
「・・・・・・」
鎮痛なムード。
小生は記憶をたどる。なぜ、脳が吹き飛ばされ、海馬もぐっちゃぐっちゃになったはずなのに、考えることができているのかは無視する、どうせ夢なのだ。
「おそらくここにいるのは、あの日あの時に殺された人間だ」
「ブクロさんか?」
「島袋さんではない、彼はここにいた形跡はあるが、いまは居ない」
「西岡リーダーか?」
「リーダーはこの世界には来ていないようだ、おそらく殺されなかったんだろう」
「じゃ、いないだろう・・・って!」
グラが小生の肩をチョップする、とても痛かった。
「ほら、怒ってるよ、自分で殺したくせにって」
「・・・・あの女か?」
ギリっとした目でグラは睨む。たしかに、あの女の面影がある。我々を殺したあの女が、少女になって目の前にいる。
だが、その目線よりもチョップの痛さに驚いた。驚きすぎて、世界が止まった。
「・・・痛い?」
なぜ痛いのだ?
「それはね、ここが現実だからだよ、ホシミー」
とキリは言った。
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