第90話
グラムの初めてのフロアボスとしての役目を果たした翌日、住民達の興奮は未だ収まった様子は無く戦いの話題が持ちきりであった。エイミィと一緒に居住エリアを視察をしていると所々で昨日の戦いの話が聞こえる。意外な事に最後まで戦っていたヒュウとケイトを称える声も少なからずあった。
「ふふ、グラムの人気急上昇ね」
「まあライブ中継でやったわけだし殆どスポーツ観戦状態だったな」
「ヒュウとケイトもこれでダンジョン内では有名人ね」
あの時は乗りと勢いでやったがアレはダンジョンへの侵攻を防ぐ防衛戦・・・戦争とも捉えられる戦いなのだ。死人は一人もいないがこれを娯楽に近いもので通すのは少し引ける。
「そう言えば今日だったなガウスの知り合い達が来るの」
「ええ・・・今エドワードがガウスと一緒に各集落の長達を迎えに行っているはずよ」
今日は以前ガウスから話を聞いていたダンジョン移住希望者の亜人達を受け入れるための最終確認をするため代表者達を集めて会議をすることになっている。ガウスの護衛と転送役としてエドも同行している。
場所はいつものように会議室っと思ったがグラム率いる建設部門が頑張ってコミュニティセンターを建てたため早速そこを使う事にした。移住者用の家や迎賓館も着々と建設が進み順調のようである。
そしてしばらく歩き大きな白い建物が見えると入り口にガウスとエドが立っているのが見えた。そして何故かエドに抱き着いているシオの姿が・・・
「あれシオ?なんでここに?」
「なんでって、エド様が集落の亜人を迎えに行くって聞いて私も同行したのよ。エド様の威厳を示すために上位精霊達も一緒に連れて!」
はぁ?上位精霊も一緒にって・・・
俺が不意にガウスを見ると彼は凄く気まずそうな顔をしている。
「コウキ様・・・面会なのですがもう少し時間を貰えませんか?少々頭の中が混乱しているようで今部屋の中で休まれています」
「あ・・・うん、それは構わないが・・・」
そう言って今度はシオの方を見る。
「シオ・・・エドと一緒にいたいのは分かるが今日は集落の長達と移住の最終確認のために集まってくれたんだ。なのに精霊帝と上位精霊達も一緒に来たらどうなると思う!」
「え?エド様の威厳を理解して泣いて喜ぶんじゃないの?」
さもありなんと言った感じでシオに俺は頭を抱える。
「あのな!亜人達にとって精霊は大切な存在なの!普段でさえ敬う存在なのに、そのトップ陣営が来たら心臓が持たんって!」
はぁ・・・なんかあちらさんに申し訳ない事をしたな。
「エドはなんで止めなかったんだ?」
「申し訳ございません。我の威厳だけなら留守番させたのですが、コウキ様とエイミィ様の威厳にもつながると言われ・・・それで」
エドも長達の反応までは予想できなかったようで申し訳ない様子で謝る。
まあ俺とエイミィの為と思って許したようだし・・・やっちまったもんは仕方ない。
「ガウス・・・長達と顔見知りの住民とかいたらその人達に手伝ってもらって飲み物と食事を運んでもらえないか?あちらが落ち着いたら行くようにするから」
「お手数をおかけしてすみません」
「いやいや・・・どちらかというとこっちのせいだから。エドは面談に同席して欲しいがシオは図書館で留守番だ」
「ええ~・・・私だってここの住民よ!新しい隣人と仲良くしようと思ってるし」
「もう少しお前の存在を自覚しろ!」
シオは最後までブーブー言っていたがエドが命令するとあっさりと図書館へ戻っていった。
それからしばらく経過しようやく落ち着いたとガウスから連絡が来たのでコミュニティセンターの会議室へ入ったのだった。
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「えー初めまして。俺がこのダンジョンの代表をしている神崎・エドワード・光輝です・・・あの・・・頭を上げてくれませんか?」
会議室で俺が自己紹介をするも、集まった長4名は椅子に座らずに土下座ポーズになっていた。全員亜人らしく、種族の特徴を二つ持っていた。
落ち着いたと聞いたからやって来たのだがどうやらエドを見た瞬間に条件反射でこのようになったそうだが。とりあえず全員を座らせて落ち着かせる。
一応俺が代表という形で進行するためエイミィは俺とエド、ガウスの後ろで眺める形で参加となっている。長達も気になっている様子だがこのままでは埒が明かないので進めさせてもらう。
「今日は皆さんのダンジョン移住の最終確認として集まっていただいたのですが、その意思は変わらずでいいのですね?」
「はい、是非とも我々をエイミィ様とコウキ様の庇護下に入れていただきたいのです」
真っ先に話したのは猛禽類のような翼と腕に鱗を持つドラムという男性だった。
「一応お聞きしたいのですが移住をするきっかけはやはり外敵・・・ルヌプのような相手から逃げる為ですか?」
「はい、我々の集落でも森で何度かダンジョンへ向かう集団を見かけています。森の恵みに頼っている為収穫できる数も減る心配もしていまして。ルヌプの件もありますのであまり子供達を外に出さないようにしていました」
なるほどね・・・よその国の人達が森に来るようになったし、亜人達は平穏に暮らせなくなったのか。これ、やっぱりダンジョンの影響のせいだよな。
「分かりました、一応確認なのですがダンジョン移住は集落の住民の総意なんですね?」
「はい・・・ダンジョンとまでは伝えていませんがガウス殿がいる場所で安全に暮らせる場所と言ったら全員納得しました」
意外な事にガウスの名前を出した瞬間住民達は移住に賛成したらしい。なんでも精霊契約による体内の魔力循環方法はガウスから教えられたものであるため皆慕っているらしい。ガウスの集落が襲われたと知った時も戦いだそうとする者もけっこういたそうだ。
「分かりました、ちなみに移住する住民の数はどれくらいでしょうか?」
「自分の所は全員で80名ほど」
「こちらは140名」
「120名です」
「180名います」
約500人か・・・まあダンジョン側の住民と比べたら余裕だな。
ただ思ったよりも多いから住居の準備を急がせないといけないか?
魔法具の持ち運び式の仮設住宅でも限度はあるし・・・テント生活もな・・・
「コウキ様、何か問題でもありますか?もしや受け入れが厳しいのでしょうか?」
俺の顔をうかがうように話しかけてきたのはニ本の尻尾を持つミヤビという女性。妖人族・猫又種と獣人族・虎種のハーフらしく、二本の尻尾は虎の尾らしい。虎もネコ科だから正直獣人とあまり変わらないが魔力の質は獣人と少し違うらしい。
「あ、いや土地も食料も十分なんだが思ったよりも数が多いので皆さんの家をどうしようかと思いまして」
「でしたら自分のところにお任せいただけないでしょうか?」
そう言いだしてきたのは外見は毛むくじゃらで出っ歯が特徴のオッサン。名前はダーウィンといい、ドワーフと獣人族・ビーバー種のハーフらしい。
「自分の所は家づくりが得意な者が多いのできっと役立てると思います」
「それは助かるな・・・現状人手は欲しい状況なので是非お願いしたいです」
「あ、あの・・・でしたら私の所も手伝わせてください」
そして最後の長、赤い瞳に額に小さな点みたいな目を持つジェシカという女性。蟲人族・蜘蛛種とエルフのハーフらしい。よく見ると耳はエルフらしく尖っていた。
「私の所では衣服を作っています。なのでこちらに移住する人達の衣服などは私達で用意します」
衣服か・・・そう言えばウチの住民達って【裁縫スキル】とか持っているの少ないんだよな。だから服のバリエーションの乏しさにエイミィが愚痴っていたな。
それを思い出した俺はゆっくりとエイミィを見ると案の定、物凄く目を輝かせて彼女を見ていた。
これはきっと俺を通して色々と作らせようとしているな。
「あの!私の所は食器などの焼き物を得意としています。その他にもガラス細工などの工芸品なども作ったりしています」
「私の集落では家畜を育てたり食料の加工を得意としています!」
自分達もアピールせねばと言わんばかりに喋り出すミヤビとドラム。
ミヤビの所は焼き物とガラス職人が多く、ドラムの所は家畜の飼育と加工が得意と・・・。随分と特徴がバラけていると思ったがガウス曰く、それぞれが得意とすることを活かせる場所に移住して集落を作ったそうだ。そして互いに協力し合って今まで生活してきたらしい。
ガウスの所は魔法具を作る職人が多かったのもそれが理由らしい。
「皆さんの集落が得意としている物は理解しました。こちらとしても是非ともご協力していただきたいと思っています」
「では、移住を受け入れていただけると?」
「そちらの準備が整い次第ここにいるエドに転送しますので連絡はガウスさんにお願いします」
『は!ありがとうございます!』
そんなわけで、亜人達の移住受け入れが進んでいくのであった。
ちなみにエドが迎えに行く時、シオの同行は遠慮して欲しいと懇願された。
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