第89話

管理室


「グラム様、少しは警戒しているようですね」

「まあ、相手があのヒュウだからな。さすが英雄の仲間であるだけはある・・・街の様子はどんな感じだ?」

「かなり熱狂しているみたいです。もう完全に宴状態で、外でバーベキューパーティを開始しているようです」


呆れた様子で言うタマモだがこういう日もあって良いと思う。ここ最近街作りばっかりだったし息抜きには丁度いいだろう。


「詠唱が終わったようです・・・詠唱からして複合魔法かと」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

『エレメンタル・メテオ』


複合魔法・エレメンタル・メテオ。本来は複数の属性魔法を扱える宮廷魔導師クラスの魔術師が1人で行う魔法であるが、ダンジョン攻略の中で彼らがお互いの魔法を把握し魔力を調整して複合魔法を扱えるようにした。


それは並ならぬ努力と結束が必要であるが、ダンジョンでの戦闘経験がそれを可能にさせた。強敵との戦いの中で彼らは間違いなく成長していたのだ。


火・風・雷の属性を持った魔法弾がグラムの頭上から降り注ぐ。


「「やったか?」」

「馬鹿!それフラグ!」


フラグ発言に怒鳴るヒュウだが、彼の視線は真っ直ぐグラムに向いていた。


「ふぅー、なかなかの魔法だ。寄せ集めの挑戦者が複合魔法まで使えるようになるとは・・・さすがコウキ様のダンジョンだ。よく育っている」


余裕の笑みを見せるグラムを見てヒュウ達は唖然とした。複合魔法という秘策を用意しても、あの男は倒れない。それどころか肉体の損傷も見られなかった。


「お前達の戦いに敬意を表して儂も少し本気を出そう」


そう言った瞬間、彼らの絶望が始まる。


・・・・・・・・・・・・・・・

管理室


「グラム様の魔力が急上昇しました。おそらく巨人化します」

「あれが大地の巨人・グラムの姿か」


映像にはグラムの姿がみるみる膨れ上がっていくのが映し出されている。身長2mを超える巨漢・・・その巨体がさらに大きくなり10mを超える巨人へと変貌した。


「初めて見るがやはり壮観だな」


・・・衣服も巨大化するんだな。


・・・・・・・・・・・・・・・

11階層


「な、巨人だと?!」

「儂こそ、11階層のフロアボス、大地の巨人・グラム!ダンジョンを守護する者だ!」


それからはもう一方的な戦い・・・いや、蹂躙といえよう。


フロアボスということだけはあり、9階や10階で遭遇した巨人とは実力が桁違いだった。必死に恐怖に立ちむかい切りかかるものの巨人の皮膚は非情に硬く傷ひとつつけることが出来ない。


この姿になったグラムにとってただの鉄の武器はスポンジで叩かれているようなものだ。


ヒュウは以前地球に来ていた時のある言葉を思い出す。



『巨大化は負けフラグ』



「あれ言った奴、今すぐここに連れてきてぇ!」


グラムは次々と挑戦者達を殴り潰し、脱落させていく。


「どうした?儂がこの姿になったのだ!もっと楽しませろ!」


どこの悪役だよ?!そうツッコミたくなるセリフを吐くが、初の戦いで気合が入っているせいか加減というものを忘れている。


一人また一人と脱落し光の粒子となって消える。半分消えた時点で殆どの者の心は完全に折られていた。


「む、無理だ!勝てるわけが無い!」

「た、たすけ・・・」


グラムの容赦ない戦いはまさに無慈悲な魔王の姿といえよう。

グラムが次々と敵を光の粒子へと変え、残ったのはヒュウとケイトのみとなった。


「残りはお前達だけか・・・どうする?続けるか?このまま続けるのも良し、門から出て撤退するのも良し」


もはや勝ち目が無い、それは二人も重々に理解していた。

幾戦もの死線を乗り越えたからこそ分かる、自分達ではこの男には勝てない。


だが・・・


「「続けるに決まってる!」」


二人は迷わず続行を選ぶ。

己の肉体が限界に来ていることを理解しながら魔力を限界まで搾り出しグラムに挑んだ。


グラムもまた強者として認めたヒュウ達に敬意をもって攻撃を受け止め反撃をする。まさに激闘、白熱した戦いは住民たちを熱狂の渦にへと引き込んだ。


・・・・・・・・・・・・・・・

地下45階 大広場


「すげー!さすがグラム様だ!」

「いいぞ!そこだ!頑張れ!」


大広場では住民たちが大集合しており、巨大モニターに映しだされている三人の戦いを観戦していた。


手元には串焼きの肉に最近作られた果実酒。

広場はまさにお祭り騒ぎとなっていた。


・・・・・・・・・・・・・・・


満身創痍・・・ヒュウとケイトにはもう武器を握る力も魔力を出す精神力も残されていなかった。もう気力で意識を保っているようなそんな状況だった。


それに対しグラムは姿はボロボロになっているがまだ余裕があるように見える。


これがフロアボスの力・・・神エイミィを守護する者の実力なのだと二人は戦いを通してそれを知った。


「いつでも挑みに来い。儂はここで待っている」


「私は正直戦いたくないわね・・・でもゾアってやつには会いたかったな。文句の一言も言えないのは残念ね」


ボロボロになりつつもケイトは少しばかり心残りと言わんばかりに口を溢す。


「ん?ゾア・・・お、忘れてた!あいつから手紙と言伝を預かっていたんだった」


グラムは思い出すように一枚の手紙を倒れているケイトに握らせる。


「『夜会を楽しみにしている』・・・だそうだ」

「ははは・・・あっちが来るのね」


そしてケイトは笑いながら力尽き光の粒子となって消える。


「はぁ・・・今度はもう少し戦力を整えてから挑みたいな」

「その時は更に本気で挑ませてもらおうか」

「第三形態でも残しているのかよ・・・クソ・・・俺もまだまだだな」


今は負けてもいい、いずれ超えればいいのだ。

このダンジョンとはそういうものなのだ。

そうヒュウに伝わったのか、ヒュウは最後はやりきったかのように笑みを見せながら光の粒子となって消えた。


・・・・・・・・・・・・・・

管理室


「終わりましたね」

「ああ・・・グラム、そっちは大丈夫か?けっこうやられたみたいだが」


映像に映るグラムの服はかなりボロボロだった。


『ええ、問題ありません。コウキ様、儂の戦いしかと見てもらえましたか?』

「ああ、素晴らしい戦いだ・・・住民たちもかなり盛り上がっていたぞ」


これの感想を聞くと嬉しそうに照れるグラム。正直、オッサンのテレ顔はどうかと思うが、今回は良しとしよう。それだけグラムはよくやったのだから。


「そういえば、エイミィ様は?」

「あれ?さっきまでいたのに」


管理室にはエイミィの姿はいなかった。


・・・・・・・・・・・・・・・・

ダンジョン入り口


「くあー!なんだよあのオッサン。強すぎ!無理ゲー!無理ゲー過ぎだろ!才達がいても勝てるか怪しいぞあの強さ!」


ダンジョン入り口に転送されたヒュウは五体満足、傷一つ無い状態だった。だが体にはまだ疲労が残っておりとてもじゃないが起き上がれる気分ではなかった。


「しっかし、本当に死なないんだな。腕とか明らかにバキバキに折れていたはずなのにもう治っている」


『ヒュウ・・・聞こえる?』


ヒュウの目の前に出現したのは『AMY』と表示されたモニターだった。その文字を見た瞬間疲労なんか吹き飛び慌てて辺りを見渡すが彼女らしき人影はいない。そしてすぐに防諜結界をはり連絡をとった。


「エイミィー様・・・お久しぶりです」

『まったく、あなたが来た時はどうしようか迷ったわよ。でもあなたが天使としての力を使わないのを確認できて安心したわ』


「ははは、まあ使ってもあのオッサンに勝てたとは到底思えないのですが」

『そうね・・・私の相方が考えた最強の守護者の一人だからね。それで?ここに挑んだのはダンジョンの調査のため?』


「まあ、それもありますが。一番の理由は国からの勅命ですね。俺が動くことで他の国の出方を伺うみたいです」

『やはり、その様子だと他の国はまだ本気ではないということね』

「ええ、各国の強者達は未だに挑んだという情報は来ていません。俺が動いたことでテオプア王国はダンジョン攻略に本腰を入れたと思われるでしょうね」

『そう・・・じゃあ、ダンジョンの難易度をもっと上げておかないと』

「っちょ!俺でもきついダンジョンですよ!これ以上上げたらマジで無理ゲーですから!」

『まあ、その辺は相方や皆と相談するわ。今はこんな形だけど、いつかはあなた達を正式に招待して話し合いましょう』

「ええ、その時を楽しみにしています」


そう言い残し、モニターは消えた


「さて、ジェコネソに戻って一泊休んでから帰るとするか」


傍聴結界を解除してヒュウは背筋を伸ばして帰還の準備をしようとすると後ろでケイトが仁王立ちをしていた。


「お、ケイトお疲れ様・・・いやー負けたな」

「本当、ダンジョンが理不尽な存在だと身をもって理解したわ」

「ところでお前、あのオッサンから手紙を預かったみたいだが何が書いてあったんだ?」

「何が・・・ですって?」


ヒュウが質問した瞬間ケイトは激戦の後だというのに凄まじい闘志を燃やしていた。


「ゾアってやつ・・・絶対『ぎゃふん』って言わせてやるわ!そういう事で私は城に先に戻っているから調査隊はあなたに任せるわ」

「はぁ?!ちょっと待て!ってか手紙になんて書いてあったんだよ!」


そして二人はそのまま先に戻った調査隊と合流し、急ぎ足で王都へ帰還していったのであった。

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